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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Modern weapons’ capriccio‐異世界で軍事介入を‐

作者: Ghost SAF

いわゆる、異世界×ミリタリーです。

ただし、現代兵器の活躍を描写する事を最優先にしているので、ストーリーや世界観の説明などは無いに等しいです。ゆえに、登場人物すらオマケ扱いなのはご了承ください。


特殊な表記

方位:真北を0度とした時計回りの360度表記

1kt=1852m/h

1ft=0.3048m

1nm=1852m

1Lb=0.45359237kg

 澄み切った青空の下に広がる大草原。本来なら、のどかで風光明媚な景色として人々に安らぎと癒しを与えるものなのだが、今は2つの勢力が激突する血生臭い戦場と化していた。

 それゆえに至る所で怒号と悲鳴が上がり、皮や金属で出来た鎧(頭部や胸元など大事な部分だけを守る軽装タイプ)を身に着けた兵士達が槍で敵を突き殺したり、両手で構えた斧や金属製のハンマーを敵の頭部に振り下ろす事で殺したりと、実に多種多様な方法で眼前の敵との殺し合いを演じている。

 また、そうやって接近戦を繰り広げる者達の頭上では弓矢や見た目だけはカラフルで綺麗な各種の魔術弾が無数に飛び交い、お互いに離れた相手との殺し合いを続けていた。


 しかし、戦闘の推移は素人が見ても侵略者である帝国軍が有利に進めていると分かり、簡単な陣地を構築して防戦を展開している王国軍は各所で防衛線を突破され、このままでは全軍が総崩れになるのも時間の問題であった。

 もっとも、このような一方的な戦況になった責任は王国軍側の誰にも無く、ただ単純に亜人や小型のドラゴンですら使役できる帝国軍が質と量の両方で勝っていただけである。だから帝国側は、リスクのある奇策などを用いずとも手持ちの戦力を正面からぶつけるだけで問題なく勝利を手にできる筈だった。


   ◆


 この瞬間も激戦が繰り広げられている前線からは多少距離のある後方に位置する王国軍の砦、簡素ながらも切り出した石を積み上げて築いた砦の上層階では、明らかに他とは違う上質な金属製の全身鎧(兜は外している)を着た中年男性が険しい表情で部下からの戦況報告を聞いていた。

 そして、報告を終えた部下を下がらせると小さな窓から前線の方を見つめながら大きく息を吐き、今度は覚悟を決めたような表情になって同じ部屋にいる特殊な一団の下へと歩み寄った。当然、その一団に属する者達も彼の動きに反応する。


「どうか、貴公らの力を我が国を守るために貸して欲しい」


 全身鎧の男性は一団の傍へと歩み寄ると跪き、その中でもリーダー格と思しき男性に向かって王国貴族がする最高位の礼をもって助力を請うた。ちなみに、王国の言語は眼前の彼らが使うものとは異なるので、実際には通訳として男性に付き従う文官が誤解のないよう丁寧に訳している。

 なにせ、この王国軍の総力を挙げた防衛線を突破されれば、王都(首都)まで帝国軍の侵攻を阻むものは無く、数百年の歴史を誇る王国は滅亡する。だからこそ国王は、軍の最高司令官でもある最も信頼の厚い上級貴族の1人に全権を与えて国の未来を託したのだ。


「もちろんです、閣下。その為に我々が派遣されているのですから」


 特殊な一団を率いる男性は笑顔で即答し、右手を男性貴族の前へと差し出して握手を求めた。まあ、こういった場面で握手をするという文化が王国には無かったので、傍らの文官に促されるまで男性貴族が応じなかった事を付け加えておく。


「快く応じてくれたこと、国王陛下の名代として心より感謝する」

「そんなに気負わなくても大丈夫ですよ。合衆国は、あなた方が契約を守る限りは味方ですから」


 それから両者が握手を交わして合意となったのだが、この言葉にもあるように事前に政治的な取引が成立しているからこその合意である。詳細は省くが、王国領内における自由通行権・資源採掘権・免税付きの商取引権などと引き換えにした安全保障条約とでも言うべき契約を結んでいたからだ。

 なにはともあれ、これで王国からの正式な軍事介入の要請を受けた形となった現代の軍隊(こちらの世界から見れば異世界の軍隊)は早速、その軍事力を行使する為の行動を開始した。


「早速ですが、閣下。我々の攻撃の巻き添えにならないよう、前線を含めた王国軍の全てを可能な限り速やかに戦線の左右へと移動させて中央を広く空けて下さい」

「ぜ、全軍を……?」

「ええ、せっかくの機会なので今回は我々だけで対処します」


 あまりにも突拍子の無い要請に男性貴族は最初こそ戸惑う様子を見せたが、出陣前に国王陛下から彼らの軍事力が桁違いに強大だと言われていた事を思い出して素直に従う。


「分かりました。すぐに手配しますが、逆らう者は容赦なく皆殺しにする帝国軍に壊滅させられた時点で前線に生存者はいないでしょう。それに加えて前線に兵力の大部分を集中させたので、道中は初めから空いているも同然です」

「それでは、これより我々の作戦を始めますが、よろしいですかな?」

「お任せします」


 こうして王国軍の指揮官から作戦実行の許可を得た陸軍少将は、自分と同じグリーン系のデジタルパターンの戦闘服を着用してラップトップPCや各種通信機を操作する兵士達に向かって命令する。


「Gentlemen,start the Operation “Power of justice”!」

<諸君、『正義の力』作戦開始だ!>

「All units Yukon! I repeat,all units Yukon!」

<全部隊、ユーコン! 繰り返す、全部隊、ユーコン!>


 当然、命令を受けた兵士達は通信機に向かって作戦開始を意味する短い識別コードを発し、通信機の向こうで出撃命令を待っていた作戦参加部隊に行動を促した。その途端、砦の外が異世界だという事を忘れさせるほど現代的な音で一気に騒がしくなる。

 なぜなら、『AGT-1500』ガスタービンエンジン(取り込んだ空気を高圧圧縮機で圧縮してから燃料と混ぜて燃やし、その燃焼ガスで駆動用のタービンを回すエンジン)や『VTA-903』ディーゼルエンジンを始めとした各種エンジンを積む多数の車両が一斉にエンジンを始動させたからだ。

 さらに、ディーゼル燃料特有の臭いを伴った排気ガスも風に乗って砦内部へと流れ込んでいるが、どれもが大多数の異世界の人間にとっては未知のものなので、詳しい事情を知らない者達の間には不安が広がっているかもしれない。


 また、砦より少し離れた場所からはローターブレードが高速で空気を叩く音に混じって『T700-GE-701C』や『T700-GE-701D』などのターボシャフトエンジン(基本原理はガスタービンエンジンと同様で、燃焼ガスの力を回転軸出力として取り出しているエンジン)の駆動音も響いている。

 そして、同地域の遥か上空からは『F100-PW-229』ターボファンエンジン(いわゆるジェットエンジン)の発する轟音が遠雷のように轟いていた。


   ◆


 異世界の戦場において現代兵器による洗礼を最初に受けたのは、竜騎士(馬のように背中に騎士が跨った人間に手なずけられた小型の飛竜)や機竜(飛竜より大型で魔法鉱石を動力源にして動き、適正のある者が乗り込んで操縦する飛行機械。ただし、貨物搭載量以外の性能は竜騎士に劣る)で編成された帝国軍の空中騎士団だった。

 彼らが最初の標的になった理由は、ただ単に作戦の第1段階として航空優勢(制空権)を確保する事が現代戦のセオリーになっているからだ。


 もっとも、現代戦では早期警戒レーダーや高高度迎撃用SAM(地対空ミサイル)なども以降の航空作戦の障害となるので最初の攻撃目標に含まれるのだが、そういった類の物は異世界に存在しない(航空機が存在しないから当たり前なのだが)ので今回は空中の脅威を排除するだけで良かった。

 しかも、各種技術で現代世界に後れを取る異世界にはRCS(レーダー反射断面積:レーダー照射を受けた際に発信元へレーダー波を反射させる強さの尺度)の概念が無いので、竜騎士や機竜はレーダーで容易に捕捉できた。


「Titania61 to Fairy squadron.12bandits,heading320,flight25.Kill them,all」

<ティターニア61よりフェアリー隊。敵機12、方位320、高度2500ft。全て撃墜しろ>

「Fairy11 wilco」

<フェアリー11、了解>

「12 wilco」

<フェアリー12、了解>


 機体背部で回転する円盤状の大型レーダーが特徴的な4発エンジンの機体、『E-3Cセントリー』AWACS(早期警戒管制機:航空目標の捜索から戦術データリンクの集積、さらには味方航空機の指揮管制まで担う機体)のオペレーターがCAP(戦闘空中哨戒:敵機の出現に備えて兵装を搭載した戦闘機を空中待機させておく事)に当たっていた通称ファイティングファルコン、その最新型である『F-16C CCIP』戦闘機隊に指示を出す。

 すると、即座に編隊長機のパイロットが指示を了承し、それに続いてウイングマン(僚機)も短い応答を次々に発して最終的に8機の『F-16C CCIP』戦闘機が編隊を維持したまま旋回して機首を敵機のいる方へ向け、さらに高度を3000ftにまで下げて戦闘態勢へと移行した。


 また、この攻撃で彼らが選択した兵装は『AIM-120C-7』AAM(空対空ミサイル)、世間一般にはAMRAAMの通称で知られるアクティブレーダー誘導方式(基本的に発射後は発射母機からの誘導に頼らず、ミサイル本体の装置のみで敵機を捕捉する誘導方式)の中射程ミサイルだった。

 最大射程が25nmにも達する『AIM-120C-7』だけあって機体が戦闘態勢へ移行した直後には敵機を捕捉しており、それを示す表示がHMD(飛行に関する様々な情報をパイロットの被るヘルメットのバイザーに直接投影する装置)に現れると同時に電子音も鳴り始める。


「Fairy11 FOX3」


 次の瞬間、アクティブレーダー誘導方式のAAMを発射する際の識別コードを酸素マスクの下で発すると同時に編隊長機のパイロットは、コクピット右側にあるコンソール(計器盤)上に据え付けられたサイドスティック式操縦桿にある兵装発射ボタンを右手親指で押した。

