表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

作戦の結末

 

「お兄ちゃん! 何で戻ってこないの、早くお母さん達を助けて、お兄ちゃん!」

 いくら呼ぼうと、いくら戻ってくるよう指示を下しても、《ウインド》は戻ってこない。

 その間にも、《グラッパー》と《メビウス》は傷ついていく。


 弱っちい癖に。雑魚敵の癖に。


 そんな奴らに、自分の家族を傷つけられるのが悔しくて、悲しくて、許せなくて。


 神剣は泣き出す。思い通りにいかない現実に涙を流す。


「お前達なんかぁ……お前達なんか!! きゃあっ!?」

 飛来したビームが《ヌル》の頭部を掠める。今まで動く事なく、三機に指示を飛ばしていた機体が初めて、首を動かした。

 その方向には太陽に照らされて輝く、メタリックオレンジの装甲を纏ったSWがこちらに迫っていた。

「そんな……お兄ちゃんを、振り切って……ありえない、ありえないよぉ……!!」

 神剣はすぐに《ウインド》のモニターに繋ぐ。そこで見た光景は、信じられないものだった。


 ワイヤーとネットに絡め取られ、四肢が千切れるギリギリまで引っ張られている。まるで磔刑に処されているかのようだった。


「一機じゃ何も出来ないのか……? 悪いが、変なことをしでかす前に始末するぞ」

 片手にビームライフル、もう片方の手にビームソードを握り、《雷導》が《ヌル》へ肉薄する。

「ひっ…………やだ、やだぁ! 来ないで!!」

 振り下ろされたビームソードを、《ヌル》の右腕から伸びたビームソードが受け止めた。しかし拮抗は一瞬。《雷導》の一閃が《ヌル》の胴体に一筋の傷を刻む。

「浅いか、なら!」

 すぐに突きを繰り出す流星。またしてもデタラメに振られた《ヌル》のビームソードとかち合うが、一点に力を込めた一撃は容易にそれを弾き飛ばし、深々と《ヌル》の左脚を穿った。流星は胴体を突くつもりであったのだが。


「やだ、やだやだやだ、負けたくない! 負けたら、負けたらきっと……」



 捨てられる。



 誰に?



 七海お兄ちゃんに?


 お兄ちゃんに?



