第十六話 真斗、貴族になる
ラティスと真斗達は国王との謁見で、ライアン伯爵の陰謀を暴き、アーナルド伯爵の汚名をはらすことができた。
アンデルト侯爵に痛手を与えることができたのは、王家側からしたら喜ぶべきことだった。
アルベルト公爵も、王家に対する圧力も和らぐと非常に喜んで、国王に言った。
「陛下、ラティス・エルガー伯爵は、ライアン伯爵の悪巧みを暴きました。これは大手柄でございます」
「そうだな、ラティスでかした。よくぞ、ライアン伯爵の陰謀を暴いてくれた。流石、国内随一の知者だ。何か褒美を取らせるがどうだ」
「陛下、私が褒美を頂くわけにはいきません」
「何故だね。ラティスよ」
「はい、これは、私の手柄ではないからです」
「なんと、ラティスよ、どういうことかな」
「この陰謀を暴き、セーレスの首飾りを見つけたのは、こちらに控える真斗のおかげなのです」
「なんと、本当なのか」
「はい、この真斗は、貴族ではありません。ですが、私の大切な友人でもあり、私が一目を置いている若者でございます」とラティスが話すとアルベルト公爵は、「なんと」と声を出して驚いた。
「ほう、この若者が、それほどまでの人物なのか」
「はい。陛下」
「なるほど」と国王は言って、真斗の方を見た。
「真斗とやら、楽にして良いぞ。よく顔を見せてくれるか」
「はい」と真斗は答え、立ち上がって国王に顔を見せた。
「真斗とやら、でかしたぞ」
「いいえ、私は大したことをしておりません」
「いや、違うぞ、セーレスの首飾りを見つけ陰謀を暴いたのだ、大それたことだ」
「悪いことは、ばれるものです。単に当たり前のことをしただけです」
「当たり前のことではないぞ。アーナルド元伯爵の汚名を晴らしたのだぞ」
「陛下、僕は、理不尽な事で全てを失ったアーナルド元伯爵が不憫だと思っただけです」
「そうか、なら、何か褒美を取らせるぞ。何がいい」
「私は、何もいりません」
「なんと、何もいらないと、そんな事は言わずに何か言ってくれ」と国王が言うと真斗は、少し考えた。
「どうだ、なんなりともうせ」
「それでは、一つだけ、お願いがあります」
「なんなりと言ってくれ」
「それでは、この陰謀によって、全てを無くして辺境の地に追いやられたアーナルド元伯爵を元の爵位、領地を戻して頂きたいのです」
「なんと、真斗は、それで良いのか」
「はい、陛下」
「ほう、自分のことではなく、アーナルド伯爵のためにか、だが、お主には何も、メリットはないと思うが」
「私は、このような理不尽なことは、好きではないだけです。それだけでいいのです」と真斗が答えると国王は、手の甲を顎にもっていき、少し考えてから答えた。
「真斗よ、本当にそれでいいのかな」
「はい、それに、アーナルド元伯爵はラティスとソルティアの友人と聞きました。二人のためにも、これが一番いいと思います」
「ほう、そなたは、欲もなく、優しいのだな」
「人として当然のことです」
「そうか、そなたは、ラティスの友人と言っていたな。なかなかの若者かもしれないな」
「僕は、たいした人間ではないです」
「ふふふ、真斗よ。謙遜するな。わしは、そなたが気に入ったぞ」
「ありがとうございます」と真斗が言うと国王はアルベルト公爵の方を向いて話した。
「公爵」
「はい、陛下」
「この真斗は、貴族ではないとラティスが話していたな」
「はい、陛下」
「なら、真斗に男爵の爵位を授けようと思うが、どうだ」
「陛下、宜しいかと思います。将来、有望な人物になるかもしれません。だから、我が陣営に入ってもらえれば、必ず力になりましょう」
「そうか、よし、真斗よ。そなたは、今から男爵だ」
「えっ、そんな」と真斗が声を出して驚いた。
真斗は、ラティスの方を向くとラティスが真斗の肩を叩いた。
「ふふふ、真斗、男爵の爵位、受けましょう」
「そうよ」とソルティアも言った。
「ラティス、ソルティア・・・」
「真斗、貴族となれば何かと動きやすくなります」
「そうよ、真斗。これからのことを考えれば、受けた方がいいと思うわ」
「わかりました」と真斗は二人に言ってから国王を見て片足をひざまづいた。
「陛下、ありがたき幸せ。男爵の爵位、謹んでお受け致します」と真斗は頭を下げて大声で言った。
「そうか、受けてくれるか、頼りにしているぞ」
「はい」と真斗が答えるとラティスは思った。
だが、偶然にも、セーレスの首飾りが見つかり、証拠となる支持書まで一緒にあるとは、これは、本当に偶然なのか?
