第一話 異次元転移
僕は、神真斗、十七歳、桜花学園に通う普通の高校生だ。背丈も普通、外見もイケメンではなく普通だ。
引っ込み思案なので友達もいない。だから、彼女なんていたこともない。
父は考古学者であり、発掘調査で殆ど家にいることはない。今も、何処かの発掘調査に行っていて家にはいない。
母は小さい頃に死に別れた。
だから、この広い一軒家でいつも一人で生活をしている。
この家は、代々、引き継がれた家系なので家も木造で古い家だ。
もう、築何十年になるのだろう。歩くと「ギシギシ」と鳴る。
よく、潰れないなと思う。昔からできているから頑丈にできているのだろう。
今日は、いつものように僕は学校に来ていた。
僕がいるクラスは、ニ年B組だ。
今は休み時間で、周りはグループ毎に固まり、おしゃべりをしている。
だけど、僕は、いつも一人ぼっちで話す友達もいない。自分の席に座ってボーとしている。
学校入学当時、嫌がらせを受けてから同級生とは、あまり、かかわらないことにしている。
今は一人で、寂しく周りの様子を見ているだけだった。
そんな時、一人のクラスメイトが僕を見ていた。目が合うと僕は下を向いた。
彼女は、樫井梨奈、いつも、僕に声をかけてくれる唯一のクラスメイトであり幼馴染だ。
梨奈は、小学校から高校まで同じ学校で、同じクラスになることが多かった。
一応、幼馴染だから気にかけてくれるのだろう。そんな優しい幼馴染を僕は密かに思いを寄せている。
彼女は、長いストレートの黒髪が綺麗で可愛い顔をしている。スタイルも抜群で胸も大きい。明るい性格なので彼女の周りには、いつも人が集まっている。
気さくな性格でもあり、学校では有名で人気者だ。難点は、あまり勉強は好きではないらしく、成績は中の上ぐらいだ。
何人もの男子に告られて、男子にはモテる女の子だ。だけど、何故か不思議と全て断っているようだ。
そんな彼女が、僕のことを気にかけてくれるのは嬉しく感じる。
幼馴染だから気にかけてくれるのだろうと思っていた。
そんな矢先、また、彼女が僕と目が合うと彼女は僕の席に向かって歩いてきた。
梨奈が僕の前まで来ると彼女は話かけてきたのだった。
「真斗くん、また、一人だよね。寂しくない?」
「うん、いつものことだから」
「もう、じゃあ、また、私とおしゃべりしようよ」と梨奈が言うと周りの男の子は僕のことを睨んでいた。
「何故、樫井さんは、あんな奴と話をしているんだ」と声が聞こえてくる。
真斗は、周りの様子を見ながら小声で梨奈に聞いた。
「ねぇ、梨奈ちゃん、なんで、僕なんかに話しかけてくれるの。幼馴染だから」
「えっ」と可愛い声を出して、少しモジモジしながら梨奈は話した。
「真斗くん、幼馴染だということもあるけど、それだけではないよ。小学五年の運動会って覚えている」
「んー、小学五年の運動会?」
「そうよ。じゃあ、後片付けのときよ。覚えているかなぁ」
「後片付けのとき?、あっ、僕のせいで一緒に体育倉庫に閉じ込まれた時のこと?」
「そうよ」
「ごめん、あのときは、僕のせいで」
「真斗くんのせいでは、ないもん。違うの。そういことではないの。ねぇ、今日、放課後、少しいいかしら。話があるの」と梨奈が真斗に言うとクラスメイトの塚田と細田が梨奈の横に来た。
塚田と細田は、僕と彼女が話していると、いつも邪魔しに割り込んでくる二人だ。
恐らく、二人は彼女が好きなんだと真斗が思っていると塚田は話してきた。
「ねぇ、樫井さん、何で、こんな奴と話しているんだ。こいつと話していても面白くないだろう」
「そんなことないよ」と梨奈が話すと先生が教室に入って来た。
教室に入るなり先生は、僕のところまで来て言った。
「神くん、帰りの支度をして直ぐ帰るように、お父さんが何かの事故に遭ったらしい」
