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婚約破棄された令嬢とパーティー追放された冒険者が国境の隠者と呼ばれるまでの話  作者: あかね
聖女と隠者と聖獣

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ミリアルドは帰らない 5

「というか、戻ってきちゃダメだろ。また、猫が猫に」


「今度は注意して繋がって、うむ、切れたな」


 胸を張って報告する白猫にナキは呆れたようになにしてんのと言っている。ミリアもなにをしているのかしらと言いたいところではある。

 しかし、今の現状を見られるのが恥ずかしすぎてナキの腕を外そうとしているがびくともしない。そのうえ、肩に重みが増えているのでがっちり拘束されている感がある。


「ナキ、外して」


「んー。もうちょっと」


「我はそのままでもよいのだが、ミリアが面白いと主もご満悦」


「私が嫌だから外して」


 一人と一匹が話にならない。

 ミリアの苛立ちが伝わったのかナキはすぐに腕の拘束を緩めた。


「一人で立てる?」


「大丈夫」


 そう口では言いながらもミリアは結局クッションからずり落ちた。この身体能力の低さは時々呪いたくなる。ナキが言うには体力と筋力が低下しているから仕方がないというらしい。以前の生活で体を壊していないから思ったより頑健という評価もひどいものだが。

 白猫は何をやっておるのだと言いたげにミリアの足をぽむぽむしている。


「大丈夫?」


「平気」


 先に立ち上がったナキがミリアに手を差し出す。強い力で引き上げられるのは、嫌いではない。ナキが少しだけ迷うような表情をしていることが気になることがあるが。


「う、にゃ。にゃーっ!?」


 急に白猫が声をあげた。ミリアはびくっとそちらに視線を向けるが、その前にナキの手で目隠しをされた。


「あれ、微妙に怖いから見ないほうがいいよ。僕も慣れるのちょっと時間かかったし」


「あれって?」


「乗っ取られた系?」


 白猫ではないものになるということだろうか。確か燈明も同じことをされていた気がしたが、ひどく怖いことではないだろうかとミリアは思う。しかし、ミリアも乗っ取られることはあるのだ。全部ということはないが、試しとして口だけ借りるとしゃべられたことはある。あれは不思議な感覚ではあったが、嫌ではなかった。隣に温かいものがいるように思える。


 白猫はしばし沈黙し、うにゃと呟いた。


「さて、我々の情報の精査をして起こっていることを推測しようではないか」


 いつもの白猫と同じようで、違うのがミリアにもわかる。ナキはようやく手を離した。

 白猫は少し発光しているようだった。淡くふわふわしているが可愛いというより神々しいように思える。


「漏れてる」


「お。調整がむずい。このくらい、かな。うん。いけてる。私は可愛い子猫」


 話し方が完全に白猫ではない。ミリアはこの口調に聞き覚えがある。ミリアの体が作り変えられている間によく聞いた声だ。体を作り変えている間は聖女として必要なことを教育されるのに必要な期間でもあった。


「あ、我は、クリスなので」


 ミリアに釘をさすように白猫は言う。ナキは頭が痛いと言いたげに額に手を当てている。ミリアは大人しくわかりましたと言うしかない。

 ミリアは敬っていた相手がこうなった場合の対処方法を誰か教えてくれないだろうかと思う。ナキは参考にならない。やはり、一度は前任者とあったほうがいいだろう。


「高級ジャーキーがあるじゃろ。あれ、おいしいという話なので食べてみたいのだ」


「……はいはい。隠す気ないのに隠ぺい工作しようとするのやめてほしいんですけど」


「にゃうー」


 やる気のない鳴き方だった。




「ものすごく変なことになってて、よくわからんのぅというのが我の感想だ。

 まず、勢力事に別々のことをしていて目的がわからん。猫に与えた毛糸の玉のほうがまだほどけそうなくらいのこんがらがりでのぅ」


 ひとまず、目の前のジャーキーを前足でいじりながら白猫は言う。

 ミリアとナキは水だけ用意してある。白猫の中の人を思えば、飲み物を新しく用意するまで待たせるというのも気が引けた。


「まず、王位継承問題に関しての勢力がいくつかあります。

 このままシリル殿下に継承してほしい場合にはルー皇女と婚姻するか、もっと権威のあると思っている聖女を妻とすることが条件でしょう。既に婚姻は動かせないので、この時期に聖女が現れたのであれば無理を通してもと思いつめてしまうことはあり得ます」