 その信号は直ちに左主翼端に搭載されていた『AIM-120C-7』へと送られ、弾体が機体から切り離されて空中へ飛び出すのに続いて後部のロケットモーター(推進装置)を作動させると、短時間の爆発的な燃焼で一気に最高速まで加速した後は燃焼を終えて惰性で薄い煙の筋を残すのみで標的のいる方角に向けて突き進んでいく。

 勿論、ほぼ同じタイミングで編隊を構成する他の7機の『F-16C CCIP』の左主翼端からも『AIM-120C-7』中射程AAMが発射され、合計8発のミサイルがマッハ4を超える最高速度で標的となった機竜と竜騎士に向かっていった。


 しかも、この攻撃ではAWACSを介したリアルタイムの戦術データリンクによって同一目標を狙わないよう各機に個別の攻撃目標が割り振られており、各機はHMDや正面コンソールに2つあるMFD(多機能ディスプレイ)の内の1つに表示される情報を基に攻撃を行ってる。

 おまけに今回は敵の索敵範囲外かつ射程外からの攻撃なので、命中精度を上げる場合に行うミサイルの中間飛翔段階における発射母機からのレーダー照射も非常に落ち着いたものだった。

 そして、戦闘機もミサイルも存在しない世界に住む人間に高速で接近してくるAMRAAMを探知したり回避したりする手段は無く、直撃を受けた4機の機竜と4騎の竜騎士は自分の身に何が起こったのかも分からずに爆発に呑み込まれて地上へと落下して全員が死んだ。


「一体、何が起きてるんだ!?」

「わ、分かりません。いきなり爆発したとしか……」

「とにかく、今は一刻も早く隊形を組み直すべきかと」


 当然、未知の攻撃を受けた形となった空中騎士団の生き残りは戸惑いを隠せない。もっとも、そこは帝国軍の中でも精強で知られる空中騎士団だけあって辛うじてパニックには陥らず、早くも状況の把握と態勢の立て直しが行われようとしていた。

 しかし、そんな彼らを嘲笑うかのように追撃が加えられる。なぜなら、別の兵装に切り替えた戦闘機のパイロット達が新たな識別コードを発すると共に操縦桿の兵装発射ボタンを押して今度は『AIM-9Xサイドワインダー』AAMを発射したからだ。

 おまけに彼らが被るヘルメットにはJHMCS(ヘルメット装着式照準システム)が搭載されており、敵機のいる方向に顔を向けるだけで簡単にミサイルをロックオンする事ができた。


「Fairy11 FOX2」


 先程の『AIM-120C-7』と同様に機体の右主翼下パイロン(各種兵装を取り付ける場所)を飛び出した『AIM-9X』は、こちらも瞬間的なロケットモーターの作動で一気に最高速まで加速すると以降は惰性で飛翔して目標へと向かった。

 この2種類のミサイルの違いを挙げるとすれば、『AIM-9X』は短射程になった代わりに敵機の激しい機動にも対応し易く、画像赤外線誘導方式(目標を赤外線画像によって識別する誘導方式)で発射後の誘導などは一切必要が無い事ぐらいだろう。

 よって生き残った空中騎士団にもミサイルを回避する術は無く、彼らも先に撃墜された者達と同じ末路を辿っている。


 ただ、それでも周囲の警戒はしていたので被弾する直前に接近してくるミサイルか戦闘機の姿を一瞬でも目撃していたか、『F100-PW-229』ターボファンエンジンの音を耳にしたかもしれないが、彼らに現代兵器の知識も無ければ結末も変わらないから救いにはならない。

 ちなみに、ここで撃墜された12機以外にも空中騎士団所属の竜騎士や機竜は幾つかの集団が戦闘地域上空を飛行していたのだが、彼らも別の『F-16C CCIP』戦闘機隊によるミサイル攻撃を受け、何も出来ないまま1機残らず撃墜されている。そして、それは5分足らずの間に起きた出来事だった。


   ◆


 こうして戦闘地域上空の脅威を全て排除したのを受け、合衆国の異世界派遣軍は航空優勢をより完璧なものにする為の作戦行動を開始する。


「Titania61 to Banshee17 and 20.The target is an enemy AB,heading030,range35.Destroy it」

<ティターニア61よりバンシー17、ならびに20。攻撃目標は敵航空基地、方位030、距離35nmだ。破壊しろ>

「Banshee17 wilco」

<バンシー17、了解>

「20 wilco」

<20、了解>


 この時、『E-3C』AWACSのオペレーターより攻撃の指示を受けたのは、敵機が排除されるタイミングに合わせて戦闘機隊とは異なる方向から侵入してきた4機の『F-15Eストライクイーグル』戦闘攻撃機だった。

 同機は外見こそベースとなった制空仕様の『F-15Dイーグル』によく似ているが、昼夜間/全天候下での長距離侵攻を可能とすべく機体構造の約60%を新設計し、搭載する電子機器も最適な物に一新した事実上の新型機である。

 そして、指定された機のパイロットは即座に応じて編隊から離れると、当該地域で唯一の敵航空基地(これは便宜上の名称で、実態は空中騎士団の地上における待機エリア)のある方角へと機体を旋回させて機首を向け、2機は揃って速力350kt・高度8000ftで水平飛行に移行した。


「Banshee17 to 20.Attack it following me」

<バンシー17より20。私に続いて攻撃しろ>

「20 wilco」

<20、了解>


 その後、短時間で攻撃目標を狙える空域に達したところでコクピットの前席に座るパイロットがインターコム(機内無線)を通じて後席に座るWSO(兵装システム士官:各種センサーの操作や目標指示などパイロットをサポートする要員)に指示を出す。


「GBU,stand by」

<レーザー誘導爆弾、投下準備>

「Trust me」

<任せろ>


 訓練で鍛えられたWSOは直ぐに反応し、専用のコンソールを見ながら左右のコントロールスティックを駆使して兵装に合わせたセンサーのモードを選択すると共に必要な情報をMPD/MPCD(多目的表示装置/多目的カラー表示装置)にも上げていく。

 勿論、幾つかの情報は前席のパイロット用コンソールにあるMPDにも表示されるので、お互いに自分の目と耳で現状を正確に把握できるようになっていた。


「Irradiation start.GBU up」

<レーザー照射、開始。レーザー誘導爆弾、投下準備完了>

「Banshee17 bombs away」


 こうしてWSOから投下準備完了の報告を受けたパイロットは最後にMPDに素早く視線を走らせて自分の目でも確認すると、爆弾投下の識別コードを発しながら操縦桿に付いている兵装発射ボタンを2回押して2発の『EGBU-12』レーザー誘導爆弾(500Lb)を胴体下パイロンより投下した。

 勿論、爆弾投下の際には操縦桿を僅かに手前に引いて機体にプラス方向のG(重力加速度)を掛け、機体から離れた爆弾が物理法則に従って落下するようにしておくのを忘れない。

 なお、『EGBU-12』にはレーザー誘導にGAINSと呼ばれるGPSとINS(慣性航法装置)を組み合わせた2重の誘導装置が搭載されているが、異世界にはGPS衛星は存在しないので予めレーザー誘導のみで投下するモードを選択している。


 なぜなら、GAINSは実戦での戦訓を経て後から追加された誘導装置で、『EGBU-12』の本質はレーザー誘導爆弾だからだ。

 そして、レーザー誘導には命中精度こそ高いものの気象条件(雨・霧・砂塵など)や煙幕を始めとする環境によって使用が制限される上に、投下してから命中するまで誰かが攻撃目標にレーザーを照射し続けなければならないという運用上の制約があった。

 しかし、この異世界ではGPSが使えない代わりに脅威となる敵機もSAMも存在しないから投下母機は安心してレーザー照射を続けられるし、向こう数日は晴れるとの事なので気象条件もクリアしている。


 よってWSOは対地モードに切り替えてあった『AN/APG-70』レーダーで地上のターゲットの全容を把握し、より詳細な情報を機体に搭載した『AN/AAQ-33スナイパーXR』目標指示ポッドで捉えてMPCDの1つに表示するように設定。

 後は、捉えた画像と画面上のクロスラインが重なるようにコントロールスティックを動かしながらボタンを押してレーザー照射を続けるだけで良かった。なにせ、この目標指示ポッドには高精度の追跡機能や高高度(最大50000ft)からの赤外線レーザー(不可視)照射機能が備わっているのだから。


 また、パイロットの方も多少は周囲の警戒を行っていたが、基本的にはレーダーの走査範囲にターゲットが常に入るよう機体を一定の速度で水平飛行させる事を重視していた。

 その結果、バンシー17の投下した2発の『EGBU-12』は正確に木造の簡素な小屋(騎士団員達が宿舎として使っている組み立て式の小屋)を直撃し、交代要員として休息を取っていた団員達を小屋ごと1人残らず吹き飛ばしたのだ。


「Banshee20 bombs away」


 さらにバンシー20も2発の『EGBU-12』を先行機より僅かに遅れて投下し、10mほど離れて隣接する別の簡素な木造小屋(騎士団員達の支援要員用の宿舎)を中にいた人間ごと吹き飛ばしている。

 この時、空中騎士団側にとって不運だったのは竜騎士も機竜乗りも1度の飛行で消耗する体力や魔力が大きいので地上にいる間は極力動かず、大半の時間を宿舎で寝て過ごすのが常識になっていた所為で一撃で全員が死んだ事だった。

 当然、レーザー誘導爆弾の性能どころか存在さえ知らない異世界の住人からすれば、いきなり2つの小屋が大爆発を起こして吹き飛んだようにしか見えず、混乱とショックで爆死を免れた者達の反応も明らかに普段よりは鈍くなっていた。


 そして、その事が彼らにさらなる悲劇と絶望をもたらすのだが、それを現代兵器や現代戦に関する知識が皆無な異世界の人間に予見しろというのは流石に酷だろう。

 それに対して『F-15E』のパイロットは操縦桿を倒して機体を右ロール(飛行軸に対して機体を左右に傾ける動き)させ、そこからのピッチアップ(機体の地面に対する上下への傾き。アップは上昇)で右旋回を行っている間に新たな兵装を選択している。

