第ニ十五話 新領地アルバニア
真斗達は、エルダ・アーナルド伯爵家で、おもてなしされてから翌日、メルバニアに向かっていた。
エリーゼは、事前に領地運営に向けてラティスから色々なアドバイスを受けていたため、今後のことを考えていた。
考えが纏まると真斗に話しかけた。
「真斗様、今後のことなんですが」
「はい」
「私の父、エルナルドが真人様の領地に対して投資をしてくれることになっています」
「投資・・・」
「はい、現在、領民は高い税金を課せられ非常に苦しんでいるそうです。だから、最初は税金をなくし、マイヤー家からの投資でお金を回していきたいと思っているのです。どうでしょうか?」
「それで、エルナルドさんにメリットはあるのかな」
「あります。真斗様の領地で、商売を独占させて頂きたいのです」
「商売を独占?」
「はい、ですから、後に回収できるとのことです」
「なるほど、そうなんだ。じゃあ、メリットがあるんだね」
「はい。仕事があれば領民は働き稼いでお金を使うでしょう。お金が回れば低い税金を取れば良いのです」
「なるほど、エリーゼさんに全て任せるよ」
「はい」とエリーゼは答え、笑顔で返事をした。二人が話しているとメルバニアの街並みが見えてきた。
メルバニアの街に入ると、人っ子一人も歩いていなかった。
真斗達が通ると「バタン」「バタン」と窓やドアを閉める音が聞こえた。
「なんか、酷いあり様ですね」とエリーゼが話した。
「そうだね」と真人も思った。
しばらくするとメルダスの屋敷が見えてきた。
「真人様、あれが、メルダス元子爵の屋敷です」とエリーゼが言った。
「あれが・・・・・」
真斗達は、馬車を降りて大きな屋敷だった。屋敷に入ると誰もいなかった。
メルダスが失脚したあと使用人達は逃亡したのだろう。屋敷の中は、荒れ放題であった。
「酷い荒れよう。物が盗まれた感じ」と繭、流唯も話していた。
「真斗様、とても皆んなで滞在するのは厳しいかと思います。私が残りますので皆様は、アルスに向かって下さい」
「だけど、エリーゼだけでは危険だよ」
「私が残ろう」とカルロスが言った。
「カルロス、ありがとう。お願い。それと、シャルネイラ」
「はい、真斗様」
「君も残って、エリーゼを護衛してくれないか」
「畏まりました」
「シャルネイラ、宜しく」と真斗は、カルロスとシャルネイラ、エリーゼに残ってもらうことにして、自分達は馬車に乗り込みメルバニアの街を出てアルスに向かった。
アルスはメルバニアの隣り街である。メルバニアは細長い領地でアルスを囲むような領地であるため距離としてはさほど遠くない。
しばらく、馬車に乗っていれば着く程度であった。
馬車に揺られながら真斗は目をつぶっていた。少し時間が経過すると真人はソルティアに声をかけた。
「ソルティア」
「何かしら、真斗」
「アルスも、メルバニアと変わらない感じみたいだ」
「えっそう・・・、真斗、何か見えたのね」
「あぁ、街並みが見えたよ、領民が可哀想だよ」
「なんとかしないとね」
「うん」と真斗が答えるとアルスの街が見えてきた。
アルスの街も、メルバニアと同じだった。人っ子一人、歩いていなかった。同じように「バタン」「バタン」と窓やドアを閉める音が聞こえた。
真斗は、複雑な思いで街並みを見ていた。
街の中心部に行くとダルク元子爵の屋敷が見えてきた。
屋敷だけは外観が綺麗だった。真斗達の馬車が屋敷に着くと執事らしき老人が屋敷の前に立っていた。
真斗達は、馬車から降りた。老人の前まで来ると老人は話しかけてきた。
「新しき、領主様でしょうか?」
「はい」と真斗が答えるとソルティアが話した。
「ダルク子爵が失脚して、新しく真斗子爵が領主となりました」
「わかりました。私は、ここの執事をやっておりましたラフトと申します。代々、この地で執事をやっておりました」
「代々ということは、ダルク子爵の前もですか?」
「はい、三代に渡って執事をやっておりました。領主様、今後も執事をさせて頂きたいと思い、ここに残っていました」とラフトは話した。
真斗は少し考えてから答えた。
「ラフトさん、僕は真斗です。お願いします」
「真斗様、ありがとうございます。こちらに控えているのは、私の孫娘クリシスです」とラフトは自分孫娘を紹介した。
クリシスは、赤い髪でカールかかったロングヘアの子だった。まだ、十代ぐらいだろうか、可愛らしい顔をしていたが下を向いていた。
