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ミッドナイト・スクランブル

 深夜の海上を飛行する《燕》と《劔》の部隊。巡回を行なっている部隊だが、その緊張は今までにない程高まっていた。


 ナンバーズがいつ攻めてくるかも分からない現状、危機感が高くならない方がおかしい話だ。


 現在に至るまで厳重に警戒していたが、特に異常はなかった。しかし今日、それも終わりを告げた。

 ある一機の《燕》が小さな異変に気がついた。前回の奇襲の対策に開発された、特殊なレーダーが僅かに反応を示したのだ。そのレーダーはナンバーズの機体がエンジン部から発する特殊な粒子に反応する物。斥候を担当する部隊に一機ずつ搭載されている。


 かなり遠い位置だが、確実にこちらへ近づいてきている。この時間に千歳基地へ、更に言うなら母艦も無しに寄港する筈がない。


 《燕》の一機が他の機体に停止を指示。直ちに千歳基地司令部へ伝達しながら帰還していった。





『緊急事態発生! 千歳基地付近の領海にて、ナンバーズと思われる反応を確認。各員、速やかに戦闘配置へ移れ!』


 時刻は深夜一時四十五分。突然基地内に鳴り響いた緊急放送で、中は一気に騒がしくなる。仮眠中に叩き起こされた兵士達も急ぎ制服を着ながら駆け出していく。

 第二部隊も他の部隊同様、既に全員集合していた。


「今回の作戦、確認終了。質問や意見は?」

「なんていうか…………普通ね」

 少しつまらなさそうに呟く翔華。それを聞いた流星が呆れながら何か言おうとしたが、笑いながら人差し指を当てた衣月を見て口を閉じた。

「鹵獲じゃねえからな。上手く戦力を分断して各個撃破。正統派、王道で手堅い作戦でいくのが大事よ」

「それが果たして上手くいくかは、僕達にかかっていますからね」

 虎門と天間は納得といった風に頷く。

「今回の作戦から、私も戦線に復帰します。長い間、その……申し訳、ございませんでした」

 衣月は深く一礼する。そして顔を上げる。

「でももう大丈夫です! 今までいなかった分、皆を守れるように、頑張ります!」

 その視線は無意識のうちに流星の方を向いていた。この場にいた皆へ伝えたい言葉である。だがその中でも、特に伝えたかった人へ送りたかった。

 流星は何も言わない。小さく頷いたのを見て、衣月は笑顔を返した。


「あ、待って、待って!」

 そのままSWに乗り込もうとした時、ヒカリが慌てて走って来た。

「どうかしたのか?」

「あの、あの、さ…………本当に、ごめんなんだけど……流星の機体だけ、もう少し時間をちょうだい!」

 流星以外のメンバーが固まった。

「ちょ、ちょっとヒカリちゃん? なんかやばいことでもあった?」

「重力粒子生成装置の調整に時間が……私達の技術だと安定させるのに手間取って……ごめんなさい」

 ヒカリが頭を下げようとした時だった。流星がその肩を掴み、体の向きを変えて背中を押した。

「えっ?」

「だったら早く行け。そして万全にしてくれ。初陣で大破なんてごめんだからな」

「流星……」

 いつもならば怒りを露わにしていた流星から、そのような言葉が出た事に驚いた。

「なら仕方ないわよね」

「そうですよ。流星君がいない間は僕達が頑張ればいんです」

「文字通りの切り札って奴さ。異常が無けりゃ大丈夫よ、な?」

 それを聞いた皆からも次々と励ましの言葉が送られる。ヒカリの目が潤み始めた。

「皆……」

「という事で、了解しました。現状作戦プランに支障はありません。流星君が参加する段階までにお願いします」

「分かった!」

 走り去っていくヒカリ。

 それと同時に、最初の部隊が出撃したコールが鳴り響いた。


「それでは出撃準備! 皆さん健闘を祈ります。絶対に、生きて帰ってきて下さい!」



 〜〜〜〜〜〜


「もう少しで基地だぁ……ふふっ」

 《ヌル》に搭乗し、空を飛ぶ神剣の心はいつになく高揚していた。これは兄を取り戻す戦いであると同時に、七海からの″お願い″でもある。

 失敗する筈がない、失敗してはいけない。

「あの時のようにはもういかないよ……オレンジの弱っちい奴」


 千歳基地が見えてきた。


 七海の見立てによれば、鹵獲された《ウインド》は基地の内部、或いは艦隊のどれかに収容されているらしい。それを見つけるために、《ヌル》には重力粒子を識別するシステムが組み込まれた。

