第四話 生きるための決意
年配で気品のある女性が男の前まで来た。
その女性は、ブラウン系のセミロングで毛先がクルクルっとしたカールかがった髪型をしている、
体型は、スラっとした少し痩せ型の女性だ。
その女性は男に話しかけた。
「もう、そのくらいで許してあげてください」と言った。
後ろから見ていた伯爵が彼女に話しかけた。
「あっ、これは、ミレーダ男爵夫人ではないか、何かね」
「この子達は、我が屋敷の者です。どうか、ここらで勘弁してやってくださいませんか」
「あぁ、そうだったんですか、ミレーダ男爵家の者ですかぁ、これは失礼しました」と伯爵は言った。
伯爵は「もう、いいでしょう。離してやりなさい」と男に言うと男は真斗を離した。
「おい、行くぞ」と伯爵は男に言って去って行った。
ミレーダは、「タイト」と後ろにいる使用人を呼んだ。
「はい、奥様」
「この子達を私の屋敷に」
「はい、わかりました」とタイトは返事をして、真斗をおぶさった。
「さぁ、お嬢さん達、一緒においで」と話した。
「・・・」と繭と流唯は顔を合わせた。
「お嬢様方、おいで」とタイトは二人に声をかけて馬車が止まっているところまで連れて行った。
馬車の前まで来ると「さぁ、お乗りなさい」とタイトは話した。
繭と流唯は、涙を手で拭き馬車に乗った。タイトは、真斗を馬車の椅子に寝かせるとミレーダ男爵夫人も馬車に乗った。
タイトは、馬車のドアを閉めて「ハイヤー」と馬車を走らせたのだった。
しばらく馬車に揺られている間、繭と流唯は、ずっと泣いていた。
ミレーダ男爵夫人は、「安心して」と二人に声をかけてなだめていた。
この子達は何処から来たのだろうとミレーダは思いながら二人を抱き寄せた。
ミレーダ男爵の屋敷が見えてくると馬車が止まった。
「奥様、屋敷に着きました」とタイトの声が聞こえた。
屋敷の前にいた。使用人が馬車のドアを開けた。
「奥様、お帰りなさいませ」と話した。
タイトは、寝かされていた真斗をおぶって屋敷に連れて行った。
繭と流唯は、使用人に案内されて、ミレーダ男爵の屋敷に入って行った。
真斗は意識がないまま、客室に案内されてベッドの上に寝かされた。
「お嬢さん達は、こっちの部屋で休んで下さい」とタイトが隣りの部屋に案内してくれた。
「しばらく、この屋敷にいていいんですよ」とタイトは優しく話しかけてくれた。
「あっ、ありがとうございます」と繭が片言で返事をした。
真斗達はミレーダ家の屋敷で、お世話になることになったのだった。
翌日、真斗は目を覚まさなかった。二日が過ぎ、三日が過ぎても真斗は、意識が戻らないでいた。
繭と流唯は、意識のない真斗が心配で側から離れなかった。ずっと二人は真斗の手を握っていた。
ミレーダは、よほど心配なのだろうと二人の様子をみていた。
真斗が眠っている間、また、真斗は夢を見ていた。
夢の中で、メサイアの声が聞こえてきたのだ。
「あなたは、まだ、力を制御することは出来ていないようですね」
「どうすれば、使えるようになるのですか?」
「意識を集中しなさい。時間をかけて鍛錬するしかありません」
「えっ、鍛錬・・・」
「あなたは、まだ、自分を守る術を知りません。まずは、アンテウルス山脈に行きなさい。そして、アルゴスに会うのです」
「メサイアさん、アルゴスって誰ですか」と真斗が何回も聞いたがメサイアからは返事がなかった。すると声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、お兄さん」と流唯と繭の声が聞こえてきた。真斗が目を開けると繭と流唯の顔が見えた。
「あっ、繭、流唯、僕は、どうしたんだ」
「お兄ちゃん」「お兄さん」と二人は叫び真斗に抱きついた。
真斗は、あぁ、そうか、僕は、あの男に酷い目に遭っていたんだっけ。イタイタタと言いながらと思い出した。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と流唯が泣きながら叫んで離れなかった。
「お兄さん、お兄さん」と繭も心配しながら叫んで離れなかった。
いつのまにか繭は、お兄さんと呼ぶようになっていたのだなと真斗は思った。
タイトも、近くにいて「あぁ、良かった」と声を出して、部屋から出て行った。
「お兄さん、三日も目が覚めなかったんだよ。心配したよ」と繭が言うと真斗は我に返って答えた。
「繭、やっと、お兄さんと言ってくれたね。嬉しいよ」と真斗が言うと繭は、恥ずかしそうに赤くなってから頷いた。
「バカッ」と声を出して泣き出した。
しばらくすると「コンコン」と部屋のドアを叩く音が聞こえた。
