ライトレ三題噺
何も見えない。ここは一体どこだろう。
目が覚めると、俺は真っ暗な場所にいた。きぃと音がするほうに目をやると僅かな光と人影が見える。
「誰」
寝起きの掠れた声が少し遠くに聞こえる。
「あれ、もう起きたの?まぁでもさすがに耐性あるか」
と、頭を掻きながらこちらに近づいてくる。
あぁ、そういう事。1人納得しながら、暗闇に馴れつつある目を凝らして顔を見る。
「ッ…!?」
うそ、だろ…。
「どうしたの?そんな驚いた顔して」
「え、あ…いや、なんでもない、です」
後ろになるにつれ声が小さくなってしまう。
「うそうそ、驚くのも仕方ないよ。目を覚ますとターゲットのベッドの上にいましたなんてさ」
「なんでそれを」
そう。あろうことか暗殺のターゲットが、まさに今目の前にいる人物なのだ。しかも、狙っている事がバレてるときた。
「あんた何者……ッ!?」
そう尋ね、起き上がろうとした時、手首の辺りに違和感を抱いた。どうやら手を頭上に置いた状態でベッドに括りつけているらしい。気づかなかったのは薬の作用だろう。
「えぇ〜俺業界ではかなり有名だったんだけどなぁ。ま、無理もないか。顔隠してたし」
「有名だった…」
「そ、引退したけどね」
彼が腰掛けたことによってベッドの軋む音が聞こえる。
「"Diavolo Rosso"って聞いたことない?」
「は…?」
聞いたことがあるも何もその名は、その人は俺の憧れだ。それがこいつ?嘘だ。信じられない。というか
「聞いてない」
そうだ。聞いてない。依頼者から今回のターゲットがあの有名な殺し屋だなんてのは一切聞いてない。なんで?なんで教えなかった?
「だってみんな死にたくないもん」
「へ?」
「心の声だだ漏れだよ。せっかくだから教えてあげる」
俺優しいでしょと言いながら手を解放してくれた。これはチャンスだが反撃なんかするわけが無い。
「最初はね、Diavolo Rossoを殺してこいって言ってたんだって。でも俺が全員返り討ちにしたんだよね。そしたら俺を殺しに行くと命はないって噂が広まっちゃって」
「その噂は聞いたことある」
それでもたしか5年くらい前だったけど…。
「次第に殺し屋側が嫌がるようになってさ、だから依頼者はDiavolo Rossoってことを伏せて依頼してるの。それでも結果は変わらないけどね」
「なるほど。でもなんで俺は生きてるの」
おかしな話だ。今の話だと俺は既に殺されているはず。
「お前、俺が殺した資産家のとこの子だろ」
「そう、だけど」
なぜわかった?そう疑問に思っていると
「その眼。そんな色してる奴お前しかいないよ」
刺さるんじゃないかと思うほど目の近くで指をさされる。
確かに、俺の眼は変わった色をしている。
「お前あの時、俺の事かっこいいって思ってただろ」
バレてる。顔が熱い。
「お前顔に出やすいよな。で、まぁその時の少年と同じ眼をした男が殺し屋として俺を殺しに来たわけですよ。興味持つよね」
彼は俺の手を握り嬉しそうな顔して話す。
「でも、俺が復讐にきたかもしれない」
「その可能性は低い。殺した時の反応を見てるとね。でも確証はなかったからこれを使わせてもらったんだよ」
先程まで俺の手を縛っていた縄が彼の右手に見える。
「ねぇ、お前が殺し屋になった理由は俺だって自惚れてもいいかな」
「……」
「沈黙は肯定という事で」
彼は手に持った縄を綺麗にまとめる。
「…これから俺をどうするの」
今生きている理由は聞いた。だがこれからどうされるかは分からない。そう思い恐る恐る問うた。
「んー、俺の正体知ってるから野放しにはできないしねぇ。誰もいないし家政婦でもやってもらおっかな。掃除とか大変だし」
「は、はぁ…」
そんなんでいいのか。てっきり殺されるか実験体とか言って改造されるかと思った。この業界そういう変な人多いから…。
「じゃあ案内するね」
そう言うと彼は立ち上がり俺に手を差し伸べた。薬のせいでそんなものいらないとは言えそうもなかったので素直に手を置く。床に足を下ろし立ち上がろうとしたその瞬間、ヒュッと音を立てて何かが俺の頬を掠めた。振り返ると壁に刺さった何かが見える。あれはフォークだろうか。
驚く俺に暢気な声が降り掛かる。
「あ、この家改造しまくって色んな仕掛けがあるから気をつけてね」
もっと先に言えや。
満面の笑みを浮かべる彼に軽く殺意を覚えた。