 既に《メビウス》の射程圏内。まずは基地から出撃する機体を撃墜し、出鼻を挫く。


 肩の砲身が伸長、前方へ突き出す。基地付近から伸びるカタパルトへ狙いを定める。

 しかし、

「あれ……? なんでいないの……?」

 飛び立つ機影が一機も見当たらない。まだこちらに気がついていないのだろうか。それにしても哨戒の機体すらいないのはおかしい。

 その時、神剣はある事に気がつく。

「……? あんな小島、あったっけ?」

 小さな岩がポツンと、基地からほんの少し離れた位置に浮かんでいる。だがこの距離から視認できる程の大きさの岩。以前襲撃した時にあったかどうか、神剣は思い出そうと記憶を漁る。


 その時だった。


 小島に穴が空いたかと思うと、《ヌル》達目掛けて大量のビームが襲い掛かった。


「きゃあっ!?」

 反射的に神剣は《ヌル》の電磁フィールドを発生、全身を覆った。《メビウス》は《グラッパー》の前に立ち塞がり、両腕の電磁シールドで防いだ。


「奇襲失敗。まぁこれは予想してたが……さぁ、こっからが勝負だ」

 迷彩の布を捨て、虎門の《クロウ》、そして数機の《蓮華》が姿を現わす。

「各機散れ!! やばいのが来るぞぉ!!」


「馬鹿にしてぇっ!!」


 神剣の怒号と共に、《メビウス》からビームが放たれた。

 《クロウ》達が飛び去ると同時に、小島に偽装した小さな艦が撃沈した。無論、廃棄する予定だった艦だ。動力もない為、穴を開けた後に海に没する。

『《メビウス》、狙撃部隊に気を取られました! 作戦通り、狙撃部隊は《メビウス》をお願いします! 次は《グラッパー》を!』

 衣月の指示が無線を通して全機に行き渡る。


 《ヌル》の殿に付こうとした《グラッパー》へ、一機のSWが立ち塞がる。

「さぁ、あの時の続きといきましょうか……!」

 《コンドル》のビームソードを抜き、天間は《グラッパー》へ向けて突進。相対した《グラッパー》も二振りのビームソードを構え、激しい火花と共にぶつかり合った。

 依然としてパワーは《グラッパー》の方が上だ。徐々に押し込まれていく。


 しかし、今回は一人ではない。


 肩のビームアブソーバーに、ビームが打ち込まれた。当然吸収し、下へ拡散されるのだが、それにほんの僅かに気を取られた時だった。

 側面から振るわれるビームソード。咄嗟に《コンドル》を突き放して躱そうとしたが、ビームアブソーバーが一つ切断されてしまった。

「私もいる! 簡単に突破出来ると思わない事ね!」

 《ハミングバード》がビームソードを払い、翔華は勇ましく宣言した。


「第二部隊、《グラッパー》と交戦開始。三機の分断に成功しました! 他の部隊の皆さんは《ヌル》の足止めをお願いします!」


 衣月の指示により、待機していたSW達が艦隊から出撃。《ヌル》が無防備になっている隙に、防衛している二機の視界外から攻めこむ。

 あくまでこれは、《ヌル》に二機を指揮させない為の作戦。無茶をしないようには伝えてあるが、衣月も《ヌル》の元へ向かう。


「どうして、私達を引き離そうとするの……? ……そうか、そうなんだ……怖いんだ?」

 多数の反応がこちらへ向かってくる。それを見た神剣はクスクスと笑う。

「でもね? 私だってもう……一人で戦えるんだよ」

 《ヌル》の機体に変化が表れる。体高が伸び、腹部の装甲が展開。姿を現した砲口へ、徐々にエネルギーが充填されていく。


 衣月が《ヌル》の前に辿り着いた時には、腹部が赤黒いエネルギーに照らされていた。


「何あれ……!? 皆さん散開して下さい!! 敵の砲撃が来ます、早く!!」


 衣月が叫んだ瞬間、《ヌル》の腹部からエネルギーが解き放たれた。自身の体高にも匹敵する太さの光線が薙ぎ払われる。

 衣月は《スワロー》のシールドを前面に展開。連結したシールドは小柄な《スワロー》を覆い隠す。

 シールドは見事にビームを凌いだが、あまりの威力に機体が後方へ吹き飛ばされる。

 前面を薙ぎ払った後、ビームは収束、消失した。


「っ、はぁ……皆さん大丈夫ですか!? 被害状況を……!」

『こちら、第一部隊……第二部隊隊長…………被害状況は……』

 途切れ途切れの声が通信機から聴こえてくる。続く言葉に、衣月は言葉を失った。


『約半数が大破……残りのほとんどが中破…………損傷が少ない機体は、もう数機しかいない……!!』



「アッハッハッハッハ、フフ、アハハハハッ!!! 面白いおもしろい!! アハハハハッ!!」

 神剣の笑い声が機内に響き渡る。

 愉悦の吐息のように、《ヌル》の腹部から排熱の蒸気が吐き出された。



続く

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