 ミリアはそれこそが王位継承者として不適合であると証明することに他ならないと考えていた。望みのために、愛しいものさえ捨てるということは他人の目にどう映るということを意識できない。王になったとしても望みのために他のものを捨てるということがあるのではないかと想像させる。

 大人しく現状を受け入れて、エリゼと仲良くやり実績を積むほうがまだ王になる可能性が高い。それをせずに、目の前の甘い誘惑に負けるというのもミリアは気に入らない。


 ミリアルドを捨ててまで手に入れたエリゼを簡単に捨てるという選択をするような男が王になることはないだろう。


 ミリアはエリゼとは仲が悪い姉妹ではあったが、それでも、簡単に王位のために捨ててしまうことには腹が立つ。女をなんだと思っているのだと。


「大方は帝国の姫を妻に迎えた男が次代という認識になっているんだよね?」


「表立っては王太子の婚約者であったミリアルドをもらい受けた代わりに見合いにやってきたことになっているから、婚約したら帝国側にも配慮がいるという認識はあるでしょうね。

 ただ、それが貴族間の認識に過ぎないのか国民まで浸透しているのかについては疑問はあるわ。普通は王太子が継ぐものだもの」


「なにがしたかったんだろ。王太子って」


「愛する妻と王位を欲したら、どちらも無くしそうになっておるのぅ」


「少なくとも妻は残ります」


「愛想がつきそうなものではないか」


「エリゼは王妃になりたいわけではないので、王位につかないシリル殿下でも全然かまわないでしょう。もし廃嫡されてどこか地方や幽閉されても同行しますね」


 それが真実の愛というべきかはミリアにもわからない。


「……薄ら寒いものを感じるのぅ。執念というかなんというか」


「結果的にエリゼはルー皇女との関係は切断しようとするでしょう。聖女が現れたと言われてもしばらく何もなかったのもこの影響かもしれません。

 ある意味、私たちにはとても好都合で均衡がとれている状況とも言えます」


 ルー皇女もミリアもシリルの妻になる気はない。エリゼは誰にも渡さないつもりである。利害が一致している。


「うむ。で、新勢力が出てきてるのだが、実父関連という話で間違いはなさそうなのか?」


「良いことを一つも残さなかった父ですが、さらにとんでもないものを残していきましたね」


 ミリアはため息をつく。亡くなる直前の母が残した言葉でほのめかされていた実父。ある意味、父に愛されない理由を知って納得もしたものだ。他人なのだから仕方がないのだと。

 母は修道院に入って穏やかな日々を過ごすことを願っていた。もう朧気になっている記憶ではミリアも同じ場所に行こうと言っていたのだ。あと少しで、ここも去ると聞いたことがあった。それなのに病であっさりと亡くなった。普通はすぐに回復するようなものなのに、運悪くと言われていた。

 それから間を置かず、義母と妹が屋敷に乗り込んできた、らしい。そのころにはミリアは屋根裏にいたので、下の世界のことなど知らなかった。


 見知らぬ女の子に発見されなかったら、ミリアはずっとあそこにいたのであろうと思うことはある。そのほうがましであったかはわからない。あのまま育ってもどこかに身売り同然に売られていたような予想ができる。あるいは、嫌がらせのように誰にも望まれないところに嫁がされるか。


 生まれた環境が悪かったというのは簡単ではある。ミリアとしては当事者をしているとやりきれないものはあった。いっそ捨ててくれればよかったのにと思うこともある。そんなに嫌なら見えないところにやってしまえば済むのにと。


