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憤怒の狂爪

 

 空に走る裂光は、《グラッパー》と交戦していた天間と翔華にも見えていた。その後に連なる小さな爆発の光も。

「あんな隠し球が……!?」

『翔華さん、来ますよっ!!』

 一瞬気を取られた翔華を《グラッパー》は見逃さない。大型ビームソードを振るうが、翔華は紙一重で回避。隙を見計らって懐に入ろうとするのだが、《ハミングバード》の機動力ですら迂闊に近寄れない凄みを放っている。

 翔華の撹乱に乗じ、天間の《コンドル》も斬りかかる。しかし《グラッパー》は即座に反応し、自らに降りかかる斬撃をいなしていく。


 何故積極的に攻めないのか。それは二人にもおおよその検討はついていた。


「奴は確実に仕留められるタイミングを待っている……」

 不利な状況下で、一切の焦りすら感じさせない効率的な戦法。中身がAIと知らなければ不気味に思っただろう。

 だがこのままではこちらが追い詰められるだけ。あちらの思惑に敢えて乗らなければ、状況は好転しないのかもしれない。


「翔華さん。ここは一度僕に任せて貰えませんか?」

『え? で、でも天間さん一人で、どうして……?』

「奴の狙いはきっと、隙を見せた時を狙って一撃で撃墜する事です。その時に使うのはきっとビームソードではなく、膝のビーム兵器の筈……あの兵装は展開する時に一瞬隙が出来ます。翔華さんはそこを狙ってください」

『そんな危険な……!?』

「そんな危険な事を犯さないと、勝てない奴なんです。頼みましたよ」


 翔華の返答を待たず、天間はビームソードを構えて《グラッパー》へ突撃する。


 誘いに乗った《コンドル》へ目を向け、《グラッパー》は二本の大型ビームソードを構えて迎え撃つ。振り下ろされた《コンドル》のビームソードを片方の刃で受け止め、もう片方の刃を大きく振るう。

 天間は《コンドル》のシールドを展開、ビームソードを止めるが、あまりの出力に大量の火花が散り、徐々にシールドが破損していく。

「翔華さんにああは言いましたけどね……僕だってお前に負けるわけにはいかない!」

 《コンドル》は《グラッパー》の胴体を蹴り、二つの凶刃を引き剥がす。お互いすぐさま距離を詰め、またしても力任せにビームソードをぶつけ合う。


 再び激しく打ち合うビーム刃。


 《コンドル》が振るったビームソードが《グラッパー》のビームアブソーバーを貫き、《グラッパー》が振るったビームソードが《コンドル》の脇腹を抉る。


 やがて三本の刃が鍔迫り合いになる。


 まさしくビームソードを介した取っ組み合い。両者共に全く退かず、バーニアを焼き切れんばかりに噴射する。

「さぁ、来いっ!!!」

 天間が叫ぶと同時に、《グラッパー》の膝装甲が展開を始める。


「翔華さん、今ですっ!!」


 《グラッパー》の背後から、《ハミングバード》が飛び出す。その左手にはビームソードが握られている。狙いは頭部。そこから胸部まで突き立てる為に。

「これで…………終わりっ!!!」

 ビームソードが突き立てられる瞬間、



 《グラッパー》のカメラが不気味な輝きを発した。


 直後、《コンドル》のビームソードが振り払われる。そしてそのまま、空いたビームソードで《ハミングバード》の左腕を両断、そしてそのまま首を刺し貫いた。

 展開した膝の発生器からビームニードルが発生。一直線に放たれた必殺の膝蹴りは、《コンドル》の腹部に命中した。



「コイツの、狙いは……初めから…………」

「私達二人をまとめて…………無力化すること…………」


 枯れ葉のように、《ハミングバード》はゆっくりと落下していく。


 《グラッパー》は《コンドル》を海に叩き落とそうとする。しかし《コンドル》は《グラッパー》の腕を掴み、必死に抗う。更に奥へ刺し込まれるビームニードルにより、コクピットは所々で小爆発を起こす。飛び散った破片が体の各部に刺さり、天間の体は既に血塗れだった。

