第十一話 知の大賢者と覇業を誓う
結局、真斗は三顧の礼と言わず三十顧の礼となってしまった。
三十回も訪問してやっとラティスは、会ってくれることになり会話できる機会ができたのだった。
だが、真斗は、ラティスが三十回目で会ってくれることは事前にわかっていた。
最初から三十回は訪問するつもりだったのだった。
二人がラティスの家に入るとリビングに木のテーブルがあった。
テーブルの上には本が山積みになっていた。テーブルは、椅子が四個あり四人が座れるテーブルである。
「二人とも、テーブルにある椅子に座っていてくれるかい」とラティスは言った。
二人がテーブルの椅子に座るとラティスは、山積みとなっている本をテーブルの下に置いてからキッチンに向かった。
少し待っているとラティスが戻ってきた。手にはお酒とコップを三つ持っていた。
ラティスは、コップをテーブルに置きお酒を注いだ。注いだコップをカルロスと真斗に差し出して言った。
「さぁ、飲みましょう」
「おぉ、いいな」とカルロスは言ったが真斗は、
「ラティスさん、僕、お酒が飲める歳ではないので、飲めません」
「ふふふ、そうですか。じゃあ、カルロス乾杯」とコップを当て二人は「ゴクゴク」と一気にお酒を飲み干した。
「ふー」とラティスとカルロスは声を出すとラティスは真斗に話しかけた。
「じゃあ、それでは、少年、話しを聞きましょう。三十回も訪問して君は何故、私に会いたかったのでしょうか」
「はい。あなたと会うことは前から決まっていたことなのです」と真斗が答えるとラティスは驚いた。
「えっ、なに、どういうことです?」
「三十回訪問すれば、あなたは、会ってくれると確信していました」
「・・・」とラティスは驚きながら言葉も出なかった。
ラティスは、どういうことなんだと思うと真斗は、淡々と自分のことを話し出した。
自分と妹達が異次元からこの世界に来たこと、この世界で酷い目に遭ったこと、女神メサイアが自分に宿している事を全てラティスに話したのだった。
ラティスは、真斗の話しを親身に聞いていた。
酷い目に遭ったことは同情して、妹達に対する優しい気持ちを聞いて真斗の性格を知ることとなった。
一番驚いたのは、女神メサイアが真斗に宿っていることである。
そして、メサイアの能力が少しでも使えるということだった。いずれは、色々な力が使えるかもしれないとも思った。
そして、ラティスは、今、使えるという予知の力に興味が湧いて聞いた。
「少年、実に興味深いなぁ、君は、一体、何処まで先のことがわかるのですか」
「はい。今は少し先のことしかわかりませんが、必ず、この力をコントロールできるようにして、もっと、先のことをわかるようにしたいと思っています」
「ほう。女神メサイアの力ですか、女神メサイアのことはカルロスから聞いています。君は、その力を使って、どうしたいのですか」
「僕は、ただ、この世界にいる間は、妹と平穏に暮らしたいだけなのです」
「平穏に暮らしたい?、この世界でかい、厳しいと思いますよ」
「えぇ、今までのことを考えれば厳しいと思います。だから、この力をコントロールしよう思います」
「その力、コントロールしてどう使う?」
「少し先のことがわかるので、なるべく、トラブルを回避でければと思っています」
「ふふふ、なるほど、君は、先を読み、トラブルを避ける世渡り上手になるということだな」
「世渡り上手?、はい。そうですね」
「だが、トラブルを回避しようしても、故意に君を害そうとする相手がいたらどうするのかね」とラティスが聞くと真斗は、少し間をおいてから話した。
「その時は、この力を使って先を読み被害を受けないように立ち回りたい。それに僕は、妹達を守りたいんです」
「妹さん達を守るかぁ、だが、先のことがわかっても、君、一人ではできないこともあるかもしれないよ」
「えっ、どういうことですか」
「自分を守る術は?先がわかっても自分が動けない状態だったらどうするのかね」とラティスに言われて言葉を返せなかった。
「・・・、じゃあ、僕は、どうすればいいんだろう」と真斗はつぶやいた。
