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婚約破棄された令嬢とパーティー追放された冒険者が国境の隠者と呼ばれるまでの話  作者: あかね
聖女と隠者と聖獣

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白猫は自由である 3

 気晴らしにと敵情視察さんぽをしてくると言いだしたナキに白猫はついていくことにした。敵情視察さんぽとは穏やかではない。事前にある程度、内部構造は確認済みではあるがナキは実物を見ないと安心できないタイプである。


「どこにいくのかの」


 廊下の端で立ち止まったままなので白猫はそう尋ねた。体感で五分ほどはなかなかに長い。目をつぶって眉を寄せているのでよりなにをしているのかわからない。見ようによっては体調不良に見えるかもしれないが、朝の二日酔いは既に治っているようだ。


「どこに行くのかときいているのだが」


 待っても返答がないので白猫はたしたしとナキの足を叩いた。ナキは片目だけを開けて白猫を見下ろした。

 白猫はナキがあれ、いたっけと呟いたのをしっかりと聞いてしまった。


「あ、うん。ごめんごめん。

 行き先だよね。庭。庭かな?」


 白猫の機嫌が悪くなったことを察したのか慌てたようにナキはいう。そのまましゃがんで白猫を抱き上げる。その最中も片目は閉じたままだった。


「なんじゃその曖昧なのは」


「探知のスキルの試運転。UIが良くない。俯瞰より地図上の点のほうが」


「以前のとは違うのか? あれも個別認識くらいできたであろう?」


 ナキが言うには探知は誰かが近くにいるか調べる程度の能力しかない、らしい。常時起動であればもう少し違うらしいが、地図系スキルと一緒じゃないと役に立たないとかなんとか。

 白猫は、あっちに知り合いがいるかも?能力じゃのぅと言ってナキを絶句させていたがそんなことは忘れていた。


「レベル上げて、地図系も入れたんだけど、こう、画面上に文字が重なって色被りしてよくわからないというか。相当慣れないと常時起動できないな。まともに歩ける気がしない。

 こんな使いにくいなら練習しとけばよかった」


 ぼやきながらも今度は両目を開けてナキは歩き出した。


「そこまでする必要があるのかの?」


「ミリアの位置確認できるかなって」


「すとーかーか」


「安全確保のためだよ。後で消すし。効率悪いし、見えると気になる」


 渋い顔でナキは言うが、どうだかと白猫は疑っている。その疑いの眼差しにナキはたじろいだようだった。


「ほんとだって。これで経験値相当食ったし、レベル下がってる」


「なにがそんなに食っているのだ? だいぶ整理したであろう?」


「魅了耐性(大)」


「うむ? 聞き間違いか?」


「いや、だから魅了耐性。

 ミリアの心配が本気すぎるから一応ね。俺はそんな気一切ないけど、あれは精神異常だから絶対大丈夫とも言えないし」


「……うむ。確かにのぅ」


 そんな話をしながら、城の中を抜け裏口から庭に出る。

 ナキは再び目を閉じて眉間に皺をよせていた。


「あー、ぐるぐるする。どっちにしようかな」


「どっちって?」


「キエラとユークリッド。んー、ユークリッドのほうは城に戻るっぽいな。キエラのほうにしよう」


 あっち。と言ってナキは歩き出す。白猫は腕の中から肩へと移動する。屋外の場合、ナキがいきなり走り出したりすることがある。その場合、猫だからいいよねと言わんばかりに放り出されることもある。それくらいなら肩にひっつかまっていたほうがましである。


 んーこっちも行き止まり? マッピングどうなってんのとぼやくナキの肩で揺られ庭の奥へ奥へと進んでいく。

 最初は人を見かけたが段々いなくなっていき、最後には人っ子一人見かけなくなっていた。


「いた。こんなところでなにしてんの?」


 古びた門扉と大人の背丈ほどの生垣に囲まれた庭の一つにキエラはいた。人が通る分だけ草が踏み分けられて道になっているが、それも最近のもののようだった。

 さっきも来たばかりなのだが。そう思いながら白猫はひょいとナキの肩から降りた。先ほどと違うのは、掘り起こされた地面があるということだろう。


「いやぁ、さすがにこうなってるとは予想してなかったんだわ」


 ナキの声にキエラは困惑したように振り返る。手元に何か光るものを持っていた。


「遺物発見しちゃった」


「いぶつ?」


 首をかしげるナキと白猫に息ぴったりだねと言いながら、彼女は立ち上がった。片手で膝の汚れを払う。その指先は泥で汚れていた。


「関係ないかなと思って話してなかったんだけど、陰謀策略色強めの話だったんだけど」


「いきなり話始めるのやめてくれる?」


「ああ、ごめんごめん。ルー様のお話。

 三年後に火を噴く時限爆弾っていうの? 国成り立ちにかかわったものが、王位継承時に必要なんだけど、五つあるうちの三つを見つけるっていう試練がね、あるみたい。普通は宝物庫に三つ保管しているからなにかすることもないんだけど、なんと、一つしか残ってない」


