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雷と風

 

 朝日が地平線から顔を出し始めた頃。



 四機の影が海原の空を駆ける。遊覧飛行の様にゆっくりと飛び回る。《ヌル》の側に寄り添う《メビウス》、二機の前を先行する《グラッパー》と《ウインド》。その様子は仲睦まじい親子の様だった。


「楽しみだね……でも、おかしいな……?」

 七海の予想では大量のSWが配置されているはずだったが、基地の近くまで来ているというのに哨戒の機体すらいない。諦めてしまったのだろうか。

「もう! 遊びたいのにぃ……何でみんないないのぉ!?」



 つまらない、つまらない、つまらない。

 遊びたい、壊したい。

 そうしたら嫌な夢だって見なくなる。楽しい事をすれば、あんな嫌な夢の事を忘れられる。



 するとそんな彼女に知らせる様に、《メビウス》からある反応が通達された。


 数機のSWだ。動かず、フワフワと浮いたまま空に浮かんでいる。こちらにライフルの銃口を構えていた。

「見っけ……遊ぼ」

 《メビウス》の肩の砲塔が前方に突き出し、先に粒子が収束。数秒後、高出力のビームが射出された。

 無残にも撃ち抜かれ、薙ぎ払われた事により全ての機体が爆散する、筈だった。


 浮いていた機体は爆散すると同時に大量の煙を放出。更には派手な爆発を次々と起こし、衝撃波を巻き起こした。

「きゃっ!?」

 突風に煽られる《ヌル》を庇うように《メビウス》が電磁シールドを展開し、《グラッパー》は周囲を警戒し始める。

「ありがとう……お兄ちゃん、行って来るの?」

 神剣が問いかけると、《ウインド》は三機の元を離れて行った。煙幕の向こう側に敵がいると判断した為だ。


 あくまでこれは、神剣の操作によるもの。無意識のうちに心の隅に寄せた、敵の効率的な排除法を三機にさせているのだ。お人形遊び、という言葉が当てはまるだろう。



 そして《ウインド》が煙幕を突破するのを、ある機体は観測した。

「こちら虎門、煙幕から一機突っ切って来た。多分あれは《ウインド》だな。予定通りってこった」

「了解しました。虎門さん達狙撃部隊はそのまま待機をお願いします。煙が晴れる少し前に、《メビウス》への狙撃を開始して下さい」

「あいよ。《ウインド》はお前らに任せたぜ。…………いやー、こっちも荷が重いけどなぁ」

 通信を切り、後ろを振り返る。そこには多数の《蓮華》が待機している。落ち着かない様子が見て取れる。

 一応、《メビウス》の射程圏外にて待機はしているのだが、もしも届いてしまったらと考えてしまうのも無理はない。あのバルーンが撃ち抜かれる様を見た虎門も背筋が凍りかけた。


 《クロウ》のスコープを覗き、《ウインド》を観測する。自らの付近にあるSWの反応に気を取られていてこちらに気づいていない。

 これならば作戦通りにいくだろう。



「…………煙が晴れ始めて来たな……頃合いだ」


 狙撃ライフルのスコープを覗き、トリガーを引き絞る。


 《クロウ》の腰部スラスターを噴射。海面に波が立ち、銃口に粒子が収束していく。

 狙いは《メビウス》ではない。《ヌル》の頭部に照準を合わせる。



「届け、俺の思い」



 トリガーが離された。


 細身の、しかしながら高出力のビームが《ヌル》めがけて飛翔する。



「音…………!?」


 神剣は咄嗟に音の方向を向いた。


 だがその前に、《メビウス》は動いていた。電磁シールドを展開し、《クロウ》から放たれた高出力ビームを受け止めた。シールドを貫通することはなかったが、最大出力の威力は凄まじく、徐々に《メビウス》は後退していく。

