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快決屋! 凪 #3 秘書

作者: アナベル・礼奈

 これは魔界の「怪決屋! 凪」という何でも屋の物語である。

 一、意外な話

 晴天に気持ちのいい空。

凪は所長の椅子で酒を飲んで空を眺めていた。

「この前もいい天気だったけど。今日も酒がうめぇな。」

午前中に依頼はなかった。魔王関連やマフィア相手に派手をしたから簡単には来なかった。面倒なだけの俺を強面で借金の期限伸ばしだとか利用する奴は全部断ったなめんじゃねぇ。

 マイスターにでも行こうと思ったが、閉めて店の前に張り紙があった。

「アシスタント募集!! 急募!。給与:月2600金以上!」

「杏南の野郎。俺が寝てる間に好き勝手やりやがって。」

 確かに、いい報酬の収入が入った。俺が食いつぶすのも杏南に気が引ける。だけど、相談もなしに。

上司としては怒るべきだろうが、いい意味でも悪い意味でも立派な助手だ。人件費や、魔界だって行政は面倒なんだぜ。それわかっててそろばん弾いて杏南が動いたとなったらため息しか出ねぇ。

 全部手続きとったって、最後に責任取るのは俺なんだ。

煙草を吹かしてマイスターに向かう。昼間っから相手にしてくれるのは倭漢さんとバミンダだった。

「人件費も馬鹿にならねぇし、庶務もただじゃねぇんだぜ? だけどよ。テメェの甲斐性無しがあの子を追い詰めたんじゃねぇのかよ。やりたくもねぇキャバクラまでさせて。」

「そうようそうよ。アンちゃんだってやりたくもないキャバクラで稼いでやりくりしてたのに。これでアンタが甲斐性みせなかったら天罰が下るよ!」

「魔界に天罰もへったくれもあるかよ。」

凪は酒を飲んで悪態をついた。

「呆れたもんさね。今でもアンちゃんはお仕事してんのに。」

バミンダが酒を飲んでそっぽを向いた。

「まぁ。テメェの流儀にゃ文句は言わねぇが、女泣かせるクソは看過できねぇな。」

ラングレンや連妖に言われるよりこえぇ。倭漢の親父に言われたらすくむばかりだ。

「わっさんに言われたら立てられる顔がねぇな。三途の川に俺の首が流れてるか。」

凪は最強の酒を飲んでため息をついた。

「でもさ。杏南にはカッコつけたけど、秘書の面接なんて何聞きゃいいんだろ。」

倭漢は鼻で笑って、バミンダが席を立ってカウンターに立った。

「あいよ。」

凪が好きな酒だった、凪はきょとんとした。頼んでないのに。

「こう言う事さ。俺だってバミンダ雇った時、金だの云々なんてくだらねぇ事言わなかった。マジで、相手を思う心がある奴。アンちゃんだってそうだからテメェみてぇなクズと付き合ってやってんじゃねぇか? おめぇが「会ってみないと分からねぇ」。そう言った時に共感したんだけどな。」

 凪は少し黙って酒を一気で飲んだ。

「わっさん。バミンダ。クソみてぇな事聞いて悪かったね。この通りだ。」

凪は頭を下げた。

「その軽い頭。下げる相手が違うんじゃないのかい? アタシだったら2週間経たずにアンタのところから消えてるよ。」

凪は10金置いてマイスターを去った。

 快決屋に帰って施錠を解いた。中に杏南の妖気を感じる。事務室を開けるとカタカタ書類を作っているじろっと凪は見た。必要不可欠な存在だし許さねぇわけじゃねぇが、部下が勝手やったんだ。ケジメはつけねぇと。凪は酒を飲んだ。

「おい。何勝手やってんだ。バイトの募集なんて許した覚えはねぇぞ。」

杏南はキッと睨んだ。凪は内心許す前提だったが、冷徹に見下ろした。酒に口をつける。

「バイトじゃありませんアシスタント。正社員です。」

そっぽを向いてPCを打ちまくっている。

「そういう意味じゃねぇ。バイトじゃなくて正社員なら尚更だ。勝手が許せねぇっつってんだよ。俺が所長でお前は副所長だろ。」

杏南が強気に引き出しから書類を出した。2つの分厚いファイルを開いてぺらぺらめくっている。

「こっちの黒いファイル。私は黒歴史って呼んでますけどね。所長が事務所に落とした領収書で、これがその合計金額です!こっちのピンクのファイルやりたくもないキャバクラでの私の儲けです!この儲けの総額とこの前の大きな2件があったから、差し引いて、赤字から離脱して余裕も出てきたんですよ? やっと!やっと! 今でもボーナス無しのワンマンブラック企業なんですから! 私が出ていくか、これくらい許してくれてもいいじゃないですか!」