「えっ、本当ですか」
「そうです。さっき連絡があったんです」
「わかりました」と僕は答えて急いで帰り支度を始めた。筆記用具、教科書をリュックに入れ、帰り支度の用意が終わった。
僕は、リュックを持ったあと梨奈に声を掛けた。
「梨奈ちゃん、話しの途中でごめん。それと、放課後も無理かも、明日なら」
「いいよ。早く行って」
「うん。いつも、声をかけてくれてありがとう」と僕は返事をして教室を出たのだった。
梨奈は、今度こそ、自分の思いを話せるタイミングができたのになと思いながら、真斗が出て行くのを見ていた。
いつも、誰かに邪魔されたり、私の周りには必ず誰かがいて彼と二人で話が出来ないでいたのだ。
だが、これが、この世界で真斗と梨奈が最後の別れになるとは思いもしなかったのだった。
僕は、学校から走って急いで家に向かった。
家の前まで着くと会ったことがある男の人と知らない二人の姉妹が玄関前で待っていた。
会っことがある人は、父の助手だった佐藤さんだ。何度か家に来たことがあるから覚えている。
僕が玄関の前まで行くと佐藤さんは話しかけてきた。
「真斗くん、待っていたよ」
「あっ、はい。とりあえず、家の中に入ってください」と僕は答え家の鍵を開けた。
真斗は、「どうぞ」と言い、佐藤と二人の女の子を家の中に入ってもらった。
僕は、三人をリビングに案内して、佐藤に話しかけた。
「どうぞ、ソファに座って下さい」
「ありがとう。さぁ、二人も」と佐藤は言ってソファに座った。
姉妹は、少し離れたところに座った。
真斗は、キッチンに行き冷蔵庫から麦茶を出して三人に麦茶を提供した。
「麦茶をどうぞ」
「ありがとう」と三人は言った。
「あの、佐藤さん、待っていたということは、父のことですよね」
「そうです」
「あの、学校に連絡を入れたのは、佐藤さんですか」
「はい。私です」
「佐藤さん、どういうことでしょうか」
「お父様、いえ、神昌俊先生が行方不明になったのです」
「えっ、どういうことでしょうか」
「実は、先生は発掘現場で消えてしまったのです」
「えっ、父が消えたって、どういうことですか」
「はい、私は少し離れていたところから見ていたのですが、光に包まれ消えてしまったのです」
「えー、本当ですか、佐藤さん」
「はい、あと先生ともう一人、あっ、もう一人というのは、先生の助手でもある香澄さんです。香澄さんは、この子達のお母様でもあります」
「あぁ、そういうことですかぁ。だから、この子も一緒にいるんですね」
「はい。だけと、真斗くん、随分と冷めていますね」
「そうですか?」
「えぇ、心配ではないのですか」
「佐藤さんは、あまり知らないかもしれませんが、父は、あまり僕に関心がないようです」
「いや、真斗くん、そんなことは、ないと思いますよ」
「えっ、そうですか」
「はい、先生は真斗くんのことを良く話していました。大切な息子だと」
「えっ、ほっ、ほっ、本当ですか」
「はい。先生は不器用な方なので、息子さんとどう向き合っていいかわからなかっただけだと思いますよ」
「そっ、そうですか」と真斗は返事した。
真斗は、佐藤の顔を見ながら思った。
父は、僕のことを大切にしていたのか。信じられない。
単に僕と同じでコミュニケーションが下手なだけだったのかなと思った。
佐藤は、カバンの中をゴソゴソと何かを出そうとしていた。
佐藤は、「あった」と声を出すと手紙を真斗に差し出した。
「これは、先生からのお手紙です。もし自分に何かあったら、息子に手紙を渡してほしいと言われていました」
佐藤は、父昌俊から預かった手紙を真斗に手渡した。
「真斗くん、あとで、読んでください」
「はい、わかりました」
「あと、真斗くんに伝えたいことがあります」
「なんでしょう」
「この娘達のことです。さぁ、こっちにおいで」と佐藤は二人を呼び寄せた。
