第7部 女衒に捕まったよ~……あ~やだやだ!
俺の後を追いかけているリオは、育ての親に一言お礼を言いに行った。
「お母さん……お世話になりました、」
「リオさま……元気でね。上手く神官さまは騙せたようですね、とても偉いですよ。」
「良かった。お姉ちゃんも喜んでくれたらいいな。」
「殿下も首を長くして待ってありますよ。それで神官さまには右に行くように言いました。」
「うん、それでいい。下の村から来る商人と会えるらしいのね。」
「リオさま、ロボス王国の再生が掛かっていますもの、これからも頑張って下さいね。」
「うん、明日には舞い戻ると思うけれども普通にお願い。」
「はい、承知いたしております。次の子どもはスジャータさまのお子さまでしょうか?」
「お姉ちゃんは神官さまを狙っていると思う。だって異世界からの知恵者だというからね、ロボス王国には有用なんだって。」
「へ~……異世界ですか、でもまた直ぐに死んで終うんですかいね。」
「今度は大丈夫、しっかりしたスケベなお兄ちゃんだからね。」
「リオさま、くれぐれもご用心されませ、男の急所は此処ですよ、いいですね。」
「うん、お父さんも今までありがとう。」
「いいえ~お姫様、今までご不自由をお掛けしました。」
「でもたくさん遊べたからいいよ、勉強もありがとう。」
「も、勿体ないお言葉です。」
「王宮に戻ればいいのにね。」
「はい、ロボス王国が繁栄しましたら帰ってまいります。」
「うん、元気で。」
「魔物の間引きは済んでおりますが、その一応はご注意されてくださいませ。」
「うん、多分大丈夫よ。お姉ちゃんも言っていたからね。」
それからリオは急いで俺の後を追いかける。付かず離れずで付いてきていた。この村に姫様を匿うから近辺の森の魔物らは討伐されたと言う事だ。そう言う意味では村に登ってくる商人も用心棒は二人だけと、随分と軽装だった。いざという時の為のエサも用意して積んでもいたらしいが、それが高値で俺に売られてしまう。
リオが俺を後追いする必要は無かったろうが、商人が神官の俺を捕まえたらとって返す可能性も捨てられないので追いかける。
「お姉ちゃんの予言は外れる事もあったからね。」
上記を第6部 リオと……行商人に追加しております。暫くしましたら上記は抹消します。
*)波乱……行商人に捕獲された
俺の通った道が悪かった、決して俺は……断じて悪くはない。
朝、俺は何だか視線を感じて目覚めたが疲れていた所為で直ぐに二度寝に入る。
朝寝坊をしたのは、そりゃ~俺が悪いが、村から出た道すがら辿ってきた処で夜を迎えて寝床を拵えて眠っていた。
朝早くに俺は女衒の野郎に見付かり寝込みを襲われるなんて、これが……普通の出会いであるのか? あるはずが無い!
俺は捕まった。
何も立て札は昨日の一枚とは限らなかった。地方道から分岐した道はあの村に通じるが途中途中の要所には、例の立て札が立てられてたというではないか。
その道なかで堂々と寝ていたらそりゃ~捕まるわな。
「そこに男がいる、猫耳を襲え!」
「……猫耳? ムニャムニャ……すや~。」
「寝込みを襲うんでしたら簡単でやす。」
「この神官がロボス王国で聞きました神官さまだとしたら逃がせませんよ~、ちゃんと縛っておくのですよ。」
「はい親分。」
「お姫様を信用して来たのは正解でしたか、うんうん儲かりましたわ、金貨で三十枚。」
起きたら縄で縛られていて、行商の荷馬車は三台で男らの姿は三人。で、俺を捕らえた屈強な男二人は用心棒の兼務のようなものか。
寝起きで冴えない頭を使ってこの状況を打破しなくてはならない。物書きでもない俺にはその言訳が考えられないのは、いい訳はない。
「わっ!……なんだい。」
「おや、目が覚めましたか。」
「おい、立て。」
「いててて……痛いだろうが。」
「良く眠れたみたいですな。」
俺は布団の上から吊し上げられて商人の前に引きずられている。腕っ節の大きい奴だから軽い俺様を問題無く片手で引っさげているよ。俺にとっては最悪だろうと理解出来る。
「あ~……この状況を説明して頂けましたら有りがたいのでしょうが、出来ますでしょうか?」
「これはこれは神官さま、起きられましたか。それで?」
「いや、この土地は初めてでして、その~行き先が分からなくなりましてね、それでですね。」
「それでこんな魔物が出る道を彷徨っていたのですね、分かりました。」
「良かった……? 縄を解いてはくれないのですか?」
「ホッホッホ~それは流石に無理というものですわ。先ほど若いのに先の道を探らせてみましたが、上の道から下りて来られたご様子。先に村が在りましたか?」
「いや、俺は獣道を降りてきて途中からこの道に出たのですよ~村なんて知りませんよ~。」
遠くから親分と呼ぶ声が聞こえてきた。同じく女の子が喚く声も聞こえてきたからもう言い訳も通じなくなった。
「ぅへっ、」
何の事はなかった、男二人に挟まれてリオが山道を下りて来ていたからつい驚いてしまった。
「親分、いました。」
「ご苦労、座らせなさい。」
「ほら……座れ。」
「?……では、そこの娘は何と申される。」
「お兄ちゃん……デヘ!」
「ぅわ~……リオ。」
「捕まっちゃったよお兄ちゃん、ごめんなさい。」
「ご理解出来ましたかな?」
「はい、ですが通ってきただけですから何も知りませんよ。」
「何も知らない、と先に申された。それこそ知ってはいますが存じませんという言葉と同意語ですよ。」
うんうん、そうだね俺は考え無しにものを言う……今度から気をつけよう……オー!
