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挫折

 

 フィッシュサンドを頬張りながら、虎門はヒカリから渡された資料に目を通す。数枚しかないが、貴重な情報源だ。

 中に記されているのは、雷導に記録されていた映像から予測される機体スペックなど。ここからいくつか対策を立て、ヒカリや天間、この基地の司令官と相談するつもりなのだ。

「……はは、俺も大概最低だな」

 先程相談する相手の中に、本来真っ先に話し合わなければならない隊長は浮かんでいなかった。

 口にこそ出していないが、理由は概ね流星と同じだ。


 今のままの衣月では、戦えという方が酷というもの。まだ若い兵士を精神的に追い込み、再起不能にするのは惜しい。

 だが流星のやりたい事も虎門は理解していた。彼はある意味、あの中で彼女の事を一番考えている。あのまま周りが過剰に庇い続けても逆効果だ。戦う事を放棄する可能性だってある。


「…………んで、どうすればいいのか分からないからどっち付かずの俺は何も言わずに見物、か。副隊長失格だなこれは」

「そんなに自分を卑下したらいけませんよ」

 と、隣に女性が座る。

「お、ヒカリちゃん。今日も一段とお美しい」

「もう私は27歳ですよ」

「関係ないって。で、どうしたのさ?」

 ニヤニヤと笑う虎門に、ヒカリは苦笑いを浮かべて話し始める。

「流星の事で、少し……」

「あぁ、彼奴が何か?」

「あの性格だから、彼、すぐ孤立してしまうんです。前の部隊にいる頃からそれを見ていて、今度こそ馴染んで欲しいと思っていたのに……はぁ」

 溜息をつくヒカリを見て、虎門は微笑ましい光景を見るように笑っていた。

「本当ヒカリちゃん、仙郷の姉ちゃんみたいだよな」

「そう、ですかね……私はちゃんと彼のお姉さん、出来てるんですかね……?」

「……なんか悩んでる目してる」

「え?」

 突然核心をつくような言葉をかけられ、手に持ったコーヒーカップを落としそうになる。だが先程とは打って変わり、それを見ても虎門は笑ったりはしなかった。

「ヒカリちゃん、あんまり溜め込みすぎないでさ、俺とか天間とかに愚痴をぶつけても良いんだぞ? 衣月とか翔華とか、仙郷に聞かせるのが嫌ならな」

「そんな、お二人に悪いですよ」

「良いんだよ別に。副隊長が良いって言ったんだ。隊長がダメって言わない限り良いんだよ。…………だから潰れちまわない内に頼ってくれよ」

 優しく肩を叩き、虎門は席を立った。

「仙郷の事なら任せとけ……って断言すんのは無責任だな。まぁなんとかやってみるさ」


 去っていく後ろ姿を見送りながら、ヒカリはカップに口をつける。

 とりあえず今は、衣月のフォローが優先だ。



 周りを見回すと、少し離れた場所で人集りが出来ている事に気付く。

 その中心では、翔華が複数の男女と言い争いをしているのが見えた。




「お前達の隊長の指揮がなってないせいでうちの部隊に死人が出たんだぞ!! 責任とれよ!!」

「何でそうなるのよ!? やったのはナンバーズじゃない! 衣月は自分が囮になってーー」

「でも失敗したんでしょう? ならそんな指示を出した人が責任を取るべき。何か間違ってる? 桐城衣月隊長?」

「そうだよなぁ? どう責任取ってくれるんだろうなぁ?」

 怒声を上げる人間、嫌味を言う人間。


 どれだけ翔華が衣月を庇っても、それに被せるように罵声が降りかかる。

 そして何より、衣月本人が弁明しないのだ。


「…………」

「だんまり決め込むなよ桐城!!」

「大体あんた、何で隊長に選ばれた訳? 普通副隊長だった虎門さんじゃないの?」

「裏でコネでも作ったんじゃないの? ほら、顔だけは割とーー」

「っ!!」


 耐えきれなくなったのか、衣月は耳を塞ぎながら走り出した。


「衣月!?」

「おい逃げたぞ!!」

 それを見た数人が後を追う。



 ヒカリもすぐさま走り出す。このままでは本当に衣月が壊れてしまう。



 衣月は脇目も振らず走り続ける。全てから逃げ出したかった。



「きゃっ!?」

 その時何かにぶつかり、廊下に倒れる。ゆっくり目を開くと、そこにいたのは衣月が最も恐れている青年だった。

「あ…………せ、仙郷、君…………」

「…………何だこの騒ぎは……」

「おい、いたぞ!!」

 後ろから更に大人数が詰め寄る。地面に腰をつけたまま耳を塞ぎ、衣月は凍える小動物のように丸くなる。


「お前、第二部隊の奴だろ。あんたも何か言ったらどうだ、あ?」

「何かしたのか、こいつが」

「知ってるでしょ? この人の指示のせいで死んだ仲間がたくさんいる。責任を取ってもらいたいのよ」

「…………はぁ」



 流星は溜息を吐くと、呆れた様な視線を彼らへ向けた。


「くだらない、人が死んだくらいで騒ぎやがって」


 そのあまりにも冷徹な言葉に、その場にいた全員がたじろぐ。そんな事を意にも介さず、流星は続ける。

「お前らもこいつと同じだ。戦うっていう事の意味を何にも考えていない。……次死ぬのはお前らの番だぞ」

「好き勝手言いやがってっ!」

 一人の男性が前に出る。だが流星の目を見た瞬間、寒気が走った。


 目の冷たさ。まるで生を感じないほどに冷え切り、乾いた眼。死神と相対している様な錯覚に陥り、言葉が出ない。




 その時、基地の中に警告音が鳴り響く。


 [領海上に所属不明機の反応を探知! 以前交戦した機体と思われる! 速やかに戦闘態勢に入れ! 繰り返す、直ちに戦闘態勢にーー]


「ちょうど良かったな。行ってこいよ。お友達の、仇討ちに」

 踵を返し、流星は去って行った。呆然と立ち尽くしていた者たちも、慌ただしくなる基地内の空気に当てられ、すぐに格納庫へと駆け出して行った。



「うっく…………う、うぅ…………」

 敵が来た。

 戦わなければならない。また、戦わなければ。


「衣月ちゃん! 早く移動しなきゃ、衣月ちゃーー」

「嫌ぁ!! もう嫌……私……私……!!」

 泣きじゃくり、立ち上がろうとしない衣月。


 ヒカリは嫌がる衣月を抱き起こし、医務室へと連れて行く。

 流星に何か文句を言われそうだが、そんな事を言っている暇はなかった。




 続く

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