「管理がどうなってんの?」


「十数年だか二十数年だか前に怪盗というのが出没して、その対策としてあちこちに隠したっていう話。その話も二十年前くらいのごたごたでうやむやに」


「ごたごたが二十年前なら怪盗騒ぎは二十年以上前だろ」


「あ、そうだね。ものすごく、動揺しててね。残り一個、見つからなかったもんを最初に見つけるとか場所が因果がかかってるというか」


 キエラはあたりを見回していた。

 ナキもつられたようにあたりを見回しているが、庭というには荒れている程度の認識しかないだろう。白猫も王城には似つかわしくない打ち捨てられた場所という印象しかない。表側の冬でも整えられたものと比較すれば。


「で、ここなに? 荒れ地にしか見えないけど」


「お墓」


「え」


「ミリアルドの母、フィラーナの墓。本当は、ここ、ミリアルドの墓の予定だったんだけど。ナキと話をしてて、なにもないよねぇと不安になってきてみたらこんな風だったと。

 本来は、貴族の奥方として丁重に埋葬されてるはずなの。現状を考えると予想できたはずなんだけど、ものすっごいショック」


 はいこれ預かってとキエラはナキに遺物を渡す。

 え? いや、これいらないとぼやいているナキを放って、キエラは地面の穴を埋めだす。


「きらきらしてるのあるなぁ、遺品とか? と好奇心を持ったのがいけなかった」


 キエラが真面目にそう呟いているのを白猫は見守る。ナキは、あれ? これ似たのがと呟いていた。

 短時間で埋めなおし、キエラは墓標に向かって頭を下げた。


「お騒がせしました。心残りはあると思いますが、黄昏の国でお待ちください」


「……穏やかに健やかにお過ごしください」


 ナキも神妙な顔でキエラに続いて祈っていた。

 信仰上の話をすればこの地域では死後は地下の暗き国で生きていることになっている。実態は魂はすぐに再利用されるのだが。

 白猫はそんな野暮な話をする気はなかった。


 そのナキを意外そうにキエラは見ていた。


「死後の世界なんて、非現実的とか言いださないの?」


「もう三年もいればその場に合わせて振舞うくらいする。

 それに、ミリアのお母さんだろ。祈りくらい捧げる」


「……ついでに、娘さんを幸せにしますとか内心思ってたりして」


「……。

 ところで、この遺物、どうすんの?」


 ナキは露骨に返答を避けたところで図星であったと推測される。キエラはにやにやしながらも指摘はしなかった。へそを曲げられると困ることでもあるのだろう。


「預かってて」


「なんで、俺が」


「王権から遠いし、いざとなれば西方のお方に預けてくれればいいよ。

 これはユークリッドには秘密ね」


「どうして?」


「意外と姫様に甘いから、かな。あと、やっぱりね、帝国の人なんだ。自らの都合の良い夫に授けてしまうかもしれない。その点は信用が置けない」


 ナキもそれに思うところがあるのか、渋々魔法袋に入れていた。


「さて、何か用があったわけ?」


「探知の練習で探してみた。視界と地図が重なって気持ち悪い」


「それって、外部出力できないわけ? ほら、なにかの板とかに」


 キエラの指摘にナキはぱちぱちと目を瞬かせて、ポンと手を合わせていた。そして、顔をしかめている。最初から設定だせよと独り言を言っているので、なにか見つけたのだろう。


「スキルコレクターの異名に違わずでたらめな能力ね」


「先読みができるというよりは普通だと思うよ。全く使いこなせてないし」


 そういうナキにキエラは薄く笑った。


「未来を変えるなんて、最悪を避けるつもりで地獄を呼び込むかもしれないってわかったら怖くて手出しなんてできない」


「どういうこと?」


 怪訝そうに尋ねるナキになにか言おうとして、キエラは口を開いて閉じた。そして、墓標に視線を一度向ける。


「ん。ここでする話じゃないから、外で」


 そう言ってキエラはこの荒れた庭を出ていった。

 白猫は思案しているナキに声をかけようかと思ってやめた。


「季節外れかもしれないけど、誰も来ないからいいよね」


 そう言って、花束を一つ取り出した。ナキはそれをそっと墓の前に置くと手を合わせた。


「また来ます。今度は、ミリアも一緒に」


 ナキも庭から出て、門を閉ざした。あるはずのない鍵をかけてしまうくらいに念入りに。

 キエラが面食らっているのを見て、ナキは苦笑する。


「遺物をそこに置いた人が探しに来て、あちこち掘り返すかもしれないだろ」


「あ、そうだね。配慮が足らなかったよ。ごめん」


「それはいいけど、さっきの話って?」


 キエラは少し、迷うように視線をさまよわせてから口を開いた。

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