「お兄ちゃん。」
「俺は~……。」
「それが言訳ですね、でもそれが内情を知っていると白状したのも同じ。さ~行きますよ。娘も乗せてしまいなさい。」
「へい、親分!」
「そのひと言は言ってはいけません、ご主人様と言いなさいと何度言ったら理解が追いつくのですか、」
「はい、ご主人様。」
「次からは言いなさいよ。」
「はい、ご主人様。」
「よろしいでしょう、行きますよ。」
「へい、親分。」「パシッ……。」「イテ!」「もう脳筋症か!」
「リオ、なんで付いてきた。」
「だってミエミエだったモン!(お兄ちゃんは頭がピーマンなんです!)」
「そっか、俺の頭も空脳症だよな。女には嘘は吐けないか。」
「そうだね良かったな~。」
「何も良くはありませんから、捕まったのですよ? 俺は奴隷落ちになるのですから少しも良くはありません。」
「うがぎゃ~!」「どうした……あれ~……!」
「இஇஇ……。」x2
用心棒の二人が亜空の袋に召されてしまった。これはリオの偽両親と同じ顛末を迎えたとう言う叫び声であって、リオと二人して呆れて声も出ない。
(バッカか。)(そうだね。)
お互いの眼がそう呟いている。ここで俺が昨日のリオが亜空の袋に腕を入れても吸い込まれなかったと思い返す事が出来ていたら、俺の未来はもっと安泰だったかもしれない。
やはり俺以外が亜空の袋に腕を入れたらそのまま吸い込まれてしまう。リオが吸い込まれなかった理由は名前と同じだったとはまだ気づいていない俺。
「おや、どうしたのですか、二人は何処に行きましたか!」
「ご主人様、それが突然消えてしまいました。分かりません。」
「それは……どうしたのでしょうかね、神官さまはご存じですか?」
「あぁ知っているよ、俺が魔法で憂さ晴らしをしたまでだ。何ならあんたたちも同じあの世に逝きたいかな?」
「いえ、そんな事は出来ないはず。……ありえません。」
「いいや俺は神官で魔法も使えるんだぜ、腹減ったから馬車を止めろや!」
「ご主人様……?」
この主人は本当に困った顔で思案中……馭者に指示を出す。
「仕方がありません、停めて……なさい。」
「へい、親分。」
「お前も消されてしまいなさい。」
「お~ぅお、俺は協力してやってもいいぜ、な~そこの兄ちゃんよ。」
「ブルブル……滅相もない、お客人。」
「俺らの縄を解いて貰おうか、それと俺の荷物も返せ!」
「はい直ちに。……こら、早くお返ししなさい。」
「おうありがて~これでようやく朝飯が食えるわ。リオは肉を出してやるから待っていろ。」
「わ~お兄ちゃん……大好き!」
「俺はスカン、餓鬼はスカン。」
「お肉、お肉、お肉・・・!」
「あんたには……これからはお世話になるから、これ……粗品な!」
「こ、これはワインですな?」
「あ~そうだ。旅の駄賃に支払うから俺を街まで乗せていけや。」
「はい~喜んで~!」
何処かで聞いたフレーズだが気にしない。少しは魔法を遣って俺の威厳を示す必要があるから、亜空の袋に命じて肉とワインとパンを出すしかない。
俺も人が良すぎるわな、酷い目に遭ったと言うのに粗品を差し上げるなんて。
呪文を小さく呟く。
「ほら肉な、ワインは五本でいいだろう。残りは戻しておくから。」
「そんな、全部は頂けないのでしょうか。これはとてもいい商材になりますから、そうです、買い上げてあげましょう。」
「却下だ、旅費が五本で不足ならばまた出してやるよ。……リオ待たせたな。」
「わ~い、お肉だ~わ~い。」
馬鹿な脳筋症が二人も居たから俺は助かった。だがリオはどうだろうか、親と女衒の約束があるはず、それでリオは生きて来られたから約束の反故には出来ないだろう。美味そうに干し肉を頬張るリオについて尋ねてみる。
「なぁあんた、このリオは商品なのか?」
「はい、金貨二枚で買い取る予定です。」
金貨二枚は忘れてはならないキーワードだ、しっかりと覚えたぞ。
「何か、契約書は残しているかな?」