流唯が「どうぞ」と返事をするとタイトとミレーダ男爵夫人が部屋に入ってきた。
「やっと、目が覚めたようですね」と夫人が声をかけてきた。
繭は涙を拭いてから話した。
「お兄さん、この人が助けてくれたのよ」
「繭、本当か」
「うん」
「あのぉ、あなたは」
「私は、アリア・ミレーダといいます」
「何故、僕達は、ここに」
「あなたは、ミネルヴァ伯爵の使用人に殴られて気を失っていたのよ」
「そうですか、ミレーダさん、僕達を助けて頂き、どうもありがとうございました」
「いいのよ。でも、あなた達、無謀よ」
「なんでですか」
「あなた、貴族の前に向かっていくなんて」
「えっ、ダメなんですか」
「当たり前よ。それに、あなた達、変わった服を着ているわね。この国の人ではないでしょう」
「はい」と真斗が答えるとミレーダは、真斗が寝ているベッドに腰掛けた。
「あなた、殺されるとこだったのよ」
「えっ、なんで」
「貴族に向かって、彼らの足を止めたからよ。あのままだったら、その場で斬られるか、何処かに連れて行かれて、死ぬまで拷問を受けていたわ」
「そんなぁ、ただ、子供が少しぶつかっただけなのに」
「だからよ。それが、この国の常識、貴族は何やってもいいの。貴族の気分次第よ」
「そんなことが、まかり通っているんですか」
「まかり通っているんですよこの国は、平民を殺しても、貴族は、お咎めなしよ」
「そんな、なんて、酷い国なんだ」と真斗は吃驚した。
繭と流唯も、「酷い」とつぶやいた。
「お嬢さん達は、あなたの妹さんなの」
「はい。大事な妹達です」
「そう、お嬢さん達も、危なかったのよ」
「どうしてですか」
「お嬢さん達は、可愛いから連れて行かれて、貴族達の慰めものになっていたわ」
「慰めものって」
「慰めものとして、貴族達の相手をさせられて、飽きたら奴隷商に売られてしまうわ」
「そんなぁ、酷い、酷すぎる」
「女の子が奴隷商に売られたら、おしまいよ」
「どうしてですか」
「毎日、何十人も男の相手をさせられて、気が狂って自殺したり、殺されたり、病気になったりで、皆んな一年以内に亡くなっているもの」
「なんという、酷い、ところなんだ」
「だから、あなた達は、この国にいない方がいいわね。この国を出た方がいいわよ。傷が治ったら、もう少しマシな国に行きなさい」
「はい。そうしたいです」と真斗が答えるとミレーダは立ち上がった。
「とりあえず、傷が治るまでは、ここに居なさい。今は、横になるといいわ」
「ミレーダさん、本当にありがとうございます」と真斗はお礼を言ってから横になった。
ミレーダ夫人達も繭達も、一度、部屋を退出した。
僕は目を瞑って、ドラゴンに襲われた時のことを思い出していた。
あの時、何故、安全な場所がわかったのだろう。数分先のことが見えたような気がする。
それに奴隷商に捕まった時もそうだ。
あの時、時間が止まったように思えた。何故なんだろう。
これも僕の中にある、あの石に関係があるのだろうか。
もしかして、僕には、時間を止めたり、先のことがわかったりするのかもしれない。
この力を使いこなせれば凄いかもしれない。あと、メサイアとは何者だろうと真斗は思った。
そうだ、繭と流唯もだ。二人とも赤い光に包まれたな。二人とも、不思議な力が宿ったのかな。
あの時、剣で斬られそうになったとき男が剣を抜く前に戻っていた。
時間が戻ったのか、いや、違う。あれは、戻ったと言うよりも剣を抜いた時間が削除された感じだった。
まさか、僕は未来が見え時間を止める力、二人は、時間を削除する力があるのかもしれない。
とにかく、僕達がこの力を制御できるようになれば、なんでもできるような気がする。
元の場所に戻ることごできない今、この世界で生きるしかないんだ。
元の世界でも、この世界でも、酷い目に遭うのは、うんざりだ。
それに繭、流唯は、僕の妹になったんだ。
僕は、二人を守らなければならない。この力で、必ず繭と流唯を守ろうと真斗は誓った。
もし、この世界が僕達に危害を加えるのなら、危害を加えることができない世界に変えてやる。
まずは、こんな世界、壊せるぐらいの力をつけよう。
誰も邪魔されないように生きていこうと真斗は決心したのだった。
次の日、真斗が目を覚ますと繭と流唯も一緒のベッドで寝ていた。
真斗は、二人の寝顔を見ながらつぶやいた。
「可愛い寝顔だ。繭、流唯、必ず僕が守るよ」
「ありがとう、お兄さん」と繭が返事をした。
「えっ、起きていたのか」
「うん、今、目が覚めた。お兄さんの気持ち、嬉しいよ」と繭が言うと真斗は赤くなりながら照れていた。
