NG集
※ ※ ※
【side:キャロ】
キャロットル・オールオレンジは死に戻る。
戻る際の時間軸の指定は自由、消費魔力なし、記憶は引き継ぐが脳内メモリも問題なし、精神および肉体の摩耗もなし。
ただし――難易度:ルナティック
誰か一人でも死んだら姫が死んで、姫が死んだらみんな死ぬ。
しかも仲間というには誰も彼もが協調性のない奴らで、それぞれがそれぞれ暗躍や改竄などのスタンドプレイを行う。
そしてバタフライエフェクト。
歴史の修正力を凌駕するがゆえの強力な呪いのため、何も知らないキャロと、Aルートを知っているキャロと、AとBを知ってるキャロと、AとBとCを知ってるキャロではたとえ同じ行動をしても、どこかでずれが生じる。
ミリ単位で身の振り方を同一化させることは人間には不可能だ。
そしてそのずれは何も起こさない時もあれば、驚くほどの差異を作り出す時もある。そして大抵死ぬルートに繋がる。
ただでさえ綱渡りなのに、綱の強度と長さは毎回異なる。
死に戻りは強制的に起こる為、適当に過ごしていたらいつまで経っても時間軸が進まない。
キャロの目下のところの目的は寿命まで生き、そして死ぬことだった。
ただし、寿命で死んだら戻らなくて済むという保証もない。
呪いの内実なんてものは、それを施した側が教えてくれない限り、知る方法はない。
そもそも、基本的にこの世界における呪いとは普通に過ごしていたら罹るものではないし、
どころか、伝説の勇者でも掛けられたことなく生涯を終えたし、魔王あたりですら扱えるものではない。
兎魚区の可愛らしさを呪いに例えたのは、彼らにとってその可愛らしさがそれくらい恐ろしいものだったからだ。
にも拘らず、キャロは現在、純粋なる二種類の呪いの所持者だった(しかも一種類は三項目もある)。
恐らく、この世界史上初の存在である。
勿論、悪い意味で。
閑話休題。
ともあれ、今件における最初の死に戻りは、クラスが暗躍して山椒魚を殺したことがカルツにばれてクラスが死んだことだった。
カルツも馬鹿ではない。
次の日に討伐される予定の山椒魚を気にしないはずがないのだ。
一人が死ぬと全員道連れ。
そうして、クラスが死んだことによって姫が死に、姫が死んだことによって死んでから、時間軸は兎魚区殲滅前に戻る。
「面倒っすねー。クラスの暗躍は止めにくいんすよねえ」
一人ぶらぶらと街をぶらつきながら、キャロは呟く。
呪いと一緒に、普通では考えられない時間を戻ったりして過ごしたキャロにとって、姫への影響範囲は感覚的に分かるようになっていた。
今日はこれくらい離れてもそれほど姫に影響もないだろう。
「さて、珍しく一発で通過できたと思ったっすけど、あにはからんや、こういう場合は大抵こっからが面倒なんっすよねー」
あちらを立てればこちらが立たず。
成功させるために道筋を変えるのではなく、成功を変えずに道筋を変える必要。
とりあえず次に試したのは山椒魚を移動させることだった。
兎魚区からできるだけ離してから合流。
クラスに暗躍させないためにまず最初に取った安易な方法だったが……
「これは予想外、いや、予想以上っすね……」
結果から言うと成功した。
成功したら地獄だった。
最初の時と違い、なぜか周辺国が経済的・社会規範的・心理的に衰退し、自殺者が増えたのだ。
キャロは知るよしもないが、山椒魚を殺すことでリソースを消費した前回と違い、兎魚区の"罪悪感"が暴走した結果の今回だった。
対象の魔力回路で増幅して、概念生物と呼べるほどの山椒魚すら殺せるほどの罪悪感。
それを魔力回路のない姫様が消し飛ばしたせいで、矛先のなくなったそれらは、周辺に薄く散布された。
結果、周辺国で薄い絶望感が蔓延した。
理屈は分からなくても経験則から山椒魚の討伐は必須項目だと判断したキャロは、別の手を考える。
そして試し、駄目なら別の手を考え、あるいは同じ手を五分遅れて試したりもする。
トライアンドエラーに次ぐ試行錯誤。
結果、最終的な身の振り方を大まかに言うと、
・山椒魚の討伐の邪魔はしない
・遅れて到着
→どういう因果か、こうしないとカルツの魔法陣から排出される鞄がキャロの近くに吐き出されない。
・遅れて到着するまでの余剰時間で無性症の兎魚区を一匹捕まえておく
・フライング気味の魔力注入
→どういう因果か、こうすると姫さまがくしゃみをする
→これによって兎魚区の全滅と山椒魚の死のラグがほぼなくなり融合体が生まれやすくなる
・シロが索敵する直前に、兎魚区を姫さまの鞄に放り込む
こうすると、融合体にカルツが興味を示し、かつ山椒魚が死んだ事実を隠さなくてすむ。
クラスが死なず、全滅をかいh――
※ ※ ※
「あ」
姫さまに融合生物がかする。
こうして、彼らは互いにすれ違いながら、違っても噛み合いながら、共に行動を続ける。
呪いの解けるその日まで。
呪いの解けるその日まで、
全滅してもやり直し。