三日目 2
そんなやりとりをしている間に門の向こう側に迎えが現れたようだ。先導として数名のみとなっているのはお互いを刺激しないためという話だった。
ここで半分の兵は帰されるらしい。その中には皇子やその側近も含まれるようだ。偽って他国に侵入するのは問題だろう。
顔を知られていないならいざ知らず。あの皇子は有名人だ。皇女の迎えに来るような人物にはバレバレだろう。
「にゃ」
聞き慣れた鳴き声にナキは視線を落とす。いつの間にか足下にちょこんと白猫が座っていた。
よっとでもいうようにリンにもにゃっ! と挨拶している。苦笑いしながらリンがしゃがんで頭を撫でていた。
「魔性だろ」
「ほんと、何とかして手に入れたいってのはわかる」
「にゃ!?」
不穏な言葉に白猫がびくりとする。しょっちゅうとは言わないが両手で余るくらいには未遂込みで連れ去られてきた身の上だ。びびりもするだろう。
なお、ナキと一緒に居た期間だけでの出来事である。
「攫われないように気をつけなよ。相棒」
「にゃあ」
翻訳すれば、危機感しか感じぬ、だろうか。
こちらに誰も注意を向けていないことを確認してナキはリンに小さく問いかける。
「誰が来てるかわかる?」
「名は知らないが、宰相の下にいるやつらだな。護衛は将軍配下のようだ。
つまりは姫君の手下」
「……なにその悪役っぽいの」
「上の姫はともかく下の姫は不穏だからな。先が見えているのかってほどの采配をするときもあれば、素人かという手出しもしてくる。
なんというかな」
「にゃ?」
「不気味」
独り言のようにリンは言う。
「近くにいると心酔していくからさらに気持ち悪い。万が一、近寄ることがあったら気をつけろよ。変なスキル持ちなんじゃないかって思うが、問うことも不敬だからな」
「わかった。しかし、スキルねぇ」
レベルもスキルもあるわりに一般人にはあまり重要視されていない。何かの節目や急に上達したときに調べる程度だ。普通に生活していればそんなに変なものが生えたりしないかららしい。
冒険者に定期的にスキルチェックがあるのは変なのが生えたりするからでもある。年に一回程度は存在しなかったスキルや伝承のものが発覚するのだから仕方ない。
ナキが最初にやらかしたときは誤判定とあちこちをたらい回しにされたものだ。黒歴史もいいところである。
「おまえも変なの一杯持ってるんだろ。極秘扱いで中身は見れなかったのが残念だが、ギルドの要注意人物として注目されてるからな」
「ブラックリストなんで見てんの? それにギルドが注目って国に把握されてるってことじゃないか」
帝国内ではギルドは国の下部組織である。
リンは肩をすくめて返答を避けた。白猫はなすがままに撫でられている。そのうち腹まで出しそうだと思う。
「クリス様、相棒変えない?」
「うにゃ?」
リンは白猫を抱き上げて勧誘している。干し肉がと聞こえてくるがその程度では揺らがないだろう。
たぶん。
「動くみたいだよ」
その声に反応したのか白猫はリンの腕から逃げて行った。そのまま馬車の方へ行きかけてふいっと姿を消す。
「へ? あれ、消えた?」
リンの困惑したような声をナキは無視する。それを説明する気はない。ただの子猫の振りをしているが、聖獣である。認識を阻害するくらい自在に出来た。
ナキとしてはそれをした理由のほうが気になるが、今は大人しくしていた方が良いだろう。
馬車が門をくぐる前に帝国側の兵が何人か先に入ったようだ。続いて、馬車のまま皇女とミリアが門をくぐる。それにそうようにユークリッドが足を進めた。
皇子一行はその場に留まったままだった。
冒険者や傭兵たちも続いて問題はなさそうに思えた。ナキも問題なく門をくぐるが、なにかちりっとした刺激を肌で感じる。
なにか、感知されたような? と思うが確証はない。ただのものでしかなさそうな門にそんなものを仕込んでいるのだろうか。
「どうした?」
「なんでもない」
気にはなるが、いまここで聞くのはまずい気がした。
「……あ。あいつ残る側じゃないんだ」
リンはすでにナキの後ろへ視線を向けていた。ナキも振り返るとげんなりした気分になる。名前はジャックなのかディートリヒなのか未だ曖昧だが、皇子の側近も門をくぐっている。まあ、確かに本人が乗り込んでくるよりはましかも知れない。
妹を気遣ってというやつかもしれないが、当の皇女は嫌がりそうな気はする。
それにミリアも全く喜ばないだろう。
予定では確か三日ほどかかるとか聞いたような気がするが、その通りにはいかないだろう。まあ、ナキもミリアも次の町で仕事は終了という話なのだから少しの我慢で済むはずだ。
その見込みが間違いだったらしいというのはほどなく理解することになる。