「黒歴史って。言ってくれるじゃねぇか。だけどなぁ、上に黙って勝手にあんな事やってただで済むと」

また杏南は引き出しから紙を出して置いた。酒を飲んで凪はその紙を見て驚いた。連妖の印が入ってる許可証だった。凪はピンときた。

「テメェ! この前体調不良とか言って休んでた時、連妖の所行ってたのか! 腐れ女狐!」

 内容は簡単だった。要約すれば「杏南の過剰労働と凪の緩慢で自由で片付けられない暴挙は許しがたい。体制は維持を許すが、人事部長の権利は杏南に任せる。凪は判子を押せ」という内容だ。デキる女狐だけあってこんなところで優秀さを発揮しやがって。連妖の琴線に触れれば平気で本人が乗り込んでくるだろう。バルカンと違う意味で攻撃的な性格の魔王の一角。そういう女だ。凪だって敵に回したくない。

「ブラック所長に言われたくないですね!」

杏南がこんなに攻撃的になるなんて凪は内心面くらったが、倭漢、バミンダの言葉もある。連妖まで杏南の味方か。凪は酒を食らって書面を杏南の机に置いた。

「ふぅ。わかったよ。今回は許す。ここまでお前が強硬手段に出るまで放っておいた俺がわりぃのもあるからな。だけど、一言でもこれからは言ってくれ。人事部長。俺は悪魔だの化け物だの言われてそんなもん馬耳東風だが、俺達に不信感で亀裂が入るなんてのは、それは避けたい。」

意外ときょとんとして冷静な顔の杏南。

「どうせ応募なりなんなり来てるんだろ。来てなきゃ広告作れ。俺の机に置いといてくれれば見るし、確認無しでネットでも張り紙でもしろ。連妖のお墨付きなら文句つける奴もいねぇだろ。」

凪が酒を飲んで所長室に入って襖を閉めた。

 杏南にとっても意外な凪の優しい言葉に、杏南はドキドキした。出会った時の記憶がよみがえり、胸に手を当てた。「ごめんなさい。所長。」呟いてPCに向かう。


 二、意外なアシスタント候補

 杏南の反乱から数週間。

つまらんながらも、組織からの殺しや、かどわかし以外の依頼以外は細かく凪が引き受けた。ミカにしろ雪女の件みたいにデカいヤマじゃないが、小銭でも動く事にした。人の話を聞いて気に入るかどうかは同じだが、かどわかされた子供を取り返してくれとか足抜けの為に逃がし屋を紹介してくれとか、厄介は厄介だが、凪の名は知れわたるばかりでいい効果になった。なにせ連妖やラングレンに関わる仕事をやったというのがデカかったようだ。

 かどわかされた孔雀のガキを弱小組織から取り返して、帰り際にマイスターによった凪。

「あぁ! 凪!」

バミンダが珍しく笑顔で接客した。凪は少し驚いた。

「なんだよ。今日は機嫌いいな。イケメンでも捕まえたか?」

バミンダが猫耳をフリフリして笑顔でいた。凪にとってはますます気味が悪い。

「いーやーぁ。わっさんだけじゃないんだねぇ。悪鬼羅刹でも良心は芽生えるもんかと。さ、こっち空いてるから座んな。」

凪は酒を飲んで席に座った。「なんだ?訳が分からねぇ。」

少しするとバミンダが陶器のいつもの酒を持ってきた。

「まだストックがあんだろ。?」

「やだねぇ。わっさんも褒めてたよ。反ぐれみてぇな出来損ないが少しは良心に目覚めたって。最近、前だったら嫌がってた仕事もやってるそうじゃないかい。アンちゃんも嫌々やってたキャバの仕事も減って、逆に事務所運営が忙しいって。うれしそうなかおしてたよぉ。こいつはわっさんからのご褒美だよ。家で有難く飲みな。」

