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13 「どこかで見たことある気がするんだよなあ」

「……あれ、もしかして梅田?」


 振り向くと、そこにいたのは同じクラスの北浜ふみという女子だった。


 メガネ姿に制服を着崩さずに着るという、いかにもお堅い雰囲気の持ち主で、そのビジュアルを裏切らず、風紀委員を務めている。


 そんなふうに少し堅い印象もある彼女だが、顔立ちそのものはなかなかの美人で、おまけに、というかおまけにならないほどのレベルで胸が大きい。制服の上からもその膨らみは十二分に確認でき、学校指定のクリーム色のニットベストがこれでもかと突き出ていた。


 しかも、スカートからはスラッと伸びた脚が伸びていて、腿から膝にかけての程よい締りが、黒ストッキングによって際立っている。


「あ、やっぱ梅田だ」

「よう……北浜、休みの日なのに制服なのか」

「それを言うなら梅田もでしょ」

「俺は男だからいいんだよ。女子が休みの日も制服って味気ないだろ」

「シンプルに男女差別だし、味気ないって感想が不適切だな。まるで女子の私服姿が味気あるって言ってるみたい」

「味気あるなんて日本語はない」

「いずれにせよ、梅田に私の服装をとやかく言われるいわれはないよ」


 そんなことを、肩を落としながら言った。表情は至って真面目そのもの、声色も呆れた雰囲気を隠していないが、しかし、突き放すような感じはなかった。


 実は葵太とふみは、高校に入って1年2年ともに同じクラスだ。最初こそ、ふみのお堅い雰囲気や風紀委員という役職に距離感を覚えていた葵太だったが、話してみると意外と会話が成り立つ奴だとわかり、すぐに仲良くなった。なんていうのか、女っ気がないので、男子と喋るかのように気楽に話せるのだ。阿呆な葵太に対し、ふみが知的というのも、愛称の良さに繋がっているのかもしれない。


「ってことより、このかわいい女の子はどなた?」


 会話もそこそこに、ふみの視線が姫奈に向けられる。あ、そうか。姫奈とふみも同じクラスなんだ。葵太はそこで気づく。


 2人は今年同じクラスになったばかりで、話しているのも見たことはない。


 だからこそ、姫奈もどうしていいのかわからなくなったようで、肩をキュッと縮こめて、伺うような目でふみを見上げていた。


「はじめまして」

「はっ、はじめまして!」

「……のはずなのに、どこかで見たことある気がするんだよなあ」

「ぎ、ギクッ」


 名探偵のごとく、顎に手を当ててふむむと考えるふみに、姫奈がギクッとなった。というか口でそう発した。いくら感情表現がストレートになると言ったって、口で擬音言うやつはいないだろ!


 とか思っていると、ふみの視線が葵太のほうを向いた。まずい、なにか言ってごまかさないと…。


「こ、この子は、じつは俺のいも……」

「梅田ってひとりっ子だって去年話してたよね」

「そ、そうだったっけ?」

「うん。初めて話したときにそういう話になって。私、記憶力だけはいいから」


 そうだった。ふみは記憶力が良い。というか、頭がいい。


 一応、葵太たちが通っているのは県内で一番の進学校なのだが、その中でもふみは毎回トップ5に入る頭脳の持ち主なのだ。勉強好きというより学問好きで、普段から難しそうな本をジャンルの隔てなく、色々と読んでいる。


「えっと、この子は……俺のいとこなんだ」


 だからこそ、葵太はそんなウソを言うことになる。


 視界の端で、姫奈が小さくうなずくのが見えた。妹とは言えず、かと言って近所の子供と言うのは関係性的にちょっとアレだし、姫奈だと明かすなんて到底無理。だからその答え方がベスト…というのが、一瞬の動作から感じられた。


「ふうん、そうなんだ」


 そんなふたりの決死のウソに、ふみは軽く反応したのち、


「そう言えば、どことなく梅田に似てるところもあるかも。目と鼻の数が同じとか」


 軽い冗談を真顔で言ってきた。


「そうそう、そこだけは似ててさ。俺と違ってすげえかわいいんだよ」

「そこに乗ってこられると困るな……」


 少し呆れつつ、しかし、その説明に納得したようで、


「では、私はここで。待たせちゃってるから」

「あ、誰かと待ち合わせしてたのか」

「違うよ。注文していた本が入荷したから、本屋に行く途中だったの」

「本屋か」

「ニーチェ、ケインズ、ウィリアム・ハーディー・マクニール、リチャード・セイラー……色んな男を待たせて、罪な女でしょ?」

「ニーチェ以外知らないけど、まあ相変わらず勉強熱心なことで」

「勉強じゃないよ、私にとっては娯楽」

「そっか」

「じゃあまた学校でね」

「じゃあな」


 そんな会話を葵太として、彼女は去っていった。葵太が見る限り、ふみは一切けげんな顔はしていなかった……と思う。


 姿が見えなくなると、姫奈が身を乗り出して小声で言った。


「危なかったね」

「そうか? 全然気づいてなかったけど」

「『どこかで見た気がする』って言ってた」

「ああ、それはそうだが……」


 葵太が思う以上に、姫奈は不安に思ったらしい。まあでも、秘密を抱えた当事者としては、そうなるよな……。


「いずれにせよ、今後はもっと警戒していこうか」

「そうだね……こうやって外出るの、楽しかったから。余計にね」

「ああ……」


 深くうなずきつつ言う姫奈に、「もっと自分がしっかりしないとな……」と思った葵太であった。

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