 もっとも、今度の兵装は誘導方式で分類すれば無誘導爆弾に該当するので特別な準備は必要なく、彼は左手で握るスロットルに付いたボタンを押して目的の兵装を選択するだけで良かった。だから、旋回を終えて再び爆撃の為の飛行コースに戻った時には投下準備は完了していた。


「Banshee17 bombs away」


 基本に忠実なパイロットは、速力350kt・高度8000ftで水平飛行を行いつつHUD(飛行に関する様々な情報を投影するガラス板)の爆撃用照準の表示が目標と重なったタイミングで操縦桿を引きつつ兵装発射ボタンを2回押し、2発の『CBU-103』クラスター爆弾を胴体下パイロンより投下した。

 その後は投下した爆弾の行方などは頭から追い出し、左手でスロットルを奥へと押し込んでミリタリー推力(特別な装置を使わない状態での最大推力)で目標上空からの早期の離脱を図る。

 この間、投下されたクラスター爆弾はWCMD(風偏差修正小弾ディスペンサー)キットによって目標へと向かう最適な角度が保たれ、所定の高度に達すると内部に詰まっていた202発もの小弾を地上に向けてばら撒いたのだ。


 ちなみに、後付けのWCMDキットによって40000ftという高高度からの投下も現実的となり、かつては投下高度を上げると命中精度の急激な低下が問題となっていた無誘導クラスター爆弾の運用の幅が広がったと言われている。

 そして、小弾の威力は直撃しなくても15m先の軽装甲車両を走行不能に出来るレベルで、それが人員なら殺傷範囲は150mに達していた。


 これだけの威力の小弾が202発も詰まった『CBU-103』が2発、後続のバンシー20も2発を投下していたので計808発もの致死性弾体が空中騎士団の待機エリアを覆うように降り注いだ結果、地上の被害は想像以上に凄惨なものとなっていた。

 なにせ、爆撃を受けた範囲にいた人間と飛竜は全身を飛び散った破片でズタズタに切り裂かれて死に、予備の機竜や備蓄してあった物資なども全て破壊し尽くされて死体ともども燃えていたからだ。

 こうして帝国の軍事侵攻において重要な役割を果たしてきた空中騎士団は、創設以来1度も経験した事のない大損害を受けて壊滅し、少なくとも王国との戦線においては完全に駆逐された。


「Good job,Banshee17 and 20.Go to the junction point,heading120」

<よくやった、バンシー17ならびに20。方位120で合流ポイントへ向かえ>

「Banshee17 wilco」

<バンシー17、了解>

「20 wilco」

<20も了解です>


 見事に任務を完遂した彼らには、敵航空基地の完全破壊をUAV(無人航空機)から送られてきた画像によって確認した『E-3C』AWACSのオペレーターより次の指示が出される。

 ここで敵航空基地のBDA(爆撃効果判定)に貢献したのがグローバルホークの愛称で知られる『RQ-4B block40』無人偵察機で、最低でも2機が高度35000ft付近を常時飛行していて合衆国異世界派遣軍の捜索・監視活動を支えていた。

 勿論、『F-15E』戦闘攻撃機の搭載する『AN/AAQ-33』目標指示ポッドが備える赤外線監視機能によってもBDAは充分に可能だが、より鮮明な画像情報を作戦参加部隊全体で共有する目的もあってUAVによる確認が行われたのだ。


 しかし、異世界でUAVを運用するにあたって大きな問題となったのが人工衛星だった。なにせ、UAVは遠隔操縦に通信衛星、航法にGPSを使用するので人工衛星の存在しない異世界では運用が出来なかったのである。

 だからと言って、最低でも24基の衛星を常時稼働させておく必要のあるGPSを異世界で新たに構築するのは予算的にも時間的にも非現実的だった。

 そこで合衆国は、小型の無人飛行船に高速データ通信機器・INS・IFF(敵味方識別装置)を搭載して空に上げ、装置の稼働や飛行制御に必要な電力は昼間用の太陽光発電装置と夜間・悪天候用の小型大容量バッテリーで確保する事にした。


 そして、多数の小型無人飛行船を高度70000ftに滞空させ、航法の支援や通信の中継器として利用する事で問題を解決している。また、この方法を使えたのには高度8000ft以上を飛行する大型の生物や飛行兵器が異世界で確認されていない事も大きく関わっていた。

 もっとも、これは急造の解決策なので小型無人飛行船からGPS信号の類は発信されておらず、GPSが重要な役割を果たす機器や兵器は一切使えない事を予め断っておく。

 さて、ここで時間を少しだけ巻き戻し、バンシー隊の残り2機の『F-15E』戦闘攻撃機が同時刻にどういった任務を遂行していたのかを順を追って見ていこう。


「Titania61 to Banshee18 and 19.The target is an enemy HQ,heading010,range40.Destroy it」

<ティターニア61よりバンシー18、ならびに19。攻撃目標は敵司令部、方位010、距離40nmだ。破壊しろ>

「Banshee18 wilco」

<バンシー18、了解>

「19 wilco」

<19も了解>


 敵航空基地への攻撃の為に編隊を離脱していく2機とは対照的に、こちらの2機は現在の針路を維持したまま飛行を続けていた。そして、攻撃目標である敵司令部(これも便宜上の名称で、帝国軍侵攻部隊の総指揮官と幕僚がいる簡易陣地)を射程に捉えた段階で行動を開始する。


「GBU,stand by」

<レーザー誘導爆弾、投下準備>

「Trust me」

<任せろ>


 パイロットから指示を受けたWSOが手際良くレーザー誘導システムを作動させ、MPCDの画像越しに帝国軍総指揮官と幕僚がいると思われる小屋(国旗や警備兵の配置から判別は容易だった)に照準を合わせてレーザーを照射すると完了の声を上げた。


「Irradiation start.GBU up」

<レーザー照射、開始。レーザー誘導爆弾、投下準備完了>

「Banshee18 bombs away」


 それを受けてパイロットも自分の目で最終確認を行い、問題が無い事を把握すると僅かにGの掛かる中で兵装発射ボタンを2回押して2発の『EGBU-12』を胴体下パイロンより投下した。

 当然、2発のレーザー誘導爆弾は『AN/AAQ-33』目標指示ポッドから照射される赤外線レーザーが指し示す目標に向かって自力で軌道を微修正しながら重力に引かれて落下していく。

 その頃、標的となった件の小屋では上級貴族たる帝国軍の総指揮官を筆頭に多数の幕僚達が集まって作戦会議を開いていた。もっとも、双方の戦力に大きな差があったので緊張感に乏しく、一部の気の早い者などは王都占領後の事を口にする有様だった。


「あの国は小さいながらも経済的には恵まれているらしく、王宮には著名な芸術家の作品が数多く飾られているそうだ」

「ほう、あの噂は本当だったか。なら、それらを無傷で手に入れるためにも兵達には略奪や破壊は控えるよう厳命しなくてはな」

「芸術品も悪くはないが、吾輩としては王室御用達の果実酒の醸造技術が――」


 そんな幕僚達の浮ついた様子を無言で眺める総指揮官の表情には、どこか懸念にも似た暗い影のようなものが張り付いていた。勿論、彼とて圧倒的な戦力を投入した帝国軍が負けるとは思っていなかったが、ある噂の所為で嫌な予感が頭から離れなかったのだ。

 ちなみに、その噂とは王国が何やら得体の知れない連中を招き入れたというものだった。しかも、どういう訳か今回に限っては帝国軍が放った斥候の内、王国軍の指揮官がいると目される地域を探るよう命じた複数の部隊が消息を絶っている。

 なので、こういう時こそ飛竜や機竜を使って上空から探れば良いのだろうが、相手も警戒しているのか行動半径の外にあって確認する事さえ出来なかった。また、遠く離れた場所を視る魔術もあるにはあるが、それを使える魔術師は数が非常に限られていて連れて来られなかった。


 斥候部隊を攻撃して潰す事には戦術上の利点もあるので被害が出るのは珍しくないのだが、今回のように消息を絶って誰一人として戻って来ないのは極めて稀である。まあ、ただの偶然と言われれば反論のしようがないのだが、どうしても腑に落ちない部分が帝国軍の総指揮官にはあって表情を曇らせていた。

 一応、ここで種明かしをしておくと、斥候部隊が消息を絶ったのは敵情偵察と警戒を兼ねて潜伏していたSOF(アメリカ陸軍特殊作戦部隊:通称グリーンベレー)が排除したからだ。

 わざわざ敵に情報を与える必要は無いと考え、現代兵器を目撃しそうな部隊を音も立てずに全滅させて死体まで隠した為に前述のような奇妙な事態になった事を記しておく。


「ご報告申し上げます! 先程の轟音の正体は不明ですが、複数の飛竜が墜落しているとの事です!」


 すると、小屋の中にガチャガチャと金属鎧の擦れる音を鳴らしながら入って来た1人の兵士が扉の近くで素早く姿勢を正し、よく通る声で調査するよう命じられていた事についての報告を行う。しかし、報告を受けた大多数の者達の反応は鈍かった。

 それには勿論、報告の内容が曖昧だった点も挙げられるが、帝国軍には自分達が負ける要素は無いという思い込みのようなものが存在したからだ。だが、早い段階から懸念を抱いていた総指揮官だけは表情を変えて言葉を発しようとしていた。


 もっとも、総指揮官が言葉を発するよりも先に屋根を貫いて飛び込んできた2発の『EGBU-12』の爆発によって彼らは何が起きたのかを理解する暇も無く、全員が一瞬にして爆死した。

 さらに、ほぼ同じタイミングでバンシー19の投下したレーザー誘導爆弾も目標を直撃しており、総指揮官用の宿舎として使われていた小屋の方を周囲で警備に当たっていた兵士ごと木端微塵に吹き飛ばして破壊している。


「GBU,stand by」

<レーザー誘導爆弾、投下準備>

「Trust me」

<任せろ>


 当然、この程度で攻撃を止めるつもりのない2機の『F-15E』戦闘攻撃機は大きく旋回して敵司令部上空へと戻って来ると、再び2発ずつ『EGBU-12』を投下して小屋(幕僚用宿舎)と駐車場(馬車などの移動用手段を置いている場所)を跡形も無く破壊した。

