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革命の兆し

まずは、本家「革命ガ始マリマシタ」、及び作者のXICS様に感謝を申し上げます。

それでは皆様、外伝「Meteor of Wish」をどうぞ。

 

「今日から君が隊長だ。桐城衣月(きりじょういつき)


 そう告げられた時、私は困惑してしまいました。


 何故、私が? どうして?


 でも、それを言う事は出来ませんでした。


 私達を最後まで率いてくれた、その背に背負った重みを受け継ぐ事が出来る。とても誇らしいことです。



「私の様な老兵の時代は終わりだ。これからの日本は、君達若い人間が背負って行くんだ」

「はい」

「大丈夫だ。君なら出来る。何、多くの兵士を見てきた私が言うんだ。間違いないさ」



 そう、誇らしいこと。


 私には勿体無いくらい。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「衣月!! 聞いてるの!?」

「ふえっ!?」

 呆然と考え込んでいた為か、突如響いた声に握っていたハンバーガーを落としてしまった。

「な、何、何!?」

「何じゃないわよ、ボーッとしてさ」

 テーブルに落下したハンバーガーを拾い上げ、一口頬張る少女。


 榊翔華(さかきしょうか)。ポニーテールと八重歯が特徴の明るい女性だ。そしてここ千歳基地の中で、衣月が唯一親友と呼べる人物である。


「汚いよ翔華、落ちたもの食べるなんて」

「テーブルはセーフでしょ。ってそうじゃない! さっきの話聞いてたの!?」

「いや、ううんと……」

「聞いてなかったか……まぁ、衣月らしいか」

 独り合点したかの様に頷くと、ハンバーガーを衣月に突き返した。衣月は困った様な顔をしながら、それを受け取る。


「猿ヶ森で戦った奴らの事、覚えてる?」

「ナンバーズ、でしょ? 会議で嫌と言う程聞いてるよ。でも皆、本気で対策しようだなんて考えてないよ」

「危機感ないわね〜。こういうの、事前に対策しておくのがいいんじゃないの?」

「私に言われても……」

 ほんの少し前に隊長に就任した衣月が知り得る事情は少ない。流されるように仕事に追われ、上から言われた事をこなす。


 それが今の、自分の仕事。


「SW配備数の見直しとか転属員の配属先決める会議とかがあるだけいいよ。あの時は演習に参加した部隊がどれだけ言っても突っぱねられちゃったんだもの」

「ほんっと、いつの時代も上の人間は頭が固いのよね」

「はいはい、愚痴はそこまでにしておきなさい」


 その時、衣月と翔華の席に女性が座る。美しい金色のロングヘアーに碧眼、桜色の唇という整った顔立ちの女性だ。

 名前はヒカリ・グランス。つい最近転属されてきたSW整備士である。

「ヒカリさん、お疲れ様です」

「なになに? ヒカリさんは上層部の人の味方〜?」

「みんな大変なのは一緒ってだけ。私は中立です」

 むくれる翔華に対し、ヒカリは大人びた笑みで返す。これぞ大人の女。汚れが目立つ整備服なのが少し勿体無い。


「現に少ない予算やりくりして、みんなのSWの整備してるでしょ? たま〜にサービスして改造してあげてるし」

「か、改造って……」

「私の《(つばくろ)》も改造してもらったの! 衣月もやって貰いなよ、《(つるぎ)》の改造!」

「いや、私は……」

「ふふふ、良いわよ。その為にはまず、衣月ちゃんの身体のチェックを……へへ」

「やだ、ヒカリさんの目、怖っ!?」

「あはは……」


 いつも通り交わされる平凡な会話。ヒカリが転属してきてから、良い意味で第二部隊に活気が出てきた。



 だが反面、悪い意味での活気も溢れている。



「おい! 待てよテメェ!!」

 突然響く怒号。

 振り向くとそこでは、一人の男性隊員が憤激していた。椅子を蹴り飛ばし、今にも殴りかからんの迫る。


 対峙しているのは、青年だった。


「うわ、またあいつやらかしてる……」

「うん、大丈夫かな……?」

 衣月は心配そうに、翔華は呆れ気味に様子を見る。ヒカリの方はというと、クスクス笑いながら野次馬のように観戦している。


「俺のコーラを零しやがって!! 何の詫びもなしかよ!?」

 見ると確かに、男性のテーブルには倒れたカップと、そこから溢れでる液体がある。おそらく飲もうとした男性の腕に青年がぶつかり、落としてしまったのであろうが、


「く、下らないわね……」

「ほとんどイチャモンみたいなものでしょ。新入りなのに可愛げがないのが気に入らないの。ま、彼に可愛げを求める方が間違ってるけど」