バミンダが凪の隣に座った。凪は照れくさかったが酒を持ち上げてわっさんに頭を下げた。わっさんは微笑んで料理をしている。

「まぁ。わっさんやおめぇだけならまだしも、連妖まで出てきちゃ形無しだ。嫌でも仕事はするさ。」

「偉い! 成長したねぇ。それでどうなんだい? アシスタントの件は。」

凪は酒を飲んでため息をついた。

「まずは杏南の面接からだ。そっちから候補はまだ上がってこねぇ。俺はと言えば、連妖のお墨付きってか看板なくても雑魚みてぇな依頼はくる。浮気調査だの、やべぇ金落としたから探してくれだの。組織の抗争に加担しろだの。まるでやる気は出ねぇ。他で小銭を稼いで、ここで消えたり、杏南がプールしたり。あのキッチリ女狐が出してきた事業計画書も見たけど俺は力仕事が専門だ。そっちはあいつに任せてる。一応、芽は通すし、納得いかねぇ事は言うけどな。」

「見直したよぉ! 立派に所長らしくなってきたじゃないかい。力だけの、ただの反グレでプー太郎の金食い虫だったアンタがこうも変わるとはねぇ。」

「その口の悪さ。テメェの売りだろうが言いすぎだろ。おだてられて口をつくわけじゃねぇが、アイツが新しい仲間として信じられるなら、上がって来た時に見応えはあるだろ。きっと。」

「一気にいい漢になったもんさね。アンちゃんもアンタの嫌な所見続けて辛酸舐めてきたんだからそう簡単にゴキブリホイホイはしないさね。アンタもそう思ってんだろ?」

凪が酒を飲んで料理が来た。なにも注文してないのに凪が好きなものを倭漢が作ってくれた。

「この勢いで夫婦になっちまいなよ。妖怪だって、男と女だって逃しちゃいけない機ってもんがあんだよ? 今逃したら、あんな別嬪のかわいい才女、滅多に現れないよ。」

凪は口にいれたばかりの酒を吹きだした。

「世話好きのクソばばあが早とちりすんじゃねぇよ。夫婦だなんて。仕事に戻れ。わっさんもテメェのそのいい加減な所を気に入ってホールに出してるんだろうけどな。」

「なんて言いぐさだい。風とか水にのめりこんでなくても、アンタにゃとんでもない前科がある上に元プー太郎の性根の腐った馬鹿垂れ拾ってくれる女子なんて魔界広しといってもそうそういないよ。」

「へいへい。仕事に戻ってくれ。世話焼きクソばばあ。」

バミンダはぷんぷんして席を立って仕事に戻った。

 凪は思った。確かに嫌々キャバで働きながらもついてきた杏南。昔を思い出す。


 杏南は戦争孤児だった。

傭兵だった俺はある組織に雇われて前線に立って、相手を殲滅した。周りの雑魚どもは俺を盾にする布陣で優勢を見計らって出ていく計画。悪鬼羅刹。倭漢に独立を言い渡されて以来負けなかった、ただの傭兵だった凪は任務を遂行した。

 ただ、相手の勢力の前線でで唯一生き残ったまだガキ。ミカみたいに強制的に成長させられたんじゃない。小さいガキで、凄まじい妖力の妖狐。凪は沸き立って斬りかかった。その時、同じ妖狐の2人がガキの前に出てきて魔術を唱えたが封印を解いていた凪は魔刀と化した太刀で2人の首を一閃した。絶命した2人の死体を蹴り飛ばして、凪は太刀をガキに向けた。不思議に思った。毅然としていたからだ。

「命乞いもしねぇのか。」

ガキは2,3歩進んで、首を振った。「じゃあ死ね。」凪が大上段で太刀を振った時、戦士の勘でガキの顔面寸前で太刀を止めた。額に浅い傷が残った。凪は不思議に思った。

「なんで避けねぇ。これまで斬った奴は奴は命乞いや情けねぇ事ばかりして、珍しい奴は殺せとせがんだから殺した。テメェは何で避けねぇ。」

ガキが言った。

「忌み嫌われ戦力としてしか見られない妖狐の一族。でも、母さんも父さんも言った。相手がどんなに恐ろしい妖怪でも逃げてはダメ。悪鬼羅刹の凪さん。残虐非道の鬼の中の鬼。逃げたら、今斬られた両親の教えを裏切る事になる。だから逃げない。」