二人は、佐藤のところに来ると恥ずかしそうにして佐藤の隣りに座った。
「この娘達は、先生の助手である香澄さんの娘さん達なんですが、この娘達のことを話します」
「はぁ」と真斗が返事すると二人は、頭を下げた。
「この娘達のお母様である香澄さんと真斗くんのお父さんは、最近、再婚したそうです」
「えー、うそっ」と真斗は驚いて大声を出した。
「嘘ではありません。だから、この娘達は、真斗くんの義妹になったのです」
「・・・」と真斗は驚いて沈黙してしまった。
「真斗くん、大丈夫ですか」
「あっ。はい、大丈夫です。吃驚しました」
「吃驚するのも当たり前ですが、香澄さんも先生と一緒に消えてしまったから、真斗くんとこの娘達は、一緒にいた方がいいと思って連れてきのです」
真斗は、「はぁ」と答え、いきなり、義妹になったと言ってもどうしていいかわからなかった。
佐藤は、二人の方を見て話した。
「繭ちゃん、こちらは真斗くん、高校ニ年生だ。自己紹介をしてくれるかな」
繭は、真斗を睨みながら話した。
「私、繭です。中学三年の十五歳です」と答えた。
繭は、ストレートのセミロングで中学生ながらスタイルが抜群で樫井さんと体型が似ている。可愛い顔をしているので男の子にはモテそうだ。それと可愛らしいピンクのリボンをしていた。
「さぁ、次は流唯ちゃん」
流唯は、恥ずかしそうにして話した。
「流唯です。小学六年生の十一歳です」
流唯は、ツインテールのストレートでロングヘアだ。外見は繭に似ていて可愛い顔をしていた。
繭とお揃いのリボンを二つしていた。
「真斗くん、繭ちゃん、流唯ちゃん、色々とある思うが、新しく兄妹になったんだ。仲良くしてね」と佐藤が話した。
真斗と流唯だけ頷いたが、繭は納得していないようだった。
「真斗くん、あと、生活費とかは先生が蓄えを置いていってくれたようだから大丈夫だ。私宛の手紙に書いてあった。君への手紙にも書いてあると思う」
「本当ですか、ありがとうございます」
「あぁ、それと、ここは、広い家だ。僕も、しばらく一緒に生活をして君達の面倒を見ようと思うが、どうかな」
「ありがとう。助かります」
「じゃあ、真斗くん、僕は、一旦、帰ります。支度をしてから来ます」
「はい、わかりました」と真斗が返事をすると佐藤は、立ち上がってリビングを出て行った。
佐藤が出て行ってから、そのまま数分が経過した。
「チッチッチッ」と時計の音が鳴り響く間、残った三人は、沈黙したまま黙っていた。
真斗は、何を話したらいいのかな。どうしようかなと思っていた。僕は、コミュニケーションが下手だよなと思っていた。
いい加減、痺れをきらせて真斗は、思い切って笑顔で二人に話しかけた。
「あの、繭ちゃん、流唯ちゃん、これからも宜しくね」
「うん、新しいお兄ちゃんができて、少し嬉しい」と流唯は赤らめて恥ずかしそうに言った。
ただ、繭は、「・・・」と黙ったままだった。
真斗は、「はー」とため息をついたあと、父の手紙のことを思い出した。
手紙の中を開けて、真斗は手紙の内容を読んでみた。
「真斗、あまり、家に居なくて申し訳なく思う。母さんが亡くなってから寂しさもあり、仕事に没頭するしかなかった。真斗とどう接してよいかわからなかったんだ。・・・」と書いてあった。
手紙には、僕のこと母さんのことなど大切な家族のことが書いてあったのだ。
僕は、父のことを誤解していたのかもしれないと思った。
真斗は手紙を更に読んでいくと繭と流唯のことが書いてあった。
そして、二人のことを頼む。大切にしてやってくれということも書いてあった。
最後の方まで読んでいくと、自分がもしも何かあったときのことが書いてあった。
「私にもしものことがあったら、助手の佐藤くんを頼ってくれ。あと、私の書斎に入って棚の奥に黒い木箱があるから大切に預かってくれ」と最後に書いてあった。