 こうして一瞬にして上級指揮官を全滅させられた司令部付きの帝国兵は混乱の極みに達し、死んだ貴族達の近衛兵を含めて誰もが混乱して右往左往するか、思考停止に陥って呆然と一点を見つめるようにして立ち尽くすばかりであった。

 そして、そんな彼らの頭上には三度『F-15E』戦闘攻撃機が侵入し、異世界ではオーバーキルに等しいクラスター爆弾を投下するのだった。


「Banshee18 bombs away」

「Banshee19 bombs away」


 上空へと侵入した2機の『F-15E』戦闘攻撃機の胴体下パイロンより投下された計4発の『CBU-103』クラスター爆弾は、設定された高度まで落下すると外殻が割れて子弾をばら撒き、ちょうど敵の陣地全体を万遍なく覆うように降り注いだのだ。

 結果、地上では数百を超える爆発が同時多発的に発生し、効果範囲内にあった物を次々に破壊するのと同時に生き物は高速で飛び散った破片で手当たり次第に切り裂いて殺傷していき、仕上げとばかりに纏めて燃やして凄惨な光景を作り出した。

 それでも落下した子弾の密度の関係で僅かに生き残った者もいたのだが、彼らは想像を絶する恐怖体験の所為で完全に戦意を喪失していて戦場から逃げ出してしまった。


「Good job,Banshee18 and 19.Even this confirmed the destruction of the target.Go to the junction point,heading110」

<よくやった、バンシー18ならびに19。こちらでもターゲットの破壊を確認した。方位110で合流ポイントへ向かえ>

「Banshee18 wilco」

<バンシー18、了解>

「19 wilco」

<19も了解>


 こうして20分程の間に帝国軍の2つの重要拠点を一方的かつ完膚なきまでに破壊し尽くした4機の『F-15E』戦闘攻撃機は、AWACSのオペレーターの誘導に従って鋼の翼を翻すと戦闘空域を悠々と離脱して基地への帰路についたのだった。


   ◆


 戦闘地域上空にて航空作戦全般の指揮を執る『E-3C』AWACSの機内では、『RQ-4B block40』無人偵察機より送られてきた画像データによって目標の破壊を確認したのを受け、新たな航空機部隊の誘導に取り掛かっていた。


「Titania61 to Scylla85 and 86.Maintain a current course,range30」

<ティターニア61よりスキュラ85、ならびに86。現在の針路を維持、目標まで30nmだ>

「Scylla85 wilco.We move to an attack after an invasion by flight60.86,do it following us」

<スキュラ85、了解。高度6000ftで侵入後、攻撃に移行する。86も続いて攻撃しろ>

「86 wilco」

<86、了解>


 こうして彼らは必要最小限の言葉で最終確認を行うと、AWACSのオペレーターはお決まりの台詞を口にして後は現場の判断に任せる事にした。


「OK,good luck」

<了解だ、成功を祈る>


 やがて目標地域上空へと侵入してきたのは葉巻みたいに太い胴体に翼を付けたような外見で、いかにも鈍重そうな大型機だった。

 ただ、その大型機は全長49m・全幅56mという機体サイズと背の高い垂直尾翼に加え、長大な主翼下に左右2基セットのエンジンを片翼に2つずつ(機体全体で8基のエンジン)ぶら下げている為に途方もない威圧感を放っていた。

 しかも、機体設計の妙と幾度となく行われてきたアップグレードによって1962年の最終号機の引き渡しから半世紀以上も実戦の空を飛んでいるベテランだ。


「It is the aim sky soon.Prepare for the bombing」

<間もなく目標上空だ。爆撃準備>

「Trust me」

<任せろ>


 目標上空への到達が目前に迫った『B-52Hストラトフォートレス』戦略爆撃機の機内では、2階建てコクピットの上部デッキ左側に座るパイロットがインターコムを通じて下部デッキ左側のレーダー航法士に爆撃準備をするよう命じていた。

 当然、その間もパイロットはMPCDに表示した航法情報から機体が爆撃コースから逸れていないかを常に確認しながら操縦を続け、彼の右隣に座るコ・パイ(副操縦士)はエンジン関連など機体の状態についての情報をMPCDに表示させて飛行のサポートを行っている。

 また、ターゲットの位置情報なども戦術ネットワークを通じてUAVが捕捉したものを受信しており、EVS(電子光学視野システム:各種センサーが捉えた機体前方の地形を画像として表示するシステム)に重ねて表示して航法を補助していた。


「Bombs up」

<爆撃準備完了>


 すると、直ぐにレーダー航法士から爆撃準備完了の報告が入る。なにせ、今回は無誘導で重力に引かれて落下するだけの『Mk82』LDGP(低抵抗汎用爆弾)しか搭載していないので、準備に必要な作業は少ないからだ。


「Scylla85 bombs away」


 やがて機体は所定の爆弾投下地点へと到達し、MPCD上には爆弾投下を指示する表示が出現する。そして、それを確認したパイロットが識別コードを発すると、MPCDの情報を共有していたレーダー航法士が手元のコントロールスティックにある兵装発射ボタンを押して爆撃を開始した。

 次の瞬間、胴体下部にある巨大な爆弾倉の観音開き式の扉が開き、500Lbの『Mk82』LDGPの全弾が等間隔で落下していく。

 それは一見すると一気に全弾を投下しているみたいだったが、実際には予め設定しておいた間隔に従って1発ずつ投下されたものだった。ただし、速力300ktで飛行しながらの爆撃となるので1秒に満たない間隔で投下しており、その所為で一気に投下しているように見えたのである。


「Scylla86 bombs away」


 そして、やや遅れてウイングマンも爆弾倉に抱えていた『Mk82』LDGPの全弾を投下し、2機合わせて96発もの爆弾が地上へと落下していく。

 なお、今回は投下母機が加速の鈍い大型機という事で尾部にスネークアイと呼ばれる減速装置(落下中に4枚のフィンを広げて空気抵抗を増し、落下速度を低下させる装置)を装着し、投下母機が爆発の影響を受けない位置にまで離脱する時間を稼げるようにしてあった。


 2機の『B-52H』戦略爆撃機が実施した絨毯爆撃の標的となったのは帝国軍補給部隊で、爆撃を受けた側からしてみれば空の上で耳慣れない音がすると思っていたら、いきなり得体の知れない物が大量に落ちてきて地面に当たると同時に大爆発を起こしたのだ。

 しかも、その1発当たりの破壊力は10人以上の優秀な魔術師が連携して発動させる高威力の攻撃魔法に匹敵するとあっては悪夢としか言いようがない。もっとも、彼らが圧倒的な破壊力を目の当たりして恐怖を感じたとしても一瞬で大半の者は爆発を目撃した直後には死んでいる。

 ゆえに地面には、浅いクレーター状の爆撃の痕が判を押したように幾つも並んで残り、その内部や周辺では破壊された馬車や魔導車(馬の代わりに魔法鉱石を動力源として動く荷馬車。魔法鉱石に魔力が蓄積されている限りは走り続けられるが、運用コストは高い)などの残骸に混じって転がった無数の死体が異臭を放ちながら燃えていた。


 ちなみに、これが現代戦ならGPS誘導爆弾を使って遥かに効率良く爆撃していたのだが、前にも述べたように異世界ではGPSが使えない。かと言ってレーザー誘導爆弾を使えば、1発ずつレーザー誘導を行う必要があるので不便だ。

 そこでコストパフォーマンスも考慮して選定されたのが最もシンプルで古くからある無誘導爆弾、それの現代版たるMk80系LDGPだった。しかし、その名の通り無誘導である為、普通は面積の広い固定目標の攻撃に使われる事が多い。


 だが、この異世界における軍隊の戦力とは所属する兵士の人数で決まる事が圧倒的に多く、それに倣って王国との戦線に投入された帝国兵も戦闘要員だけで5万人を超える規模だった。当然、これだけの規模になると消費する物資の量も膨大になり、必然的に大規模な補給部隊を伴って行動せざるを得なくなる。

 そこで問題となるのが新鮮な水や食料の確保で、現代のように加工技術や保存技術の発達していない異世界では行軍しながらの現地調達というのは逆に常識となっていた。

 だから帝国軍の補給部隊も近くに林のある川沿いの平地に臨時の簡素な陣地を築き、これからの進軍に備えて水と食料(魚・木の実・小動物など)の調達を行っていた。つまり、一時的に補給部隊が拠点化して固定目標になっていた訳である。


 その様子を上空に飛ばした無人偵察機でリアルタイムに把握できたからこそ、戦略爆撃機による絨毯爆撃という古典的な戦術が効果を上げたのだ。なお、投下する爆弾を500Lbとしたのは当該地域に硬化目標が確認されなかったからで、1発当たりの威力よりも手数を重視した結果だった。

 また、補給部隊には護衛という名目で後方の司令部にいた上級貴族達の腹心の部下が率いる歩兵部隊も同行していたのだが、彼らも爆撃の巻き添えを受けて多くの犠牲者を出している。

 もっとも、この歩兵部隊は何かと威張る癖に敵兵との戦いよりも侵略した地域での略奪や破壊活動に精を出しているので敵味方を問わず嫌われており、巻き添えになっても憐れに思う者は少ないだろう。


「Titania61 to Pixie squadron.Invade the aim sky,and clean up the enemy who stayed」

<ティターニア61よりピクシー隊。目標上空へ侵入し、残った敵を掃討しろ>

「Pixie33 wilco」

<ピクシー33、了解>


 爆撃を終えて離脱していく2機の『B-52H』戦略爆撃機を眼前のコンソールにあるレーダー画面上で確認したAWACSのオペレーターは、上空で待機していた4機の『F-16C CCIP』戦闘機に指示を出す。