凪はそんなのガキの戯言と斬ろうとしたが、その目は本気。死を覚悟しても教えを守る。倭漢に教わった事でもあった。凪は太刀を下した。

「斬らないの?」

「テメェ。両親目の前で殺されてよく平気でいられるな。俺が憎いだろう、ぶっ殺してぇだろそれなりの妖力を持ってかじりついてでも仇を討とうとは思わねぇのか?」

「100%負ける。でも、逃げちゃダメ。父さん言ってた。負けを認めるのも戦士。親心は絶対生き残ってほしいが、戦士として生きるなら潔く死も受け入れろ。まだこんな子供だけど、譲れないものはある。今アンタに殺された両親の教えを、誇りを失えば、生きていても私は惨めで死ぬまで咎をおう。言ったよね。殺してくれって奴もいたって。私もそうよ。どうぞ殺して。」

 凪は心が揺らいだ。

 悪逆非道の限りを尽くし、命なんて蛆虫同然。何処からか現れるもの。そんなものに価値を求める事がバカらしい。そう思っていただが、目の前のガキは違う。政治家や組織が掲げる大義名分とは決して異なるもの。親の躾だけじゃない。その言葉や信念を信じきって、目の前の残虐にも耐える胆力。それに比べて俺はどうだ。力や能力任せの反グレから始まり倭漢に拾われた甘ったれ。目の前のガキの眼の奥底に揺るぎない信念であり、覚悟を感じた。

凪は太刀をおさめ、酒を飲んだ。

「クソガキ。名前は?」

「墓なんていらないわ。でも、両親の名とついで程度に名乗る。父は壬生。母は美麗。私は杏南。杏に南よ。刀なんてなくたってそのおぞましいほどの強烈な妖力。簡単に殺せるでしょ。」

凪は酒を飲んで妖力をおさめ封印をしてバンダナをした。

「興が醒めた。好きに生きろ。願いだっても俺はお前を殺さねぇ。戦士の誇り、貫いて見せろ。俺はテメェの知る通り残虐非道の咎人だ。いつでも殺しに来い。テメェの親の言う戦士の誇りを覆してもな。それが地獄で償うよりもつれぇ道でも、親父達の華向けじゃねぇか? 生きろっつたんだろ?」

 凪が酒を飲んだ。

「ガキの説教に流されるとは。傭兵失格だな。」

凪は戦場を去り、任務を放棄した。後ろから足音が聞こえ、凪は酒を飲んだ。

 その後、凪は傭兵稼業から足を洗った。


 「ったく。杏南の野郎。」

凪は酒を飲んで、倭漢の飯を食った。


 きっちり金を払ってマイスターを出た凪はスマホのメッセージに気付いた。

「所長! いい感じの子が来ました!」

凪は酒を飲みながらLINEに添付された履歴書と杏南のコメントを見た。

「随分ベタ褒めだな。」

 名前は「香」どこぞのお嬢様や家名がある訳じゃねぇか。凪はマイスターで思い出した事と重なって考えた。魔界でも漢字一文字の奴は低級層の生まれが多い。自分もそうだからなと凪は思った。しかしまぁ、履歴書はしっかりしたものでうちみたいなクソ事務所に入りたいなんて。魔界でも企業は腐るほどある。そっちの方がいいんじゃねぇか?と思う履歴書だった。写真はおそらくだが人魚の類の耳。自己PRにも書いてあった。気になったのは、ミカとファルコンの件も雪女3姉弟の事も知っているという事だった。有名になっちまったから書いたかもしれないが、もっと気になるのは、「相手を見抜く人だと推察します。」と書いてあったことだ。凪は酒を飲んで、杏南のコメントも見た。

「私がどんな妖狐で、出身地も当てられたのには驚きました。調べたのか感じたのか知りませんが、他選考者にない情報の取り方。しかも、所長の話になって、私は気まぐれの偏屈所長ですよって言ったのに、「「慧眼」の能力者か恐ろしい観察眼をお持ちと感じます。無論、悪鬼羅刹の凪というのは伝説の傭兵として知っております。不躾ながら調べさせていただきましたって。」