真斗が手紙を読み終わると流唯が話しかけてきた。
「あの、お兄ちゃん、なんて書いてあったの」
「あぁ、繭ちゃんと流唯ちゃんのこと頼むと書いてあったよ」
「そうなんだ」
「あと、書斎の棚にある木箱を預かってくれと書いてあった。なんだろう」
「お兄ちゃん、見てみようよ」
「じゃあ、見てみようか」と真斗は言って立ち上がり、父の書斎に向かった。
真斗の後からは、繭と流唯が一緒に歩いてきた。
書斎の前に着くと真斗は、ドアを開けて部屋の中に入った。
棚にある木箱を探していると黒い木箱が並んで二つ見つけた。
「あった。これかな。何が入っているんだろう」
「お兄ちゃん、開けてみようよ」と流唯が言った。
「そうだな。見てみるか」と真斗は返事をして左側の箱を開けたのだった。
箱を開けると赤く光る宝石のようなものが入っていた。
「なんて、綺麗な石なんだ」
「お兄ちゃん、私にも見せて」と真斗の後ろから流唯が押してきた。
真斗は、「あっ」と声を出して、赤い石に触ってしまったのだった。
赤い石は突如、「ピカッ」と光り出した。三人は眩しく手で目を塞いだ。
周り全てが赤い光で包まれ、何も見えなくなってしまった。そして、そのまま、三人は意識を失ってしまったのだった。
しばらくして、真斗が目を覚ますと赤い石は、消えていた。
真斗達は、川の字で三人、草の上に横たわっていた。
真斗は起き上がり二人を起こそうとした。
「繭ちゃん、流唯ちゃん、大丈夫か」と真斗は、二人の身体を揺さぶった。
「んーん」と繭は声を出して、目を覚ました。流唯は、まだ、眠ったまま起きなかった。
真斗が周りを見ると草原のど真ん中にいた。地面は、緑色した草や白い花が一杯に生えていた。
そして、地平線の先には青い空と山だけが見えていた。
真斗は、周りを見て驚きながら話した。
「ここは、何処なんだ。僕達は、家にいたはずなのに」
繭も周りを見て吃驚していた。
「ねぇ、真斗くん、ここは、何処なの」と繭は話しかけてきた。
「繭ちゃん、初めて話してくれたね」と言うと繭は少し恥ずかしがっていた。
「繭ちゃん、僕にも、わからないよ。でも、なんで僕達はこんなところにいるんだろう」
「あっ」と繭が声を出した。真斗も「そうか」と声を出して二人は、佐藤が言っていたことを思い出した。
「真斗くん、もしかしたら」
「そうかもしれない。さっき、佐藤さんが言っていたことかもしれない」
「やっぱり」
「うん、僕の父と君達のお母さんが消えたことと同じことが起きたのかもしれない」
「同じことって、なに」
「だから、現地から消えて、何処かに飛ばされたんだよ」
「飛ばされたって」
「そう、ここは何処かわからないけど、もしかしたら、父と君達のお母さんも、ここの何処かにいるかもしれない」
「本当なの・・・」
「うん、もしかしたら、だけど」
「真斗くんが言っていることって、なんか信じられないかも」
「信じてくれなくてもいいよ。繭ちゃんの好きにして、とりあえず、流唯ちゃんを起こそうよ」
「そうね」と言ったあと繭は流唯の身体を揺さぶった。
「流唯、流唯、起きて」
「うーん、何、お姉ちゃん」と流唯は目を覚ました。
「流唯、吃驚しないで周りを見て」
「なによ。お姉ちゃん」と流唯も周りを見て吃驚した。
「お姉ちゃん、ここは、何処」
「わからないの」と答え、二人は途方に暮れていた。
少し考えてから真斗は、二人に話し掛けた。
「繭ちゃん、流唯ちゃん、ここに居ても仕方ないから、少し、歩いてみないか」
「まぁ、真斗くんが、そう言うのなら、いいけど」と繭は返事をした。
流唯は、「うん、いいよ、お兄ちゃん」と返事をした。
三人は、立ち上がり、草原の先に見える山の方へ向かって歩き出したのだった。