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婚約破棄された令嬢とパーティー追放された冒険者が国境の隠者と呼ばれるまでの話  作者: あかね
冒険者と侍女と白猫

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待ち合わせ 2

 ルー皇女とは朝に話をした。

 頭が痛いと言いたげに顔をしかめているが、この場にいないことについては賛成してくれた。


「私の庇護がなくなるとどうしてもよいとか思ってそうで、ちょっと心配してました」


 ルー皇女はどこかほっとしたようにも見える。この小さい友人に思ったより心労をかけていたようだった。

 ミリアはそれを詫びようとも思ったが考え直した。


「今までありがとう」


「いえ、本当の姉がいたみたいで楽しかったですよ。

 これきりというわけでもないのでしょう?」


「そのつもりではいるけど、どうかしら。落ち着いたら連絡するわ」


「困りごとがあったらご相談ください。連絡役はクリス様にお願いすることになりますけど」


「高級干し肉で釣れるかしら」


「お気に入りのブラシを進呈したので、しばらくはお願いを聞いてくれるかもしれません。

 そう言えば、どこに荷物持ってるのでしょうね?」


「さあ?」


 二人で顔を見あわせて小さく笑う。白猫はすでにルー皇女と別れの挨拶は済ませている。仕上げは上々とご機嫌にしっぽを振っていた。

 いったいなにをしていたのかについては、全く説明してくれない。


 馬車の外に出れば白猫はユークリッドとにゃあにゃあと話をしていた。ミリアに気がつくと話を切り上げたようだが、双方微妙な表情をしていることが気に掛かる。


「どうしたの?」


「なんでもない」


 示し合わせたように言われたが、なぜかミリアは上から下まで観察された。


「あれは不気味だな」


「本当に不気味だのぅ」


「……なんの話?」


「あとで聞いた方が良かろう。今、ナキの心がバキバキに折れるのも困る」


 白猫がとても気になることを言い出したが、ミリアは聞くことをやめた。どうもろくでもないことを考えているに違いない。餌食になるディートリヒがちらと可哀想な気も一瞬したが、すぐに打ち消した。

 あの主従にはろくでもない目にあわされたのだ。多少はひどい目にあっても良いと思う。


 こほんと咳払いが聞こえて、ミリアはユークリッドに視線を向けた。


「これをナキ殿に渡してもらいたい」


「本人に直接渡せばよいのでは?」


「依頼の報酬として、ミリア殿に渡す約束をしている。認証は本人以外出来ぬようになっているので開けぬように」


 ますます本人に渡すべきではないだろうか。ミリアは困惑しながらユークリッドから小箱を受け取った。見た目に反して重い。


「さて、人払いも効果がそろそろ切れそうだ。行くとしようかのぅ」


 白猫に促されてミリアはその場を離れた。ナキとの待ち合わせ場所で、白猫はふと思い出したように尋ねてきた。


「ところで、聖女になる気にはなったかのぅ?」


「詳細を聞いてから考えるわ」


 ミリアはそう答えておいた。 可能な限りナキの側にいようとは思うが、他の身の振り方を考えておく必要もある。

 一人でいるとなれば聖女となったほうが、後ろ盾が手に入り害される可能性は低くなるのはわかる。

 教会での庇護も求められるだろう。代わりに求められることもあるが、仕方がない。


「うむ。東方のお方はあまり乗り気ではないようだからのぅ。我が主はわくわくしていると言っておった」


「……私が聞いている西方の方像と著しく隔たっているのだけど……」


 笑うこともないような厳しい表情が肖像画に描かれている。それを言えば、どの守護者も生真面目に描かれがちではあるが。


「外面じゃのぅ。ナキの前ではこの話はせぬよ。嫌な顔をするからの」


「どうして?」


「望むように、自由に選んで欲しい、らしい。ナキから言われれば、聖女となるのも厭わぬだろう?」


「そうね」


「そういうところが、嫌なのだろう」


「……よく、わからないわ」


 白猫は、にゃあと笑うだけだった。

 その後、現れたナキとぎこちなくまたあとでと話をしたのが一日以上前だった。


「おそい」


 何かあったのではないかと心配しても白猫は大丈夫とあっさり言う。

 それで落ち着けるなら困ってはいないのだが。


「……そろそろ戻るが、少々、忠告しておこう」


 急な声にミリアはびくっとした。背後を確認すれば小さい猫の姿に戻った白猫が顔を洗っていた。


「少なくとも今日は2人きりはやめた方が良い」


「え?」


「まあ、なにがあったか説明を求めれば少しは落ち着くであろうが、どうであろうな。

 ミリアに会ってから、以前はしないことばかりしているので予想もつかぬよ」


「そうなの?」


「一目惚れなどと言っていたのもそんな嘘でもないようじゃし」


「そ、そ、そうなの!?」


「故郷の海によく似ている青なのだそうだ。知らぬ間に望郷の念に駆られているかもしれぬし、どうなのかわからぬ」


 ミリアの動揺を意に介さず白猫はそう続けた。

 もし白猫が人であったらならミリアはそこを詳しくと肩を揺さぶっていただろう。実際は、聖獣様相手なので出来ないが。

 ナキは過去の話はほとんどしない。ここ数年の話はしても、故郷の話というのは滅多にしなかった。ミリアも聞かれては困ることもあるので、積極的に聞くことはなかった。

 確かに以前、目の色が故郷の海に似てると言われた事はあったのだ。


「それなら、父の影響も悪いものではなかったのかもね」


 ミリアは母によく似たといわれているが、目の色だけは違った。父親というものによい思い出は全くないが、これだけはよかったことに数えられるかもしれない。

 白猫はにゃ? と不思議そうな顔をしていた。

 それに答えられる言葉をミリアは持っていない。


「……お待たせ、って、あれ? どうしたの?」


 それからしばらくして微妙な沈黙が満ちた場にナキは首をかしげた。

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