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ピンポン

 「フフフ、ひゃーはっはぁーはーはっはー、ふぅーふー」


 「……」


 隣の家に住む聡子がこの上ない笑顔で笑った。僕が間違って同じ巻の漫画を間違って買ってしまったことを話したら、聡子はお腹を押さえて笑った。


 何がそんなに面白いんだろう、僕が聡子に同じことを話されても、僕は笑うとしてもそこまで笑わない。聡子のツボが分からない。なぜか聡子だけは僕の何気ない話で笑う。


 小さい頃は嫌だった。何か、馬鹿にされているような気がして。だから、内心聡子のことが少し苦手だった。小学校の頃は、聡子に笑われると、どこかむかついて、なんで笑うんだよと問い詰めたが、だって(たける)面白いんだもんとそんな僕には不透明な答えが返ってきて、いつ聞いても同じ答えが返ってきて、もうどうしようもねぇと。何がそんなに面白いんだとその後も言ってはいたものの、何が分かるかどうかはもはや考えていなかった。


 中学校に入り、聡子も陸上部に入り、朝早い時間に登校し、日が暮れてくる頃に下校する聡子と、帰宅部だった僕とは同じ学校に通っているものの生活リズムがまるで違って、僕が知らない聡子の友達も増えて、聡子と話すことは自然と減った。とても近くに住んでいるのに、どんどん聡子が離れていくように感じた僕は、聡子とどうしたらもっと話せるようになるのだろうと考えるようになり、その時、僕は僕が聡子を好きになっていたことを知った。


 なんで僕は聡子のことが好きになったのだろう。なんで聡子は僕の話を楽しそうに聞いてくれるのだろう。全て理由があるようなのに、僕は僕自身の事さえ分からなかった。ただ、聡子とまたしゃべりたかった。


 そう思って数日後の日曜日、意を決して僕は聡子の家のインターホンのスイッチを押した。


 「どうしたの?」

 聡子の声がインターホンから響く。

 「えっと、あの、来週から、一緒に登校しない?」

 「ちょっと待って。ドア開けるから」

 「あ、うん」

 聡子が扉を開けて出てくる。

 「いいよ。ただ朝早いけど大丈夫?」

 「うん。朝早いのは知ってる」

 「そっか。じゃあ、明日からだね」

 「うん。よろしく」

 「でも大丈夫?いきなり早く起きられる?」

 「うーん。多分、大丈夫だと思う」

 健は根拠の無い返答をした。

 「ふふ、今適当に言ったでしょ」

 聡子はいつもの笑みを浮かべた。

 「……はい、その通りです」

 健は堂々と自供する。

 「まぁ起きられる時でいいから一緒に登校しよっか」

 「うん。そうしよう」

 健は代案を立てる間もなく同意した。

 「でさ、どうして一緒に登校したくなったの?」

 「どうしてって……したくなったから」

 「そう。でも一緒に登校してたら付き合ってるとか思われるかもしれないよ」

 「付き合ってないんだからそう思うならそう思わせとけばいいよ」

 「ふーん」

 聡子はニヒルな笑みを浮かべた。健はなんとなく追及を避けた。

 「じゃあ明日七時十分に家の前で集合でいい?」

 健は一瞬不安になった後、良いよと告げた。


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