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婚約破棄された令嬢とパーティー追放された冒険者が国境の隠者と呼ばれるまでの話  作者: あかね
聖女と隠者と聖獣

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帰るところと戻れない場所 3

「さて、破壊するなと言われたけどどうしようか」


「できませんでしたーと言うしかなかろう。無駄話するうちに寝る時間が増える」


「わかってるって」


 ナキは顔をしかめた。奥の手としても使いたくないものではあるが、仕方ない。人の身で聖獣の力を宿すなど無茶もいいところなのだ。それをできるのはナキが見つけたスキルのバグの結果だ。

 スキルの中に聖獣の使役というものが存在した。それの取得条件は守護者となることではあるが、これは候補として存在するだけで一時的に条件達成したとされる。

 そして、候補もスキルとして存在していた。


 なにこのバグと思いながらも最終手段として用意しておいた。代償についてはスキルを入れた後に判明したのだが。


「タイミングは教えて」


「任せよ」


 白猫の気配がすっと遠のく。半物質である聖獣ではあるが条件がそろえば精霊のような状態にはなれる。

 そして、この柱も精神体が本体でそれを物質に閉じ込めているようだ。

 そうでなければ手に負えないものを作り出してしまった。過去の建国王が罪深いとナキは思うが、既にちりも残っていないものに何か言うことはできない。


 ジュリアはすでに意識なく乗っ取るには最適だ。人の身に乗り移ってもよい許可も出ている。柱が我慢する理由はないだろう。


「今じゃ」


 ふわりと白く煌めくものが現れた。本来は色もないものを白猫が見えやすいようにしている。それも長く持たないと言われていた。

 人の都合で生まれ死ぬのは不条理と思いながらもナキはそれを槍で薙ぎ払った。


 切れたというより壊れた感触はあった。ナキは続けて柱自体に槍を突き立てる。内部の駆動音がぴたりと止まった。


「死んだ?」


「機能停止じゃの。さて……ミリアよ。危ないから捨てよ」


「へ?」


 慌ててナキが振り返ればミリアが短剣を持っていた。召喚して放置していた一本だ。還しておけばよかったと後悔しても遅い。

 なかなかに様になっていると現実逃避している場合ではない。ミリアは持っているだけでなく、ジュリアに突きつけていたのだ。

 当のジュリアは意識不明のまま。


「だ、だって、なにかがジュリア様の中に入った」


「マジか」


 こわばったような表情のミリアは短剣を手放そうとはしない。


「……破片が入ったのぅ。そこまでの回収がいると……。

 首も体もないがそっちもどうするのじゃ?」


「……まじかー」


 白猫の言葉にナキはがっくりと肩を落とした。打ち漏らしが痛い。

 白猫が疲れたようなため息をついて、ナキの肩から降りた。その瞬間にどっと疲れがやってくる。

 そのあとにナキの髪色も姿も元に戻った。


「ミリアはそのままでいて。

 縛っておくから。物質に入ったら物質にとらわれるらしい」


 おそらく、そこから出てくることはできないだろう。

 縄をナキは用意し、ジュリアの腕と足を縛る。そして、ミリアの手から短剣を受け取る。そのまま返還し見える範囲内に刃物も一つを残して返品しておく。レンタル扱いをされるであろうモノたちの請求が痛いが、それは後の自分が何とかするだろうと先送りにした。

