事故る
俺は事故車だ。正しく言えば今事故車になった。人を轢いた、ただそれだけの事をしただけだ。
「警察です、大丈夫ですか?」
人間はアホなんじゃないかと思う。これだけの有能な車をうまく使いこなせず、ましてや人を殺すなんて。俺だってこんな奴に使われるなんて正直こりごりだった。
「運転手さんは意識があるようですね、お話を聞けますか?」
コイツももうそろそろ捕まるだろ。清々して笑っちゃうよ。
だけど思う...俺は廃車になるのか?俺は人を殺したんだよな、どうせ今どき事故車なんてわざわざ買わない。むしろ中古なんて買うやついるのか?俺も部品に分けられて車として居られなくなるのだろうか...俺は何もしてないのにな。運転手が悪いのに。
「それじゃあ現場検証に入る。」
鑑識の人間だろうか。写真を撮られるなんていったい何年ぶりだろうか。ここ8年、車として生活して写真なんて撮られたのはほんのわずかだ。その8年分をたった1日超えるような勢いで写真を撮っていく。
「ブレーキ痕がありませんね。」
そういえば、確かに人を轢く前にブレーキなどしただろうか。する訳ないか。運転手は75〜80だろうか、それぐらいのジジイが運転していたしな。認知症かなんやらが原因で起きた事故だろう。俺としてはジジイに運転されるなんて正直嬉しくない。スピードは遅いし、急ブレーキなんて毎回のことだ。どうせなら車好きで若い男の子だったり、若い可愛い女の子だったり、賑やかで楽しそうな家族だったり、そいう人間に運転してもらいたかった。いやそいう人間に運転してもらえると勝手に心のどこかで感じていた。まぁ所詮はシルバーのダサい形をしたマニュアルの軽だ。乗るのなんて死ぬのが近いジジイが妥当だろう。
「運転手は79歳だってさ」
「ひでぇな。79の爺さんが若い命を奪うとかとんでもなく酷いな。」
そうか。轢いたのは若い中高生辺りの子か。申し訳ないな。未来が長くもないジジイがこれから夢いっぱいの未来の長い若い子の命を奪うなんて。本当に申し訳ない。
「それじゃあレッカーを頼む。」
レッカーか。どこに連れてかれるのだろう。8年か。もっと走りたかった。高速道路とか。来世はスポーツカー?バイク?そんな車になってみたい。悔しい、周りを走る車を見ると余計にそう思えてしまう。なんで俺なんだ...
「レッカー来ました。」
「よろしくお願いします。」
前輪を持ち上げられた。このままどこに牽引するんだろう。正直不安と恐怖でしかない。
感情を車に移して書いていきたいと思います。ホントにバカバカしく、車の感情になりアホみたいに書いていきますが、なにかあなたの心、氣持ちに刺さればいいです。