「36,follow me.34 and 35,attack the enemy of the left side」

<ピクシー36は私に続け。34ならびに35は左サイドの敵を攻撃しろ>

「36 wilco」

<36、了解>

「34 wilco」

<34、了解>

「35 wilco」

<35、了解>


 すると、今度は編隊長が矢継ぎ早にウイングマンに指示を出し、あっという間に隊長機の右斜め後方に全機が一列に並んだエシュロン隊形から中央の2機が上昇旋回で離脱して新たな編隊を組み、それぞれが攻撃態勢へと移行していく。

 その証拠に2つの編隊は互いに逆方向へと改めて旋回し、やや大きめの旋回半径での飛行を経て爆撃コースに乗った時には速力350kt・高度6500ftで爆撃の準備を完了していた。


「Pixie33 bombs away」

「Pixie36 bombs away」

「Pixie34 bombs away」

「Pixie35 bombs away」


 こうして水平飛行で目標上空へと侵入した『F-16C CCIP』戦闘機は、MFDに戦術データリンクによってAWACS経由で無人偵察機から送られてくる画像情報や空対地モードにした自機のセンサー情報を表示し、各機が効率良く『CBU-103』クラスター爆弾を投下していく。

 同じ機体でもCAP任務を行っていたフェアリー隊がAAMを満載していたのに対し、ピクシー隊は2発のAAM(自衛用)と4発のクラスター爆弾という組み合わせだ。つまり、帝国軍補給部隊の生き残りの頭上には202発の子弾を内蔵したクラスター爆弾が16発も投下された事になる。

 先程の絨毯爆撃で混乱しているところへ無誘導とは言え、攻撃対象を面で制圧する事を目的とした兵器が人の密集する場所を多少なりとも狙って放たれれば、その結果がどうなるかは想像に難くないだろう。


 なにせ、子弾の降り注いだエリアでは断続的に爆発が発生して無数の破片が高速で飛び交い、殺傷範囲内にいた人間を片端から切り裂いて殺した上に燃やしているのだから。結果、見るも無残な死体が恐ろしい勢いで量産されて阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がる。

 そして、そんな地上の惨状とは無縁だと言わんばかりに爆撃を終えた4機の戦闘機はターボファンエンジンの轟音を辺りに響かせながら大空に一筋の飛行機雲を残して飛び去っていく。

 ちなみに、一連の空爆によって帝国軍補給部隊は人員と物資の実に90%以上を失った挙句、運良く生き残った連中も前線で戦う味方を見捨てて逃走してしまい、部隊としての機能どころか存在そのものが戦場から消えてしまった。


   ◆


 現代世界の軍隊の介入によって帝国軍に甚大な被害が出ている中、その事実を知らずに前進を続ける1つの帝国軍部隊があった。

 もっとも、厳密に言えば上空から響く耳慣れない轟音や複数の爆発音、竜騎士が墜ちたという噂などで動揺も広がっていたのだが、総指揮官が何も言ってこない以上は彼らにはどうする事もできない。そういう指揮系統であり、それが帝国軍における常識なのだ。


 なお、異世界における通信手段は伝令の兵士が口頭や文書で伝えるのと鳥などの動物(魔術師の使い魔を含む)に暗号文を運ばせる事を基本としているのだが、魔術や魔術道具を使ったリアルタイムの通信手段も当然のように存在はしている。

 ただし、魔術を使った方法は魔術師同士でないと成立しない上に通信可能な距離が魔術師の能力に依存する所為で使い勝手が悪く、おまけに傍受されるリスクもあった。

 また、魔術道具を使った方法は距離の制約や傍受されるリスクこそ無いものの道具自体が貴重で高価な為に数を揃えるのは困難で、しかも複雑な手順を踏んで同調させた2つの道具間でしか通信の出来ない不便な代物だった。それでも外部から魔力を供給すれば、こちらは誰でも使えるという利点がある。


 ゆえに帝国軍でも通信用の魔術道具は総指揮官と大規模集団を繋ぐものがあるだけで、それ以外は伝令兵による現代の基準で見れば時間の掛かる方法を採用していた。だが、その総指揮官のいる司令部が早々に爆撃を受けて物理的にも機能を失った事で前線部隊には命令が届かなくなっていた。

 しかし、現代の軍隊は戦術ネットワークによって参加する部隊の末端の兵士から指揮官までが多くの情報をリアルタイムで共有し、それは陸海空といった組織の垣根さえ超えて繋がっている。だから、ほとんどタイムロスなしで各部隊が効果的な行動を取る事が出来た。


「Corrective fire,stand by」

<修正射、準備>

「I sir」

<了解>


 それを示すかのように、ほぼ予定通りに所定の攻撃位置に就いた部隊では指揮官が今後の全力射撃に必要となるデータを得る為の射撃を実施するよう指揮下の者に命じていた。そして、指揮官からの命令を受けた3両の『M109A6パラディン』155mm自走榴弾砲が直ちに射撃態勢を整える。


「HE up!」

<榴弾、装填完了!>

「Fire!」

<撃て!>


 指揮官が射撃命令を発した瞬間、発射時の反動を軽減させるべく砲身が素早く後退して車両本体も前後に揺れる中で轟音を響かせて155mm榴弾が砲口から高速で飛び出す。

 さらに、砲口からは発射ガスに押し出された白い発砲煙が周囲へと広がり、装薬(砲弾を飛ばすのに使われる火薬)に点火する際の特有の臭いを辺りに漂わせていた。

 こうして発射された155mm榴弾は、あっという間に約21kmの距離を放物線を描いて飛翔して目標へと着弾する。この着弾の衝撃で砲弾先端部分に取り付けた信管を作動させ、内部の炸薬の起爆によって無数の鋭い破片を高速で飛散させて周囲にいる人間を殺傷するのだ。


「ぎゃあああっ!」

「う、腕が! 俺の腕が……!」


 その為、榴弾の殺傷効果範囲内にいた多数の帝国兵が飛び散った破片で身体を切り裂かれ、即死するか激痛でのたうち回りながら凄まじい悲鳴を上げる。しかし、現代兵器に関する知識の無い彼らには何に攻撃されたのかが分からない。

 一応、爆発を伴う攻撃としては魔術によるものが一般的なのだが、魔術師なら相手の魔術の流れは察知できる上に極めて大規模な一部の例外を除いて射程距離は弓矢と変わらないものばかりである。

 だから混乱と恐怖が一気に伝播して騒然となり、まだ被害が局所的であるがゆえに部隊全体への影響こそ見られないものの、被害を受けた者達の間では統率が取れなくなり始めていた。


「さっきの爆発は一体、なんだったんだ!?」

「それよりも、どうして敵の接近に気付けなかったんだよ!?」

「そこ、隊列を乱すな!」


 そうやって口々に勝手な事を叫ぶ者達もいる中、なんとなく後方が気になった帝国軍将校(下級貴族)の1人は振り返って自分達の部隊に配備された攻城兵器に目を向ける。すると、そこには前方の混乱で移動こそ止めていたが、三角形の屋根付き台車に載せられた破城槌の無事な姿を確認できた。

 この事からも分かるように彼らは多数の攻城兵器を有する部隊で、前述の破城槌以外にも小型のトレビュシェット(おもりの位置エネルギーを利用して投擲する投石機)やバリスタ(てこの原理で弦を引き絞る大型の弩。構造的には弓に近い武器)などを台車に載せて移動可能にした物が配備されていた。

 なにせ、王国軍の指揮官がいるのは簡素とは言っても石造りの砦で、その先にある王都に至っては高い城壁と頑丈な城門によって要塞のように守られているから攻略には攻城兵器が欠かせないのだ。


 また、攻城兵器の援護下で城壁に梯子を掛けて内部への突入を図る剣士や彼らの支援を行う弓兵、大型の盾で敵の攻撃から味方を守る重装兵や状況に応じた柔軟な支援を行える魔術師なども攻城戦に欠かせない兵種として多数が部隊に編制されていた。

 そして、これだけの戦力があれば彼らが王国軍に後れを取る事などあり得なかったのだが、この戦線に展開する現代の軍隊は大隊規模(定数18両)の『M109A6』155mm自走榴弾砲を配備した陸軍の第3機甲師団(通称:スピアヘッド)の第2機甲旅団戦闘団である。


 この旅団戦闘団はハイテク機器の普及で『ネットワーク中心の戦争』が提唱されるようになった中、より迅速かつ効率的に作戦展開できるよう部隊編成を改編した結果、生まれた戦闘集団である。

 その特徴は、かつての師団が採用していた諸兵科連合(歩兵・戦車・砲兵・ヘリ・支援部隊などの異なる兵種の統合運用)を個々の旅団戦闘団へと適用し、正面戦力が少なくても問題のない地域紛争や対テロ戦争が主体となった現代戦で対象地域に迅速に展開して単独で作戦を遂行できるようにしたものだ。

 しかし、異世界では舗装された道路網も鉄道も存在しない場所で兵士の数だけは多い敵を正面から撃破する必要性があるので、それに対応した戦力の増強が行われた事を記しておく。


「Data came from the CP」

<指揮車両からデータが来ました>

「Wait after putting aims together」

<照準を合わせてから待機しろ>


 前線観測班が運用する小型UAVが先程の射撃に関するデータを収集。それを分析して誤差を修正した照準用データを指揮車両経由で指揮下の自走榴弾砲へと送信すると、各車両に搭載されたFCS(火器管制装置)によって必要な数値を入力するだけで半ば自動的に照準が合わさって射撃準備は完了する。

 結果、大した時間も掛からずに18両全ての自走榴弾砲の射撃準備が整い、その情報も指揮車両に送られて各車両の状況を把握した砲兵部隊指揮官が命令を下した。


「All howitzers,start the continuous fire」

<全自走榴弾砲、連続射撃開始>

「I sir.Fire!」

<了解。撃て!>


 こうして車載無線機から指揮官の命令が聞こえてくると各車両の車長は即座に応じ、次に素早くインターコムに切り替えて砲手に射撃を命じる。すると、砲手がトリガーを引いて砲弾を発射するのだが、18両もの自走榴弾砲が一斉に砲撃を行う様は圧巻の一言だった。

 また、『M109A6』155mm自走榴弾砲の砲弾の装填作業は人力で行われており、装填手が砲尾を解放して砲弾を装填した後に別の装填手が装薬を装填し、1人目の装填手が砲尾を閉鎖してロックを掛けるという作業を1発撃つごとに繰り返していた。