うまく行き過ぎだ。
真斗にとって良い方向に進んでいるんだが、思惑通りにいったから良しとしようと思いながら真斗を見ていた。
「ラティスよ、どうしたのだ」と国王が声をかけると「いえ」と頭を下げて返事をした。
ラティスは真斗をしみじみと見ていると「はっ」として思いついた。
真斗が持つ真の力は、未来予知なんかではないぞ。そうだ、未来誘導なのかもしれない。
真斗の都合の良い未来に進んでいるんだ。
今は、無意識に誘導されているが、もし、真斗が意識的に誘導できるとなれば、正しく神の成せる技だと真っ青になった。
世の中の未来が、真斗の思い通りに未来が進む世界になるとしたら、なんでもありではないか。これが本当だったら、なんて恐ろしい力なんだ。と思った。
今は、私の心に留めておこう。真斗は絶対、敵にしてはいけない人物だ。と誓ったのだった。
「ラティスよ。どうした」
「いいえ、陛下」
「なら、皆の者、控えて良いぞ」と国王が言うとラティスと真斗達は、謁見部屋を退出したのだった。
三人が屋敷に戻るとラティスは真斗を呼び止めた。
「真斗、今日の謁見でアンデルト侯爵から恨みを買ったと思います。恐らく、真斗の暗殺を企むと思います」
「えっ、本当」
「はい、だから、アルゴスやカルロスが傍にいないときもありますので、真斗に護衛をつけたいと思っています」
「護衛ですか」
「はい、シャロウ、いるか」とラティスが言うと真斗の後ろからシャロウが現れ、「はい、ラティス様」と答えた。
真斗は、「えっ」と吃驚した。
「シャロウ、真斗に護衛をつけたい」
「わかりました。それでは、シャルネイラを護衛につけたいと思います」
「シャルネイラって、初めて聞く名だね」
「はい、初めて紹介します。実は、私の娘なのです」
「シャロウ、君に娘がいたのか」
「はい、私の大切な娘です」
「それで、実力は」
「今まで、私が指導していたので安心してください。いずれ、私の後継と考えているのです」
「ほう、シャロウが後継と認めているぐらいなら安心だね」
「期待してください。シャルネイラ」とシャロウが声をかけるとラティスの後ろからシャルネイラが現れた。
「父上、ラティス様、おまかせを」とシャルネイラが言うとシャロウと一緒に消えたのだった。
「真斗、とりあえず休みましょう」とラティスが言うと各自、自分の部屋に戻ったのだった。
謁見の後、アンデルト侯爵はマデス・ライアン伯爵の爵位を剥奪し、死罪を命じた。
侯爵は、仕方がなく、自分の尻尾を切ったのだった。
そして、アンデルト侯爵は憎悪を燃やした。
「ラティスめ、必ず、この借りは返してやるぞ。そして、あの真斗という小僧、こいつは、絶対に抹殺してやるぞ」と思っていた。
謁見が終わり、国王は自分の部屋に戻った。
椅子に腰掛けると「トントン」とドアがなった。
「誰かね」
「私です。お父様・・・」
「お〜、リーディアか」
「はい、入っても宜しいですか?」
「いいよ、入りなさい。お前に閉ざす扉はないよ」と国王が言うとリーディアが入ってきた。
「リーディア、どうしたのかね」
「はい、お父様、今、ラティス様とソリティア様が謁見に来たと聞きました。どのようなことかと思いまして聞きに来たのであります」
「そうか、今日の話しかね」
「はい」とリーディアが答えると国王は、今日のことを話した。
ラティスがエルガー伯爵家を継いだこと、そして、ライアン伯爵の陰謀が暴かれたことをリーディアに話した。
リーディアは感心して頷いて話を聞きいてから答えた。
「さすがは、ラティス様ですね。ライアン伯爵の陰謀を暴くなんて」
「いや、それが違うんだ」
「えっ、どういうことですか?」
「ライアン伯爵の陰謀を暴いたのは、ラティスの友人である真斗という若者なんだよ」
「えっ、真斗様ですか?」
「そうだが、リーディア、お前、真斗とかいう若者を知っているのか?」
「はい」
「そうかぁ。ラティスが一目を置く若者らしいんだ。しかも、陰謀を暴いたのに報酬はいらないと言う」
「そうですかぁ」
「それに、自分のことではなく、陰謀によって被害に遭ったアーナルド伯爵を元に戻してほしいとも言ってきたのだ」
「それは、本当ですか、優しい方ですね」
「そうだ、なかなかの若者だといえる。わしは、真斗を気に入ったのだ」
「お父様が気にいるなんて、ラティス様以来ですね」
「そうだな、だから、彼を男爵の爵位を与えたのだよ」
