第ニ十六話 帝国侵攻
真斗が新生アルバニアに来てから早くも三ケ月が経過していた。
エリーゼが計画していたトウモロコシも収穫ができて、油や加工品を作り始めていた。
作った油や加工品は、他の領地への輸出も始まろうとしていた。輸出により、外貨の獲得、食料の輸入も可能となった。
また、マイヤー財団の投資によって、住宅の建て替え、商業の活発化、領民の雇用を増やしたため領民の生活も安定してきたのだった。
エリーゼは短期間で、領地を変貌していったのである。
真斗とエリーゼは、執務室にいた。
「真人様、そろそろ領民の生活も安定してきました。今、税金を無税にしていますが、そろそろ、多少の税金を徴収してもいいころだと思います」
「わかりました。税率は、なるべく低くお願いします。安定してきたといっても、領民は、まだ苦しいと思います」
「わかりました。最低限の税金を徴収したいと思います」
「それと、輸出と輸入も始まります。多少の間税もかけたいと思います」と二人は話していた。
その頃、王都アルセディアでは不穏な動きも始まっていた。
アンデルト侯爵は、ダルク子爵を失ってから次の動きを見せていたのだった。
そして、侯爵の屋敷には、ゾルテック伯爵が訪れていた。
ゾルテックは、ガンダルバ帝国の情報を入手して侯爵の屋敷に訪れていた。
ガンダルバ帝国は、この世界で一番大きい国である。国々を滅ぼし、世界を支配しようとしている国であった。
「ゾルテック、あの件はどうなった」
「はい、侯爵、ガンダルバ帝国の情報が入りました」
「それで、どういう情報だ」
「やはり、侯爵が言っていた通り、帝国は、隣国ナルセリアを落とすつもりのようです」とゾルテックは話した。
「そうか同盟を結んでいる我が国としては、ナルセリアに援軍を送ると国王は言うであろうな」
「はい。ですから、侯爵は率先して援軍に向かうと提言してほしいのです」
「私が?」
「はい、侯爵は、陣頭に立って援軍に向かうと言って頂きたいのです」
「何故だ?」
「私に考えがあるのです」
「ふふふ、そうか、お前のことだ。巧妙な陰謀を考えているのであろう。全てお前に任す」
「はい、お任せを」と侯爵と伯爵は話していたのだった。
ゾルテックは、侯爵の屋敷を出て、憲兵隊本部に向かった。
憲兵本部に着くと、隊長代行を行っているナダルと面会していた。
ナダルは、ラティスの義兄だった。ゾルテックは、ナダルの弱みを握っていたため、ナダルを脅迫していたのだった。
ナダルは、仕方がなくゾルテックに従うしかなかった。ゾルテックは、陰謀の片棒を担ぐ指示をしていた。
翌日、アルベルト公爵が急いで王宮に訪れた。急いで廊下を走り国王の寝室まで来た。
「ハァ、ハァ、ハァ、・・・」と公爵は国王が寝ている部屋の前で息を整えた。
「ドン、ドン、ドン」とドアを叩き「国王、国王」と公爵は叫んだ。
「誰だね」と部屋の中から返事が聞こえた。
「兄上、わたしです」
「アルベルト、どうしたのだ」
「兄上、入りますぞ」と言って寝室に入った。
「アルベルト、急にどうしたのだ」
「帝国が隣国ナルセリアに侵攻したのです」
「なんだと、それは本当か?」
「はい、兄上」
「我が同盟国としては、ナルセリアを助けなけれなるまい」
「はい、ナルセリアが落とされると我が国も危険にさられます」
「次は我が国となるやもしれぬな。至急、皆を集めよ」
「はい」とアルベルト公爵は返事をして寝室を出て行った。
アルベルトは伯爵家以上の爵位を持つ貴族達に集まるよう指示を出した。真斗は、子爵であるため呼ばれなかった。
翌日、王宮の謁見部屋で伯爵家以上の爵位を持つ貴族が集まった。
