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失意の瞳

 

 ゴルゴロスに三機が着艦する。


 その様子を見つめる一人の青年の姿があった。


 その表情はいつもの様に微笑のままで。



「七海、お兄ちゃん…………」


 弱々しい声が青年ーー七海(ななみ)空哉(くうや)を呼ぶ。振り返るとそこには、小さな少女が立っていた。



 ボサボサの長い髪。年齢を考えても小さ過ぎる体躯、痩せ細った手足。

 その顔は笑っていたが、目に光は無かった。


 七海は彼女に優しい笑みを返す。

「やぁ、零奈ちゃん。お仕事お疲れ様」

「うん…………ありがと…………」

 もじもじと体を揺すり、照れる素振りを見せる。少女ーー神剣(かみつるぎ)零奈(レナ)は七海に駆け寄ると、甘えるように擦り寄る。

「たくさん、やっつけた…………」

「どれくらい?」

「えっと、一、二、三…………?」

「うんうん。偉い偉い」

 優しく頭を撫でると、気持ち良さそうに身震いする。その動きも相まってまるで小動物のようだった。


「それじゃあ、僕は大事なお話を皆としてくるよ。お部屋で留守番していてくれる?」

「うん…………あ、その前に」

 神剣は手を合わせ、七海に乞うような仕草をする。



「お父さんとお母さんと、お兄ちゃんと一緒にお話ししてからで、いい?」

「あぁ、もちろん」


 七海が頷くと、神剣は嬉しそうに笑う。



 そして、着艦したばかりの三機、そして元から待機していた機体の前に座り込んだ。

「今日は、楽しかったね、お父さん、お母さん。たっくさんやっつけたもん。…………お兄ちゃん、ヤキモチ妬かないでよ。次は皆一緒に行こうね。フフフ」



 決して、遊んでいるわけではない。


 今彼女は正真正銘、家族と会話しているのだ。そう、自らが操作している四機のSW、それらを家族と思い込んで。



「咲宮君亡き今、彼女の力は必要だ」

 SWを同時に四機まで操作出来る類稀なる才能。世界に棄てられた神剣と、同じく廃棄の道を辿る運命だったSW達と出会って芽生えたもの。


 そして彼女もまた、あの事件で人生を歪められた人間の一人。



 運命とは、数奇なものだ。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ナンバーズ襲撃から一週間。

 この間、基地は騒然としていた。圧倒的な力を持った機体が、千歳基地に狙いをつけている。この事実を突きつけられた上層部はようやく事の重大さに気がついたのか、軍備の増強について各方面と掛け合っているらしい。