「あら、そう。誠に良かったです。お父様、それで、真斗様は、今、何処に」
「エルガー伯爵家にいると聞いている」
「そうですか。わかりました」
「リーディア、聞きたいのは、それだけかい」
「はい、お父様、それでは失礼しますね」とリーディアは言ってから、国王の部屋を出て行った。
国王は、リーディアは、真斗男爵が気になるのか、と思っていた。
リーディアは、ドアを閉めてから思った。
「ふふふ・・・、真斗様、今度、お忍びで会いに行きますね」とワクワクしながらつぶやいていた。
その頃、梨奈がいる時間樹では、時間樹の実といわれる世界の中から真斗がいる世界をひたすら探していたのだった。
「メサイア様、無限のようにある世界の中から、真斗君がいる世界を探すのは無理よ。何か方法はないかしら」
「梨奈、できるかわかりませんが全ての世界に対して、あなたの思いを伝えてはどうでしょう」
「メサイア様、私の思いを伝えるというのはどのように」
「心で真斗のことを思えば、必ず真斗に梨奈の声が聞こえるでしょう。ただ、真斗が答えて私達に聞こえればよいのですが」
「わかりました。やってみます」と梨奈は言い、両手を組み真斗のことを思った。
「真斗くん、私の心の声を聞いて、返事をしてください」と梨奈は何度も何度も全世界に対して心の声をかけたのだった。
梨奈が世界の外で心の声をかけていた頃、真斗はラティスの屋敷に戻っていた。
国王の謁見で緊張したせいか帰るなりベッドで寝てしまったのだった。
真斗は、夢の中だったが急に声が聞こえた。
「真斗くん、私の心の声を聞いて」と聞こえたのだった。
「この声、何処かで聞いたことがある」と真斗は思っていた。
真斗は、何度も、この声が聞こえた。
「はっ」と真斗は急に目が覚めて起き上がった。
「なんだ、今の声は、これは、樫井さんの声だ」
「だけど、まさかな、樫井さんの声が聞こえるはずはないよ」とつぶやいた。
真斗が掛け布団を持ち上げると右には流唯と左にはリアが寝ていた。
「は〜、また、ベッドに入ってきたのか」と思うと「コンコン」とドアをノックする音が聞こえた。
「はい」と真斗が返事をすると「お兄さん、入るね」と繭が入ってきた。
「お兄さん、やっと起きた。二日も起きなかったのよ。心配したよ」
「二日も、起きなかったの」
「そうよ、流唯とリアも心配して離れなかったのよ」
「そうか、心配かけたな。でも、大丈夫だよ」と真斗は、流唯もリアの頭を撫でた。
だが、真斗は不思議な感覚を感じていた。
「だけど、なんで樫井さんの声が聞こえたのだろう。単なる夢だったのだろうか」と思っていた。
真斗が寝ていた時、アーナルド伯爵がいる辺境の地では王家の使いが来ていた。
「アーナルド元伯爵のご令嬢、エルダ・アーナルド様ですね」
「はい。そうです」
「エルダ様、お父上であるアルバート様は何処におりますでしょうか」
「父は、病状が悪化して先月、亡くなったのです」
「それは、誠ですか?」
「はい、今日は、なんのご用事でしょうか」
「エルダ様、私達は、アーナルド家の伯爵位復帰を願いに来たのです」
「伯爵の復帰ですって、なんででしょう」
「アーナルド伯爵家に対するライアン伯爵の陰謀が暴かれたのです」
「陰謀ですって」
「はい、アーナルド伯爵家には責任がないということがわかったのです」
「それで、今更、責任はないから伯爵に戻れと、随分、勝手ですね」
「勝手は承知です。誠に申し訳ないと思っております」
「今更、言っても、父は亡くなりました。戻る気は、ありません」
「エルダ様、あなた様がアーナルド伯爵家を復興して頂けないかと思っています。それと、国王も謝りたいとおっしゃっております」
「国王が、今更」
「お願いします。エルダ様、これは、ラティス様、ソルティア様の願いでもあります」
「えっ、ラティスとソルティアが」
「はい、二人ともあなた様を心配していました。陰謀を暴いたのも、二人の力添えがあったからこそなのです」
「本当ですか?」
「はい、ですから、まずは、王都にお戻り下さい。アーナルド伯爵家の屋敷も、お返しすることになっています」と王家の使いは話した。
「・・・」とエルダは、しばらく考えてから「わかりました」と答えた。
エルダは、王都に戻ることに決めた。
「ラティス、ソルティア、王都に戻ったら会いにいきますね」とつぶやいて王都に戻る準備をしたのだった。