第十話 梨奈とメサイア
梨奈は、学校を出て真っ先に真斗の家に向かっていた。
電車に乗り、電車の中で真斗と体育倉庫に閉じ込まれたときのことを思い出していたのだった。
あの時、真斗に励まされ、とても優しくしてくれた真斗くん。
そう、あの時から真斗くんのことを意識するようになり、いつか、自分の気持ちを伝えようと思っていた。
私と真斗くんの自宅は同じ駅である。電車は最寄り駅に着き、梨奈は駅の階段を駆け足で登った。
「はぁはぁ」と息をしながら真斗の家に向かって走った。
真斗の家に着くと梨奈は、息を整えてから家の門にあるチャイムを鳴らしてみた。
「ピンポン」と音が鳴ったが音沙汰がなかった。
梨奈は、何回かチャイムを鳴らしてみたが静かだった。
「おかしいな、いないのかなぁ」とつぶやきながら、背伸びをして覗き込んだ。
「真斗くん、何処か行っているのかな。ちょっと、覗いてみるかな」と言いながら門を押してみると門が開いた。
「あれ、空いている。入ってみよう」と梨奈は門の中に入ってみた。
梨奈は、家の玄関まで来てから玄関を叩いてみた。
家の中から何も聞こえてこない。
やっぱ、誰もいないのかなと思いながらドアを横にスライドしてみるとドアが開いた。
「あれ、鍵が閉まっていないわ」
「真斗くんいるのかな。すみません。誰かいませんかぁ」と梨奈は、大声で叫んだ。
だが、シーンと音沙汰がなかった。
「真斗く〜ん、いないの〜、誰かいませんか〜」と叫んでも何も聞こえなかった。
「すみません。入りますよ〜」と叫んで、梨奈は靴を脱いで家の中に入った。
「真斗く〜ん」と呼んだが音沙汰がなかった。
梨奈は、リビングに行ったが誰もいなかった。
家の中を歩き周り真斗を探したが誰もいなかった。
「誰もいない。家の鍵もかかっていないなんて、なんかおかしい」と梨奈は思った。
真斗くんに何かあったのか段々と心配になってきた。
梨奈は、階段を登って二階にも行ってみた。二階の各部屋を見てまわったが誰もいなかった。
「あ、ここ、真斗くんの部屋かな。ちょっと、覗いてみよう」と言って真斗の部屋に入った。
真斗の部屋は、ベッドと机があるぐらいで、少し、殺風景な部屋だった。部屋は、綺麗に片付けてあった。
真斗くん、綺麗好きなのかなと思って辺りを見ていた。
あまり、彼の部屋を見ているのは悪いと思って部屋を出た。
最後に奥の部屋まできた。部屋のドアが開いたままだった。
「なんで、この部屋だけ、ドアが開いたままなんだろう」と思いながら部屋を覗きこんだ。
ここは、おじさまの部屋、書斎なのかなと思いながら部屋の周りを見てみると棚の上に何か光っているところがあった。
何か光っているなぁと思って光るところに近づくと下に木箱が転がっていた。
棚の上には、もう一つの木箱があった。木箱の中から光が漏れて点滅していたのだった。
「この光はなんだろう。この木箱の中から光が点滅している」と思って木箱を取り出した。
梨奈が木箱の中を開けると赤く光る石が入っていた。
「なんて、綺麗な赤い石なんだろう」と思って赤い石を手に取った。
梨奈が赤い石を手に取った途端、赤い石が更に輝きだした。
梨奈は、「眩しい」と叫んで目を瞑ると意識が遠のくことを感じた。
そして、何も見えなくなり、梨奈は意識がなくなってしまったのだった。
しばらくの時間が過ぎて梨奈は横に倒れていた。
意識を取り戻し、目を開けるとまるで夢の中にいる感じだった。
梨奈は、起き上がり周りを見た。
周りは、うっすらと白い雲かがった状態で何も見えなかったが、目の前には、大きい大樹だけが見えた。
私、真斗くんの家にいたのに、ここは何処だろうと思いながら見渡すとあの赤い石も消えていた。
梨奈は、大樹の方へ歩くと上の方から女性の声が聞こえてきた。
「運命的な少女よ」と梨奈を呼ぶ声が聞こえた。
「あなたは、だれ」
「私は、メサイア」
「メサイアさんですか、私は、梨奈といいます。私は夢でも見ているのかしら」
「梨奈、これは夢ではありません。現実なのです」
「本当ですか、メサイアさん、ここは何処でしょうか」
「ここは、時空の管理空間」
「えっ、時空の管理空間って、どういうことですか」