「繭、アンテウルス山脈に行こうと思うんだ」
「アンテウルス山脈って、何処なの」
「少し、遠いところだよ。だから、一緒に行こう」
「とりあえず、お兄さんと一緒なら行くよ」と話していると流唯も目を覚ました。
流唯は、寝ぼけながら「流唯も」と返事をした。
「そうだな」と真斗は言って流唯の頭を撫でた。
三人は服を着てから部屋を出るとメイド服を来た女性が声をかけてきた。
「お目覚めですか。どうぞ、こちらへ」と階段を降りて食堂に案内された。
食堂には、朝食が用意されていた。
ミレーダ男爵夫人も、食事をしていた。
「あら、起きたのね。おはよう」
「おはようございます。ミレーダさん」と三人は返事をした。
「タイト、朝食を出してあげて」
「はい、奥様」とタイトが返事をすると真斗達の食事を用意してくれた。
食事は、パンとスープ、サラダなど出してもらった。元いた世界と変わらない朝食だなと真斗は思った。
食事の用意が終わるとミレーダ夫人は真斗達に言った。
「さぁ、どうぞ」
「ありがとうございます」と真斗はタイトにお礼をいい、朝食を食べ始めた。
三人は、パンを食べると「美味しい」と三人で声を出してハモった。
「とても、パンが美味しいです」と真斗と繭、流唯は言った。
「ふふふ、それは、良かったわね」と夫人も微笑んで言った。
食事が終わる頃にミレーダは真斗達に話しかけた。
「あなた達、なんで、この国に来たの」
「理由はありません。たまたま、ここにたどり着いたのです」
「そう、ここは、貴族にとっては天国よ。だけど、平民とか貴族以外にとっては地獄ね」
「そうですかぁ」
「だから、先日も話したけど、あなた達みたいな子達は、この国にいない方がいいわよ。もっとマシな国に行った方がいいのよ」
「ミレーダさん、僕が目を覚ましたときも言っていましたね。この国より、マシな国ってあるんですか」
「あそこにある山を越えたところにアルセーヌ王国という国があるわ。この国よりは小さい国だけど、この国より、平民にとっては優しい国だわ」と窓の外を指差した。
「そうですか。それでは、あの山を越えて行きたいと思います」
「ただね。あの山を越えるのは難しいわ」
「なんでですか」
「あの山は、アンテウルス山脈と言って、とても危険なところなのよ。誰もいきたがらない」
「えー、アンテウルス山脈だって」と真斗は驚いた。
「知っているの」
「詳しいことは、わかりません。だけど、あそこに行かなければ、いけないんです」
「やめた方がいいわ。入った人は誰も帰ってこなかったのよ。あそこは、ドラゴンの国みたいなものだから」
「ドラゴンの国だって」
「そうよ、あそこには、ドラゴンの王とか、ドラゴンの神がいると言われているわ。だから、誰も近づかないのよ」
「ドラゴンの国かぁ」
「そう。だから、皆んな時間はかかるけど迂回して山を避けて向かうの」とミレーダ夫人は話した。
「ねぇ、お兄ちゃん、ここに来る前もドラゴンに襲われたよね。大丈夫かな」と流唯が話した。
「多分」と真斗が答えるとミレーダが「やっぱり、行くのは、やめた方がいいわ」と話した。
真斗は、少し間をおいてから話した。
「だけど、ミレーダさん、僕達は、あそこに行って、アルゴスに会わなければならないんです」
「アルゴスですって」
「知っているのですか」
「知っているのも何も、アルゴスって、ドラゴンの神と云われているもの」
「えっ、本当ですか」
「そうよ」
「ふーん、そうなんだぁー。だったら、僕達は、あの山に行かなければなりません」
「えっ、何故、危険よ」
「どうしても、行かなければならないんです」
「そう、意志は堅そうね」
「はい」
「それでは、体を癒してから行くといいわ」
「はい、ありがとうございます」と真斗は頭を下げてお礼を言ったのだった。
「ねぇ、お兄さん、本当に行くの」と繭が聞いた。
「あぁ、行くよ」
「危険なんでしょ。大丈夫なの」
「大丈夫だよ、僕を信じて」
「うん。わかった」と繭は返事をしたが、とても不安だった。
流唯も、心配な顔をしていたのだった。
真斗は、繭と流唯にもう一度、言った。
「絶対、大丈夫だから僕を信じてくれないか、今までなんとかなっただろう」と言うと二人は、「うん。わかった」と返事をした。
そして、数日が経過し、真斗の傷も癒えたころにミレーダ男爵夫人は、真斗達が出発するための食糧、生活用品、多少の武器、馬車など色々と揃えてくれた。
ミレーダ男爵夫人は、馬車に荷物を積んであげてとタイトに指示すると全部、馬車に荷物を積んだ。
真斗達は、明日には出発する準備が整ったのだった。




