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4、ライバル登場?!


「さて、せっかくだからこの豆を収穫して挨拶代わりに皆へ配ろうか」

「それはいい考えだと思うけれど、ネイリッカ様はお疲れではないかしら」

「ユッタ様、私は大丈夫です。是非、皆様へご挨拶させてください」

「ですが、来たばかりではありませんか。昼食を召し上がって、少しお休みになってからにしたほうがよろしいのでは?」

「いいえ、ご挨拶は早いほうがいいと思います。・・・多分、皆様は私をご覧になるとがっかりされるでしょうから」


 悲しそうな顔で小さく呟いた彼女にユッタは眉を下げた。そんなことはない、と笑い飛ばしてあげられない自分を恨めしく思った。


 ここは国の端の小さな村で、度々襲いくる災害により農地は荒れ果てている。そんな場所なので、人々はなるべく短期で収穫出来る作物を育て最低限の生活を送っていた。


 今回、夫のオリヴェルが『空読み姫』の下賜を願うと決めた時も、そんな贅沢で有名な女を連れてきてどうなる、と一部の人と随分揉めたのだ。

 それで『全責任は私が負う』と啖呵を切った彼が連れてきたのはこんな幼い子供で。夫のみならず、彼女へも傷つくような言葉がかけられるであろうことは想像に難くない。


 ユッタは遠い王都の中でも特に恵まれた場所から、たった一人でここにやってきた少女を無性に抱きしめて守りたくなった。


 その時、ドタドタという足音とにぎやかな声が飛んできた。

 

「おーい、アル! おじさん戻って来たんだろ? 『空読み姫』も一緒?! 美人? 噂通り高慢チキな女? お前のもう一人の母親になるんだよな?」

「やあ、リュリュ。うん、ついさっき『空読み姫』様と一緒に帰ってきたよ」

 

 大声でまくし立てながら丘を上ってきた同年代の少年へ手を挙げ、淡々と返すアルヴィ。


 リュリュと呼ばれた少年の後ろから、まだ幼さを残す少女と、ここの過酷な生活で鍛えられた立派な体躯の青年が手を繋いで歩いてきた。

 三人とも顔立ちがどこか似通っている。

 

「こんにちは、おじさん、おばさん。『空読み姫』様を見に来たの。本当にお姫様みたいなドレス着てる?」

「オリヴェルさん、ユッタさん、弟妹達が煩くてすまねえ。村の人達から『空読み姫』様に骨抜きにされてないか偵察してこいって言われちまったんだ。オリヴェルさんはユッタさんにベタ惚れだから、そんなことになるわけねえのにな。で、『空読み姫』様はどこね?」

 

 そう言いつつ辺りを見回した青年は、着ている旅用の簡素なワンピースを摘んで困ったような顔をしているネイリッカに目を留めた。


「あれ、こんな小さな女の子、うちのサッラ以外にいたかね?」

「ほんとだ! 私と同じくらいの女の子なんて珍しい! アナタ、どこの誰?! なんでここにいるの?」

 

 サッラと呼ばれた少女が、おさげの小麦色の髪を振りながらネイリッカの前にやって来て上から下まで眺める。


「綺麗な服・・・もしかして、アナタが『空読み姫』様なの?!」


 瞳をキラキラさせたサッラにグイグイ迫られたネイリッカは、後ろに一歩下がりつつ小さく頷いた。


「はい、お初にお目にかかります。『空読み姫』のネイリッカと申します」

「うわあ、すごい! 兄ちゃん達、ネイリッカちゃんは目の色が左右で違うよ! いいなあ」


 妹の無邪気な言葉に、兄達はハッとしたようにネイリッカの瞳を凝視した。


「うわ、ほんとだ」

「噂にゃ聞いてたが、本当にちごうとるんやな・・・お前さん、えらい幼いが年はいくつじゃ?」

「十、です」


 恐る恐る答えたネイリッカに兄妹はそれぞれの反応を示した。


「私の一つ下ね! 私はサッラ、同じくらいの年の女の子がいなくてつまらなかったの、お友達になって!」

「オリヴェルおじさん、十歳と結婚したの?! アルはこのちびを母さんって呼ぶのか?!」

「オリヴェルさん、こりゃさすがにどうかと思うで・・・俺は皆になんと報告すりゃええんじゃ」


 彼らの勢いにネイリッカは赤くなったり青くなったり、おろおろと両手を彷徨わせている。

 