「上手く、世を渡っていくには、仲間と言うべき協力者は必要だ。だから、人、物、そして、知識や魔術とか、もろもろ必要だよ」とラティスが言うと真斗は何も言えなくなった。
「君は、酷い目に遭って、この世界のことを知った。ここの貴族達をどう思うかね」とラティスに聞かれ、真斗は少し考えた。
ラティスさんは、一体、僕に何を聞きたいのだろう。
確かに、こんな貴族社会は間違っている。人々がしいたげられるは間違っているし平等ではないと思い答えた。
「こんな、不平等な世界は駄目だと思う。貴族なら何をやってもいいというのもおかしいと思う。とても、人々が平穏な生活などできないと思う」
「そうだろうね。じゃあ、どうする?」
「もし、世の中が僕達に危害を加えるというのなら、危害を加えることができないようにしたいと思っています」
「ほー、君は、自分達に危害がなければ、いいと思っているのかい」
「いいえ、自分や妹達だけではなく、ここの人々も酷い目に遭っているのだと思う。だから、酷い目に遭っている人達も、平穏に暮らせればいいと思う。僕に出来ることがあれば、助けてあげたいとも思っています」
「はっはっはっ、そうかい、そうかい、君は、本当にいい子だな」とラティスは大笑いした。
真斗とカルロスは、お互いの顔を見て不思議がっていた。
「君は、今の貴族は、どう思うかね」
「今の貴族ですか、クズだと思います」
「ふふふ、そうだろうな、今の貴族は、皆んなクズか」
「皆んなとは、言えませんが中には、いい貴族もいると思います。実際、お世話にもなりましたので、平民を思いやる貴族はいいと思う」
「そうか、それじゃ、君だったら、クズ貴族をどうしたい」
「いなくなれば、良くなるかも、貴族という地位を剥奪してほしい」
「ふふふ、そうか、君、名前は」
「真斗といいます」
「そうか、真斗、私は、君が気にいったよ」
「えっ、本当ですか」
「あぁ、本当だ。真斗、これからは私が君の協力者になろう。いや違う、・・・、仲間だ」
「ほんとうですかぁ、僕を仲間と思ってくれるのですか」
「あぁ、それに誰も邪魔されない生活をしたければ、誰にも邪魔されないように地位を築くしかないな」
「地位ですか」
「そうだ。今のクズ貴族を排除出来るぐらいの権力をね」
「だけど、僕には、そんな地位を築くなんて、できないですよ」
「ふふふ、大丈夫ですよ。私が君の力になろう」
「本当ですか、ありがとうございます」と真斗が答えるとラティスは少し、黙った。
「・・・」
「ラティスさん、どうしたんですか?」
「いや、私は、常々、この世界を変えたいと思っていた。君となら世界を変えるのことができるかもと思ってね」
「僕と世界を変えるって」
「そうだ、さっきも言ったように君は自分を守る術がない」
「そうですね。僕、弱いから」
「そうだな。だから、カルロス、お願いがある」
「なんだい。ラティス」
「今後、真斗を守ってほしいんだ」
「当然、真斗を守るよ。メサイアを宿しているからな。それに真斗を守ると言っているのは俺だけではない」
「どういうことだい」
「アルゴスも真斗を守ると言っているからな」
「おいおい、カルロス、アルゴスって、竜神アルゴスのことか」
「そうだよ。アルゴスも真斗を守ると言っていたよ」
「もしかして、あの四竜も一緒か」
「あぁ、一緒だ」とカルロスが答えると真斗が聞いた。
「四竜って、メルキア達のことなの?」
「そうだよ、真斗、メルキア、アルバン、セルス、ブルーディアの竜人達だ。この四竜は国をも滅ぼす力を持っているんだ。昔、四竜を怒らせ、国が滅んだと伝えられているんだ」
「えっ、そんな、凄い人達だったんだ」と真斗が吃驚するとラティスは少し考えた。
世界を滅ぼしたアルゴス、それに武の神、カルロスが真斗を守ると言っている。
この世界に降臨する神が真斗の味方だ。
それに国を滅ぼす力を持つ四竜も一緒だ。四竜を中心に無敵の軍隊も作れる。
真斗の周りには、神や人材が集まるかもしれない。まさに、真斗がこの世界を変えることができる力を持ちつつあるのかもしれない。
