第五話 アンテウルス山脈に棲む竜神
翌日の朝、真斗が目を覚ますと相変わらず繭と流唯が一緒に寝ていた。二人とも、可愛い寝顔である。
今日は、ミレーダ男爵夫人の屋敷を出てアンテウルス山脈に向かう日である。
真斗が起きるとベットの横には服が置いてあることに気がついた。
ミレーダ夫人が用意してくれたのだと思う。
「繭、流唯、二人とも朝だよ」
「うーん、おはよう。お兄さん」
「おはよう、お兄ちゃん」と二人は目を覚ました。
「ミレーダさんが服を用意してくれたから着替えよう」と声をかけて起こし、三人は、置いてあった服に着替えた。
繭と流唯の服は、青系の可愛いらしい服だ。何処かのお嬢様って感じだ。僕も青系の貴族っぽい服だった。
真斗達が服を着ると二人は、「かわいい」と喜んでいた。
三人は、部屋を出て、ミレーダ男爵夫人の部屋に向かった。
真斗は、「コンコン」と部屋のドアを叩くと「はい、どうぞ」とミレーダ男爵夫人の声が聞こえた。
真斗達三人は、「失礼します」と言って部屋の中に入った。
「ミレーダさん、おはようございます。素敵な服も用意してくれてありがとうございます」
「いいのよ」
「何から何まで本当にありがとうございます」と真斗が言うと繭と流唯も、「ありがとう」と言った。
「私に出来ることは、これぐらいしかないから」
「いいえ、十分です。でも、何故、ここまで親切にしてくれたのですか」
「そうね、なんとなく、あなたが私の息子に似ていたからかしら」
「息子さんですか、息子さんは、今、何処に」
「三年前、隣国との戦争で亡くなったのよ」
「えっ、そうだったんですか、こんなこと聞いて、すみません」
「いいのよ。気にしないでいいわ」
「僕の服も、息子さんの服ですか」
「そうよ、その服を着ていると息子が帰って来たみたい」
「そうですか。ミレーダさん、今日、出発しようと思います」
「そう、とにかく気をつけてね」
「はい。何もかもお世話になりました。この御恩は忘れません」と三人は、挨拶をして部屋を退出した。
真斗達は、部屋に戻り出発の用意をした。用意と言っても、洞窟から持ってきたカバン一つだけであった。
元の世界から着ていた服は、カバンの中に入れてからカバンを持った。
真斗達は、部屋を出て使用人達に挨拶をしてから外に出た。
屋敷の外に出ると執事のタイトが立っていた。
「タイトさん、色々とありがとうございます」
「いいえ、さぁ、真斗様、こちらにどうぞ」とタイトは一緒に屋敷の入り口まで案内してくれた。
入り口には、馬車が止まっていた。
真斗達は、馬車の前まで歩くとタイトが話した。
「真斗様、この馬車をお使いください」
「この馬車をですか」
「はい、アンテウルス山脈までは距離があります。歩いて行くには遠いと思います」
「タイトさん、ほんとうに色々とありがとうございます」
「いいえ、気にしないでください。あっ、でも、馬車は引けるかね」
「いえ、引いたことないです。どうやるのですか」
「それでは、教えましょう」とタイトは話し、馬車の引き方を教えてくれた。
少し教えてからタイトは、「これで、大丈夫かね」と言った。
「はい、タイトさん、本当にありがとう」
「それでは、気をつけてください」
「はい」と真斗は答え、カバンを馬車の中に積んだ。
三人が馬車に乗り込むとミレーダ男爵夫人も、玄関まで出てきて手を振っていた。
真斗達は、「ありがとう」と叫んで手を振った。
「タイトさん、それでは」
「はい」
「ハイヤー」と真斗は叫んで馬車を出発させたのだった。
タイトとメイド達も、手を振っていた。繭と流唯も手を振っていたのだった。
真斗は、ひたすら馬車を走らせた。途中、休憩をとりながら進んだ。
屋敷から出発して今はお昼ぐらいになった頃だろうか。繭が真斗の隣に座ってきた。
「ねぇ、お兄さん、流唯が不安がっているの」
「流唯が」
「うん、少し、安心させてあげて欲しいの」
「そうか、わかった」と真斗は馬車を止めて流唯のところに行った。