 不意に頭に重みを感じた。ナキが頭を撫でる意味が心配だったり安心させるためだったりすることをミリアは今は知っている。


「……大丈夫よ?」


「それならいいけど」


 不安顔のナキとうみゃと鳴く白猫。

 ミリアはそれが大事にされている証のようで嬉しくなり笑みを浮かべる。しかし、ナキがさらに浮かない表情になるのが不思議な気がした。


「お主らものぅ……」


 しょうがないと言いたげに白猫はミリアとナキの手をたしたしと叩きに来た。

 先に進めるぞといつもの白猫らしからぬ発言をしていた。


「ミリアルドの訳アリの実父が王弟殿下であるのは確定。ただし、公式ではほとんど話になっていない。それでなぜ知られていたのかという話になるが」


「確実に知っているなら陛下と母くらいかしら。父が知っていたかはあやしいものね。知っていたなら賢明な方と言われていたからそれなりに対処していたはずだと思うわ。もしかしたら本当に死ぬなんて思ってなかったと言うのもあり得るけどね」


「うむ。どちらかから漏れたという話か、憶測での話かということになるのぅ」


「ご両親のことは噂にはなってなかったわけ? 親しいならそういう憶測もありそうだけど」


「内密にしていたらしいわ。

 当時の王太子は王弟殿下、シリル王子は小さく病弱で立太子はちょっと難しいという話が出ていたとか。そこで婚姻の話が出たら、妃殿下の親族が黙っていないわ」


「ミリアのお母さんの実家はそんなに強い家だったわけ?」


「昔は隆盛を誇って今は落ちぶれたというところね。問題はそっちではなく王家のというより貴族も含めて、婚姻すると子をもつことになるというところ」


 白猫もナキもそれが何の問題なのかわからないようだった。


「王太子が婚姻し、子が生まれ、それが男子だった場合のその次の王太子はその子になるの。

 普通なら問題になるはずもないことではあるけれど、長い間、王の息子が生まれず弟が王太子となっている時なら、問題ね」


「継承権争い待ったなしってことね」


「そう。王の病弱な息子か、評判の良い王弟を次期王にするかは当時でも水面下で争っていたようだし、長子相続をすべきだという意見もあったようなの。長子相続ならレベッカ様が王位を継ぐために王太子に指名されることになるのだけど。

 レベッカ様はそれからほどなく嫁がされているから、まあ、意図的な何かはあったと思うのよね」


「降嫁させてしまえば継げない。えげつないなぁ」


「ふむ、では、その状況を踏まえれば秘密の恋人なので、直接的な関係者以外は知らぬと。あのじいさんはなぜ知ったのか、というのはわからぬのぅ」


「アルス老は王弟殿下と仲が良かったとは聞いていなけれど、母方の血縁だったかしら。王家の相談役でもあったし、臣籍降下を相談して理由を言ったのかもしれない。こればかりはわからないわ。両親は亡くなっている、アルス老は話にならない、陛下はだんまりとなってはね」


「理由はわからないけどミリアルドの出生を知り、王位を継がせようとしたと。

 でも、今なのは変だよね?」


「そうね。ミリアルドは死んだと彼らは知っているはずだもの。以前から予定があって、その通り行動するとしてもなぜ今なのかしら?」


 彼らの大義名分となるべきミリアルドはいないのに。

 もう他国の王族の妻とされているならば、連れてくるのも、王冠を乗せるのもできない。それくらいの道理を弁えているはずだ。

 ミリアルドではなく、別の隠し子であると押し通すこともできるであろうがそれもミリア本人や代理を用意しての話だ。

 そもそも代理では、彼の目的は果たされない。


「それならもっと早く、ミリアルドを取り戻せばよかったのに」


 そう呟くが、ミリアにもそれは無理なことはわかっている。それができるのは、婚約破棄をした時点だけだ。連れていかれた時点で、傷物扱いになる。

 あの時、あの場所にいなかったのだから。


「……うむ。なにか引き金があったのではないか? ほれ、今の王家のグダグダはジュリアの病に端を発しているように我には思える」


「まあ確かにね。

 愛妻家の宰相が、まず使い物にならなくなる。王もまあ、ミリアルドのこともあって再起不能、王妃も寝込んで役立たず。一人レベッカ様が奮闘しているけど、あの感じ、陰謀とか向いてなさそうなんだよね。

