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夜空の雷

 

 ナンバーズは海に落下する寸前でバーニアを吹かし、体勢を立て直した。そして自らの頭を踏みつけた無礼者を見上げ、睨みつける。


 《雷導》はそれに物怖じすることもせず、腰部からビームソードを二振り引き抜く。その刀身は通常のものより短いが、輝き、もとい出力は高い。


『そ、その機体は……』

「お前達はそこでボーッとしてる隊長連れて撤退しろ。いられると邪魔だ」

『な、何よその言い草っ!? あんた一人で勝てる相手だと思ってる訳!?』

「黙って失せろ」


 その時、ナンバーズが二振りのビームソードを携えて突進する。

 《雷導》は繰り出される一撃必殺の連撃を躱し、いなす。突き出されたビームソードを頬を掠める程の動きで躱し、反撃のビームソードを肩の角へ突き出した。

 当然、角はビームソードを吸収しようとする。そして刀身がスパークし、散らしたビームはナンバーズの頭部に降りかかる。

 顔を逸らし怯んだその隙にコクピット部へ蹴りを入れ、距離を取る。


 自らを見失ったナンバーズを挑発するようにビームソードを当てがい、火花を散らす。それに気づいて猛牛の如く突進するナンバーズを連れ、二機の距離は見る見るうちに離れていく。



「何よ、何よあいつ……私達があんなに苦戦した奴を…………」

「…………」

 衣月は何も言えない。

 あの二機の戦いに気圧され、恐怖し、操縦桿すら、まともに握る事が出来なかった。




 挑発に乗り、自分を追いかけるナンバーズを観察する。

 見たところあの機体は射撃兵装を搭載していない。あえて一定の距離を保って飛行しているが、ビームソードを携えたままこちらを追走している。

 するとナンバーズは徐々に距離を詰めてくる。決めに来たようだ。

「焦んなって」

 流星は速度を保ったまま《雷導》を反転させ、バーニアを噴射。機体がバックフリップする。ナンバーズはその動きを追いきれずにオーバーラン。《雷導》が背後を取った。

 《雷導》はライフルを抜き、ナンバーズへと発射。またしても肩の角がビームを吸収、霧散させる。それでも構わず撃ち続ける。


 すると、ナンバーズは振り返りざまにビームソードを一閃。ビームを弾いた。


「やっぱり無限に防げるわけじゃないんだな」

 ライフルを撃つ手は止めず、流星はまたしても急加速をかける。凄まじいGが襲い掛かるが、物ともせずにナンバーズの脇を抜ける。

 ただ鬼ごっこを続けているわけではない。

 流星が見ているレーダーには、別動隊の《燕》達、そして虎門が乗る《クロウ》の反応が映し出されている。

 通信の内容が正しければ、彼らはまだ正体不明のスナイパーと交戦している筈。


 遥か遠く、発射された光条を捉えた。



「行くぞ、バーニア焼き切れるかも知れんが覚悟決めろよ《雷導》!」



 《雷導》のバーニアの炎が、まるで火炎放射のように揺らめく爆炎へと姿を変える。速度は見る見るうちに上昇、空気抵抗で装甲の塗装が剥離していき、胸部、バックパック、脚部からの強制排熱で機体の周りが霞む。


 夜空を飛翔する姿は流れ星。


 スナイパーもそれに気がついたのか、ビームは流星へ狙いを変える。

 次々と放たれる必殺の光線を、彼は一瞬の光と直感で躱し続ける。


 目標の姿を視認した。


「獲った……!!」



 ビームソードを突き立てようとした時、切っ先は見えざる力に阻まれた。最高速度で突撃したおかげでビームソードは《雷導》の手を離れる。

 激突寸前で流星は機体を捻って回避。回転する機体を無理やり立て直し、逆方向にバーニアを噴射して停止する。


 改めて敵の姿を見る。


 レドームのようなものと一体化した円盤状の頭部、肩には二門のビーム砲が天に向かって伸びている。両腕から迸るプラズマは、シールドの様な半球を模っていた。装甲の色は青。


 青いナンバーズはまるで何かを隠す様に機体の位置をずらす。よく見ると背後にはもう一機いるようだ。


 赤いナンバーズも追いついた。二機は《雷導》を警戒するように睨み据える。

 出方を伺っているのだろうが、それは流星にとっても同じだった。ライフルを構え、仕掛ける機会を探る。


 しかしそれは、間に走ったビームによって水を差された。



『やっと間に合ったぜ! おーい、生きてる?」

「チッ、余計な事を……」

『え、何で!?』

 援護射撃をしたというのに舌打ちされ、虎門は困惑した。


 するとナンバーズは武器を下ろし、空へと飛び去っていった。その時一瞬、青いナンバーズの陰に隠れていた機体と目が合った。


 ドス黒い血のような装甲色、つるりとした頭部の中心で輝くゴールドのモノアイが《雷導》を睨んだ。


『撤退したのか?』

「見逃してやるって感じだな。奴等にとっちゃ挨拶代わりだったんだろ。舐められたもんだ……まぁ、仕方ないか」

 悪態を吐くように流星は吐き捨てた。ナンバーズに対してではない。



「指示を出せねえならともかく、突っ込んだ挙句に腰が抜けて戦えなくなるなんざ論外だ。なぁ、隊長?」



 《ハミングバード》に寄り添われ、運ばれる《劔》の中。


 自らの肩を抱いて震える衣月の心に、流星の言葉は槍のように突き刺さった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ありゃあ、これどういう事?」