「梨奈、あなたは、私の力で時空を管理する場所に来たのです」
「時空を管理する場所ぉ、メサイアさん、あなたは何者ですか」
「私は、時と時空の女神メサイア」
「えー、女神様、本当に女神様なのですか」
「そうです。私は女神。時と時空の管理者にして、全ての世界を管理する女神でした」
「メサイア様、全ての世界ってどういうことでしょうか」
「全ての世界は、この大樹が世界を実らせ一日刻みで世界を産んでくれています」
「この大樹が世界を産んでいるの」と梨奈が声を出し大樹を見上げた。
「そうです。この大樹は、時間樹と云われていいます。産まれた世界は、異なる時間、異なる進化を遂げて、新しい世界となっていくのです。時間と共に成長していくのです」
「メサイア様、それでは、私がいた世界も、この実の中の一つの世界なのですか」
「そうですよ。梨奈」
「それでは、他にも世界が無数に存在するの?」
「はい。世界は無限に存在し、誕生していくのです」
「信じられない。なんてことなの」と思うと梨奈の前にある大きい大樹に地球儀のようなものが無数、実がなっているのが見えた。
地球儀の中からは、色々な世界の風景などが見えて梨奈は驚いた。
「これが世界なの」としみじみと見ながら梨奈は納得するしかなかった。
「メサイア様、もう一つ教えて頂いてもよろしいでしょうか」
「なんなりと聞いてください」
「メサイア様は、世界を管理する女神だったと言いました。過去形で話していましたがどういうことなのでしょうか」と梨奈が聞くとメサイアは過去のことを語り出した。
過去に天界で神々が争い戦争になってしまいました。神々は殺し合い、天界も含め全ての世界が滅びそうになったのです。
私は、全ての力を出し切って戦争が起きた時を削除したのです。
そして、戦争の火ダネも削除し戦争がない未来に導きました。
ですが、私は力尽き、自分の肉体は滅んでしまいました。
その代わり、私は二つの結晶体となり、時の瞳と時空の瞳という結晶体になったのです。
梨奈は、メサイアの話しを聞きながら悲しんでいた。
「悲しむことは、ありません。肉体は滅びましたが私は、あなたの中で生きています」
「どういうことでしょうか」
「あなたが手に取った結晶体は、あなたの中で生きることになります」
「結晶体って、私が手に取った、あの赤い石ですか」
「そうです。私の半身である時空の瞳です」
「私の中って」と梨奈がつぶやくと身体の中から赤い光が輝き出した。
「あの石が私の中にあるの」
「そうですよ。私の半身とあなたは同化したのです。私はあなたになったのです」
「私がメサイア様と同化したの。メサイア様、私は、どうなるのでしょうか」
「何も変わりませんよ。私の意識は、常に梨奈の中にあります。それと力は衰えましたが私の力も、あなたは使えるようになるでしょう」
「メサイア様の力って」
「梨奈、あなたは時空の瞳を内に秘めました。全ての世界に行くこともできるのですよ」とメサイアが話すと梨奈は驚いてしまった。
「この地球儀みたいな世界に行くこともできるの」と言いながら時間樹の実を見ていた。
梨奈は不思議と思いながら、再度、メサイアに聞いた。
「メサイア様、私の中に時空の瞳があるということは、もう一つは、何処にあるのでしょうか」
「もう一つは、真斗の中にあります」
「えー、真斗くんの中にあるの、じゃあ、真斗くんは今、何処にいるのですか」
「真斗は、何処か別の世界に飛ばされてしまったのです」
「それでは、真斗くんがいる世界は何処ですか」
「今、私が持っている力では、何処にいるかわからないのです」とメサイアが言うと梨奈は「真斗くん」とつぶやいた。
少し考えながら、ハッと梨奈は思った。
「メサイア様、真斗くんもメサイア様の半身が宿っているのであれば、時空を移動して私達の世界に戻ることだって出来るのでは」
「梨奈、それは無理なのです。真斗の中に宿っているのは、時の瞳です。ですから時空を越えることはできないのです」
「世界間の移動ができないの」
「そうです。真斗は私の力が使えるので時を制御できます。私の力は衰えましたが、少しずつ時を制御できるようになるでしょう」
