車内
午前9:27。
高速渋滞の中、北原菜々子は姪である大田結月を隣に乗せ、車が動くのを待機していた。
「事故かしら。」
「さあ。」
先程から菜々子が何を問いかけても、結月は生返事しかしない。
車の窓に頭を置きながら外の遠くを見続けている。
無理もない、先日父親の葬儀が終わったばかりなのだから。
菜々子の兄であった、大田真司は1ヶ月ほど前階段から足を滑らせ転落した末に死亡した。
今の菜々子がこれだけ気分が沈んでいるのだから、父子家庭で育ち、唯一の家族を亡くした結月にはおもすぎる悲しみがあるに決まっている。
しかも、真司が亡くなった日は結月の17歳の誕生日だったという。
どこまでも災難な彼女に菜々子は同情せざる負えなかった上、彼女を引き取ることにした。
幸い、彼女は真司の妹であり、単身赴任の夫の2人家族であったので引取先には一番の親戚であった。
それにしても結月の母親は何をしているのだろうか。
離婚してから完全に縁は切れているとは聞いたものの、結月の実の母親である。本当はそっちが引き取るべきなのではないだろうか。
沈黙の車内で、菜々子の不満が頭の中を交差する。
だがしかし、彼女は真司の元妻の連絡先も知らなければ会ったこともなかった。
真司と菜々子の両親はまだ2人が学生の頃に亡くなったためお互い自立するのも早く年に1回会う程度の関係となっていた。お互い結婚式も挙げなかったため、相手がいることは知っていても会うまでにはならなかったのだ。子供がいたというのも真司の離婚後に一度道端でばったり会ったときに初めて知ったのだった。それ以来、お互い気にはかけるものの、連絡のみで会うことはなかった。結月とは姪と叔母の関係であっても、赤の他人とそれほど変わらないのだ。
菜々子に不満があるのも当然である。
真司たちが住んでいたのは菜々子の家から車で約2時間ほどの場所のため高速道路を使わなければならない。結月の荷物を車に積み、自分の家に向かってるのはいいものの、渋滞の中ほぼ初めて会う姪と何を話せばいいのかわからない。兄のことに触れていいものか、はたまた気分を紛らわせるために面白い話でもすればいいのか、子供のいない菜々子にはわからなかった。
「そういえば、学校ね、新しい高校、見に行かなくちゃね。結月ちゃん、どこか決めてる学校とかあるの?」
「いや、別に。」
菜々子のたどたどしい質問に結月が窓の遠くを見たまま答える。
「そう、うちの近くに進学校があってね、もしお勉強が得意だったら受けてみたらいいかも。パートでよく生徒さんとすれ違うんだけどね、雰囲気がいいしみんな生き生きしてて素敵よ。」
「叔母さんの家から一番近いの?そこ。」
覇気のない目で結月が菜々子を見る。
初めての反応に菜々子は一瞬驚く。
「ええ、まあ、うちから歩いて五分位じゃないかしら。」
「じゃあ、そこでいいや。」
頭を窓に置き、遠くを見つめる。
再び始まる沈黙。これから、この子が自立するまで面倒を見るのかと思うと先が思いやられる。