第十七話 リーディアとの再会
ここは、アンデルト侯爵の屋敷である。ラティスにしてやられてイライラしていた。
そんな侯爵は、書斎で来客を待っていると「コンコン」とドアを叩く音が聞こえた。
「旦那様、ダルク子爵が参りました」
「そうか、待っていた。通してくれ」
「はい、それでは、子爵」と執事が言うとダルク子爵が書斎に入ってきた。
「子爵、よく参った。座ってくれ」
「はい」と返事をして。ダルク子爵はソファに座った。侯爵も、子爵の向かいに座った。
「侯爵、今日は何用でしょう」
「実は、ライアン伯爵がやられた」
「えっ、本当ですか?」
「あぁ」
「いったい、誰に」
「ラティスと真斗という小僧にだ」
「ラティスですかぁ、厄介ですね」
「そうだ。だが、真斗という小僧が直接、関わっていたらしい」
「真斗という小僧ですかぁ、聞かない名ですね」
「恐らく、ラティスの子飼いだろう」
「そうですか」
「だから、まずは、この小僧を抹殺してほしいのだ」
「わかりました。それで、その小僧は何処に」
「エルガー伯爵の屋敷にいるらしい」
「そうですか、わかりました。それでは、お任せを」
「頼んだぞ」
「はい」と子爵は返事をして書斎を出て行った。
その頃、真斗は、二日ぶりに目が覚めてから、数時間が過ぎていた。もう、夕方になる頃である。
真斗は考え事をしながらベッドに寝転んでいると「コンコン」とドアをノックする音が聞こえた。
「はい」と真斗は返事をした。
「お兄さん、入るね」と繭が入ってきた。
「繭か」
「もう、夕食の時間よ。食事に行こう」と言ってきた。
「もう、そんな時間なんだ」
「うん」と繭は返事をして、二人は一階の食堂に向かった。
真斗達が食堂に入るなり、皆んなからお祝いの言葉をかけられた。
「真斗様、男爵になられたようで、おめでとうございます」と執事のアルトから声をかけられた。
メイドからも「おめでとうございます」と声をかけられた。
真斗は、恥ずかしそうに「ありがとう」と返事をした。
「真斗様、こちらへ」とアルトが椅子を引いてくれたので座った。
真斗の向かいにラティスがいた。
「真斗、今日は、真斗のお祝いも兼ねた食事会なんだ」とラティスが言うと真斗は「え〜、ありがとうございます」と返事をした。
真斗の両隣りには、流唯とリアが座っていて真斗に笑顔を向けていたので、真斗は笑顔で返した。
真斗が周りを見るとラティスの隣にソルティアもいた。
アルゴス、カルロスは、真斗の向かい斜めに座っていた。
上座にいるラティスの父から「真斗くん」と声をかけられた。、
「はい」と真斗は返事をした。
「真斗くん、男爵の爵位、おめでとう。今日は、真斗くんのために、ささやかなパーティーだ」
「本当ですか〜、ありがとうございます」
「それでは、真斗男爵、おめでとう。かんぱ〜い」とラティスの父が音頭をとって皆んなで乾杯した。
皆んなからは、お祝いの言葉をかけられたのだった。
ささやかなパーティーも終わり、自分の部屋に戻っていた真斗は、ベッドに寝転んで考えていた。
「あれは、確かに樫井さんの声だった。これは、単なる夢だったのだろうか。樫井さんの声が鮮明すぎる」と思いながら、いつのまにか寝ていたのだった。
翌日の朝頃、真斗は、また夢を見ていた。
「真斗、メサイアです。私の声が聞こえますか」と聞こえてきた。
「メサイア」と返事をすると「真斗くん、私の心の声を聞いて」と樫井さんの声も聞こえた。
なんで、メサイアと樫井さんの声が聞こえるんだろうと真斗は思った。
「真斗くん、梨奈よ。私の声が聞こえるのなら真斗くんの声を聞かせて」
「かっ樫井さん・・・」と真斗が声を出しても梨奈には真斗の声が届かなかった。
まただ、ほんとうに樫井さんなのかと思ったところで目が覚めた。
外は、既に朝になっていた。
「もう、朝か。外は快晴で暖かく気持ちがいいな。少し、散歩でも行こう」と思いながら真斗は着替えた。
その頃、王城では朝早くリーディアが城を抜け出していた。
爺やのアルベルトは、リーディアに頼まれて手助けしていた。
「姫様、抜け出すのは、これっきりにして下しいよ。私が国王に怒られます」
「バレなければ、大丈夫よ」
「姫様、早く、馬車にお乗り下さい」とアルベルトは、キョロキョロしながらリーディアを馬車に乗せた。
アルベルトは、「ハイヤー」と掛け声をかけて馬車を走らせた。
「アルベルト、エルガー伯爵家の屋敷に向かってください」