 で、子供たちは子供たちだからあてにはできず、王太子は今は自分の王位のことで手一杯。

 で、その他貴族は連携どころか継承者争いにどっぷりつかっているし、聖女が現れたと浮足立ってもいると。そこに王権簒奪(仮)の事態」


「詰んでないかのぅ」


「改めて考えるとレベッカ様があの物言いになるのもわかる気がするわ。この事態にミリアルドがいれば少しはましになるもの。しかも聖女であるというなら、発言力も増すから」


「応じるわけ?」


「相応の立場で相応の利害関係があるのならば、考えるかしら。でも、現状じゃあ用意できるものがないから口約束ではね。

 アルス老の動機も理由も不明だけど、ほかの誰かに王冠を乗せるなら絶好の機会だったということかもしれないわ。現状は近衛が乗っ取られているに近い状況となると王城は安全ではないわね。まあ、ユークリッド殿がいれば付近は安全でしょうけど」


「おっかない侍女たちもいるので少なくともルーは安全じゃのぅ。一緒にいたウィルも確保は出来ておるから最悪、全員死んでも次の王はいる」


「それをするなら帝国の多大なる支援のもとになりそうね。

 それにしても王位、ね」


 ミリアルドはそれを欲しがったのかと言えば、半分はと認める部分はある。婚約者も家族も必要としてくれないならと国のために生きようとは思っていた。それには権力が必要だった。そのためには王の伴侶以外にはなるわけにはいかなかった。それ以外の生き方はできないから、死ぬしかないとあの時思っていた。

 それが、今は伴侶としてでなく王冠を手にできる。いや、知らないうちに持たされていたことを知っている。


「もういらないわ。

 ミリアルドはもういないのだから」


 執着も恨みもミリアはいらない。

 奪われたら固執するのではないかと思っていたことを再び手にする機会があっても、軽く捨ててしまえるのは一人と一匹のおかげだ。

 それがなくても、できることはある。何も持たないミリアを認めてくれる人は思ったよりもいるものだと教えてくれた。


「じゃあ、まずは、あのじいさんを片付けて話をつけてからかな。一応、みんなの安全は確保されていると思ってるから急ぐ必要はないと思うんだけど……?」


「どうしたの?」


「あー、なんでもないって。うん、ちょっと、王様無事かなーとか思ったりしたけど大丈夫だよね?」


 二人と一匹は顔を見合わせた。


「確かにシリル殿下も陛下もまずいわね。便乗して他国から暗殺されそう」


 ミリアは顔をしかめた。普段なら精鋭の護衛がいるので問題ないと思うが、今は近衛の裏切りがあるというならば話は別である。隠れて護衛しているものもいるがそちらも安全かは不明だ。少なくとも、ユークリッドほどの者はいない。

 普通に過ごせる場所ではない。そう認識しているはずなのにナキが指摘しなければ、王の安全を全く考えもしなかった。まるで、考えからそれるように誘導されているようで気味が悪い。


 王太子については、会いたくない、関わりたくないと避けたい気持ちがある。そのせいで深く考えていなかった。

 ミリアの心情的には見捨てたいほうに傾いている。きちんと守られているはずの相手であるので不要な心配だと切り捨ててもいいのではないかと。しかし、なにかあった場合確実に面倒なことになることを思えば様子見をしに行くが正解のように思える。


「仕方ないわ。ナキもクリス様も手を貸してくれる?」


「気は進まないけど、国が荒れて困るのは国民の皆様だから仕方ないなぁ。

 あとでさ、王位返上してもらいたい。役に立たない王様、いらなくない?」


「どちらかというと妻の不調に動揺している宰相のほうが問題よ」


「そっちはなんかわかる。

 俺もミリアが死ぬかもとか言われたら仕事投げ出す。もう他のことも勝手にしてくれって感じ」


「……そ、そう。そうね、周囲に迷惑かけるけど確かにね。私も投げるわ」


「順調に重くなっておるのぅ……」


「いわないで。自覚してる」


「ええ、もうお花畑がね」


 二人と一匹はしばし沈黙した。別の意味でこんなはずではなかった結果が今の状況である。不満はないが不本意で時々頭を抱えたくなる。


「さて、行くかのぅ」


 何事もなかったように白猫は先に扉に向かった。

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