凪はLINEを返した。

「恐ろしい奴だな。やる気は感じるけどうちみてぇなクソ事務所よりいい会社あんだろ。」

凪がまた酒を飲んで杏南から返信が来た。

「私の勘ですが。所長も気にいる人材ですよきっと。」

変に喜んでいるスタンプが来た。凪はため息をついて返信した。

「その人魚。いつから来れる? うちにゃプールも水槽もねぇぞ。」

凪が一口つけたら返信が来た。凪は予測した杏南は雇う気満々だ。だから電話してこない。

「耳と尾は人魚ですけど若くてかわいい才女ですよ。人間型で歩いてきました。」

 人魚で人間型。混血か。凪は「まぁいい」と思って返信した。

「明日以降これるか確認しろ。俺も立ち会う。ASAPだ。あとは帰ってから話そう。」

余程上機嫌なんだろうラフな喜びのスタンプが来た。

「人魚の混血か。まぁ、俺は判子係だからな。でも、試験くらいは通過してもらわねぇと。」

 快決屋に帰って施錠を解いたら案の定酒臭い。杏南は事務室で酒を飲んで悦に至って履歴書を見ていた。よっぽど気に入ったらしいな。

「あら、所長おかえりなさいまし。」

「随分べろべろだな。金脈でも見つけたみてぇだ。」

凪が対面に座って酒を飲んだ。杏南は酒瓶が2つある事に目をつけた。凪は鼻で笑った。

「心配すんな。これはわっさんのおごりだってよ。俺が心を入れ替えた前祝だって。」

「流石は倭漢さん! 漢の中の漢!」

凪は酒を飲んで思った。こんな上機嫌にはしたなく飲む杏南を見るのはいつ以来だろうか。

「で? どんだけ気に入ったんだ。この香って混血の人魚に。」

凪は失敗したと思い、何時間かかったかわからない間酒を開けて、おごりの酒を開けて飲んだ。

 要約すれば、PCスキルはあるし、高級キャバクラで学ばされる所作もわかるし、聞いてるだけでいやっされる美声と話し方。それだけで十分なんだが、酒と共に話が加速する杏南。凪は飲んで聞いた。

「お前の半端ねぇ期待はわかった。でもな、質問だ。人事部長のお前が決めても構わねぇ。でも試験はしたい。稼業が稼業だけにな。」

「妖力は私や所長よりも低いですけどなかなかのテクニシャンですよ。ウォーターカッターや虹もつくれるミストの能力も」

「聞きたい事はそこじゃねぇ。覚悟だ。」

杏南がワインを飲んで黙った。

「この稼業、第一線は俺が張る。その補佐と第二線はお前だ。ただの足手まといが3番手じゃ困る。だから試験をしたい。同じ事言ったがな。」

凪は酒を空けてラッパ飲みした。

「どういった試験ですか? マフィアを叩き潰して来いとか?」

「そういきり立つな。慧眼だの観察眼だのあんちょこ読めばわかる言葉だ。だが、それがちゃんと身に染みてるか。人魚に有利な条件で試験してやる。組織を壊滅しろとは言わねぇ。それは俺の領分だ。」