「はい、姫様」とアルベルトは返事をしてエルガー伯爵家に向かった。
真斗は、エルガー伯爵家の屋敷を出ようとするとカルロスが声をかけてきた。
「真斗、何処に行くんだ。こんな朝早くに」
「少し、散歩に」
「一人では、危ないから私も一緒に行こう」
「ありがとう、カルロス」と言って、真斗はカルロスと一緒に屋敷を出た。
その時、流唯も後ろから追いかけてきた。
「お兄ちゃん、待ってよ、私達も一緒に行く」
「仕方がないな。一緒に行きたいの?」
「うん」と流唯は返事をして一緒に街の中心地に向かった。
しばらく、三人が並木道を歩いていると先の方から馬車が向かってきた。
「あっ、馬車だ、皆んな、端っこに寄って」と真斗は、声を出して馬車をやり過ごした。
リーディアは、馬車の窓から真斗達が歩いているところを見かけた。
「今の真斗だわ、アルベルト、馬車を止めてぇ〜〜〜」
「はい〜〜」とアルベルトは返事をして手綱を引っ張った。
馬車が急に止まって大きな音がしたので、真斗達は立ち止まり後ろを振り向いた。
「バタン」と馬車のドアが開くと一人の少女らしき人が馬車から降りてきた。
「真斗〜」と大声をかけていた。何も反応がない真斗を見てリーディアは走ってきた。
「ねぇ、お兄ちゃん。知っている人なの」と流唯が話すと「いゃ、誰だろう」と真斗は首を横に振った。
少女が真斗のところまで走って来ると「ハァハァハァ」と息切れをした後に深呼吸をしてから声をかけてきた。
「真斗、私よ。リーディアよ」
「えっ、あ〜、リーディア、あのときの」
「そうよ、思い出した」
「うん、でも、なんで、ここに」
「私ね、真斗の噂を聞いたのよ。だから、真斗に会いたいと思って来たの」
「僕に」
「えぇ、そうよ。会えて良かったわ。座って、話をしましょう」
「いいよ、じゃあ。そこの木陰に座ろう」と真斗が言って、二人は木陰に座った。
その時、アルベルトは馬車を二人の近くに止めた。
「まさか、こんなところでリーディアに会えるなんてね」
「えぇ、そうね」
「リーディアは、何処に行く予定だったの」
「エルガー伯爵家に行こうと思って」
「そうだったんだ、じゃあ、用事があるんだったら、時間をとらせるのは悪いから」と真斗が立つとリーディアは、真斗の手を引っ張って「ダメッ」と叫んだ。
「待って、私、真斗に会いに来たのよ」
「僕に」
「そうよ」
「なんで、僕がここにいるってわかったの」
「あっ、うん。噂で男爵になった人がいるって聞いたの。その人が真斗だと聞いて」
「そんな噂になっているんだ」
「そうよ、あの王家に伝わるセーレスの首飾りを取り返した人だって」
「へ〜、びっくり」
「ふふふ、それで、真斗がエルガー伯爵家にいると聞いて」
「なるほど、だけど、なんで、僕なんかに会いに来たの」
「あのとき、途中で別れたから気になって、また、真斗に会って話がしたいと思ったの」
「ありがとう、僕も気になっていた」
「ほんとう」
「うん、真斗、男爵、おめでとう」
「ありがとう、リーディア」
「でも、なんか、僕、貴族っぽくないよね」
「そうでもないよ、貴族っぽい格好すれば、それなりになるわよ」
「そうかな、でも、リーディアは貴族っぽいよね」
「えぇ、私も一応ね。だけど、貧乏貴族よ」
「そうなんだ」
「ねぇ、真斗、しばらくは、この街にいるの」
「しばらくは、いるつもり」
「本当、嬉しいわ、ねぇ、真斗、これから街の繁華街に行かない」
「繁華街に」と真斗が言うと流唯が真斗の隣りに来た。
「ねぇ、お兄ちゃん、この綺麗な人は、だあれ」
「え〜〜と、彼女は・・・、その辺で知り合った人」
「何よ、そんな紹介の仕方、私は、リーディアよ。真斗の友達よ。可愛い彼女さんは?」
「私は、流唯、お兄ちゃんの妹」
「真斗の妹さんなの、流唯ちゃん、可愛いわね」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ふふふ、真斗、可愛い妹さんね。ねぇ、流唯ちゃん、これから真斗と繁華街に行くの、一緒にどう?」
「ほんと、一緒に行く」と流唯が返事をするとカルロスが何か反応を示した。
「カルロス、どうしたの」と真斗が叫んだ。
「あぁ、なんでもない。真斗」
「えっ、どうしたの真斗」
「リーディア、こっちに来て」と真斗はリーディアの手を引いた。
「ね、真斗どうしたの?」とリーディアが聞くと真斗は、目を閉じて黙った。