「じゃあ、真斗くんが時空に飛ばされた時間を削除して飛ばされる前に戻れれば」
「真斗は、まだ、力の制御ができないのです。完全に制御するには、時の瞳と時空の瞳が一つにならないと力が発揮できません」
「そんなぁ、じゃあ、どうすればいいの」
「梨奈、ガッカリしないでください。あなたにお願いがあります」
「私にお願いですか」
「はい、この無数ある世界から私の半身を宿す真斗を探して欲しいのです」
「メサイア様、私は、お願いされなくても真斗くんを探したいと思っています」
「そうですか、それに探して頂くだけではなく、二つの瞳を一つにして欲しいのです」
「一つにするって、どうすれば良いのでしょうか」
「梨奈、あなたは、真斗のことが好きですか」
「えー」と梨奈は赤くなり、ドキドキとなった。
「ふふふ、あなたの鼓動が聞こえますよ。あなたの気持ちがわかりました」とメサイアが言うと梨奈は、恥ずかしがって手で顔を塞いだ。
「梨奈、少し、私のことを話しましょう」
「はい、メサイア様」と返事をして、塞いだ手をどかして顔を上げた。
「かつて、私にも恋人がいたのです。将来、一緒になり、二人の結晶である彼の子も産んであげたいと思っていました。それに自分の子も欲しかったのです」
「さっき、話していた天界の戦争ですか」
「そうです。私の肉体は滅んでしまったので、彼の子を産んであげることができなかった。それが心残りでもあります。梨奈、私を一つにしてほしいと言いましたね」
「はい」
「だから、梨奈、あなたに真斗の子を産んで欲しいのです」
「えー、私が真斗くんの子供を産むのですかー」
「そうです。あなた達が結ばれ、愛の結晶となる二人の子供です。その子は一つになった私自身であり、私の子も同然です」とメサイアが話した。
梨奈は、ドキドキしながら思った。
「私が真斗くんの子供を、私が真斗くんの奥さんになるの」と考えていると梨奈は更にドキドキとなった。
「お願いです。梨奈」
「だけど、メサイア様、私は、真斗くんのこと好きなのかわからないの」
「梨奈、大丈夫ですよ。あなたは、真斗に恋しているはずです」
「私が真斗くんに恋を?」
「そうよ。梨奈、これは、運命なの。二人の子供は、必ず女の子が生まれます。そして、私の後継者になって頂きたいのです」
「メサイア様の後継者、何故、後継者が必要なのですか」
「今、世界を管理しているのは、私の妹です。だけど、力が足りません。このままでは、世界のバランスが崩れ破滅と向かうでしょう」
「世界が破滅してしまうのですか」
「はい、あなた達二人の娘が必ず私の妹を補ってくれるでしょう」とメサイアが言うと梨奈は少し黙っていた。
「梨奈、これは、あなた達、二人のためでもあります。どうかお願いします」
「メサイア様、まだ、私は気持ちの整理ができません。だけど、真斗くんは、探したい」
「わかりました。梨奈、私の残っている力、全てをあなたに授けます」とメサイアが話すと梨奈の胸が輝き梨奈は光に包まれた。
しばらくして、光が消えるとメサイアが話した。
「梨奈、真斗のことを思ってください。その感情がいずれ、真斗を見つけるでしょう」
「わかりました。メサイア様」
「梨奈、私の意識は常に梨奈と共にあります。真斗とのコンタクトは途切れ途切れしかできません。あとは、あなたに任せます」と言ったあとメサイアの声が聞こえなくなった。
「必ず、私が真斗くんを見つけて、一緒に元の世界に帰ります」と梨奈は決心したのだった。
その頃、真斗達はラティスの家にしつこく通っていた。
「おーい、ラティス」とカルロスが叫ぶとラティスが出てきた。
「カルロス、しつこいなぁ」
「やっと、出てきたか、ラティス、でも、今回で三十回目だぞ」
「カルロス、お前が、こんなに根気があるとは思わなかったぞ」
「いや、私ではないよ。この真斗が言ったんだ。会えるまで、何十回、何百回でも通うって」
「この少年がか」
「あぁ、そうだ」
「わかった。私の負けだよ。とにかく、二人とも入るといい」とラティスは、家の中に入れてくれたのだった。
真斗達は、やっとラティスと話し合うことができたのだった。