「流唯、どうしたの」
「お兄ちゃん・・・」
「流唯、怖くないよ。僕を信じてくれるか」
「・・・」
「安心して、僕には、わかるんだ。これからのことが」
「これからのこと」
「そう。あの山には、ドラゴンが沢山いる。だけど、ドラゴンを避けて進める道がわかるんだ」
「ほっ、本当に、お兄ちゃん」
「あぁ、本当だよ、僕の不思議な力でわかるんだ。だから、安心してくれるかい」
「うん」と流唯は、ホッとした顔をしたのだった。
繭も、「はぁ、良かった」と少し、安心した顔をしていた。
「ついでにお昼にしよう」と真斗は繭にも話しかけた。
繭は、タイトさんから頂いたパンを出して三人で分けた。
三人は、パンを食べてからアンテウルス山脈に向けて再出発した。
夜になり、馬車の中で寝てから再出発するという繰り返しで、早三日が過ぎていた。
真斗達は、何事もなくアンテウルス山脈が近くまで見えるぐらいの距離までたどり着くと後の方から大声が聞こえた。
「あの馬車を捕まえろー、荷物を奪え」と叫んでいる男達が馬で追いかけてきた。
「なんだ」と真斗が後を見ると盗賊らしき輩が見えた。真斗は、奴らは盗賊だと思った。
盗賊は、十人ほど馬に乗って追いかけてきた。
「逃げるぞ、ハイヤー」と真斗は叫んで馬車の速度を上げた。
「繭、流唯、中で隠れていて」と叫んだ。繭と流唯は「はい」と返事をして馬車の中で小さくなっていた。
真斗は、馬車を走らせると目の前には、絶壁の谷間が見えた。
その先には、アンテウルス山脈の麓が見え、谷間の出口にドラゴンが三匹ほどいるのが見えた。
真斗は、「ドー、ドー、ドー」と手綱を引きドラゴンがいる手前で馬車を止めた。
すぐさま、Uターンして引き返した。
ドラゴンは、真斗達の馬車に気がつき「ガォー」と吠えて追ってきた。
真斗達の馬車がいきなり、引き返して突っ込んできたので盗賊達は、「おい、避けろー」と叫んで真斗達の馬車を避けた。
盗賊達は、馬車を追い越してしまうとドラゴンがいる前まで出てしまったのだった。
「あー、ドラゴンだ」と盗賊達は叫び、ドラゴンから逃げようとしたがドラゴンに襲われてしまった。
盗賊達は、離散してしまいドラゴンから逃げるのに精一杯で、真斗達を追いかけるどころではなかった。
真斗は盗賊達をドラゴンのおとりにして、馬車を走らせたのだった。
少し離れたところの茂みに入り、馬車を止めて隠れることにした。
「繭、流唯、ここなら、大丈夫だ。しばらくすれば、ドラゴンも、盗賊も居なくなるはずだ。しばらく待とう」
「うん、お兄さん、だけど、また、わかるの」と繭が聞いた。
「あぁ、はっきりと」
「やっぱり、お兄さんの不思議な力は凄いね」
「そうかもしれない」と真斗は言って、しばらく待つことにした。
盗賊達は、ドラゴンに食われたり、逃げたりして居なくなった。
ドラゴンは満足したのか、二匹のドラゴンは飛び立っていった。
まだ、一匹のドラゴンがいたため、真斗は明日の朝まで待つことにした。
「繭、流唯、明日の朝まで待とう」
「明日って」
「あぁ、見えたんだ。明日にはドラゴンはいなくなる。だから、今日は、ここで、待とう」と真斗は言って、三人は、ここで一夜を過ごした。
真斗達は、まだ残っていたパンと水を出した。ここで食事を取ってから寝たのだった。
翌日の朝になり、真斗が目を覚ますと馬車から降りてドラゴンがいないか様子を見に行った。
辺りを見ても、ドラゴンは、既に飛び去っていていなかった。
盗賊もいない、全滅したみたいだと思うと馬車まで戻った。
真斗は、繭と流唯の体を揺さぶり起こした。
「繭、流唯、起きてくれ」
「んーん、お兄ちゃん」「あーあ、お兄さん」と流唯、繭が寝ぼけながら目を覚ました。
「ドラゴンは、飛んで行ったから、行くよ」
「・・・」と二人は意識が飛んでいた。
「大丈夫だから、行くよ」
「ほんと」「うん」と二人は起きてから、出発の用意をした。
「あー、風呂に入りたい」と流唯がつぶやくと、「もうすぐ、入れるよ」と真斗が言った。