ムッとした杏南に凪は微笑んで酒を飲んだ。

「実を見ればわかる。」

凪が提案した試験内容。杏南は反対したが凪は続けた。

「んな苦労も度胸もない口だけなら、いくらてめぇの口利きでも信用ならねぇ。仲間になるってのはそう言う事だ。おめぇがあの時見せた信念や意志の強さ。それを見てぇ。」

 杏南は酒を飲んで渋々口を開いた。

「わかりました。所長も、危ない稼業だって、口だけじゃわからない。だから赤字商売してきたわけですから。手出し無用。内容もわかりました。」

 不満げに杏南は酒を持って自室に戻った。

 凪は酒を飲んで、ある依頼書を見た一旦は断ったが、すぐ繋がって「やってやる」といい、算段を済ませた。所長室に入って酒を飲んだ


 三、採用試験

 「所長! 遅れますよ!」

 無駄に早く起きた杏南が怒り気味にピシャッと襖を閉めた。凪は酒を飲んでため息をついた。

「やれやれ。どうなるかねぇ。」

 集合時刻は午前11時。試験内容は杏南から香に送らせておいた。車から降りて、香は頭を下げた。

褐色の肌に人魚の特徴がよく出ている。何との、混血かはわからないが魔人だろうそうでなければ下半身は魚のはずだ。合成獣でない限り。

「香さん。ですね。初めまして。快決屋の所長、凪です。」

「存じ上げております。伝説の無敗の傭兵。お目に掛かれて光栄です。」

「いえいえ。足を洗ったプー太郎のしみったれですよ。」

「そうよ。」聞こえるか聞こえないくらいの小さい声で凪の後ろから聞こえた。

「うちに入りたいって、杏南から聞いてます。願ったりかなったり。杏南も喜んでいます。優秀な人材を確保できるって。」

「いえ、私なんてそんな。」

目が泳いでいる少し凪は不安を感じた。

「一応私も所長でしてね。採用試験をしたく、ご足労願ったのですが、杏南から内容は?」

「は、はい! この船の墓場って言われる所で眠っていると噂されるブルーダイヤの探索。時間は1時間30分。見つけられなければ不合格。よろしいでしょうか?」

凪は営業スマイルをした。

「えぇ。事務的な能力、所作や言葉遣いは杏南からも聞きましたが、実際会ってみても、かなりしっかりされており、対面して、そこは無論合格です。半分ヤクザで判断基準が玉の傷の商売ですが、杏南にも言いましたが私には懸念点があります。」

「えぇ。御社のお仕事に対し弱小の私が足手まといじゃいけないと。それで、この海域に伝説で伝わるブルーダイヤ。それを見つけ出すとの事で理解しております。」

「その通りです。杏南に言った通り。人魚族のあなたには簡単な適性検査と思いますが。現実を主とする稼業ですので、ダメでしたじゃすみません。」

「はい。勿論その覚悟です!」

凪は香の目を見て少し時間が経った。

「わかりました。では、ご準備を。」

「はい!」

 香が服を脱いで人魚の姿に変身した。凪は驚いた。ただの混血で人型限定ではない。変化もできるのか。杏南は不安げに見ていた。

「それでは! 任務開始します!」

海に飛び込む金髪の人魚を見て凪は酒を飲みながら岸壁まで歩いた。杏南は不安げに見ている。黒い海。すぐに香のブロンドは見えなくなった。

「大丈夫かしら。もう何百年も見つかってない魔界の秘宝「ブルーダイヤ」彼女程度って言っちゃなんですけど見つけられるでしょうか。」

凪は酒を飲んで言った。

「はなから期待してねぇよ。」

杏南は怒りの表情で凪を睨んだ。相変わらず酒を飲んでいる凪。

「快決屋がどれだけヤベェ仕事か。言葉や所作がきれいだからって務まらねぇ。おめぇは忘れたかもしれないが、俺は思い出した。圧倒されるぐれぇ強いテメェの奥深くにある覚悟、信念をな。香にそれがあれば。もう仲間だ。」

杏南は半分納得したが、不安は拭いされなかった。

「流石は悪鬼羅刹の鬼の中の鬼。所長は厳しいですね。」

「その試験に受かったどころか今があるのはお前だけだ。ひねくれもん同士馬が合うのかもな。」

「所長と一緒にされるのは心外です。香ちゃんは幸せになってほしい。」


 香が人魚の姿で廃船を捜索して宝箱や宝石箱を捜索している間だった。人魚にも鬼と同じく生まれ持った慧眼という特殊能力や観察眼がある。それで探索を続けた。そして、かなり深く、もう人間の世界にあったはずのタイタニックという巨大船舶にブルーダイヤを感じた。人魚が感じる妖気の一種であり、独特なものだった。

 ブルーダイヤというのは、煌びやかな上に極めて純度の高い美しさを持つ事から名づけられた人間の呼称であり、魔界では桁外れの魔力を込めた希少石。低級妖怪でも使い方さえ知っていれば魔王も深手を負わせる魔術道具。それだけに波長さえ合えば、しかも、地表よりも海中の方が感知しやすい。

 香は感じた。そして。自分の魔力をソナーと同様に発動して反応を探索する。目を閉じて、敏感に感じた。あろう事か、タイタニックの中の焼却炉に感じた。燃やせば無くなると思った人間の仕業かも知れない。だが、一流の潜水士でもこんな所にとは想定外だったんだろう。人魚しか持たない独特のソナーで勘をつけて向かった香は、ボイラーの中から黒ずんだ石を見つけて、波長を合わせた。確認の為、少し削ったら間違いないブルーダイヤだ。ただの潜水士の妖怪や人なら見逃して当然の外観だった。