「HE up!」

<榴弾、装填完了!>

「Fire!」

<撃て!>


 砲身の過熱を抑えるのと装填手の体力的な問題から砲撃は1発/毎分のペースで実施され、標的となった帝国軍部隊の頭上に文字通り雨のように砲弾を降らせる。さらに、この間も前線観測班からもたらされる情報によって照準を微修正し、より効果的な砲撃を行って敵に多大な損害を与えるのであった。

 この組織的な砲撃は30分近くに渡って続き、集団の前衛に当たる破城槌や剣士の部隊に身元の特定も困難なほどズタボロになった者を含む死体の山を築き上げた。


 ちなみに、現代戦では対砲兵レーダーによって飛翔する砲弾を探知し、その弾道をコンピューターで解析する事で発射地点を特定できる。なので、そうして割り出した発射地点を砲撃や空爆で攻撃する対砲兵戦術も常識となり、短時間での集中砲撃と陣地転換(移動)を交互に繰り返すのが鉄則だ。

 だが、異世界には対砲兵レーダーも射程20kmの火砲も無く、唯一の懸念材料であった航空戦力も排除されているので自走砲部隊は同じ場所に留まって砲撃を続ける事ができた。そんな形で砲撃を始めて5分くらいが経過した頃、自走榴弾砲部隊の後方に展開する部隊でも攻撃に向けた動きが起きる。


「Volley primary targets!」

<第1攻撃目標に一斉射撃をしろ!>

「I sir!」

<了解!>


 指揮官が命令を下した瞬間、3両ずつのチームに分かれていた計9両のコンテナ型の発射機が特徴的な車両、『M270A1』自走多連装ロケット砲(通称:MLRS)が周囲に白い発射煙を大量に撒き散らしながら1分以内に全弾(12発)を発射し尽くした。

 そして、発射機から飛び出したロケット弾は35km以上の距離を飛翔して攻撃目標上空に達すると、高度1000m付近で弾頭内部に詰まっていた子弾(518発)を地上に向けてばら撒く。しかも、その影響範囲は200m×100mにもなるから逃げ場など存在しない。

 たった1発のロケット弾でも広範囲を制圧できるのに、それが1両につき12発、部隊全体では108発も発射されたのだから攻撃を受けた地域は一瞬にして爆発に覆い尽くされた。おまけに、子弾の1発1発に装甲などで保護されていない人員や車両に致命傷を負わせられるだけの威力がある。


 当然、異世界で使われているレベルの金属製鎧などは現代で言うところの装甲には該当せず、MLRSの攻撃を受けた地域では千人単位で死者が出る地獄と化していた。

 なにせ、かつて中東で勃発した湾岸戦争ではイラク兵から『鋼鉄の雨』と呼ばれ、その士気を挫いて大量の投降者を発生させる一因にもなった兵器だけに心理的なものも含めて威力は絶大だ。

 しかも、支援車両によって1両につき約8分で再装填が完了するので、複数の支援車両を予め近くに待機させておく事で15分後には9両による一斉射撃が可能となった。


「Voiiey secondary targets!」

<第2攻撃目標に一斉射撃をしろ!>

「I sir!」

<了解!>


 再び大量の白煙と共に多数のロケット弾が一斉に発射され、標的となった帝国軍部隊の頭上に破壊と死をもたらす雨となって降り注ぐ。そして、地上の広範囲を無数の小規模爆発で覆い尽くして一方的な殺戮を繰り広げた。

 こうして自走榴弾砲と自走多連装ロケット砲による苛烈な砲撃が終わった時、攻城戦を担う筈だった帝国軍部隊は人員や攻城兵器の約70%を喪失し、継戦能力を奪われたも同然の状態だった。だが、止めとばかりに更なる攻撃が実施される。


「Titania61 to Talos squadron.I admit an attack.Invade the aim sky promptly」

<ティターニア61よりタロス隊。攻撃を許可する。直ちに目標上空へ侵入せよ>

「Talos74 wilco」

<タロス74、了解>


 このAWACSのオペレーターからの攻撃要請に応じたのは、砲撃の影響を受けない目標近くの上空で待機していた『A-10CサンダーボルトⅡ』攻撃機の6機編隊を率いるパイロットだった。


「Talos74 to all Talos units.I disperse on schedule,and exterminate an attack,the enemy who stayed to each one」

<タロス74より編隊全機。予定通りに分散して各個に攻撃、残った敵を殲滅しろ>


 彼らは事前に残敵掃討の計画を立てていたので、これで充分だった。


「Break!」


 そして、編隊長の一言で編隊を崩すと2機ずつ3組に分かれ、それぞれが担当する区域に残存する帝国軍部隊へと襲い掛かる。


「Talos74 RIFLE」


 ウイングマンを引き連れて上空から降下し、上手く調整しながら速力250kt・高度4500ftで攻撃態勢に入った『A-10C』攻撃機のコクピットでは、パイロットがAGM(空対地ミサイル)の発射をコールすると共に操縦桿に付いている兵装発射ボタンを押していた。

 次の瞬間、機体の左翼下パイロンに搭載されていた『AGM-65Hマベリック』AGMがパイロンから切り離されるのに続いてロケットモーターに点火、CCDテレビ・シーカー(目標捕捉に半導体素子を使った撮像デバイスを利用する捕捉装置)が捉えた目標に向かって飛翔していく。


 この際、発射された『AGM-65H』AGMはロケットモーターの燃焼中は速度と高度の最大値を維持したまま目標近くまで飛翔し、そこから急降下する格好で目標上面を直撃して爆発した。

 ちなみに、このような軌道で飛翔するのは『AGM-65H』AGMが装甲車両の撃破を目的としたミサイルゆえに装甲の比較的薄い上面を狙うよう設計されていたからだ。当然、装甲車両よりも脆弱なトレビュシェットは直撃によって完全に破壊されている。

 また、このミサイルは発射後の誘導等は必要としていないので、パイロットは発射直後に操縦桿を動かして機体を反転離脱させ、そこから改めて新たな攻撃目標の捜索に移るのだった。


 すると、正面コンソールのMFDに『AN/AAQ-28ライトニング』航法・目標指示ポッドの捉えた別のトレビュシェットが映し出されたので、それを攻撃するべく操縦桿を動かして機体の針路を変えるのと同時に速力と高度も調節する。

 後は、左手で握るスロットルに付いた専用のノブを操作してMFDの画面上で十字型のシンボルを動かして目標をロックし、ミサイルのシーカーが目標を捉えているのを確認した上で発射のコールをするのに合わせて兵装発射ボタンを押すだけで良かった。


「Talos74 RIFLE」


 今度は右翼下パイロンに搭載されていた『AGM-65H』AGMが空中へと飛び出し、先程と似たような軌道を描いて狙いを定めたトレビュシェットを直撃して破壊。その際、破壊されて飛び散った攻城兵器の破片が周囲にいた人間にも少なからぬ被害を及ぼしている。

 もっとも、攻撃を行った『A-10C』攻撃機の方はミサイル発射後に反転離脱しており、パイロットが自身の行った攻撃による具体的な戦果を知るのは基地へと帰投した後だった。

 そして、ここまでは援護に徹していたウイングマンがタロス74とポジションを入れ替える形で攻撃に回り、同じようにミサイルを順番に発射して2つの攻城兵器を破壊した。


 なお、異世界には装甲車両が存在しないので今回の任務では2機とも『AGM-65H』AGMを2発ずつしか搭載しておらず、これでミサイルは全弾を撃ち尽くした事になる。だが、『A-10C』攻撃機には強力な対地攻撃兵装が残されていた。

 なのでパイロットは兵装操作パネルにスロットルから一時的に放した左手を伸ばして素早く操作し、搭載数の上では今回の主力兵装とも言える『ハイドラ70』ロケット弾を発射可能な状態にした。

 これで弾体直径70mmのロケット弾が7発収まったポッド6基(片翼に3基ずつ)、1機につき42発のロケット弾が使用可能となった訳だ。そして、操縦桿を動かして機体を大きく右旋回させると、正面に捉えた敵に対して正確かつ迅速にHUD上の表示を見ながら照準を合わせる。


「Talos74 MARK」


 最後に発射をコールすると共に操縦桿の兵装発射ボタンを押し、ポッド2基分(14発)のロケット弾を一斉に発射した。結果、一斉に点火されたロケットモーターによって薄いながらも大量の煙が生じる。

 さらに、ここで使用された『ハイドラ70』ロケット弾の『M151HE』弾頭には1.04kgものコンポジションB4高性能爆薬が詰まっており、異世界でも瞬間的な火力投射によって敵陣を面で制圧する兵器として本来の威力を存分に発揮した。

 ゆえに砲兵部隊による砲撃の混乱から立ち直れず、その場に立ち往生していた魔導車の小規模な車列(トレビュシェットで投擲する石を輸送中)の1つは文字通り一撃で全滅してしまう。


 こうして2機の『A-10C』攻撃機は空から標的を発見次第、ポッド単位でロケット弾を一斉に発射するという事を繰り返し、弾薬が尽きるまで小規模な車列や無傷の攻城兵器の破壊を続けるのだった。

 だが、それでも彼らの攻撃は終わらない。なぜなら、同機にはミサイルとロケット弾を撃ち尽くしても7銃身の『GAU-8/Aアベンジャー』30mmガトリングガンがあるからだ。


「Talos74 GunsGuns」


 まずは1機が速力250kt・降下角30度で目標へと接近すると、直線距離で約4000ftまで迫った付近で操縦桿のトリガーを右手人差し指で引き、HUD上の照準越しに短い射撃を浴びせる。

 それは2秒にも満たない本当に短時間での射撃なのだが、3900発/毎分という発射速度ゆえに60発以上の弾丸が降り注ぐのだ。


 しかも、発射される30mm弾には5発のAPI(非常に硬い重金属でもある劣化ウラン製の弾芯を持つ徹甲焼夷弾)につきHEI(高性能炸薬焼夷弾)を1発混ぜたものが使われている。その威力は現代のMBT(主力戦車)であっても後部や側面、上面の比較的薄い装甲なら貫通できた。