「真斗様、私以外、使用人は、いなくなってしまいました。ですから、クリシスを使用人として使って頂けますでしょうか?」
「わかりました。ラフトさん、お願いします。さぁ、クリシス」
「はい、お願いします」とクリシスは顔を上げて、返事をしたが悲しそうな顔をしていた。
真斗は何が悲しいんだろうと感じていたのだった。
「ソルティア」
「なんでしょう」
「領民、皆んなを集める方法はあるかな」
「わかりました。私に任せて下さい」とソルティアが言うと手を上にかかげ杖を出した。
ソルティアは、杖を床に「ドン」と突いて唱えた。
「我、大地の声を届けよ。地に住むべし民よ、明日、中央の広場にて集まるのです」とつぶやくとソルティアは輝きアルス領内に全体に声が響いた。
領民すべてに催眠のような術をかけて領民が集まるように仕向けたのだった。
「真斗、領民に声を届けました。今日は日が暮れます。明日、領民は中央の広場に集まると思います」
「ありがとう、ソルティア」と真人が言うとラフトとクリシスは驚いた顔をしていた。
ラフトは、なんということだろうと驚きながら真斗に声をかけた。
「真斗様、今日は、人がいないので食事の用意ができません。どうか、このまま、お休みになられては」と話した。
「いや、皆んなで、食事の用意をしよう。ねぇ、皆んな」
「そうね。そうしましょう」とソルティアが言った。
真斗達とラフトとクラシスは、持っていた食料で食事の用意をした。皆んなで用意したので早く食事の用意が終わった。
「さぁ、ラフトさん、クリシスも一緒に」と真斗が話した。
「真斗様、とんでもございません。ご一緒だなんて」
「いいから」と真斗が言うとソルティアも手を差し出した。
ラフト、クリシスは、お互いの顔を見て、一緒に食卓に着いた。
皆んなで、一緒に食事をしたのだった。
食事も終わり、真斗は領主の部屋にいると「コンコン」とドアを叩く音がした。
「だれ」
「真斗様、私です。クリシスです」と声がすると真斗は、ドアを開けた。
クリシスは、寝巻きの姿だった。
「クリシス、どうしたんだい」
「部屋に入っても、よろしいでしょうか?」
「えっ、まぁ、とりあえず、入って」と真斗は、クリシスを部屋に入れた。
「どうしたんだい」
「今日のお相手は、私の番なんです」
「えっ、どういうことだい」
「あの、私を可愛がってください」とクリシスは言ってベッドに入った。
真斗は、ベッドに端に座りクリシスに聞いた。
「どういことかい。詳しく教えてくれないか?」
「・・・」
「クリシス」
「領主様が戻ってきた時の生贄は、私の番だったのです」
「生贄って、どういうこと」
「前領主ダルク様は、生娘を好みます。寝床の相手をさせて頂くことです」
「ダルク子爵は、そんな酷いことをしていたのか?」
「はい、生娘を好み、弄ばれ飽きたら次の子という感じでした」
「領民達は、なんで従っていたの?」
「逆らえば、その家に対して弾圧が強まります。皆んな、諦めて自分の娘を差し出すのです」
「領地を出れば良かったのでは?」
「出ようとすれば、憲兵に捕まって拷問されます。だから、仕方がないのです」
「あぁ、なんてことを・・・、酷い、今まで犠牲になった娘達はどうなったの?」
「自殺したり、狂って引きこもったり、娼婦の館に売られたりしています。結局、皆んな亡くなってしまいます。だから、生贄なのです」
「そうか・・・」
「領主様、なるべく、私を可愛がってください」とクリシスは、震えながら言った。
真斗は、クリシスの手を握って話した。
「もう、生贄なんてならなくていいんだよ」
「えっ」
「帰って、休むといい。寝床の相手をしなくていいんだよ。僕は、そんなことしない」
「ほっ、本当ですか、領主様」
「あぁ、それと僕のことは、真斗と呼んでくれるかな」
「まっ、真斗様・・・」
「君は、好きになった人と結ばれればいい」
「・・・ほんと」
「ほんとだよ」
「ありがとうございます。真斗様」とクリシスは、涙を流した。
「さぁ、戻りなさい」
「はい」とクリシスは返事をして部屋を出て行った。
真斗は、なんて酷いことをしていたんだ。領民を苦しめ、いたいけな少女の将来まで潰すなんてと思っていた。
クリシスは、ラフトの部屋に行き真人のことを話した。
「あぁ、真人様・・・、慈悲深い領主様、感謝します」とラフトは真人の部屋がある方向に向いて手を合わせた。
「真人様・・・」とクリシスも手を合わせたのだった。
そして、翌日になり真斗達は中央広場に行った。
しばらくすると、領民達が続々と集まってきた。