「皆の者、集まって頂き、ご苦労である」と国王が言うと貴族達は頭を下げた。
「今日、集まって頂いたのは、帝国が隣国ナルセリアに侵攻したからだ。同盟国としては援軍を差し向ける必要がある。皆の意見を聞きたい」と国王が言うと周りは、ざわつき始めた。
「陛下、帝国が隣国に侵攻して来たということは、次は我が国となります。直ぐに増援部隊を差し向ける必要があります」とナガルダ公爵が叫ぶとアンデルト侯爵が言った。
「陛下、私が軍を率いて向かいましょう」と侯爵が言うとゾルテック伯爵が割り込んで意見を言った。
「陛下、侯爵が行くのであれば。エルガー伯爵を援軍の軍師として従軍させてはどうでしょうか?」
「そうだな、エルガー伯爵なら十分な働きをしてくれるな。ラティスよ、お願いできるか?」
「わかりました。陛下」とラティスは答えた。
ゾルテックは、ナガルダ公爵の方を向き声をかけた。
「それと、陛下、ナガルダ公爵とサーベス伯爵も援軍に参加させてどうでしょうか?、国内でも有数な戦力がある二方が参加すれば、必ずや勝てましょう」
「サーベスよ。頼めるか?」
「はい、陛下」とサーベスは返事をした。
サーベスは、アルベルト公爵の腹心と言われる人物であった。
ナガルダ公爵は、返事をしなかったため、国王は、「ナガルダよ、頼めるか?」と聞いた。
ナガルダは、渋々、了解したのだった。
「ディック将軍、其方も出てくれるか?」
「はい、陛下」とディックは答えた。ディック将軍は王国軍きっての使い手であり、王国軍の頂点に立つ軍人だった。
国王が頷くと大声で叫んだ。
「皆の者、時間がない。直ぐ軍備を整え向かってほしい」
「ハッハー」と皆んな返事をした。
この時、ラティスは思った。
アンデルト侯爵が軍を率いていくと言っていたが何か腑に落ちない。
ゾルテック伯爵も、怪しい。侯爵が出ると言えば伯爵も従軍すると思うが・・・、一度、真斗に相談したいが時間もないなと思っていた。
ラティスは、真斗と一緒にいるソルティアに手紙を送った。
数日が経ち、隣国への軍備が整って王都に集結していた。
援軍は、アンデルト侯爵を総大将にラティスが軍師として、五万の軍となった。
王国が持つ全兵力の三割に相当する軍備であった。準備が整い次第、順次出発した。
ラティスも準備が整い出発したが何か違和感があった。ゾルテックが従軍しなかったからだ。
アンデルト侯爵も同行するから何もないと思うが嫌な予感がしていた。ただ、ゾルテック伯爵が王都に残っていたのが気になり、何もなければよいがと思っていた。
援軍が出発して、数日過ぎた頃、アルバニアでは、商業が活発化して領民の生活も安定し、多少の税金も徴収できていた。
真斗は領主として、領民に感謝され、徴収した税金は、領地のインフラ関連に使い領民の生活基盤を向上させるために使った。
多少、残ったお金は、マイヤー財団に配当金として返金していた。
真斗は、自分の部屋でエリーゼとソルティアの三人で今後のことを話していた。
マイヤー家の力を借りて、生産した加工品を他国に輸出するための打ち合わせをしているとドアを叩く音がした。
「真斗様、私です」とラフトの声が聞こえた。
「はい、ラフトさん、入ってください」と真斗が答えるとラフトが部屋に入ってきた。
「ラフトさん、どうしました」
「はい、ソルティア様宛てにお手紙が届いております」
「私にですか?」
「はい」とラフトはソルティアに手紙を渡して部屋を出て行った。
「ラティスからだわ」
「えっ、ラティスから」
「えぇ、早速、開けてみるわね」とソルティアは言って手紙を開けて読みはじめた。
しばらくして、「えっ」とソルティアは驚きの声を出した。