そして、私が真斗の力になれば必ず世界を変えられる。
確信したと思った。
「ラティスさん、どうしたんですか」と真斗が声をかけるとラティスは、真斗の前で、片足をひざまづき頭を下げた。
「ラティスさん、急になんで」と真斗が聞くとラティスは話した。
「真斗様、私のことはラティスでいい。私は、今まで世界を変える人物が現れるのを待っていました」
「えっ、世界を変える人物を?」
「はい、真斗、君こそが世界を変える人物だ。私は、君という人物が現れることをずっと待ち望んでいたのです」
「・・・」と真斗はラティスは何、言っているんだと思った。
「君となら世界を変えることができると確信した。私が君を世界の覇者にします」
「えー、覇者ですか」
「そうだ、君は、この世界の国々をまとめ、この世界の王になるんだ」
「えー、そっ、そこまでは」と真斗は声を出して、この人、なんてこと考えるんだと思った。
「真斗様、私は、あなたに絶対の忠誠を誓う」
「いや、ラティスさん立って下さい。それに僕のことは真斗でいいです」
「じゃあ、真斗、私と共に世界を変えませんか」とラティスは真斗の手を握った。
あぁ、この目、この人は、本気だと真斗は思った。
「わかりました。覇者になるかわかりませんが一緒に世界を変えましょう」
「ありがとう。真斗、私は、あなたの知恵となろう」と言って立ち上がった。
「カルロス」
「なんだい」
「あなたは、武の神でありながら私を友と言ってくれた。私も、唯一無二の親友だと思っている。だから、お願いがあります」
「お願いとは、なんだい」
「真斗が覇者となるため、アルゴス、四竜と共に軍をまとめてほしい」
「おいおい、俺は、あまり、この世界に干渉するつもりはないのだが」
「カルロス、頼むよ。生涯、一度きりのお願いだ」とラティスが頭を下げた。
カルロスは吃驚した。この武の神と云われる私にさえラティスは頭を下げたこともない。
それにラティスは、名家と言われる誇り高きエルガー伯爵家の御子息だ。
その彼が、訳もわからない少年のために頭を下げるなんてとカルロスは思っていた。
「ふっ、わかったよ。ラティス、私はメサイアを守りたいし、メサイアを宿す真斗も守りたいと思っている」
「感謝する。カルロス、真斗、私は君を守る知恵の守護神となろう。そして、武神カルロスと竜神アルゴスが君を守る武勇の双璧となってくれる。四竜は真斗の軍をまとめる将軍達だ」
「あの、そんなことまで、もう考えたのですか」
「そうだね。これからのことを考えるとワクワクするよ」
「そうですかぁ・・・」と真斗は答えて黙ってしまった。
「真斗、どうしたのかね」
「あの、僕は何もできない。皆んなに頼るだけしかできない。それに守ってもらうだけでいいのでしょうか」と真斗は下を向いて話した。
「大丈夫だよ真斗、多分、君には使命があるんだよ。女神メサイアが君に宿ったのも、運命なのかもしれない。そして、この出会いが君を守るということであり、我々の使命だと思う」
「使命ですか?」
「そうだよ。真斗と共に歩むのも私の使命なんだと思う」
「そうでしょうか」
「あぁ、だから、気兼ねなく普通にしてていい」
「わかりました。だけど、ラティス、なんで、なかなか、会ってくれなかったのです」
「私も、貴族嫌いでね。真斗も何処かのボンボン貴族だと思ったんだよ」
「僕がですかぁ」
「あぁ、見かけボンボンという感じだったからな」
「そう、見えるのかなぁ」
「はっはっはっ、まぁ、いいではないか、さぁ、共に行こう。これからのために真斗」
「はい」と真斗は笑顔で返事をするとカルロスが話しかけてきた。
「真斗」
「はい、カルロス」
「安心するといい、メサイアが持つ本来の力が使えるようになれば、私達が守らなくても君は自分を守ることができるようになるよ」
「えっ、メサイア本来の力ですか」
「あぁ、いずれわかるよ」とカルロスは言った。
この先、ラティスは、真斗の右腕として力を発揮することになっくのである。
いずれ、ラティスは、知の大賢者と伝えられるようになり真斗が国を治める時の内政はラティスが立役者となるのであった。