「本当」
「あぁ、だから、もう少しの我慢だ」
「うん、我慢する」
「さぁ、行こう」と真斗が言って出発した。
真斗達が馬車で、谷間の出口まで着くとドラゴンは既にいなかった。
ただ、ドラゴンが襲った跡、動物を食べた跡が残っていた。
「お兄さん、これを見るとドラゴンって怖いね」と繭が言うと真斗は、「そうだな」と言った。
「だけど、お兄さんの不思議な力って凄いよ。予知能力ね」
「そうかな。とにかく今のうちに進もう」
「うん」と繭が返事をしたあと三人は、谷間を抜けて馬車を進めた。
真斗達は、アンテウルス山脈の麓まで着いたところで、真斗は、「ドー、ドー、ドー」と叫んで突如、馬車を止めた。
「どうしたの、お兄ちゃん」と流唯が声をかけてきた。
「このまま、ここを進んでは、駄目だ。右側の森林から入ろう」と話し、真斗は右側の方へ進んだ。
しばらく進むとドラゴンの叫び声が左側のほうから聞こえてきた。
真斗達は、ドラゴンを避けながら進むことができたのだった。
繭と流唯は、ほんとにわかるんだと真斗を見ていた。
ドラゴンが近くに来ると真斗は木の影に馬車を止め通り過ぎて行くのを待った。
ドラゴンが見えなくなると馬車をゆっくり進めた。この繰り返しを何度か行って馬車を進めた。
アンテウルス山脈の奥深くまで進むと大きい洞窟が見えたてきた。
「あぁそうだ、多分、ここだ、ここにアルゴスがいると思う」
「お兄ちゃん、本当に大丈夫なの」と流唯が聞いた。
「あぁ、流唯、大丈夫だよ。他のドラゴンと違って、取って食おうとしないはずだ」と真斗は言って流唯の頭を撫でた。
「お兄さん、本当に」と繭も不安そうな顔をして聞いてきた。
「繭も、大丈夫だよ。アルゴスは、僕の味方になってくれそうな気がするんだ」と真斗は、言って三人は馬車を降りた。
真斗は、馬車を洞窟の入り口に止めてからカバンを持って三人は洞窟の奥へ進んだ。
洞窟の中は、壁に水晶らしきものが虹色で光っていてとても明るかった。
「繭、流唯、凄い、なんて綺麗なんだ」
「ほんとうね。宝石が光っている感じね」と二人は答えた。
洞窟の中は、この光があったため明るく真斗達は、問題もなく進むことができた。
しばらく、洞窟の中を進むと何回かの分岐点があった。
「こっちだ」と真斗は言い迷いもせず進んだ。
繭と流唯は、顔を合わせ相変わらず不思議に思いながら真斗について行った。
二人は、真斗の手を取って手を繋いた。真斗は二人の顔を見て笑顔を見せてから一緒に歩いて進んだ。
更に進むと行き止まりになった。
「お兄さん、行き止まりだよ」と繭が言うと真斗は、「いや、行き止まりではないよ」と話し辺りを見たあと突き当たりの壁に手を当てた。
真斗が手を当てた途端、「ゴッゴッゴッ」と地鳴りが響き突き当たりの壁が崩れ落ちた。
壁の向こうには、大きく空洞化した広場みたいなところが見えた。
「さぁ、進もう」
「なんで、お兄ちゃんが手を当てたら壁が崩れたの」
「わからない、これも赤い石の力かもしれない。さぁ、行こう」と真斗が言ったあと三人は崩れた壁の上を跨いで進んだ。
「お兄さん、広いところに出たね」と繭が話すと真斗は、「あぁ、広いところだね。だけど、繭、ここだ」と言った。
「えっ、ここ」
「あぁ、ここの先にアルゴスがいるんだ」と真斗は答え、先を進んだ。
大きい広場の奥深く進むと光が見えた。三人はなんの光だろうと思い、光の方へ進んでみた。
近くまで来て見上げると大きく恐ろしく黒光りのドラゴンが立っていた。
さっきの光は、このドラゴンの目だったのだ。
黒光りのドラゴンがいる右横には、赤い竜、黒い竜がいて、左横には白い竜、青い竜もいた。
繭と流唯は、吃驚して絶句した。怖すぎて、しゃがんでしまったのだ。
二人は「・・・」と恐ろしくて声もでなかった。
真斗は、真ん中にいる黒光りのドラゴンを真っ直ぐに見たのだった。
このドラゴンがアルゴスかと思って、見上げたのだった。