 ヒカリは帰還したSWを見比べ、疑問の声を上げた。


 第二部隊の内、《雷導》以外の機体に目立った傷はなかった。ナンバーズと思われる機体との戦闘だ。もう少し損傷は大きいと予想していたのだ。


 整備橋の手すりに座り、煙草をふかしている流星の元に駆けつける。

「ねえ流星、何があったの? 《雷導》の塗装剥げとかバーニアが焼き切れかけてるのはいつもの事だよ? でも他のみんなのSWは……」

「さあな。あんたの腕とパイロットの技量が良かったんだろ」

 嘲るように鼻を鳴らし、同時に煙草の煙を吐き出す。するとヒカリは流星から煙草を取り上げ、彼の胸にある携帯灰皿に入れる。

「何があったの?」

 語気を強め、迫るヒカリ。流星は舌打ちすると、整備橋の手すりから離れる。

「ヒカリ、彼奴らは、第二部隊は過去にナンバーズと交戦したんだよな?」

「え? あぁ、そうらしいわね。猿ヶ森で、確か、5だっけ? それが?」

「そいつはどうなったんだ?」

「撃破されたわ。横須賀基地の、討伐部隊にね」

「…………」

 流星は苦い表情を浮かべる。

 となると、あまり彼らの情報はあてにならない。大方援護をした程度で、直接刃を交えたのではないのだろう。


「奴等から殺意は感じられなかった。あくまで効率的に、だが脅威と感じたものや戦意喪失したものを狙っていた。……分からない。奴等の戦い方は……」


 その時、整備橋に二つの足音が響く。



 そこには震える衣月と、厳しい表情を流星へ向ける翔華の姿があった。


「何の用だ」

「あんたに一言言いに来たのよ。…………二番隊から出て行って!」

「翔華ちゃん……!?」

 翔華の言葉に衣月は戸惑う。

 だが流星はその言葉を聞くと、小さく笑った。

「どうして俺が?」

「決まってるでしょ!! 勝手な行動して二番隊に迷惑かけて、衣月に酷い言葉をかけて!」

「お前にとっての酷い言葉は、事実の事を言うのか?」

「……っ!? 最低……!!」

「お前もお前だ。改修された機体の特性を掴めてない。《ハミングバード》が完成してしばらく経っていた筈だが……あれが全力なのか?」

「あんたねぇ!!」

「やめてよ二人とも!!」

 二人の喧騒は、衣月の叫びで静まる。

 周りの整備兵たちが何事かと視線を向けるが、流星の姿を見るとすぐさまそれを逸らした。


「今は、こんな事してる場合じゃないよ……ナンバーズが来たんだよ……!! 皆で協力しなきゃいつか……!」

「衣月……」

「その通りよ。今は脅威が迫ってる。喧嘩なんてしてる暇はないの」

 ヒカリは頷きながら衣月の言葉に同意する。翔華も冷静になったのか、掴みかかろうとしていた手を引っ込めた。



「だから、これから考えよう! ナンバーズの対策を、皆で(・・)

「いい加減にしろよ、お前」



 冷たい声が衣月に浴びせられる。その瞬間、衣月は流星に襟首を掴まれ、引き摺られていく。

「流星!?」

「待ちなさい! 衣月に何すんのよ!!」

「気づかせてやる。今の自分がどんな状態かをな」

 すると流星が立ち止まる。その場所は衣月が乗る《劔》の前。コクピットハッチが開いている。

 その中に、衣月を放り込んだ。


「うぐっ!?」

 すぐに衣月に異変が訪れた。

 異常な程体の震えが激しくなり、目の焦点が合わなくなる。顔は青ざめ、目からは涙が滴る。


 彼女の目には、見える筈のない幻覚が見えていた。


 自らに斬りかかる、SWの姿。そして目の前に広がる爆炎、千切れ飛ぶ自分。



「あぁ…………え、ぐ…………ーーー!」



 遂に彼女は逃げる様にコクピットから這い出し、駆けつけた翔華に縋りつく。その形相に、翔華は言葉を失った。



「自分が戦えないのに、皆と戦えるのか、お前は?」

 流星はそう言い残すと、彼女達の横を通り過ぎていく。


 誰も、彼に言い返す事は出来なかった。



 続く

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