 間近で交戦した第二部隊にも、事情聴取が行われた。


「これは、仙郷少尉の機体レコーダーの記録を解析したものだが……」

 仏頂面の男がモニターを指差すと同時に写真が浮かび上がる。



 それは銀色の装甲を持つ、あの巨大な腕のナンバーズ。そして異形の頭部を持った青いナンバーズだった。



「単刀直入に聞こう。このSWと戦って、どうだった?」

「どうだった、と聞かれましても……」

 尋ねられた第二部隊の面々は首を傾げる。ただ一人、流星を除いて。

「仙郷少尉、君はこの二体と相対したのだろう? 何か感じなかったか?」

「…………まず、俺が感じた事は」

 流星は写真を見てポツポツと話し出す。


「奴等の戦い方だが、かなり単調だった」

「単調?」

「少なくとも戦い慣れてない。こっちの挑発に簡単に乗せられたり、力任せに戦っていたり……明らかに戦意を失った奴を狙ったりな」

 視線が一瞬だけ動く。その先にいた衣月を庇うように、翔華が睨み返す。

「それともう一つ、あの機体からは殺気らしいものが感じられなかった」

「何? どういう事だ?」

「そうだぜ仙郷。奴等は本気で俺達を殺しに来てただろ? なのに殺気が無いってのは……」

 男と虎門から疑問の声が上がる。すると流星は小さく溜息を吐き、なんとも言えぬような表情で話し始める。

「言い方を変えるか。奴等の動きは何処か、機械的だった。まるで、誰かが遠隔で操作しているかのような……」

「馬鹿な。君はナンバーズがラジコンか何かみたいに動いているとでも……」

「ありえない話ではない、と思うわ」

 その時、調査室のドアが開き、ヒカリが姿を現した。


「何しに来たヒカリ」

「いや、私が呼んだのだ。腕利きの整備士の意見も聞きたかったのでね。……それでヒカリ氏、君は少尉の意見を正しいと?」

「確証はありません。ですがあの距離からの狙撃、それにレコーダーに記録されていた、雷導の一撃を防いだ反応速度……有人機ではかなり無理がある機動を行なっています」

「無人機……」

「いずれにしても正体を明らかにするには、レコーダーに映っていた二機の内いずれかを鹵獲するのが確実かと」

 ヒカリの発言に、翔華と天間は渋い表情になる。自分達ではまるで歯が立たなかった相手を鹵獲出来るのだろうか。そんな気持ちで満ちていた。

「鹵獲、ねぇ。策はあんのかい、ヒカリちゃん」

「それはこれから考えます。ですが戦術を組み立てる上で貴方達の情報が必要になる。だから今後も分析を進めーー」



「ヒカリの方が、余程隊長に向いてる気がするな」



 話を遮るように発せられた流星の言葉で、その場の全員が黙り込む。翔華、天間、ヒカリから厳しい視線が、虎門から興味深そうな視線を向けられる。

 だが流星の視線はただ一人、衣月の方を見ていた。


「お前も見たんだろう、ナンバーズの戦いを、二回も。目の前で戦って見てどうだった?」

「…………あ、え、と…………あ、あの……!!」

「皆で協力し合って戦うんだろ? なら何で隊長のお前が何も言わない、何も考えない?」

 流星は椅子を立ち、衣月の方へと歩み寄る。気迫に押され、衣月は座ったまま後ずさる。

 その肩を掴むと無理矢理引き寄せ、顔を近づけた。互の目に、互いの姿が映り込むほど。


「今のお前、死人と同じだぞ」


「衣月から離れなさいよ!!」

 と、後ろから流星を引き剥がし、翔華はその頬に平手打ちをする。甲高い音が部屋にこだまする。

「翔華さんのいう通りです! 幾ら何でも言いすぎだ!!」

「流星、衣月ちゃんを追い詰めるのはやめなさい!!そのままじゃ本当に、戦えなくなるわよ……!」

 非難の声にさらされる。しかし流星は応えたような様子はなく、その目は衣月から離れなかった。


「私は…………」

「……」


 やがて流星は踵を返し、調査室を出て行った。後に残った険悪な雰囲気はしばらく消えることはなかった。




 下を向いたまま歩いていく衣月。その半歩後ろを歩く翔華の表情も浮かないものになっていた。

「あのさ衣月、あんな奴の言うこと気にしない方がいいよ」

「……そうかな」

「そうよ! 仙郷は衣月の事、何にも知らないんだから!!」


 何も知らない。

 その言葉は衣月の心の奥深くに突き刺さる。


 何も知らないのは自分だって同じ事だ。隊長としての責任を、重圧を、何も覚悟しないまま、何も知らないまま隊長になった。

 だから今、こんな情けない状態になっているのだ。



「とにかく、あんな奴の事忘れて美味しいもの食べるよ!! ほら、私が奢るからさ!」

「……うん」

 こうやっていつも、作り笑いで誤魔化す。だから翔華にも伝わらないのだ。


 本当の自分の気持ち、不安が。





「もう! 何であんな事言うの!?」

 手に腰を当て、ヒカリは大きな声で叫ぶ。雷導の上で煙草を吹かす流星は気にも止めていなかった。

「衣月ちゃんだって必死に頑張っているのは、貴方だって分かってるはずでしょう!?」

「頑張ってるだけじゃ困るんだ。結果に現れなきゃな」

「はぁ……。前にいた部隊でもそうやって煙たがられてたじゃない」

 呆れ果てるヒカリの足元に煙草の灰が落ちる。


「そんな事を話しに呼んだんじゃない。ナンバーズについてだ」

「ナンバーズって……グラッパーとメビウスの事?」

「あ? 何だその名前は?」

「ナンバーズに付けた仮の名前。グラッパーが巨腕の方で、メビウスが遠距離機。それで?」

「何か分かった事があるか? 奴等の対策をーー」

「教えなーい」

「はぁ?」

 知らん顔をするヒカリに、流星は眉をひそめる。すると悪戯を思いついた様な笑みをヒカリは向けた。



「衣月ちゃんに意地悪する悪い子には、教えなーい」

「…………っ!!」


 歯噛みし、煙草を携帯灰皿に放り込む。


 前にいた部隊の時から、何も変わっていない。



 続く

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