「諦めてなんかいないぞ……まだ、機体は動く……」

 通信機からはノイズだけが響く。《ハミングバード》の中はどうなっているのか。機体はピクリとも動かない。

 《コンドル》の腹からビームニードルが引き抜かれる。鉄屑やオイルが流れ出し、生々しさを感じさせる跡を残している。


 と、《コンドル》が懸命に腕を伸ばす。《グラッパー》はただその様子を黙って見つめている。

 その時、腕部から何かが射出された。反射的に《グラッパー》が首を動かして回避すると、謎の物体は背後へ飛んで行ってしまった。


 最後の抵抗も、無駄に終わった。


 力無く落下していく《コンドル》を見下ろし、《グラッパー》は《ヌル》の元へと戻ろうとする。


 天間は呟いた。



「僕達の…………勝ちだ」



 《グラッパー》が振り向いた瞬間、動きが一瞬止まった。まるで絶句したように。


 目の前にいたのは、首を貫かれて落下した筈の《ハミングバード》。残った右手に握られているのは光の剣。


 あの時、《コンドル》が射出したのは予備のビームソード。そしてそれは、《グラッパー》が隙を晒すまで意図的に動力を停止していた《ハミングバード》の手に渡っていたのだ。



「うああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」



 額から流れる血で顔を紅く染めた翔華の叫び。真っ直ぐ突き出されたビームソードは《グラッパー》の胸部装甲を抉り、処理装置を破壊し、重力粒子生成装置を貫いた。



 大きく一度痙攣し、硬直する《グラッパー》。翔華はビームソードを残したまま即座にその場から距離をとる。

 不気味な静寂が一瞬流れる。しかしそれは錯覚なのか、数分にすら思えてしまった。



 やがて、《グラッパー》は天を仰ぎ見た後、



 巨大な爆発と共に散った。



「…………最後のあれは、一体……」

『し、翔華さん、そっちは大丈夫ですか!?』

「…………あっ、はい! こちら翔華、機体は中破していますが大丈夫です!」

『すみませんが助けてもらえませんか!? このままだと《コンドル》ごと僕沈んじゃいます!』

「えぇっ!? 今、今行きますから頑張って下さいよ!?」



 散り際に見せた《グラッパー》の動き。あれは無念だったからか、それとも誰かを気にかけていたからか。AIによって制御され、《ヌル》からの指示無しでは動けないSWに限って、そんな事がありえないのは分かっていても。


 《コンドル》から天間を救助している間も、あの最期が翔華の頭の隅から離れる事はなかった。




「各所のスラスター、バーニア、その他に異常ありません!」

「重力粒子生成装置、安定稼働を確認。本体バッテリーとの干渉も誤差範囲内、出力の安定確認……よっし!」

 整備員達との確認が終了。

 時間をかけてしまったが、これで《雷導》と《ウインド》の完全なる融合が果たされた。

 中では既にパイロットが準備を終えている。後はヒカリが大きな声で、見送りの声援を送れば良い。


 鉄や埃、皆の血と汗の匂いが染み付いた空気を目一杯吸い込み、ヒカリは叫んだ。


「りゅーーーせーーーい!!! いってらっしゃーーーーーい!!!」



 カタパルトへ脚部が固定され、ゆっくりとハッチが開いていく。外に広がるのは暗闇。それにカタパルトの誘導灯が彩りを加えている。


 流星は大きく深呼吸する。


 遅刻した分は取り戻さなければならない。


「仙郷流星……《サンダーコメット》……出撃する!!!」



 カタパルトから射出された《サンダーコメット》は、背中のバックパックが揺らめいた瞬間、蒼い尾を引いて姿を消した。



続く

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