第十三話 魔術の大賢者ソルティア
真斗達は、エルガー伯爵家の屋敷に来ていた。
ラティスの父と会うことになったため、父のいる執務室に向かっていた。
執務室は、二階にあり「皆様、こちらでございます」とアルトの案内で皆んなアルトの後ろを歩いた。
二階に上がり、奥の部屋に父の執務室があった。
執務室の前まで行くとラティスは「コンコン」とドアをノックした。
「誰だね」と執務室の中から声が聞こえた。
「父上、私です、ラティスです」
「あぁ・・・、ラティスか」と執務室の中から声が聞こえた。
「はい、父上、入りますよ」
「入りなさい」と声が聞こえるとラティスは、ドアを開けて執務室に入った。
「久しいの、ラティスよ、そくさいか」
「はい、父上も、いささか元気そうですね」とラティスが言うとラティスの父は、涙目になった。
「さぁ、皆様も、入りなさい」
「わかりました。さぁ、皆んなも一緒に」と言い真斗達も一緒に執務室に入った。
ラティスの父は、ベッドの上で起き上がり話した。
「どうぞ、皆様、そこのソファにお座りになってください」と言った。
ラティスの父は悟った。これは、訳ありだということが理解できた。
それにアルゴスを見て、この人は鳥人族てはない。まさか、竜人族なのかとも思っているとラティスが父の手を握りながら声をかけてきた。
「父上、お体は大丈夫ですか」
「あぁ、大丈夫だよ。最近は、体調が良い」
「そうですか、良かった」
「ふふふ、ラティスよ、私は、王国に見切りをつけて、もう戻ってこないと思っていたよ」
「はい、父上、私も、そのつもりでした」
「じゃあ、なぜ、戻ってきたのかね」
「少し、事情が変わったのです」
「事情が変わったとは・・・、なにが変わったのかね」とラティスの父が聞くとラティスは、真斗の方を見て答えた。
「父上、私は、ここにいる真斗達と遭って変わりました。私は、彼の力になりたいと思っているのです」とラティスは言った。
「この子達の力に、何故かね」とラティスの父が聞くとラティスは真斗のことを説明した。
真斗が異なる世界から来たこと、女神メサイアを宿していること、そして、カルロスやアルゴスのこと、妹さん達のことを一部始終全て話したのだった。
ラティスの父は、話しを聞き驚きを隠せなかった。信じられないような話しだったからだ。
まさか、武神、竜神まで、仕え、女神まで宿す少年とはと思った。父はラティスに答えた。
「驚きだな。誠に信じられないような話だ。まぁ、お前ほどの男が言うのだから本当のことなのだろう」
「はい、父上、この国、いえ、この世界は間違っています。今の世界は、人々が安心して過ごせる世界ではありません」
「お前の言う通りだよ」
「だから、人々が安心して過ごせる世界にしたい。この真斗と共に変えたいと思っているのです。どうか、エルガー家の力を私達に貸して下さい」とラティスは頭を下げた。
ラティスの父は、ラティスが頭を下げるなんてと驚いた。父は、首を横に振ってから答えた。
「ラティス、頭を上げなさい。我が伯爵家はお前が継ぐことになっているのだから、お前の思い通りにするがいい」
「本当ですか、父上」
「あぁ」
「父上、感謝します」と再度、頭を下げた。
「真斗くんと言ったかね」
「はい」
「君は、綺麗な目をしているな。とても不思議な感じがする。この国、この世界を君に託します。どうか、より良い世界に変えてくだされ」
「はい。僕が何処までできるかわかりませんが、できる限りのことはしたいと思います」と真斗も返事をして頭を下げた。
真斗達とラティスが執務室から出るとアルトが立っていた。
「アルト、馬車の用意をお願いします」
「畏まりました」とアルトは返事をして立ち去った。
ラティスと真斗達が廊下を歩いているとラティスが立ち止まった。
「シャロウ、話は全て聞いたな」とラティスが言うと真斗達の後ろからスーッとシャロウが現れた。
急に現れたため、「びっくりしたぁ」と声を上げ、真斗は驚いた。
「ラティス様、話は全て聞きました」
「シャロウ、公爵家の監視を頼む」とラティスが言うと「はい」と返事をして、スーッと消えたのだった。
「ラティス、今の人は」と真斗が聞いた。
「彼はシャロウという男で、我がエルガー伯爵家に代々仕える者です。当家の影部隊を仕切っています」
「そんな者までいるんですかぁ」