 二人は半笑いだが、一触即発の雰囲気に衣月は焦っていた。見れば男性の周りには同期と思われる隊員達が睨んでいる。このままでは青年が袋叩きにあってしまうかもしれない。

「なんとか言えよ、新入り!!」

 男がもう一度怒鳴る。

 青年は鬱陶しげに溜息を吐くと、静かに告げた。



「だったら溢れたそれを飲めよ。虫みたいにな」

「な、ん、だと……!!!」



 男が拳を突き出した。おもわず衣月は目を瞑りそうになる。


 しかし、想像していた事態とはまるで違っていた。


 青年は拳を首を動かすだけで躱すと、そのまま肘の関節を外した。

「ぐぁぁっ!? い、いってぇ……!!」

 激痛のせいか、唸るだけで殴り返そうとはしない。周りの男達は一瞬たじろぐが、すぐに青年へ襲いかかろうとする。

「来るか?」

 青年は声を発する。


 遠くで見ていただけの衣月にすら伝わる程の殺気。周りの男達は足がすくんだように動きを止めてしまう。



 その時、


「はいはーい。中止中止!」

 割って入ってくる男が二人。

 一人は青白い顔をした男。体も細く、本当に軍人なのか怪しい。

 そしてもう一人は反対に、屈強な体、五分刈りの髪、浅黒い肌と、いかにも軍人のような男だ。

「うちの新入りがすまないことしやした〜。早く医務室に連れてってやんな、天間(てんま)

「呑気なこと言うのはやめなさい虎門(こもん)さん! みなさん申し訳ございません! ささ、僕が連れて行きますから」

 そう言うと、天間と名乗る屈強な男が男性を肩に背負い、その場を去っていった。他の取り巻き達も、虎門と名乗る色白の男が追い返した。


「よ、良かった……」

「いっつも彼奴いざこざ起こしてるよね。狂犬よ、狂犬」

「本当は私が止めなきゃダメなんだけど……」

「う〜ん、衣月ちゃんに彼の手綱は掴めないかな〜」

 ヒカリは気にすることないと、衣月の背中をポンポンと叩く。

 ふと、青年と衣月の目が合う。

 伏し目がちにこちらを睨まれ、衣月は思わず肩が震えた。




「お〜い仙郷(せんごう)!」

 騒動の後、廊下を歩いていた青年を見つけ、虎門は呼び止める。

 青年は面倒臭そうに振り返ると、何も言っていないにもかかわらず、胸ポケットから取り出した煙草を投げ渡した。

「お、分かってんじゃん。煙草のセンスはいいな」

 ニヤニヤしながら懐にしまうと、仙郷の隣を歩き始める。

「ここには慣れたか?」

「いや。いつまで経っても慣れないだろうな、この雰囲気には」

「そうか? 結構良い場所だぜ千歳基地。飯は美味いし、腕の良いパイロットも多い。ほら、うちの隊長、可愛いだろ?」

「どうだかな」

 青年は懐から煙草を取り出し、火をつけようとする。


 だがそれを虎門に取り上げられる。


「ここは禁煙だ。吸うなら外な」

「…………」

 小さく舌打ちすると、青年はさっさと歩いて行ってしまった。虎門はやれやれといった風に首を振った。


仙郷流星(せんごうりゅうせい)。噂通り、問題児なのは分かったが……ま、近いうちに実力を見れる事を期待してるぜ、エースさん」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 シャワーを浴び終え、衣月はバスタオルで体を拭きながら鏡の前に立つ。


 茶髪のショートカット、黒い瞳、平凡な顔立ち、特別大きいわけでもない胸、特別整っているわけでもない身体つき。

 身体だけではない。戦闘訓練、および実戦での戦果も並。


 そう、自分はあまりにもつまらない人間だ。


「……何で私なんかを、隊長に」



 隊長を引き継いだあの日の事を思い出す。



「やったじゃん衣月!! 隊長だよ、隊長!!」

「これからはお前が上司か。副隊長をこき使うのだけは勘弁してくれよ、隊長」

「おめでとうございます衣月さん。僕達も応援します。一緒に頑張っていきましょう」


 嫌だなんて、言えるわけがない。


 自分には無理だ。みんなの期待には応えられない。隊長なんて、出来ない。



 そんな事、衣月には言えなかった。



 寝巻きに着替え、ベッドに倒れこむ。

 今の今まで、自分の本心を打ち明けた事などない。親友の翔華にもだ。

 心配をかけたくないから。そして、自分を否定して欲しくないから。


「私……これからやっていけるのかな……?」



 その時、基地内にサイレンが鳴り響く。


 敵の襲来だ。



 〈基地近海に所属不明機出現! 総員、戦闘態勢に移れ、繰り返すーー〉


 衣月はすぐさま寝巻きを脱ぎ捨て、制服に着替える。


 隊長になってから始めての、戦闘だ。



 続く

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