 香はブルーダイヤのネックレスを何重にも施錠されたポケットにしまって。浮上を始めた。

目を閉じて、集中して妖気を発する凪を見て杏南は聞いた。

 「所長。何か?」

無言の凪。杏南は妖気を展開して海中深くはわからない魔界の海にも妖力や魔力がある。魔界の海の生物が垂れ流すからだ。でも地表はわかった。多めの人数の妖気を感じる。

「所長! アンタ!」

「第一試練はクリアさ。最も、本当にあるとは知らなかったけど。なかったらなかったでも探索能力と時間感覚が結果だから。クリア。でも、この仕事に必要なのはもう1つある。緊急事態の対処だよ。」

杏南が妖気を全開にして魔炎や風を作り出す。

「やめときな。こっからが本当の試験だ。彼女を雇ったとしても、仕事選んで任せるのか内勤だけさせるのかい? まずいやばいの時、一々僕や君が彼女に随伴するのかい?」

 杏南は妖気を抑えた。探索と収穫。それだけしかできない奴は要らない。いきなりの事態に対応できなきゃ困るは確かだ。」杏南は感じた。極めて残酷で厳しい判断基準だ。弱小妖怪ばかりだが、こっちに集団で向かってきている。凪や杏南が出る幕もない程雑魚の集まり。だが、香が束に掛かられたら同等か厳しいかもしれない。ある程度の妖力は感じたがそこまで対処できるか心配だった。

「所長。厳しすぎじゃ。」

凪は黙っていた。

 香が上がってくる。浅くなってくるにつれて、海の混じる妖気じゃない香の妖気を2人は感じた。しかし、凪は不思議に感じて微笑んで酒を飲んだ。

 黒塗りの高級車が2人の回りに数台停まった。最後に出てきたはげたデブが葉巻を踏み消した。

「いやぁ。伝説の悪鬼羅刹、凪様。ブルーダイヤのサルベージで、5000万金。本当ですかぁ?」

杏南は妖気をゼロにはせず発しながら、凪は飲んで前に立った。

「ひぃふぅみぃよぉ・・・。成程。そこまでは雁首揃えた訳じゃないか。せいぜい20人かそこら。ま、低級妖怪の人魚相手に大盤振る舞いですね。1億はくだらない宝石。分け前は7:3で間違いなく?」

杏南は睨んでいるが凪は酒を飲んで、妖怪マフィアのボスは余裕で笑っていた。

「うちみてぇなちいせぇとこにはもったいない。2億で売れたっておかしくない伝説の宝石。3割だって恐れ多い。ブルーダイヤがいいですよ。伝説の悪鬼羅刹とその相棒様が

「勘違いにも程があるねぇ!」

 凪はわかっていたが、他全員が海を見た。恐ろしい妖気が魔海から複数出てきた。杏南は驚いた。全員香で、全員から妖気を感じる。凪は酒を飲んでほくそ笑んだ。

「な! 1人じゃなかったんじゃ! 旦那!」

「人魚の姿のままの香が海から上半身を出して津波を起こし、人型に変身した香が3人。散開した。

 「もう合格だな。」 凪がボソッと言って酒を飲んだ。凪も杏南も防御壁で津波を弾いたが、低級妖怪は海に流される者もいれば、銃器を乱射する妖怪もいる。

「しけった弾丸じゃ魔弾でも届かないさ。このあたりの海はクラーケンの縄張りの端っこ。気性が荒くて荒々しい魔界の海水だよ。」海水を盾にして魔弾を防御して、香が作る渦の中に飲み込まれていった。地上に跳んだ香は魔弾を受けながらも体を貫通し、無傷でウォーターカッターで首を斬り、次々と倒していく。杏南は呆気にとられて状況を理解した。本体は海にいる人魚の香。他は海水で作った分身。水にいくら弾丸撃とうと無意味なのは当然だ。

