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婚約破棄された令嬢とパーティー追放された冒険者が国境の隠者と呼ばれるまでの話  作者: あかね
冒険者と侍女と白猫

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五日目 3


 馬車から出て二人は冒険者たちの使用している地点ではなく、兵士たちの使っている方の近くまでやってきた。


「じゃあ、またね」


 ミリアを送ったあとナキはため息をつく。

 彼女には人目の付くところで一緒に居るのは面倒なことになりそうで、と言い訳して見えないところで別れた。

 それもあるが本当はもうちょっと別の理由もある。


「にゃ?」


 ミリアに付いていく予定の白猫が足下で鳴いていた。半分透けているのだから、本体はあちらについていったのだろう。


「……俺、ほんとさ、どうするの正解なの?」


 白猫にナキはぼやく。それに白猫はなにを言っているのだと言いたげに見上げてくる。


「知らぬよ」


「二人きりとかになると煩悩が占拠する」


 ミリアは警戒心すらなく、距離を詰めてくる。嫌じゃないなら、などと頬を染めて上目遣いで聞かれて一瞬、理性が行方不明になった。

 押し倒してもいいんじゃなかろうか。誰も側にいないのならば、多少強引でも、とそう思ったことはナキ自身もどうかと思う。

 他の男の存在が色んなものを暴走させがちだとは自覚していた。


「ついでにあいつに殺意すら憶える。即刻、排除したい」


「それもどうかと思うがのぅ。

 とりあえず、目先のことを処理するめどはついたのか?」


「スキル定着にはもうちょっと時間かかりそう。それまで何も起こらないことを願う感じ」


 ナキは気を取り直して、現状を告げる。特定のスキルを得るためには少々面倒がある。その上、イレギュラーな取り方をしているせいか安定させるには時間がかかる場合もあった。

 普通は時間をかけて得るものをすぐに手に入れるのだから多少の不便はしかたない。


 しかも今回選んだものは変わり種だ。発動条件をどうやって満たすかのほうが悩ましいもの。ミリアの安全とは変えられないと言い聞かせてみるが、煩悩の囁きが優先されたのは気がつかなかったことにしている。


「クリス様のほうは?」


「東のお方が怒ってる、らしい。薄くなり遠い血縁ではあるが子は子だと。遠からず制裁が科されると思う」


「自業自得、くらいで済むんだろうか。それ」


 ミリアを聖女にするかどうかについては保留しているが、どうしてその対応が必要になるかについても報告したらしい。ついでに赤毛の娘の消息不明の件も伝えた結果のようだ。


「知らぬよ。人の世のことに関わらぬことになっているが、血縁は別だからのぅ」


 白猫は興味なさそうに顔を洗っている。この聖獣はそういうところは妙にドライではあった。血縁者はただの血縁者で庇護対象でもない。

 そのため、現状は東方の方より依頼が正式にあれば、ミリアを守るのも構わぬが今のところはちょっとした手助け以上は構うつもりはないと釘を刺された。

 今まではあくまで、白猫の好意によるものでしかないのであてにしすぎも問題はある。


 そのわりにナキにはちょっとサービスが過ぎるのは、おそらく東方のお方が何かしら言っているのだろうなと思う。本人は認めようとはしないが。


「さて、我もなぜか兵士たちに敵視されているので消えることにするかのぅ」


「気をつけなよ」


 にゃと一声鳴いて白猫は消えた。


 ナキは何食わぬ顔で休憩場所へ戻ってみたものの居心地は良くなかった。今日は時間に余裕があるせいか休憩も長めにとっている。雑談するような時間はあるということだ。

 向けられる視線に嫌な顔をしそうになるが、無表情を保つようにした。それも怖いなどと言われるが知るものか。

 ナキは白湯をもらって少し離れた場所で飲むことにした。


 ナキはミリアの件ではかなり同情的に見られているが、自棄になるなから巻き込むなまで色々言われている。

 よぉとリンに声をかけられても渋い顔を向けた。今度はなにを言い出すのだろうか。


「で、どうするわけ?」


 リンは全く気にした様子もなく聞いてくる。ナキは、なにが、で、なんだと思いながらも返答を考える。


「契約終了明日だって言われてるから、察して」


 本来は元の町に戻ってから終了予定をナキのみ前倒しして終了としている。すでに残りの報酬はもらっていた。

 冒険者ギルドもそれなりには配慮してくれた、というべきか、早く関係を切りたいのか微妙なところではある。


「あとはご自由に、か。優しいんだか、冷たいんだか、わからないな」


「黙って拘束されない程度にはお優しいんじゃないの? 俺も恨み買いたいわけではないし」


「ま、がんばれ。俺はこのまま王都まで行くことにした。

 もう会わないことがいいと思うが、逗留先と連絡方法はこれの通り。伝言や手紙くらいなら届けても構わない」


 リンはそう言って小さい紙を押しつけてきた。


「じゃあな」


「そっちもうまくやれよ」


 リンは返事もせず背を向けた。余計なお世話というところだろうか。ナキは、ため息をつく。どうにもつかみ所がない。

 本職は違うなといっそ感心する。


 それからほどなく休憩の終了が告げられた。


 その日は多少のトラブルには見舞われたものの順調に過ぎ去り、翌日、国境の町にたどり着いた。

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