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婚約破棄された令嬢とパーティー追放された冒険者が国境の隠者と呼ばれるまでの話  作者: あかね
【幕間2】

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闇よりもなお黒く

 それは黒い沼のようだった。

 洞窟の中にある黒い黒い水の塊。

 それは表面が風もないのに揺れること以外は完全に擬態していた。


 白猫はそれに足を浸した。ずるりと潜り込むところは底なしのようだが、ある程度で床にたどり着く。


「なにを拗ねているのだ。

 傷心? まるで乙女のような物言いだぞ。あー、うるさい。がなり立てずともよい。まったく、本当に臆病者だのぅ。気が済むまでそこにいると良かろう」


 白猫は呆れたようにそう言うと少しばかり爪を立てた。そこだけを避けるように黒い液体を模したものが割れたのを見て白猫はこれ見よがしにため息をつく。


「痛みなどとうに忘れたのではなかったか。

 ふむ。我を食うのは無理だのぅ。性質と次元が異なっているのでな。だから、安心せよ」


 ぶつぶつと言いたげに黒いものから泡がぶくぶくと湧く。

 全く手のかかるやつだ。白猫はそう思うが指摘はしない。自覚はあるだろう。自覚があるからより落ち込んでいそうで、やっぱり白猫には面倒くさいやつ認定されている。

 そして、もう一人手のかかるものがいる。こちらは怒りが限界を超えて微笑むレベルだ。すでに白猫が毛を逆立てて逃げたくなる闇深い微笑みとともにがしっと捕まれた。その時点で白猫は他の分体に逃げ出したが、捕まった分体を哀れに思う。


 少しも穏やかな日々ではなく、主が喜びそうだなと白猫は心の中で呟く。白猫自身の話はとりあえず置いておくことにする。

 突き詰めていくと、我は知らぬっ! 勝手にするが良いっ! と喚く羽目になる。白猫はとても大人なのでそんなことをしない。


「帰れとはつれないのぅ」


 白猫が去るつもりがないと知ると黒い沼が音もなく移動していく。ひとかけらの取りこぼしもない。それは全て己であると自認しているからこそ。

 深刻じゃのぅ。もっと手軽に考えればよかろうに。白猫はそう思うが言わない。そう出来れば苦労などしなかった。


「もし、一人になっても我がいる。のぅ、相棒」


 奥に消えていく黒いものを見送って白猫は小さく笑う。返答はもちろんなかった。


「せいぜい清純な乙女のように震えているじゃな」


 白猫の独り言のようだが、それを聞いているものがいること知っていての言葉だった。ここは魔王の顎の中。あの黒いものが中枢ではなく、無意識に白猫が話がしやすいように形作っているに過ぎない。あるいは自我がそれであると信じたいか。


 優しさも甘さも残したままでは遠くなく、引きずり出されるに違いない。それまで引きこもって鬱々としているがよかろう。

 白猫は洞窟の入口に向かう。


 これは想定外のようで想定内。

 知られれば縁を切られるのは白猫のほうがもしれない。それもやむなしである。何もかも穏便に済む方法など最初からなかった。

 あるいは、これが一番、マシである。


「それでも。我は」


 白猫はその先の言葉を口にすることはできなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

次の魔王編へ続く予定でしたが、思いのほか長くかかりそうなのでいったんここで完結となります。


魔王編は別に話として始めるか、または、続きとして書くことにはなると思います。最後まで書きためて連続更新予定なのでもうしばらくお待ちください。内容的には1/3くらいは書き終わってるんですが、あと何文字かかるかは不明です。

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