「カルロス」と真斗が大声で叫んだ。
「真斗、わかった」と返事をすると真斗は、リーディアと流唯の手を握り、馬車の方ヘ走り馬車の陰に隠れた。
カルロスは、剣を抜き茂みの方に向けて剣を振り払った。
振り払った剣からは、「シューン」と音が鳴り、光の閃光が放たれ茂み目掛けて飛んで行った。
光の閃光で、木は真っ二つに切られ木の先から「ギャー」と声が聞こえた。
真斗達が馬車の陰に隠れていると真斗は言った。
「リーディア、流唯、ひとまず馬車に乗って」と馬車のドアを開けた。
「どうしたの、真斗」
「いいから、早く」と真斗は二人を馬車に乗せると、茂みの中から異様な魔物が十体程度、現れた。
魔物は、黒い羽が生えてツノがあり、おぞましい姿であった。
「真斗」、「お兄ちゃん」と二人が叫ぶと魔物は、真斗に襲いかかってきた。
「真斗〜」とカルロスが叫び、遠くからカルロスは、真斗に襲いかかる魔物目掛けて光の閃光を放った。
光の閃光は「シューン」と音が鳴り、七体の魔物を真っ二つに切り裂いた。
切り裂かれなかった三体の魔物は、真斗に襲いかかってきたのだ。
真斗は「やばい」と声をあげると魔物の後ろから剣で斬りかかった少女がいた。
魔物は、真っ二つに切り裂かれ倒れた。
「・・・、君は」と真斗が声をかけると「私は、シャルネイラ、真斗様。気をつけて」と一言だけ言って「スッー」と消えた。
真斗は、「 そうか、彼女が、シャロウさんが護衛につけてくれた娘かと思った。
カルロスが真斗のところに戻って来ると「真斗、大丈夫か」と言った。
「はい、大丈夫です」と答えるとリーディアが馬車から降りてきた。
「真斗、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「でも、なぜ、魔物が、こんなところに」
「誰かが魔物を差し向けたのかもしれない」と真斗が言うと二人はは思った。
リーディアは、私を狙ったのかもしれないわ。真斗を危険にさらしてしまったかもと思った。
真斗は、アンデルト侯爵の手の者かもしれない。僕を狙ったんだ。
リーディアを巻き込んでしまった。申し訳ないと思っていた。
リーディアは真斗を見て話した。
「真斗、私のせいよ。あなたを巻き込んでしまったわ。ごめんなさい」
「違うよ、僕のせいだよ、リーディア」
「いえ、私よ」
「リーディア、これは、僕が狙われたのは間違いないんだ」
「えっ、何故、わかるの」
「僕には、わかるんだ」
「そうだな、お前を狙って来たのだと思う」とカルロスが言った。
「あの、さっきの光の閃光は凄かった。カルロスさんって名前、何処かで聞いたことがあるわ。それに、さっき、真斗を守った少女は何者なの?」
「おいおい、話すよ。だけど、リーディア、繁華街に行くのは、また、今度にしようよ」
「そうね」
「まあ、今度、ゆっくり、遊びに行こう」
「ほんと、それ、デートの誘いと思っていいの?」
「えっ・・・、デ、デートぉ」と真斗は顔を赤くした。
「ふふふ、真斗、可愛いわね」
「からかわないでよ」
「ふふふ、流唯ちゃんも一緒にね」
「うん、お姉ちゃん」
「真斗、手を離してもいいかしら」
「あっ、ずっと、握っていた。ごめん」
「いいのよ」とリーディアは真斗の手を離して馬車に乗った。
リーディアは、馬車の窓から顔を出して、言った。
「真斗、一週間後の朝、また、ここで会いましょう」と言って手を振った。
真斗と流唯も手を振った。
「ねぇ、お兄ちゃん、あの人、綺麗な人ね」
「あぁ、綺麗な人だった」
「もう、お兄ちゃん、鼻を伸ばしてぇ、お兄ちゃんは、あの人にあげないもん」と流唯は言って真斗と腕を組んだ。
「ふふふ、じゃあ、戻ろう」と真斗が言って三人は屋敷に戻って行った。
馬車の中で、リーディアは不思議に思っていた。
あの魔物は、何故、こんなところにいたの。ありえないわ。
誰かが放っだとしか思えない。それに魔物は真っ先に私達を狙っていた感じだった。
誰かの陰謀なの。侯爵派かしらとリーディアは、馬車に揺られながら考えていた。
屋敷に戻った真斗とカルロスは、ラティスに襲われたことを話していた。
「やはりな。早速、襲って来たか」
「真斗は、警戒した方がいいな。カルロスは目立つから、シャルネイラともう一人、真斗に護衛を付けます」
「もう一人?」
「はい、真斗も気をつけてください」
「わかりました。ありがとう」と真斗は答えて自分の部屋に戻ったのだった。