「はい、彼らは、かなり、使えますよ。真斗の手足となってくれるでしょう」とラティスは答え、大広間に戻ってきた。
「へ~、凄い」
「真斗、これから行きたいところがあります」
「何処にですか」
「賢者ソルティアのところです」
「賢者だって」
「そうです。魔術に関しては、右に出る者がいないでしょう」
「わかりました」
「皆さん、私と真斗、カルロスは出かけます。繭ちゃん、流唯ちゃん、リア、アルゴスは、この屋敷で待っていてください」
「はい」「うん」「はい」「了解した」と四人は返事をした。
ラティス、真斗、カルロスは、屋敷の外に出ると当家の馬車が止まっていた。
「ラティス様、どうぞお乗り下さい」とアルトが言った。
ラティス達、三人は馬車に乗りアルトが「ハイヤー」と声を上げて馬車を走らせた。
真斗は、馬車に揺られながらラティスに聞いた。
「ラティス」
「なんですか、真斗」
「賢者ソルティアって、どういう人なんですか」
「彼女は・・・、貴族だな」
「彼女って女性なんですか」
「はい」
「それで、貴族なんですか」
「そうです。彼女は、エルマイヤー伯爵家の御令嬢だよ」
「伯爵家の御令嬢ということは、若い人なんですか」
「はい」
「賢者というから、年老いた人かと思いました」
「彼女は、綺麗な人ですよ。少し、怒りっぽいけどね」
「怒りっぽいんだ。気難しい人ですか」
「性格は、いいんだけどね。ただ・・・」
「ただって」
「・・・、あ・・、うー、彼女は・・・、実は、・・・、私の婚約者でもあるんです」
「えー、ラティスの婚約者」
「えぇ、そうなんです。少し会いづらいのですが・・・、だけど、今後のことを考えると会わなければいけないと思う」
「まさか、何か、やったんですか」
「まぁ・・・」と話していると馬車は、エルマイヤー伯爵の屋敷に着いた。
エルマイヤー伯爵の屋敷は、エルガー家の近くにあったので早く着いたのだった。
真斗達は、馬車を降りて屋敷の前に立っている門番に言った。
「ソルティアはいるかい」
「これはこれは、ラティス様、ソルティア様はご在宅です」
「会わせてくれるかな」
「畏まりました」と門番は言って屋敷に入って行き、執事を連れてきた。
執事は、ラティスに話しかけてきた。
「ラティス様、ご無沙汰しております。ソルティア様は、こちらです」と言って庭の方を案内した。
ラティスと真斗達は、一緒に執事について行くと、庭の方に案内された。
庭は、綺麗な庭園だった。池の前にあるテーブルの椅子にソルティアは座って本を読んでいた。
執事がソルティアに声をかけるとラティスの方を見た。
ソルティアは怒った顔を向け、ラティスを睨みつけていた。
ラティスは「はぁ、やっぱり、そうだよな・・・、気まずいよな・・・」と思いつつ、ソルティアの前に行った。
「やぁ、ソルティア」と声をかけた。
ソルティアは、「・・・」と何も話さなかった。
「元気かい。ソルティア」
「・・・」
「あの~。ソルティア様」
「ラティス、あなた、よくもまぁ、私の前に来れたわね。私に何をしたか理解しているの」
「あぁ、悪かったよ」
「それだけなの」
「本当に悪かった」
「あきれたわ」とソルティアが言うと真斗がラティスに声をかけた。
「ラティス、ソルティアさんに何をしたの」
「まぁ、ちょっと」
「ラティス、ちょっと、ではないでしょ」
「だから、悪かった」
「ラティス、何したの」と真斗が言うとソルティアは真斗に言った。
「君、私が、この人の婚約者だということは知っているの」
「はい、ラティスから聞いています」
「この人は、突然、婚約を破棄すると言って雲隠れしたのよ。私を捨てて」
「え~、ラティス、そんなことしたの」
「まぁ、あの時は、色々あってね」
「これは、ラティスが悪いよ。もっと、誠意を持って謝るべきだよ」
「そうだよね。ソルティア、本当に申し訳ない」と頭を下げて、ひたすら謝った。
「僕が悪かったよ。何でもするよ。君を愛していないわけではないんだ。君を巻き込む訳にはいかなかったんだ」
「ふ~ん」
「ソルティア、だから、私と結婚してくれ」
「どうしようかしら、考えておくわ」
「えっ、そんなぁ、ソルティア」
「どうしようかな・・・」とソルティアはいいながら思った。
少し、焦らして、ラティスを懲らしめてやろうかしら。この人、一生、私の尻に敷してあげるわ。