「これが、香の本気?」

「あぁ。なんか、第六感だけど隠しているように感じてね。やっぱり、ただの安全な人魚じゃない。セイレーンの一種だったか。」

 酒を飲む凪にボスは泣きついた。

「旦那! 話がちげぇ! ただの人魚ぶっ殺してブルーダイヤはくれてやるって!!」

「あぁ。どうだったかな?。」

3人の分身が水に戻り、人魚の姿の香の掌に集めた。

「飛び上がって人の姿になってずぶぬれのボスは震える手で大口径の銃を構えた。

香は黙って魔界の海の妖力水弾を固めて陸に上がり、人型に戻った。攻撃せず、ボスを見ている香。凪は酒を飲んで、杏南もじっと見ていた。

「ち、ちきしょう!! 」

ボスは一番近い車に乗って逃げて行った。香は妖気をおさめた。

香は妖水弾を海に投げて半裸の状態でポシェットを凪に渡した。杏南は安心した。

「所長。ブルーダイヤです。」

「なぜわかる?」

「クラーケンはこの辺りで、無類の宝石好きの妖怪。もっと高価なものも持ってますが、人間界のタイタニックの中に隠しているのは知っていたし、タイタニックがここにあると地元では私の地元じゃ有名ですから。」

「成程な。それとなんでアイツを逃がした? あの魔水弾なら殺せたろう。」

香は視線を落として悲しげな顔をした。少しして言った。

「お金の為にっていうのが嫌いなんです。お金はあり過ぎて困るなんて嘘だって。妖怪だって人間だって、肥えるほど欲の悪魔に負けるってママが言ってました。お金の悪魔にとらわれた、うすぎたないクズに成り下がる。だから、つつましくても生きていくのがいいんだよって。このダイヤ売れはすごいお金になるでしょうけど、あの時殺してたら私も同じになる。あんなふうに心を殺したくなかった。そんなわがまま勝手な理由です。所長の命令なら殺してたと思いますけど。」

 杏南が目元を拭って、凪は酒を飲んだ。

「お金の悪魔にとらわれた、うすぎたないクズに成り下がる。だから、つつましくても生きていくのがいい、か。すげぇ響いたよ。想像を超えた150点の合格だ。おめぇみてぇな仲間は是非欲しい。詳しい事、魔界にも法律があるだろ。それは俺じゃなくて杏南に相談してくれ。」

 凪はブルーダイヤが入った箱を受け取らずに酒を飲んで去った。

「あの、このブルーダイヤのネックレスは!?」

凪は微笑んだ。

「お前のもんだよ。香。杏南が資金繰りの為によこせって言ったら俺が容赦なくシバく。」

「んな事言う訳ないでしょ! 馬鹿所長!」

涙を流して杏奈が言った。


 四、新しい仲間と大変な日々

 「所長! 判子遅いですよ!」

 「そうですよ! 否決でも了でもいいですから判子押してください!」

酒を飲みながら若干の後悔が残った凪。今まで所長室に押しかけてくるのは1人だったのに2人になった。杏南の声は聞きなれたもんだが、香はいついつまでと数字を出してくる。

「わかったよぉ。どれがどれで、今押せばいいのか?」

酒を飲んで凪が言う

「所長! ちゃんと依頼内容読んでますか? 棒に振っても私達は所長の信義を尊重して文句言えませんけど、納期は守ってください!」

「そうですよ! 香ちゃんが来るまでスーパーワンマンブラック会社だから言いずらかったけど、この際言わせてもらいますよ! 納期は大事ですよ!」

 香のせいか杏南の悪口に拍車がかかる。スーパーまでついてくるとはな。ハイパーになるのも時間の問題か。

 凪はTVを消して「わかった。今日中に目を通して、アポは任せるよ。それでいいかい?」

「所長の悪いところはその二つ返事で!

「先輩。今癇癪起こしちゃいけません。」

利口な後輩人魚。水得たのは人魚か狐か。

 2人が出て行った後、定規で書類の高さを測ったら15㎝は超えていた。ため息をついて凪は依頼書を見る。酒を飲んで呟く。

「嫌な方向に火をつけちまったかな。2人になったからって2倍じゃないぜ2乗だぜ。」


 何とか、凪は了と否決に判を押し切って、夕方に終わって、凪は酒を飲んで所長室を出る。

「倭漢さんのとこですか? それとも?」

「いいだろ別に。やっと15㎝の厚みの書類整理したんだ。休ませてくれよ。」

「所長。お暇は結構ですがその時も私達が働いてる事お忘れなく。」

香が入ってからというもののより攻撃的になった杏南。一息ついて店を出た。


                                   #3 おしまい

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