「勿論でございます。これから納める子供らが八人ですね、おや、もうご存じの様で話が早いですか?」
「リオに金貨三枚は渡してやれ、親は俺が殺してしまったからな。」
「おやおやそれはマズいですね~、次の子供が浮いてしまいます。」
「他の家に押し込め、それ位は出来るだろう。」
「ま~そうですが、そう致しませんとこれらの子供を連れては行けません。」
「何歳だ、泣き声がしないが生きているのか?」
「はい、薬でぐっすりです。……二歳くらいですね。」
「シャレか?」
「少し違いますが、そのようなものです。」
俺は少し気分が良くなったからと、追加のワインを出して商人か女衒か分からない男に渡してやった。こんな事をしたために俺の頭は商人にもピーマンと思われてしまい、いわゆるノータリンだな。
「嘘吐き祝いだ、取っておけ。」
「豆腐とコンニャクも欲しいですが、無いものは強請れませ。」
嘘吐き祝い=本州や中国地方で十二月八日に行われる行事で、それも商人による商人の為のお祝いだとか。今年の仕事で嘘を吐いた事に対する謝辞だそだ。
便利か~……うそつきばらいだと、こんな行事が何故に全国へ広まっていない。中国地方は他にも伝統行事が続けられているが、ここではモラルに引っかかるので書く事が出来ない。
平たく言えば「子だから」を得るような行事だと考えてくれたまえ。
それから俺らは村に戻ってリオの家に一泊した。商人は各家庭を訪問しては娘の買い取りと今回の幼女を金貨と共に預けて回る。
リオの家庭に預けた幼女は引く手あまただった。何せ二人とも教養があるので娘は読み書きができたとても人気が高いと。リオと一緒に年上で三人が育てられていたがその三人は昨年に売られたと聞いた。それでリオの寝言の意味をはき違えてしまったんだな。
金貨はこの村で使えるはずも無く……いや別の商人が食い物や金物を売りに来ていたと聞いては驚いたが。塩や干し肉、それに綺麗なナイフが主らしく、錆びたナイフは買い取ってから研いで再販するだろな。
それに別の商人とは女衒の親か兄弟だろう。
これからの事をリオに対して商人がコンコンと実情を説明していたが、中々に? うんと言わないリオに、
「ごら!……しばくぞ!」
「え~ん、分かりました。」
「それでこの金貨は神官さまの口利きで、お前に渡すから自由に使いなさい。」
「うん、お兄ちゃんありがとう。」
勿論の事、俺はこの女衒とリオに思いっきり騙されていたとは知る由もない。
俺の翌朝からの道中は……荷物の上に寝られて楽出来てよか~。都合良く利用されていようが歩く事がないのならば騙されていても良かろう。
「なぁあんた、俺が立ち寄った街がそっくりと消えてしまったんだが、事情は知らないか?」
「あ~あそこの街ですね、帝国により消されたという、もっぱらの噂ですわ。ほら、あそこに見える黒い雲がそうですね、未だ、事件の解明には至っていない模様です。私らが出た後でしたので命があっただけでも由としませんと。」
「奴隷の納品先だったのか、損したな。」
「いえいえ引く手あまたでございますよ、神官さま。」
「そりゃ~いいわな。」
「消えた街は商品の供給元でして、そう言った意味では損しましたな。」
俺と女衒の話は通じていない、俺は亜空の袋に吸い込まれた街を言っていたのに、女衒は遠くの空が黒くなっている帝都の街の事を言っていた。
途中にあった寒村にも子供を買い取りに寄っては幼児とひき替えていた。俺が正義の味方だと言って女衒なのか商人なのかを殺せば、村の生活は一気に出来なくなってしまい、それで死人も出るだろうか。こんな商人も一応は寒村の人助けをしていると言える。
罪人の姥捨て山でない事を祈るしかないね。
この女衒のシステムは二十年くらい前に、国の長老さまが考案されたものと説明を受けた。この商人は中々に俺らを待遇良く扱ってくれている。
何故だ~ぁ?
「お~ホッホ~……それは噂の神官さまと分かりましたからです!」
「おいリオ、何か言ったのか?」
「ううん、べ~つに。」
意味不明だ。