 当然、帝国軍にMBTと同等以上の装甲を持つ兵器や装備が配備されている筈もなく、密集隊形を組んで重厚な鎧と大型の盾で身を護ろうとした重装兵などは格好の獲物だった。

 もっとも、発射される30mm弾は音速を超えて飛来するので、彼らはガトリングガン特有の不気味で唸るような射撃音を耳にする前に全身を細切れのひき肉にされて絶命している。


「Talos79 GunsGuns」


 その後、1機目の『A-10C』攻撃機が離脱していくのに続いて2機目が上空へと飛来し、先程と同様に速力250kt・降下角30度・距離4000ftで別の帝国兵の集団に30mmガトリングガンの短い連射を浴びせて多数を殺害。

 そして、戦闘機用エンジンと比べれば少しだけ静かな『TF34-GE-100』ターボファンエンジンの音とジェット燃料の焼ける臭いを残して飛び去っていく。すると、入れ違いにタロス74が舞い戻り、新たな標的に対して30mm弾の連射を浴びせて多数の敵兵を血塗れの肉塊に変える。


 その間にタロス79の方は旋回を行って次の侵入に備え、攻撃を終えて離脱したタロス74に代わって上空へ姿を現すと射撃を実施して敵兵を殺すのだった。

 こうして2機の『A-10C』攻撃機は円を描くように低空を旋回しながら交互に射撃を行い、搭載する1174発の30mm弾の80%近くを消費するまで兵士・馬車・魔導車・攻城兵器の区別なく連射を浴びせて破壊と殺戮の限りを尽くした。


「はは、これは悪い夢だ……。そうに決まってる……」

「誰かコイツの頭を知らないか? 一緒に生きて帰ろうって約束したダチなんだ……」


 最早、一方的な虐殺に等しい攻撃が終わって6機の攻撃機が戦場の上空から飛び去った後には、おびただしい数の見るも無残な死体と破壊された兵器や乗り物の残骸が至る所に転がっていた。一応、少しは生存者もいたのだが、ほぼ全員が戦意を喪失するか正気を失っている。

 そんな有様では無力化されたも同然で、また1つ帝国軍部隊が現代兵器の持つ圧倒的な戦闘力の前に何の抵抗もできずに戦線から消滅した。


   ◆


 王国軍の前線司令部となっている砦では、合衆国異世界派遣軍を指揮する将兵達がモニターに映し出されるリアルタイム映像を見ながら通信機越しに指示を出していた。すると、林の中に潜伏して偵察活動を行っていたSOFチームの1つから連絡が入った。


「This is Hermit.An enemy corps was beyond red line」

<こちら、ハーミット。敵部隊がレッドラインを越えた>

「I confirmed even this.Because you will send a reinforcement corps,you continue watching it」

<こちらでも確認した。増援部隊を送るから、君達は監視を続けろ>

「I sir」

<了解>


 その様子を少し離れた位置から見ていた王国軍最高司令官の男性貴族は、彼らの会話が一段落するタイミングを見計らって陸軍少将に尋ねる。


「何か問題が起きたのですか?」

「帝国軍の別動隊が警戒ラインを突破しました」


 少将の発した一言を耳にした途端、男性貴族の表情に怒りと同時に悔しさのようなものが浮かぶ。なぜなら、帝国軍の別動隊が警戒ラインを越えて侵入してきたという事は、その方面の防衛に就いていた王国軍が壊滅したからだ。

 もっとも、別動隊の突破を許した王国軍部隊の直接の指揮権は男性貴族には無い。そこには王国も決して一枚岩じゃないという事情が絡んでおり、外部勢力(こちらの世界からすれば現実世界の方が異世界に該当するので尚更)の助力を得る事に否定的な一派の存在があった。

 しかし、王国存亡の危機に時間的猶予も含めて国内で仲違いをしている余力が無いのも事実で、苦肉の策として介入否定派にもある程度の独立した指揮権を与えて解決を図ったのだ。


 つまり、男性貴族には国内の対立を最後まで解消できなかった自分に対する後悔があり、たとえ主義主張が違っても同じ王国の民として彼らを殺した帝国への強い怒りがあった。

 そして、別動隊が警戒ラインを越えて侵攻してきた(しかも、編成は機動力のある騎兵主体)のなら、帝国軍の狙いは本隊の後方を遮断した上での挟撃に違いない。だからこそ、彼は確固たる意志の下に1つの提案を行う。


「こいつらは我々が命懸けで食い止めます。ですから、貴公らは正面の敵を――」

「それには及びません」


 ところが、そんな覚悟を決めた男性貴族の提案を途中で遮るようにして少将が言葉を発する。そして、さらりと彼が想像もしていなかった内容を告げた。


「もうすぐ解決します」

「は?」


 まるで、世間話でもするかのように告げられた所為で直ぐには理解できなかった。なので、そう告げられた時の男性貴族の顔は随分と間の抜けたものになっていただろう。だが、その間も現代の軍隊による作戦行動は続いていた。


「Execute」

<やれ>

「Wilco」

<了解>


 帝国軍の別動隊に対する攻撃の口火を切ったのは、当該地域上空を飛行していた『MQ-9リーパー』UAVだった。実は、別動隊の動きは王国軍と交戦していた頃からUAVによって筒抜けであり、警戒ラインを越えたら監視対象から攻撃対象になる事も決まっていた。

 だから敵が一線を越えるのを見越して部隊を展開させる事が可能だったし、監視活動にも素早く攻撃に移れる『MQ-9』UAVが使われていたのだ。


 もっとも、彼らの任務には介入否定派の王国軍の救援は含まれておらず、最初から監視していた事を報せる義理も無かった。さらに、UAVの操縦は砦の外に置かれた牽引式トレーラー型の専用車両内で行われているので、砦内のモニター類の配置にさえ気を付ければ余計な軋轢を生む危険性も避けられた。

 こうして攻撃命令が出された事を受け、UAVのオペレーターは機体に搭載したセンサーが捕捉し続けていた敵部隊の中から隊列の最後尾を進んでいた2頭立ての馬車を標的に選び、『AGM-114P-2AヘルファイアⅡ』ATGW(対戦車誘導兵器)を発射する。


 いわゆるミサイルである『AGM-114P-2A』ATGWは、高度20000ftを飛行する『MQ-9』UAVの左翼下パイロンから発射されると迷う事なく目標へと向かい、UAVでの運用を想定した派生型だけに隣接する馬車にも被害を与える形で目標を完全に破壊した。

 しかも、『MQ-9』UAVには片翼に2発ずつ計4発の『AGM-114P-2A』ATGWが搭載されているので、さらに3発が立て続けに着弾して隊列後方の馬車部隊は大きな被害を受ける。

 また、ミサイルが着弾した時の爆発に驚いた馬が暴れ、あちこちで馬車同士の衝突や横転事故などの2次被害も発生して混乱に拍車を掛けていた。当然、これも彼らにとっては未知の攻撃ゆえに心理的な影響も大きかった。


「Titania61 to Hydra92.The target is an enemy corps,heading300,range25.Smoke is a mark」

<ティターニア61よりヒュドラ92。攻撃目標は敵部隊、方位300、距離25nm。煙が目印だ>

「Hydra92 wilco」

<ヒュドラ92、了解>


 しかし、UAVによる高高度からのミサイル攻撃は戦闘開始を告げる狼煙にすぎず、それを目印に新たな機体が高度7000ftを低速で接近していた。もっとも、その機体は搭載された各種センサーによって自力で敵部隊を捕捉していたので、実際には煙を目印として使う必要性はない。

 そして、これまで帝国軍を攻撃してきた機体とは違って4基のターボプロップエンジン(構造としてはガスタービンエンジンに近く、発生させた出力の大部分をプロペラの回転に利用している)と太い胴体が特徴的な外見をしており、少なくとも精悍さとは無縁だと断言できる。


 まあ、原型機が戦術輸送機なのでスピードや機動性よりも積載量を重視した結果なのだが、その積載量を生かして複数の重火器を搭載する改造が施された事で防空能力の乏しい地上部隊にとっては死神のような兵器になった。

 なので空中騎士団を壊滅させ、対空砲やSAMに至っては存在すらしていない状況下での対地攻撃は『AC-130UスプーキーⅡ』ガンシップ(連射性に優れた火器による射撃で地上の敵を制圧する事を目的とした航空機)の独壇場であった。


「Shoot,stand by」

<射撃準備>

「Yes boss」

<了解、機長>


 総勢13名ものクルーが搭乗する『AC-130U』ガンシップの機内では、コクピットで機体の操縦を担当する機長からインターコムを通じて胴体中央部に設置されたBMC(戦闘管理センター)に座る射撃担当のクルー達に指示が出される。

 前述したように原型機が戦術輸送機ゆえに撃たれ弱いガンシップは夜間作戦を主体としており、その際に力を発揮するセンサー類と搭載火器が連動しているので捜索だけでなく、攻撃もBMCに一任される事が多かった。一応、機長が目視で敵を捕捉して攻撃する事も構造上は可能である。


「The judgment entrusts it.Execute」

<判断は任せる。やれ>

「Wilco」

<了解>


 攻撃に関する判断を機長より一任された火器管制士官は早速、搭載した火器の中でも最大の威力と最長の射程を誇る『M102』105mm榴弾砲を選択。既に砲弾が装填されているので、彼は眼前のコンソールに据え付けられたディスプレイを見ながら手動で照準を合わせて発射した。

 次の瞬間、軽いとは言っても機体を揺さぶる程度の反動を伴って胴体中央部の左側面から突き出した砲身より105mm榴弾が地上に向かって飛び出した。そして、ほぼ狙い通りの場所に着弾し、後方での混乱を受けても密集隊形を崩していなかった敵騎兵部隊の一群をまとめて吹き飛ばす。

 また、機体は搭載する全ての火砲の砲身が左側面から突き出して(コクピット内で左側に座る機長が攻撃目標を目視で狙う際を考慮して)おり、オービット旋回と呼ばれる目標上空で割と浅い角度の左旋回を続けて継続的な射撃を実施するのがガンシップの基本戦術だった。