領民が全て集まってはいないが、頃合いを見て真斗は前に出て話した。
「アルスの領民達、集まってくれてありがとう。今日は、大事な話があります・・・」
「僕は、真斗子爵です。新しく、この地の領主となりました。僕が領主となったことで、この地を豊かな領地にしたいと思います」と話すと周りがザワザワしだした。
「豊かにしたいだと今までの領主は、領民を苦しめてきたではないかぁ」と叫ぶ声が聞こえたが真斗は、無視して話した。
「皆んなが今まで苦しんできたことは聞いています。だから、この領地を改革します。まずは、税金をゼロにします」と大声で言った。
周りからは、「うそだろう」と小声が聞こえた。
「これは、うそではありません。皆んなの生活が安定するまで、税金は取らない。それと商業を活発化させて働き口を増やします」と大声で話した。
再度、周りから「どうやってやるんだ。そんなこと、できるわけないだろう」とヤジがとんだ。
「僕は、前領主と違います。領民のために働きます。僕を信じてください」と話すと「・・・」と小言が聞こえなくなった。
「手始めにやりたいことがあります。このアルスをゼロから再出発したいと思います。だから、アルスという領地をなくしたいと思う。隣りのメルバニアと統合して新しい領地とします。そして、新領地として、アルバニアという地名にしたいと思います」と話した。
周りから再度、ザワザワしだすと一人の若者が出てきた。
「領主様、ほんとに税金をゼロにして、私達のために領地を改革をするのですか?」
「はい。実施します」と真斗が言うとエリーゼが現れた。
「あれ、エリーゼ、いつの間に」
「はい、早馬で急いで来ました」とエリーゼが言うと領民に向かって叫んだ。
「皆様、私は、エルナルド•マイヤーの娘です。マイヤー財団として、アルバニアに対して投資をして商業を活発化する予定です。皆んなの生活を安定させるため、仕事を増やすことを手始めにやります」とエリーゼは叫んだ。
「マイヤー財団だって、マイヤー様、ほんとでしょうか?」と前にいた領民が聞いた。
「はい、ほんとですよ。真斗子爵も、本当のことを言っていますよ」とエリーゼが話すと領民達は、笑顔になってきた。
前にいた老婆は、しゃがんで祈り出した。
「あぁ、メサイア様」とつぶやいた。
「ご老人、メサイアを知っているの」
「はい、メサイア様は、私の村の守り神です」
「守り神だって、じゃあ、メサイアの像はありませんか?」
「はい、教会にありますが」
「本当、今度、案内してください」
「わかりました。私は、マイアといいます。しばらくは、この先の家にいますので来てくだされば案内させて頂きます」
「お願いします」と真斗は話したあと集まってくれた領民一人一人、声をかけていった。
真斗は、領民から今までの弾圧、生贄にされた娘のことなど話しを聞いた。
真斗は、「僕は、そんなことをしない」と話していった。
中央広場での演説は、終わり解散となった。
真斗は、皆んなを集めて話した。
「エリーゼ、ずいぶん早かったね」
「はい、父が人材を派遣してくれたのです。任せることができたので、すぐに駆けつけることができたのです」
「そうですか。でも、マイヤー財団の投資って」
「はい、父の財団が資金を出してくれるのです。しばらくは、資金を使って商業を活発化しましょう。アルバニアの商売は、マイヤー財団で独占させて頂くと言っていたわ」
「なるほど、さすが、抜かりはないね」
「はい。真斗様、今後の改革方法ですが、ラティス様からアドバイスを受けています」とエリーゼは真斗に話した。
ラティスから商業を活発化、領民の生活を安定させる方法までのことをエリーゼは、真斗に話した。
「エリーゼ、お願いします。君に全て任せるよ」
「真人様、畏まりました。全て私にお任せください」とエリーゼは答えた。
エリーゼは、信用してくれた真人の気持ちがとても嬉しかった。
真人様のために全力を尽くすと誓った。新生アルバニアの門出であった。
エリーゼは、アルバニアの農地を全てトウモロコシの苗を植えるように指示をした。
アルバニアをトウモロコシの産地にして、トウモロコシから油や加工品を作りマイヤー財団で売りさばくことを計画していた。
トウモロコシは三か月ぐらいで収穫できるので好都合であった。後にアルバニアはアルセーヌ王国の中でも随一の産地になる未来が待っていた。
そして、アルバニアは商業が盛んな街に変貌し豊かな街になっていくのである。




