夏祭り〜花火ときどきケンちゃんの背中
「いったぁ……」
慣れない格好なんてするもんじゃない。
来年上京を控える私にとって、多分最後の夏祭り。だからって浴衣なんて引っ張り出したのが間違いだった。
鼻緒で足の指先が擦れて痛いのなんのって…靴ズレならぬ下駄ズレっていうの?
一緒に来ていた友達たちは私の言葉に甘えて花火会場に行ってしまい、夜空ではただ今花火が絶賛打ち上げ中といったところだ。
先に帰るなんてカッコつけたけど。
歩くのもの苦痛になってしまい、こうして一人公園で座り込んでいるってわけだった。
―――と、そんなときだ。
「サナ姉ちゃん……?」
「えっ…だ、誰……ですか?」
目の前に現れた、打ち上げ花火を隠すくらいデカイ図体の男。祭りで買ったのだろうお面をつけてて、それが更に怖い。
てか、なんで私の名前知ってんの?
「俺だよ。近所の高島ケン」
「え…あ……ああ」
あの、半年前までは小学生だったケンちゃん?
中学生なってバスケ部入ってから全然会わなくなってたけど―――男の子ってこんな急成長するの!?
しかもいつの間にか声変わりだってしてんじゃん。
「こんな所でどうしたの? 一人じゃ危ないよ」
「帰りたいけど、ちょっと下駄ズレしててさ」
恥ずかしげもなくケンちゃんにそう説明すると、突然ケンちゃんは私に背を向けしゃがみ込んだ。
「じゃあ俺が送ってあげる。丁度帰ろうと思ってたから」
「え、でも花火見なくて良いの?」
「うん」
昔は花火見終わるまで帰らないって半べそかいてたのに。
少し空しさを感じながらも、私はお言葉に甘えてケンちゃんの背中におぶさった。
てか、スパッツ履いてるとはいえ浴衣でおんぶって恥ずかし過ぎる。
今頃になって後悔する私。
「大丈夫だよ、皆花火見てるし」
そう言って笑うケンちゃん。
いつの間にか大きくなっていた背中。私はその背に身を預け、熱くなる顔を隠す。
「―――サナ姉ちゃんさ、来年東京の大学行くって本当?」
徐にそう聞いてきたケンちゃん。
「そうだよ」
「じゃあ暫くここの夏祭り来れないの?」
「そうかもね」
そう返答すると黙り込むケンちゃん。
傍では花火がクライマックスの如く連弾を打ち上げている。
「……寂しくなるね」
花火の音でその言葉は聞き取れなかった。
けど、鼻を啜る振動は背中から伝わってくる。
なんだ、泣き虫なとこは変わってないじゃん。
「花火終わっちゃったね…」
一気に暗く静かになっていく帰路の中。
心残りが出来ちゃったなと、私はケンちゃんの肩口に顔を埋めた。