「サッラ、リュリュ、エンシオ! ネイリッカちゃんが怯えてるでしょう。この子は私の娘になったのよ」


 大柄なユッタが声を張り上げると迫力がある。三人はピタリと騒ぐのを止め、彼女の言葉に目を丸くした。


「え・・・じゃあ、オリヴェルさんの養女ってことかね。まあ、こんなに小さいし、そういうこともあるんかな」

「なんだ、アルの妹か。アル、よかったな、きょうだいができて」

「リュリュ、エンシオ。『空読み姫』のネイリッカは次期領主の僕の妻になったんだよ。だから母さんにとっては義理の娘になるわけ」

 

 アルヴィの言葉でその場に沈黙が落ちた。

 

「この子がアルの妻って、どういうこと?! アルは私と結婚するのよね?!」


 一番に反応したのはサッラで、金切り声で叫んだ内容に皆がアルヴィの顔を見た。アルヴィは大きく首を横に振ってそれを否定する。


 彼女に一方的に言われているだけで、彼が諾と言ったことは一度もない。大体、この村に彼女と歳が合う男が他にいないからそう言っているだけで、他にいい男がいたら直ぐそちらに行く程度のものだと彼は思っている。


 周囲の見解も似たようなものだったが、一人だけ、それを知らない者がいた。

 

「あの、それは大丈夫です。私は『表の花嫁』ですから、ただのお飾りです。実際にアルヴィさまと夫婦として暮らすのは『奥の花嫁』さまですから・・・」

 

 そう説明したネイリッカは、アルヴィのたった一人の妻になるという夢がアッサリと消えたことで内心落ち込んでおり、反対にサッラは笑顔いっぱいになっていた。その対照的な二人の表情に周りの人々はハラハラしていた。

 

 やはり、『空読み姫』が唯一の花嫁になれるなんてことはあり得ないのだと唇を噛みしめ、これからお飾りの妻としてサッラやアルヴィと仲良くやっていかねばと気持ちを立て直そうとしたネイリッカの耳に、少し苛立ったアルヴィの声が聞こえてきた。


「僕は器用じゃないから、ネイリッカ一人で手一杯で、二人の妻の面倒なんてみられない。だからサッラは、他の村のもっといい男との結婚を検討してよ」


 心底、面倒くさそうにそう言い放ったアルヴィにサッラとネイリッカは目を丸くした。

 それぞれ違う理由で固まっている二人を気にすることなくアルヴィは続ける。


「リッカ、彼等は僕の幼馴染のエンシオ、リュリュ、サッラだよ。三人は兄妹で昔は隣に住んでたんだ。紹介が遅くなってごめんね」

 

 男二人とネイリッカがギクシャクと改めて挨拶を交わす横で、身を震わせていたサッラが爆発した。


「何よ、アルはこの子が好きなの?! 一目惚れしたっての?」


 目に涙を溜めて訴えたサッラへ、アルヴィが冷えた声を出す。

 

「何言ってるの。リッカと会ってまだ半時も経ってないのに、好きも嫌いもないよ」

「それってこの子を嫌いになって、私と結婚する可能性があるってことよね?!」 

 

 何をバカな、と言い掛けたアルヴィがふっと首を傾げた。


「そうだね。でも、国が決めた妻であるネイリッカと仲良く出来ない人とは結婚できないよね。毎日ケンカする妻達なんて嫌だもの」


 それを聞いた途端、サッラはネイリッカの手を取りにっこりと笑いかけた。


「ネイリッカちゃん、私達、今から仲良しの友達よ。私のことはサッラと呼んでね」

「は、はい。では、私のことはリッ・・・」

「それはダメ」

「えっ?! ・・・では、ええと、ネイリッカとお呼びくださいませ、サッラ」

「ええ、これからよろしくね、ネイリッカ!」


 サッラの変わり身の早さに目を白黒させるネイリッカと、その横でくっくっと笑いを堪えるアルヴィに周囲はやれやれと苦笑いした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


単純なサッラがかわいい。

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