第十五話 国王との謁見
真斗達がラティスの屋敷に戻って来てから翌日の朝を迎えた。
真斗と繭、流唯は、まだ、ベッドの中で眠っていた。
しかも、真斗は、繭、流唯がいたため、なかなか寝付けなかったのだった。
「コンコン」とドアを叩く音がしたが三人は起きなかった。
「ガチャ」とドアを開けたのは、リアだった。
リアは部屋に入るなり大声で叫んだ。
「・・・、あ〜ずる〜い、繭と流唯が部屋にいないと思ったら、真斗お兄ちゃんと一緒に寝ているじゃない。じゃあ、私も」とリアも真斗のベッドに潜り込んできた。
リアは、仰向けに寝ている真斗の上に重なるように抱きついた。
真斗の右には繭、左に流唯、上にリアに抱きつかれていたのだった。
「うーん、キツイ」と真斗は気がつき、目が覚めた。
「これは、どうなっているんだ。身動きができない」と思った。
「真斗お兄ちゃん、起きたの」
「リア、なんでいるんだ」
「繭と流唯だけ、ずるいもん、私も一緒に寝たかった」
「は〜、じゃあ、起きようか」
「うん」とリアは、ベッドから降りた。
真斗も起き上がると繭と流唯も目が覚めた。
「お兄さん、おはよう」「お兄ちゃん、おはよう」と言った。
「おはよう、繭、流唯」
「リア、なんで、ここにいるの」と流唯が言うとリアは、むくれながら言った。
「ずるいよ、真斗お兄ちゃんと一緒に寝るなんて、私も一緒に寝たかった」
「わかったよ、これからは、リアも一緒ね」と流唯とリアが話していると真斗は思った。
「おいおい、これからも一緒に寝るのかよ」と思っていた。
また、「コンコン」とドアをノックする音が聞こえた。
「はい」と真斗が返事をすると「真斗様、お食事の用意ができております。一階の食堂にお越し下さい」とメイドの声が聞こえた。
「わかりました」と真斗は返事をした。
「繭、流唯、リア、自分の部屋に行って着替えて来なさい」
「は〜い」と三人は返事をして真斗の部屋から出て行った。
「あれ、二人とも枕を置いたままだ、これからも、一緒に寝る気かなぁ」と思いつつ真斗も着替えた。
真斗は部屋を出て一階の食堂に行くと後から繭達も来た。
「おはようございます」と真斗は挨拶をした。
食堂には、皆んな集まっていた。皆んなも「おはようございます」と挨拶をした。
ラティスの父が「真斗くん、ラティス、ソルティア」と三人に声をかけた。
三人は、「はい」と返事をした。
「国王との謁見だが許可がおりた。午後には王宮に向かうから一緒に行きますよ」
「はい」と三人は返事をした。
「それでは、食事しましょう」とラティスの父が話したあと皆んなは食事を始めた。
朝食は、パン、スープなど元の世界にある一般的な朝食だった。
流唯が「美味しい。こんな食事、久しぶり」と声を出すと皆んなは大笑いをしたのだった。
食事も終わり、ソルティアが席を立つなり真斗に声をかけた。
「真斗、一緒に来てくれる」
「はい、なんでしょう」と真斗はソルティアと一緒に食堂を出て、ソルティアの部屋に真斗を入れた。
「さぁ、入って、真斗、国王の謁見では、この服を着てみて」とベットの上に置いてある服を取り出した。
「この服を着るのですか」
「そうよ、私、ラティスを呼んでくるわ。着替えてみて」と言ってソルティアは部屋を出た。
真斗は、ソルティアに渡された青い服を取って着替えた。服は、騎士っぽい服だった。
真斗が着替えた頃にソルティアとラティスが部屋に戻ってきた。
ソルティアが真斗を見て、「なんか今一ね。真斗には騎士っぽい服は駄目そうね」
「そうだな、子供に大人の服を着せた感じだね」とラティスが言うと大笑いした。
ソルティアは、スーツケースみたいなものから三着の服を出した。
「真斗、こちらの服も着てみて」とソルティアに言われるがまま三着の服を代わる代わる着替えた。
最後に着替えた服は、赤い貴族の制服っぽい服だった。ソルティアがジロジロ見た。
「うん、これが、いいわ、これにしましょう。真斗に合うわ。ねぇ、ラティス」
「そうだな、孫にも衣装だね。真斗、貴族っぽいよ」と笑いながら言った。
「ふーん、そうかな」と首を振りながら着た服を見ていると「トントン」とドア叩く音が聞こえた。