 白猫は半透明のままジュリアの上に陣取っていた。先ほど回復した分をそのまま使ってしまったので繭は消失してしまった。


「ミリア」


「なぁに?」


 ジュリアを不安げに見ていたミリアは呼ばれてナキを振り返った。疲れてはいるようだが、傷らしい傷はない。

 ナキはようやく、ほっとした。


「ちゃんと生きててよかった」


 解決には程遠いが、少しばかり実感してもよいだろう。ナキは同意を取らず抱き寄せた。


「ナキ?」


「生きた心地しなかったよ。落ち着いてないと何にもできないってがんばったんだから、少しくらい実感したい」


「ごめんなさい」


 ミリアはそういいながらぎゅっと抱きついた。


「俺も油断したから。ただ、あの鳥は許さん」


「え、えっと、燈明様も頑張ってたわよ?」


「そう」


 思ったより低い声が出た。ミリアはぴたりと黙る。ちらりと怒ってる?と確認するような視線に苦笑する。ナキは怒ってはいないが心配も度を越えるとそんな感じにはなる。


「これからどうしようかな。

 もう、ジュリア尋問して帰ろうか」


 即帰還したいのがナキの要望だが、ミリアの望みは違うだろう。

 少し困ったようにミリアは眉を寄せてしばし考えているようだった。それからなにかを決意したようにナキと視線を合わせる。


「私は残るわ。ナキは帰っても大丈夫」


 やっぱり言いだした。ナキはこんな時くらい使い潰してくれればいいのにと思う。しかし、そう言いださないミリアを好ましくも思っているので矛盾はある。


「ミリアが残るなら俺も残るよ。心配だし」


「でも」


「取り立てもうやむやにしたら赤字もいいところだからね。とりあえず、宰相とレベッカ様に請求書だな」


 大丈夫? と窺うようなミリアは不安と迷いがあるようだった。


「気になるようだったら、ミリアからもなにかもらおうかな」


「私にできることならなんでも」


「……そういうこと、簡単に言わない。ほんとミリアは僕の理性の頑張りをほめるといいと思うよ」


「え?」


 ナキは困惑したようなミリアをそっと離した。ちょっとくらい色々要求してもいいのではないかと葛藤したのは知られたくないような、思い知ってほしいような気がした。

 安全な男をやるのも楽ではない。ナキはこっそりため息をついた。


 ナキはなにか視線を感じて顔を向ければ白猫がにゃあと鳴いた。大変じゃのぅとからかうような言葉はナキにしか聞こえていないはずだ。


「よく頑張りました?」


「うん」


 ナキはよくわからなままに褒めようとしているミリアを見て情けなく笑う。好意の温度が違うことくらいわかっていたつもりだったが、こうも露骨にわかると少し傷つく。

 いつもなら仕方ないと思えることも気になるのは疲労のせいとナキは見ないふりをすることにした。


「さて、どうやって帰るかな……?

 なんか、悲鳴」


「ぎゃーっしぬーっ」


 ナキが天井を見上げて、表情を引きつらせた。そこにはナキと白猫が落ちてきた穴が開いたままだった。

 そこからキエラが落下してきていた。


 ナキだって受け身も取りそうもない人が落下してきたら救助するものである。

 その結果、多少の痴話げんかが発生しそうでもである。一瞬、見捨てるかとも思ったが、ドン引きされそうであったのでやめたということは言うつもりはない。


「いたい、あれ? いたくない」


「間に合ってよかった」


 埋め止め損ねたナキを下敷きにしたキエラはきょとんとしていた。とりあえず痛い思いはしていないようだった。代わりにナキが多少痛い思いをしている。しかし、普通、落下してきた人の下敷きはダメージがありそうだが多少背中が痛い程度で済んでいるのだからナキの元の世界の体と比較したら恐ろしく強靭と言えた。


「おや、ナキ、そんなところでなにを?」


「一応ね、死なれるのは困ったとおもったんだけど、見捨てればよかったかな」


「……すみません。文句あとからやってくるユークリッドに言ってください。四の五の言わず行けと落とされました」


「それはいいから、降りてくださる? ナキ、大丈夫?」


 冷え冷えとした声にナキはそちらを向きたくなかった。慈愛に満ちた微笑みは仮面のようで恐ろしい。

 キエラがひっと悲鳴を上げていたがナキもそれはわかる。理不尽に怒ってこない分怖い。ナキがそうしなければキエラがケガをしたのはミリアもわかっている。だが、この状況にいらっとしたのは隠しきれていない。


 慌ててキエラは立ち上がり、そのまま数歩進んでつんのめっていた。


「俺は平気。クリス様なんかした?」


 少しよろけながらナキは立ち上がる。蓄積ダメージはあるが、活動には支障はない。ミリアが心配そうに寄り添ってきたが、いつもよりぎゅとしてくるのはキエラに対しての多少の威嚇であろうか。


「ちょっとだけ重力調整したのぅ。重そうだからの」


「私の超ストレートなボディをディスられた」


「付属品のことを言うたつもりだったのだが」


「……」


 無言でキエラは上着の内側を見せた。確かに遠距離攻撃に向いてそうな武器がずらっと並んでいて重そうである。下敷きになったときに刺さらなくて幸いである。

 体型についてはナキはコメントを差し控えた。ミリアは羨ましそうに見ているが、それについても言わないほうが良さそうではある。

 今のようにミリアがぎゅっとくっついてくると柔らかくてよいと思っていることもナキは言うつもりはない。この話題はミリアにとって最悪の地雷である。


「で、なにしにきたの?」


 上の状況を放っておいてここにわざわざ降りてくる理由があるように思えない。主であるルー皇女が命じてもキエラは従うだけではなさそうなだけに不穏だった。


「上は上で荒れてるから私だけだけど助太刀のつもりだったけど、遅かったみたい」


 縄で縛られているジュリアに視線を向けてキエラは言う。ひどく冷ややかな表情は同郷のものに向けるものではない。


「今、お目覚めみたいだけど」


 薄っすらと目をあけたジュリアは薄く微笑んでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわーい、待ってましたー! え、ちょっと待って、すごい展開…。続きもワクワクしながらお待ちしてます。 …女性のストレートなボディは、この国だけの価値観だと思いますが、まさかそれも伏線だったり…
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