クビ宣告された彼。
ナキは、どこか別の世界で生まれて、死んだ記憶がある。そして、なぜか元通りの姿で異世界にいる。
なぜ異世界か。彼のもともと住んでた世界には少なくともモンスターはいない。遠い未来の話という線もないようだと首をかしげる。
誰か説明してよ。大草原に一人突っ立ってるのってなんの罰ゲームだったの? という彼の問いに答えてくれる超越者はいなかった。
よくわかんないままに冒険者登録から、初心者だとカモにされこき使われて死にそうな目にあった。まあ、それも二年も前のことだ。若かったと遠い目をしたくなる黒歴史だった。
途中で、猫もどきを拾い猫連れの冒険者となったのは想定外だったが、それなりにやっていた気がしていた。
しかし、ナキのたいして楽しくない冒険はこう幕切れする。
「おまえ、もうクビ。役立たず」
そのうんざりしたような顔にナキは慣れた。でも、やっぱり傷ついた気もする。
パーティーのリーダー役をやっているフィルは何かとナキに当たりがきつい。ならば、メンバーから外せばよいものを未だ残している。
冒険者というのは、その仕事にあわせて人を募集する場合と常に同じ人間が揃って仕事をする場合がある。
ナキがいたのは、常に同じ人間が集まり仕事を請け負ういわゆるパーティーを組んでいた。
パーティメンバーの年は二十代そこそこ。実力は中堅に片足をつっこんでいるという程度だが、年のわりには有能と評判ではあった。前衛2人に後衛2人、その中間にナキ。
実戦や仕事自体には関わらないその他諸々の雑務をしてくれる1人を加え、6人で今のところ仕事に関してはうまくいっていたはずだった。
まあ、見ない振りしてたのはよくなかった。ナキはちょっと反省している。しかし反省してもどうにか出来たような気はしない。
なぜなら原因は。
「あ、そ、そのぅ、ごめんなさい」
とか言い出す新入りが入ってきてからだから。
数ヶ月ほど前、ナキのパーティーの雑務をしてくれていた人が、膝をやってしまって冒険者引退と言い出した。中年のおじさんで、よい具合に若者への仲裁役になってくれていた。
同様におじさんがよいと思ったのはナキだけだった。癒し、潤い、女の子、なんて要望で、代わりに入ってきたかわいい女の子。ナキにはおどおどしているようで、ちゃっかりしてるなと思った。ふと気がつくと彼が雑用をやることが増えて、おやおや、と思っている間に個人間がぎすぎすし始めた。
ちなみに彼女はナキの趣味ではなかったので、良いところを見せようとか、奢ろうとか貢ごうとか一切しなかった。それも色々押しつけられた一因であることを彼は気がついていない。
痴情のもつれってやーねーと呟いてもどうにもならない。
彼女にはここで良い冒険者を夫にしてその金でくらしてやろうという魂胆は多少はあったんじゃないかと思っている。
こんなときに婚活するなとナキは言いたい。おかげで死にかけた。
彼女に苦情を申し上げたらば、雑用が倍増した。
え、なにこの罰ゲーム。最終的に会計とかバカにしてんの? と怒りがこみ上げている途中だった。
だから、ある意味ナキにとっては渡りに船だった。
「了解。じゃ、これだけ返す。装備品は個人所有、備品も僕のものは僕のもの。契約にあるとおりだから、異議申し立てはギルドへどうぞ。読めるかわかんないけど、今までの資金運用の履歴はこっちね。写しは常にギルドへ報告しているから、不正はないことは保証するよ」
世知辛くも冒険者にも税金はかかる。かからない国も有ると聞くが、代わりに保証などが違うらしい。
それはそれで胡散臭いとナキは思うが、今のところは実害は被っていない。
そもそもこの国の冒険者ギルドの運営元が国だ。国家経営なのだから、納税くらいさせるだろう。冒険者ランクすら、納税が前提となっている。
故に収入、支出の管理が必要となり報告も必要だった。それなりに頭も必要で普通の冒険者には荷が重い。結果、雑務担当を雇うのが必須となる。
怠れば追徴課税と言う怖いヤツがやってくる。
税額倍、装備差し押さえ、強制依頼など怖い噂がいくらでも飛び交っているが、興味がなければ知らないままだろう。
ナキが財布の入った袋ごと放り投げるとぽかんとした顔をしてリーダーが見返していた。
嫌だとか言うとでも思ったのかな? まあ、よいけど。
あっさりと見限ってナキは逃げ出すことにした。
「じゃっ!」
彼は足早にギルドに向かって、パーティ脱退手続きをする。終わった頃には夕方に差し掛かっていたけれど、荷物をまとめて町を出てきた。
他のメンバーは別行動していたため、いなかったのだ。おそらく、あれはリーダーの独断だろう。ナキがいないことの不利益に気がつき、戻るように言われる前に逃げるに限る。
それに1人ならば、野宿も困りはしない。
暗くなってきた街道に1人と一匹が取り残される。
「さあて、相棒。どこに行こうか」
どこからか現れた白い毛並みの猫はにゃあと鳴いた。