「ソルティア様、馬車の用意ができましたので出発の準備をお願いします」とメイドの声が聞こえた。
「わかりました」とソルティアは返事をした。
「真斗、ラティスは先に行っていて、私も準備をするから」
「わかった」と二人は言って部屋を出た。
真斗とラティスは、屋敷の外に出て馬車の前まで行くとアルトが待っていた。
アルトが馬車のドアを開けると既にラティスの父が乗っていた。
「さぁ、二人とも乗りなさい」
「はい」と二人が言うとソルティアも来た。
ソルティアも馬車に乗るとアルトが馬車のドアを閉めてから出発した。
馬車に揺られながら、ラティスは真斗に国王との謁見に関する作法を教えていた。
ラティスの父はソルティアと話しをしていた。
四人は、それぞれ話していると「ガタン」と大きな音が鳴り馬車が止まった。
「どうしたんだ」とラティスが声をかけるとアルトが答えた。
「ラティス様、旦那様、アンデルト侯爵様の馬車が前に止まっているのです」
「私が出よう。アルト、車椅子を出してくれ」
「はい、旦那様」とアルトは車椅子を出して父を抱えて車椅子に乗せた。
アルトが車椅子を押してアンデルト侯爵の馬車まで行った。馬車の前まで着くと馬車のドアが開いた。
馬車の中には、アンデルト侯爵が乗っていて声をかけてきた。
「これは、これは、エルガー伯爵、何処に行くのかな」
「はい、王宮に行くのです」
「王宮に、何しに」
「はい、国王に謁見させて頂くことになっています」
「どのような内容か聞いてもよいかな」
「すみません。私事でございますので、国王の前で話しとうございます」
「そうか、私事か、私も同席してもかまわないかね」
「はい、かまいませんが」と答えると馬車のドアが閉められた。
アルトは、ラティスの父を馬車まで車椅子を押した。アルトとラティスは父を馬車に乗せて再出発した。
「アンデルト侯爵め、早速、さぐりを入れようとしているな」と父は思っていた。
「父上、アンデルト侯爵ですか?」
「そうだよ。私達の謁見に同席したいそうだ。さぐりを入れたいのだろう」
「そうですね」
このとき、ラティスは少しニコッとして「丁度いい」と思った。
しばらくすると、馬車は王宮に着いた。衛兵が門の前で確認し、ラティス達は城に入った。
ラティス達が入った後にアンデルト侯爵も城に入って行った。
ラティス達は衛兵に案内され、謁見部屋に入った。
衛兵が「エルガー伯爵が参りました」と叫んだ。
父はラティスが車椅子を押し、真斗達が謁見部屋の中に入ると既に国王は王座に座っていた。
国王の隣にはアルベルト公爵が立っていた。
ラティス達は、前に進み国王の少し前で止まり、片足を膝まづいた途端に国王がラティスの父に声をかけた。
「久しいな、エルガー伯爵」と国王エルザード・アルセーヌが言った。
「はい。エルザード様、御無沙汰しております。本日は、時間を取って頂きありがとうございます」とラティスの父が言うとアンデルト侯爵も部屋に入ってきた。
「伯爵、今日は重要な話があると言っていたが、どうしたのだ」と国王が聞いた。
「はい。本日は、私事でございます」
「私事とは、何かね」
「陛下、実は、伯爵職を引退させて頂きたく、許可をお願いに来ました」
「なんと、伯爵には、まだ、頑張ってもらいたいのだ」
「最近、体調が優れないのです。ですから、この際と思いまして、お願いに来たのです」
「ハァ、なんということだ」と国王は言って頭を抱えた。
「伯爵、君には、まだまだ、力になってもらいたいと思っているのだ」とアルベルト公爵も声をかけた。
「父上」とラティスも声を出すと父は手を抑えた。
「誠に申し訳ありません。今の体調だと確実に業務に支障が発生します。ですから、潮時かと思っているのです」
「ハァ、なんということだ」と国王がため息をついた。
「伯爵、もう少し、頑張ってもらいないか」とアルベルト公爵も話した。
その時、アンデルト侯爵は、「しめしめ、伯爵が引退すれば好都合だ」と思っていた。
「陛下、公爵、私が引退しても大丈夫でございます」
「大丈夫というのは」
「私の嫡子である、このラティスが私の代わりを務めましょう」