だけど、何かしら、この子、ちょっと、不思議な感じがするわ。なんだろう。
ソルティアは、真斗に近づき、しみじみと見ていた。
「どうしたんだ、ソルティア」
「ラティス、この子、なに」
「なにとは」
「だって、あなたがこの子の言いなりになるなんて、それに、この子、なんか不思議な感じがするし、何かの力を感じるわ」
「ソルティアさん、僕に何かの力を感じるのですかぁ。もしかして、魔法とか使えますかね」
「ん~~、・・・、あなたの魔力はゼロね。まったく、魔法の才能はないわね」
「え~、マジか。やっぱりな」
「はっはっはっ、真斗、残念だな。だけど、お前には、メサイアの力があるはずだから、落ち込むことはないですよ」
「えっ、ラティス、メサイアって、時の女神メサイアのこと」
「そうだよ」
「ソルティアさんは、メサイアを知っているの」
「えぇ、知っているわよ。古い文献に言い伝えがあるのよ」
「どのような、いい伝えですか」
「世界はメサイアが時の流れを管理しているって、世界の災い、災害など悪いことが起きる未来があったとき路線変更して悪い出来事をなかったことにしていたって、だから、世界は平和を保っていたと伝えられているの」
「そんなことを、メサイアはやっていたの」
「えぇ、そうよ。だけど、いつの日かメサイアがいなくなり、世界は平和ではなくなったと」
「ほぅ、そんないい伝えもあったんだな。まさしく、真斗、お前の力ではないか」とラティスは、話した。
「どういうこと、ラティス」とソルティアが聞くと、ラティスは真斗の事を話した。
そして、ラティスは真斗と共に歩みたい。生涯、真斗と一緒に生きると言い切ったのだった。
ソルティアは、吃驚していた。ラティスがここまで心酔するなんて、それにメサイアを宿す男の子なんてと思って話した。
「君、名前は」
「僕は、真斗といいます」
「真斗、あなた不思議な魅力があるわね。それに綺麗な目をしているわ」
「そうですか、ありがとうございます」
「人々のために世界を変えるなんて、優しいわね」
「大それたことだけどね」
「あなたなら、可能かもしれない。ラティスを虜にしたのも驚いたわ。私、君が気にいったわ」とソルティアは、言って真斗を抱き寄せハグした。
真斗は、ソルティアの大きい胸が当たって恥ずかしかった。
柔らかくて気持ちがいい。だけど、ラティスには悪いけどと思っていたのだった。
「あの、ソルティアさん、胸が」と言い、真斗が顔を赤らめているとソルティアは、「真斗は可愛いわね」と言った。
「ソルティア、私と一緒に真斗の力になってくれないか」とラティスが聞いた。
「いいわ。私、この子の力になるわ。それと、ラティス、私と結婚したければ、私の尻に敷かれることね」
「え~、ソルティア、それはないよ」とラティスが大声で言うと三人は大笑いしたのだった。
早速、ソルティアは執事を呼んだ。
「出かけるわ」と話し、自分の部屋に戻った。
ラティス達に屋敷の入口で待っているように言って、皆は屋敷の入口でソルティアを待つことにした。
ソルティアは、直ぐに着替えてから屋敷から出て来た。
「さぁ、行きましょ」とソルティアが皆んなに声をかけてから馬車に乗ろうとしたところ、剣を持った盗賊ぽい男達が十人ほど馬車を囲んだのだった。
「皆んなは、馬車に乗ってくれ」とカルロスが言った。
真斗とラティスは馬車に乗ったがソルティアは残った。
「一応、サポートするわ」とソルティアが言うと男達が襲いかかってきた。
ソルティアは「はっ」と叫ぶと右手に杖が出てきた。杖を上にかがけると馬車の周りが光に包まれた。男達は眩しくて馬車に近づくことが出来なかった。
カルロスが右腕を上げると光る剣が現れた。すかさず剣を一振りすると突風が発生したのだった。
突風によって「グァー」と叫んで男達が全員、ぶっ飛んでいった。
ソルティアは、目を閉じて何か呟いていると男達は、「グァー」と更に叫んで失神した。
ソルティアは、重力魔法を使って、男達に圧力をかけたのだ。
真斗がソルティアを見るとソルティアはウィンクして、使用人達に全員、縄で縛るように指示した。
「さぁ、行きましょ、アルト、お願いね」
「畏まりました」とアルトは返事をして「ハイヤー」と叫んだ。
四人は馬車に乗って、ラティスの屋敷に向かったのだった。