「ソルティア、どうしたの?」と真斗が聞くとソルティアは、真斗に話した。
隣国ナルセリアがガンダルバ帝国から侵攻され危機に陥っていること、ラティスが軍師として援軍に向かったことを真人に話した。
ナルセリアのことは、真斗は知らなかったため、隣りにある国だと言うこと、同盟国だということを初めて聞いた。
ガンダルバ帝国ということを聞いて、真人は前に酷い目にあった国だ。やっぱ、あの国は最悪だと思っていた。
真人が考えているとソルティアが話しかけてきた。
「真斗、最後にラティスから伝言が書いてあるの」
「伝言?」
「えぇ、嫌な予感がすると」
「嫌な予感?」
「そう、アンデルト侯爵が何か企んでいるかもしれない。だから、未来予知してくれないかしら」
「わかりました」と真斗は目をつぶった。
真斗は、王都にいるアンデルト侯爵の行動を予測し、少し、わかると目を開けて話した。
「ソルティア」
「はい、何かわかったの?」
「アンデルト侯爵は、王都には、いない」
「じゃあ、何処に?」
「もう一度、未来透視してみるよ」と答え、真斗は目をつぶった。
再度、真斗はアンデルト侯爵に関わる未来像を透視した。
しばらくすると「えっ」と真斗は声を出した。
「真斗、どうしたの?」
「王都で内乱が起こるかもしれない」
「えっ、内乱」
「うん」
「アンデルト侯爵が内乱を起こすの?」
「いや、アンデルト侯爵はラティスと援軍に同行しているから、侯爵が内乱の指揮はしていない。本人は、内乱が起こることは知らないみたいだ」
「じゃあ、誰が?」
「わからない。僕が知っている人なら透視ができるんだけど」
「真斗の知らない人に対しては、透視できないのね」
「うん。だけど、王都を守っている憲兵隊も何故だか誰も、いないんだ」
「憲兵隊が・・・、ナダルは何を」
「ナダルって」
「ダルク子爵が失脚したから、憲兵隊を纏めているのはナダルなの。ラティスの義兄よ」
「そうなの」
「真斗、何か手を打たないと、ラティスの手紙にも何かあったら頼むと書いてあるわ」
「ソルティア、とりあえず、王都に向かう準備をしましょう」
「そうね」とソルティアは答え二人は王都に行く準備を始めたのだった。
その頃、ナダルは憲兵隊を集めていた。王都を守っている憲兵隊の殆どを憲兵本部に集めた。
「帝国が西の方から我が国に入ったという情報が入った。皆の者、帝国の侵入を防ぐため防御に向かうぞ~」とナダルは叫んだ。
「お~」と憲兵隊は叫び、王都を出て西の方に向かった。ナダルはゾルテックの命令で嘘の情報を言ったのだ。
本部に集めた七千の憲兵隊は、全員、王都を出て西の方に向かったのだった。
憲兵隊の殆どが西の方に向かったため、王都に残った憲兵隊は、千人程度しか残っていなかった。
王都を守る憲兵隊が殆ど不在という異常な状況になっていたため、王都、王宮をはじめ警備が手薄になってしまう状態になった。
王国の軍も、殆どが王都の郊外、東側に駐屯していた。
全てゾルテック伯爵の策略であった。援軍の増援が直ぐできるようにするという理由で郊外に駐屯させていたのだった。
王都は、殆ど無防備のままだった。ただ、アンデルト侯爵の主力となる精鋭部隊の五千は王都に残っていた。
精鋭部隊を率いていたのは、ゾルテックだったからだ。
ゾルテックの部隊は、護衛の名目で王宮の近くに駐屯させて内乱を起こす時期を待っていた。
これは、アンデルト侯爵には言わず独断で実行するつもりだった。ゾルテックの独断による策略であり、侯爵に責任が行かないための算段でもだった。
全ての準備が整い、ゾルテックは実行を待っていたのだった。