「おぉ・・・、ラティスが」と国王、公爵が声を出した。
「父上・・・」とラティスが言うと父は言った。
「ラティス、お前は我が国では随一の知者と言われているんだ。立派にエルガー伯爵家を継ぐことができるよ」
「父上・・・」とラティスは涙ぐんで声を出した。
「頼むな、ラティス」
「はい、わかりました。父上」とラティスは頷いた。
ラティスは、国王の方に顔を向けて叫んだ。
「陛下、このラティスが陛下の力になりましょう」
「誠か、ラティスよ」
「はい、陛下」とラティスは言った。
「おぉ、陛下、ラティス殿が力になってくれるのであれば心強い」と公爵が言った。
アンデルト侯爵は、「う・・・、なんということだ。これでは、エルガー伯爵家は力をつけるだけではないか」と思って悔しがった。
「陛下、我がエルマイヤー伯爵家も協力させて頂きます」とラティスの隣にいるソルティアも言った。
「おぉ・・・、そちも、力になってくれるのか」
「はい、陛下」とソルティアが言うと公爵が話した。
「陛下、ソルティア殿は、我が国、随一の魔術師です。それにラティス殿の婚約者でもあるのです」
「そうかそうか、二人とも、ありがとう」と国王は言った。
アンデルト侯爵は、「なんということだ、最も力のある伯爵家が協力するなんて」と悔しがっていた。
「ラティスよ、私に何かできることはないか」と国王は言った。
「お願いはありませんが、一つ、陛下のお耳に聞き入れたいことがあります」
「なんだね」と国王が言うとラティスは、ソルティアに声をかけた。
ソルティアは、両手を地面にかざすと手のひらから光が照らされた。照らされた先が一瞬、光りだした。
光の中からセーレスの首飾りが出現したのだ。
ソルティアは、セーレスの首飾りを手に取って立ち上がり、アルベルト公爵に首飾りを渡した。
アルベルト公爵は驚き叫んだ。
「こっ、これは、セーレスの首飾りではないか」
「なんだと」と国王も叫んだ。
アンデルト侯爵も、「なんで、セーレスの首飾りが、ここにあるんだ」と思っていた。
「陛下、御覧のとおり、セーレスの首飾りでございます」
「どういうことだ。ラティス」
「セーレスの首飾りを盗ませ、アーナルド伯爵に責任を取らせるためだったのです」
「アーナルド伯爵に責任を取らせるためだったというのか」
「はい。陛下、これは、アーナルド伯爵家を落とし入れための陰謀だったのです」
「ラティス、それは誠か」
「はい、落とし入れたのは、ライアン伯爵、当時はライアン元子爵だったのです」
「本当か、だが、何故、陰謀だとわかったのだ」とアルベルト公爵が聞くと、ラティスは陰謀の全てを話した。
ライアン元子爵がアーナルド伯爵の側近を脅迫し、首飾りを盗ませたことやアーナルド伯爵を潰し、王家を弱体化させることなど話した。
「しょっ、証拠とかあるのか」とアンデルト侯爵が叫んだ。
「はい、これが、証拠でございます」とラティスは、国王にライアン伯爵の支持書を渡した。
国王は、支持書を見て言った。
「これは、紛れもなく、証拠となる」と言った。
公爵も一緒に見て、「本当だ、ライアン伯爵の支持書ではないか」と言った。
アンデルト侯爵は、「ライアンめ、しくじったな」と思った。
「即刻、ライアン伯爵を捕えるのだ」と国王が言うとラティスが待ったをかけた。
「陛下、これには、もっと深いことがあります。この陰謀には、ライアン伯爵の後ろに黒幕がいるかもしれません」
「なんだと、黒幕だと」
「そうです。アンデルト侯爵、ライアン伯爵は、侯爵の元側近でしたね」
「ライアン殿、私に疑いをかけると、何処に証拠があるのだ」とアンデルト侯爵が言うとラティスは口をかんだ。
「しかし、侯爵、ライアン伯爵とは親密だったと聞く。疑われても仕方がないのではないか」とアルベルト公爵も言った。
「わかりました。公爵、疑われるのは仕方がない。私がライアン伯爵を捕え、罰しましょう。これで、少しは疑いも晴れましょう」とアンデルト侯爵は言って、部屋を出て行った。
「陛下、ライアン伯爵を失墜させれば、アンデルト侯爵の派閥としても痛手を被るでしょう」とアルベルト公爵が話した。
「そうだな」と国王は話したのだった。