「今だ、行け!! 射程に入り次第、《メビウス》に集中攻撃! 《ヌル》から引き離せ!」

 虎門の号令と共に、《蓮華》達が一斉に飛び立った。


 次々とビームを放つ。いずれも《メビウス》の電磁シールドを突破する事は出来ないが、後ろに押し出して行った。

「お母さん!」

 神剣は《メビウス》を庇おうとするが、《グラッパー》が前に立ち塞がった。肩の双角がビームを吸収していく。

「そう来るよなぁ! 出番だぜ天間!!」


 その時、真上から《グラッパー》に何かが衝突した。


 錐揉み回転をしながら取っ組み合う二機。その片方は天間が駆る《コンドル》だった。

「お前の相手は僕だ!!」

 《グラッパー》の角を握り、片方をへし折ろうとする。

 すると《グラッパー》のアイレンズが一際強い輝きを放ち、膝の装甲が展開した。

「…………!!」

 嫌な予感を察知した天間はすぐに手を離し、《グラッパー》から距離を取った。その刹那、展開した膝からビームが飛び出し、コンドルの頭部装甲を掠めた。


 ビームニードル。射程は短く、使い勝手も劣悪だが、接近戦においてこのような不意打ちに長けた武装は厄介なことこの上ない。


 距離を取った一瞬の隙に《グラッパー》はビームソードを抜き、《コンドル》へ襲い掛かる。すぐに天間もビームソードを抜いて受け止め、鍔迫り合いに持ち込まれる。

「まずい! この戦い方だとこいつのペースに……!!」

 直後、ビームニードルが《コンドル》の右脚を貫いた。火花が大量に散る。だがそこで怯む天間ではなかった。

「乗せられて溜まるかぁ!!」

 ビームソードを肩口に抉りこむ。《グラッパー》のビームアブソーバーは高熱の刃を吸収しようとするが、通常よりも強化された出力を吸収しきるのは不可能だった。アブソーバーは粉砕し、生じた爆風で二機の距離は大きく離れた。

「絶対行かせませんよ……」





 千歳基地へ向かって飛行していた《ウインド》も異常に気がついたように反転しようとする。しかし、


「もう戻さねえよ」


 真正面から飛来したビーム。

 背後に気を取られていた《ウインド》の頭部を掠め、右肩を焼いた。

 そして高速で接近し、斬りかかってきた影。こちらはビームソードを咄嗟に抜いて受け止めた。

「……仲間想いだな、お前」


 新たに改修された《雷導》の背には、大型バーニアが二基、小型バーニアが四基増設されたバックパックを背負っていた。武装は以前と変わらないが、速度のみを徹底的に底上げするカスタムである。


 《ウインド》は《雷導》を押し退け、再び神剣の元へ飛翔しようとする。しかしバックパックの揺らめきが強くなるのを見た流星は、すぐに《雷導》を加速。《ウインド》が飛び立つより早くその前に立ち塞がった。

「戻さないと言った筈だ」

 再びビームソードを振り下ろし、鍔迫り合いに持ち込む。


 どうやら《ウインド》も振り切るのを諦めたらしい。またしても距離を取ったが、今度はビームランスに持ち替えて突撃して来た。《雷導》を仕留めてから救援に向かうようだ。


 凄まじい速度で突貫する《ウインド》をいなし続ける《雷導》。機体性能が向上しているだけではない。流星は以前の戦いからある程度、《ウインド》の動きを読むように訓練を行っていた。



「……そろそろだ。ついて来い!!」

 突然《雷導》を急反転。全てのスラスターとバーニアを展開し、飛翔した。《ウインド》もそれを追う。操っている神剣に焦りがあったせいか、《雷導》を見逃すという選択肢は選ばなかった。


 高速で空を飛ぶ二機は、まるで流れ星の様だった。


 しかし改修を施された《雷導》とはいえ、《ウインド》に直線勝負では敵わない。徐々に距離を詰められていく。

 《ウインド》のバックパックが変形。更に速度は速くなり、背にビームランスが迫り来る。


 だが、もう既に流星はゴールしていた。




「…………衣月ぃ!!!」




 流星は《雷導》のバックパックバーニアを全て逆噴射。急停止すると、すぐさま逆方向へと飛んで行く。以前、《グラッパー》にも使用したバックフリップ。《ウインド》は突然振り切られ、慌てて急停止する。幾らかオーバーランした後、すぐに追いかけようとした。


 そこで、ようやく気がついた。


 《ウインド》の周りには複数の《鷲羽》、そして《燕》が待機していたのだ。


「拘束弾、発射して下さい!!!」


 衣月の合図と同時に《鷲羽》がワイヤーを発射。《ウインド》の両腕、両脚、に突き刺さった。


「そのままアンカーネット投下! あのナンバーズを飛ばせないでください!! 流星……仙郷少尉は、《ヌル》の撃破を!!」


 更に《燕》が担いだランチャーから、ネットが発射。ネットの端には重りが複数つけられており、《ウインド》は次々と絡めとらていく。


 《ウインド》は必死に飛ぼうとするが、《鷲羽》数隻の出力、そしてアンカーネットの重量により、とても抜け出せる状況ではない。高度を保つのがやっとだ。

「後は指揮官機の《ヌル》を倒せば、作戦は完遂……お願いみんな、あと、もう少し……」

 衣月は拳を握り締め、モニターを見つめる。


「……じゃあな」

 《雷導》は《ウインド》を見下ろすと、飛び去っていった。

 恨めしそうに睨みつけられるのを、背に感じながら。



 続く

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