 ── ごめんな、零奈……もう俺、お前と一緒にいるの、疲れたんだ。だから ──





 先に、父さんと母さんに、逢いに行くよ。





「ーーーーっ!!!? ーーーー!!!!!!」


 割れるような悲鳴。

 神剣は機器に自らの頭を執拗にぶつけ始めた。何かを必死に忘れようと、しきりに叫びながら頭を叩きつける。


 異変は《ヌル》にも起きていた。ビームソードを出した右腕を見境なく振り回し、残った左手で頭を押さえている。



 そして異変は伝播する。



 天間と交戦していた《グラッパー》の目が、突如輝きを増した。そして何故か天間を無視し、《ヌル》がいる方向へと飛び立とうとする。

「!? 待て、逃すわけないだろ!!」

 《コンドル》が《グラッパー》の足にしがみつく。しかし様子がおかしくなり始めた。

 しがみついた《コンドル》を振り払おうとするまでは理解出来る。しかしその方法がおかしい。

 ひたすら《コンドル》を踏みつけるばかりで、攻撃しようとして来ないのだ。何かに焦っているかのように。

「一体どうして……うわっ!?」

 とうとう《コンドル》のマニピュレータが破損。《グラッパー》は飛び去っていった。



 更に《ウインド》の方にも異変が起こっていた。同じく目が発光を強めたかと思うと、重りを振り切る勢いで暴れ始めたのだ。《鷲羽》は大きく揺れ、船員の体勢も崩れる。

「きゃっ!?」

「大丈夫ですかヒカリさ……うぅっ!? 一体、何が……!?」

 衣月は《ヌル》の様子を観察する。


 まるで何か大切なものを求めるように、その頭は天を仰いでいた。



「……?」

 当然、虎門達が交戦していた《メビウス》も様子が急変していた。

 集中砲火から身を守っていた電磁シールドを解除し、一目散に何処かへ飛び立とうとしたのだ。

「逃げられる!」

「お前達は射撃を続けろ! くそ、イレギュラーがこんな所で起こるかよ!!」

 虎門は《クロウ》のライフルを肩にマウントさせ、急いで《メビウス》の後を追う。

 鈍重そうな見た目ながらなかなかに速い。しかし背後からの射撃が機体を掠めるおかげで、追いつくのは容易だった。

「何処行く気だテメェ!!」

 《クロウ》の肩にマウントされた狙撃ビームライフルが熱線を吐く。


 その時、《メビウス》が反転した。二門のビームキャノンには既に光が収束しきっている。


「っ!?」

 咄嗟に虎門が横に避けようとするのと同時に、ビームキャノンが発射された。

 《クロウ》の肩を呑み込み、背後の《蓮華》二機を巻き込み、それでもビームは勢いを弱めない。

 向かう方向には、


「やべぇっ!? あっちには《ウインド》が!!」



 放たれたビームは艦の底を掠め、そして《ウインド》の右手に突き刺さったワイヤーを焼き切った。

「そんなっ!?」

「すぐに新しいワイヤーを発射して下さい! このままじゃ逃げられます!!」

 衣月が急いで指示を下すが、それより早く《ウインド》が動いた。


 自由になった右手でビームソードを抜き、あろうことか残った自らの左腕、両足を斬り裂いたのだ。ネットも振り払い、完全に自由を手にした。


 近くにいた《燕》達はネットランチャーを撃とうとするが、《ウインド》はビームソード一本で全て斬り払い、一機の《燕》を胴体から両断。包囲網に穴を空けて脱走した。


 向かうのは、間違いなく《ヌル》のがいる場所。


 衣月は無線をすぐに繋いだ。


「流星君!! 《ウインド》が来る!! 早く《ヌル》を倒してっ!!」



「《ウインド》が? ……あっちでも何かあったか」

 狂気に囚われた様な動きを見せる《ヌル》を警戒していたが、そうも言っていられないようだった。

「ケリつけてやる、《ヌル》!!」

 ビームソードを構え直し、全てのスラスターを噴射して突撃する。


 切っ先が迫る中、神剣は悲痛な叫びを上げた。



「嫌ぁぁぁぁぁっっっ!!! 一人は嫌、暗いのは嫌ぁぁぁぁぁっっっ!!!!」



 何の偶然か。

 神剣が暴れた時に無線のチャンネルが偶然流星が乗る《雷導》のものと繋がったのだ。


「子供……!?」

 そのせいで一瞬だが、一撃を繰り出すのを躊躇した。



 それが命運を分けた。



 突如《雷導》と《ヌル》の間に影が割って入った。目の前で強い光を放ったアイレンズと、目が合う。

「《ウインド》!?」

 そしてそのまま、突き出されたビームソードが《ウインド》の腹を貫いた。

 激しく火花が散る。


 だが《ウインド》の手に携えられたビームソードは、同時に《雷導》の首を貫いていた。




「お兄、ちゃん……?」

「流星、君……?」



 2人の口から、2人の名が零れ落ちた。



「流星!!」

 ヒカリは通信兵から通信機をひったくり、チャンネルを繋げて叫ぶ。

「流星!! 返事しなさい、流星!! 流星!!」

 いくらヒカリが叫んでも、全く返事はない。その様子を見た兵士達が慌てて動き出した。

「早く救援を出せ! 衣月隊長、隊員への指示を……隊長?」

 既にこの場に、衣月の姿はなかった。



「お兄ちゃん!!? 嫌だ、私、私、嫌だぁ!! お兄ちゃん!! あああぁぁぁぁぁ……!!」

 神剣は泣き叫ぶ。返事はない。


 その時背後から伸びた手がボタンを押す。それは強制帰還ボタン。押した瞬間、残った三機は撤退を開始する。それにすら神剣は気がつかなかった。

「ここで《ウインド》がやられるのは痛いかな……次からはこっちにも、もう少し目をかけるべきか」

 七海は神剣に聞こえないほどの小さな声で呟いた。





 ゆっくりと落下して行く中、流星はただ茫然と無線から聞こえた声を反芻していた。



 暗いのは嫌だ。一人は嫌だ。



 目の前では《ウインド》が力強く《雷導》にしがみついていた。そのせいでコクピットが開かず、脱出も出来ない。

 たった一人。海に落ちればたった一人で、暗い場所で死ぬのだ。



「……………………暗い場所で、一人は嫌だな」




 海に落ちる音を最後に、流星の意識は深淵へと沈んでいく。



「……?」

 暗い世界の中、たった一つだけ輝くものが見えた。


 細い指をした誰かの手。頼りなさそうに見えるが、何処までも綺麗な光を放つその手は、流星を引きずり込もうとする世界の中でハッキリと見えた。



 流星は迷わずその手を掴む。


 優しい温かさが、心地良かった。



 続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