「HE up!」

<榴弾、装填完了!>


 この榴弾砲は人力で砲弾を装填するので担当のクルーから声が上がるのを待ち、それを確認した火器管制士官が別の敵騎兵部隊の集団に照準を合わせて発射。流石に先程の攻撃で敵部隊にも多少の動きはあったものの、人力でも10秒程で装填されては逃げ切れる筈も無く、今度も集団ごと吹き飛ばされる。


「い、嫌だ……。死にたく……、ない……。死……、に……」

「ちくしょう……、足をやられた……! 誰でもいいから助けてくれ!」

「とにかく、散らばるんだ! 固まってたら死ぬぞ!」


 またしても、目を覆いたくなるような光景が繰り広げられた。なぜなら、人も馬も身体の一部を吹き飛ばされて血を流しながら痙攣していたり、ドス黒い血の海に沈んで動かなくなっていたりする中で無数の苦しげな呻き声や悲鳴があちこちから聞こえていたからだ。

 しかし、『AC-130U』ガンシップの火器管制士官はディスプレイ上で冷静に敵部隊の動向を見定めると即座に使用火器を『Bofors 40mm/L60』40mm機関砲に切り替えた。

 そして、逃走を開始した事で少し小規模になって動きも速くなった敵騎兵部隊に次々とバースト射撃(3~5発の短い連射)を浴びせ、複数の小集団を文字通り血祭りに上げる。


 実は、どちらの兵器も旧式な物に分類される(機関砲に至っては開発が1930年代)のだが、まだまだ現役だと言わんばかりにGPSの使えない異世界では猛威を振るっていた。それに、速力200ktの低速飛行しか出来なくても馬よりは圧倒的に速いので敵を逃がす事も無い。

 その結果、一方的な攻撃を受けた敵騎兵部隊は更に小さな集団となって蜘蛛の子を散らすように逃走を図るが、それに対応した兵器を『AC-130U』ガンシップは搭載している。


 なので、火器管制士官は先程と同じように使用火器を『GAU-12/U』25mmガトリングガンに切り替えて小集団の1つに狙いを定めて発射。後は、5本の銃身によって1800発/毎分の発射速度で放たれた25mm弾が人も馬もボロ雑巾のように引き裂いて殺していく。

 そこからは単純作業みたいな様相を呈し、機体に搭載されたセンサーが捉えた敵の中から規模の大きなものを優先するよう意識して攻撃を加える状態が続いた。


 ただ、その発射速度と自動装填装置の組み合わせゆえに射撃をする際には弾切れに注意が必要だった(搭載数3000発)のだが、訓練で鍛えられているだけあってディスプレイ上で狙いを定めると弾くようにトリガーを引いて短い連射に止め、必要以上に弾を消費しないようにしていた。

 こうしてガンシップの投入から10分と経たない内に帝国軍騎兵部隊は壊滅に追い込まれ、最後の仕上げとばかりに『MQ-9』UAVの攻撃に伴う混乱で動けないまま取り残されていた馬車の集団を狙い、そのど真ん中へ105mm榴弾を撃ち込んで派手に吹き飛ばす。


「Titania61 to Hydra92.A reinforcement corps arrives soon.Support them」

<ティターニア61よりヒュドラ92。間もなく増援部隊が到着する。彼らを援護しろ>

「Hydra92 wilco」

<ヒュドラ92、了解>


 すると、絶妙なタイミングでAWACSのオペレーターから味方の増援部隊の到着と彼らの援護を要請する通信が入った。さらに、接近中の味方部隊からの通信も入る。


「This is Ares01.Hydra92,I request the CAS.IR‐marker is a friend.Don’t shoot」

<こちらはアレス01だ。ヒュドラ92、近接航空支援を要請する。赤外線マーカーは味方だ。撃つなよ>

「Hydra92 wilco」

<ヒュドラ92、了解>


 ここで増援として戦闘地域に到着したのは、150名を超える兵士を空輸してきたヘリ部隊である。彼らは陸軍の第101空挺師団(通称:スクリーミング・イーグルス)の第1旅団第327歩兵連隊より選抜された部隊で、ヘリボーン(歩兵の移動や撤収にヘリを使う空中強襲戦術)での残敵掃討が任務だった。

 その任務を達成する為、完全武装の歩兵を1機当たり11~12名載せた16機の『UH-60Mブラックホーク』汎用ヘリを中心に、4機の『AH-64Eアパッチ・ガーディアン』攻撃ヘリが護衛として編隊の両脇を固めていた。

 さらに、偵察を担う固定翼機の『RQ-7Bシャドー』UAVを2機引き連れた『AH-64E』攻撃ヘリも2機が編隊に加わっている。ちなみに、CAS(近接航空支援)とは、前線で敵と戦う味方地上部隊からの要請に応じて適宜実施される航空機からの攻撃の事を指す。


 そうしてヘリ特有のメインローターが空気を叩く重低音を辺りに轟かせながら侵入すると、やや機首を上向きにした先頭の『UH-60M』汎用ヘリが速力と高度を下げ始める。どうやら、機内の兵士を降ろすのに適した場所を上空からパイロットが目視で見つけたらしい。

 そして、車輪式のランディング・ギア(降着装置)が接地するか否かのタイミングで飛行中から開け放たれていたスライド式キャビン・ドアによって兵士が素早く機外に飛び出す。


「Go! Go! Go!」


 よく訓練されているだけあって機外に飛び出すのに躊躇いは無く、しかも機体の両側から充分なスペースのある乗降口を通って同時に降りていくので、10名を超える完全武装の兵士を降ろすのにも大して時間は掛からなかった。

 なにせ、ヘリは離着陸時が最も敵に狙われやすく、被弾する確率も高いから機内の兵士を短時間で展開できる能力は重要なのだ。また、地上に降りた兵士達も素早く膝立ち姿勢で銃を構えて周囲を警戒し、ヘリが離脱するまでの安全確保に尽力している。

 それと同時にヘリも自身の安全確保と降下した兵士達を支援する目的から最低限の武装はしており、コクピット後方の胴体両側には『M134ミニガン』(口径7.62mmの6銃身ガトリングガン)、もしくは『M240B』GPMG(汎用機関銃)が装備されていた。


 この事態に異世界人が対応できる筈も無く、たまたま近くにいた騎兵は自分達が逃走中である事も忘れて立ち止まり、呆然と降下したヘリから完全武装の兵士達が飛び出してくるのを眺めていた。当然、そんな彼らを見逃すような真似はせず、現代の兵士は素早く射撃姿勢を取って銃撃を開始する。

 空挺部隊だけあって彼らが装備するのは、原型よりも軽量・コンパクトな派生型となる『M4A1 MWS』カービン(連射可能なライフルの一種)や『M249 Para』LMG(軽機関銃)だが、それらの銃口から発射される5.56mm×45NATO弾は充分な殺傷力を持っていた。

 だから、5~6人が短い連射を行っただけで帝国軍騎兵は薄い金属製の鎧ごと身体を銃弾に貫通され、何が起きたのかを理解する暇もなく一瞬で複数人が射殺されている。


 それでも果敢に反撃に転じようとクロスボウを構えた弓騎兵などもいたのだが、早くも上昇を始めて視界と射線を確保した『UH-60M』汎用ヘリが搭載する『M134』ガトリングガンの掃射を受け、何も出来ずに集団ごと瞬殺された。

 まあ、電動モーターで高速回転する6本の銃身から3000発/毎分という驚異的な発射速度で7.62mm×51NATO弾を浴びせられては、それこそ身元確認も困難になるほど悲惨な死体が出来上がると言うものだ。


 その後は離脱した『UH-60M』汎用ヘリに代わり、別のヘリが降下して同じように兵士を展開させてLZ(着陸地点)周辺の安全確保に乗り出す。また、後から降下した兵士達は先に展開して射撃態勢を整えている兵士達の援護下で前進し、より遠方の地点を確保すると膝立ち姿勢で射撃態勢を整えた。

 すると、先程まで援護を担当していた兵士達が立ち上がって素早く前進し、結果的に自分達を追い越す形になった後続組を改めて追い越すように彼らの援護下で進んで遠方の地点を確保。そこで再び射撃態勢を整えると、後方から進出してくる味方の援護に徹する。


 このように2つ以上の集団が前進と援護を交互に繰り返して支配領域を拡大する事を分隊や小隊単位で実施した結果、あっという間に複数のヘリが同時に着陸できる大きさの安全なLZが完成した。

 それもあって16機のヘリに分乗した兵士達の展開も一気に進み、全員の降下が終わるとLZの守備を担当する小隊以外は分隊ごとに散らばって帝国軍部隊に対する掃討戦を本格的に進めるのだった。


「This is A14.I request the air support」

<こちら、アルファ14。航空支援を要請する>

「Hydra92 to A14.Where is a target?」

<ヒュドラ92よりアルファ14。攻撃目標は何処だ?>

「I mark it,now」

<いま指示する>

「Hydra92 wilco」

<ヒュドラ92、了解>


 掃討戦が続く中、あるライフル分隊は擱座した魔導車や横転した馬車などを即席のバリケードにして立て篭もる10人前後の帝国兵の集団を発見していた。しかも、そこには魔術師が混じっているようで、弓矢と一緒に魔術弾も飛来して牽制してくる。

 そこで分隊の指揮官は部下達の安全を最優先に考え、無線機に向かって航空支援を要請した。それに応じたのが『AC-130U』ガンシップで、航空支援を取り付けた分隊指揮官はハンドシグナルで部下の1人に攻撃目標に赤外線レーザーを照射するよう命じたという訳だ。

 そして、命令を受けた兵士は遮蔽物に身を隠しながら『M4A1 MWS』カービンのハンドガード(使用者の手を銃身の熱から保護する部品)に装着した『AN/PEQ-16B』赤外線レーザーサイト(暗視装置と併用しての照準補助や目標指示に使う装置)で上空の友軍機に目標を指示する。


「Shoot」


 ガンシップの火器管制士官は地上にいる兵士達にも着弾のタイミングが掴めるよう敢えてコールし、レーザーで指示された攻撃目標に『Bofors 40mm/L60』40mm機関砲のバースト射撃を浴びせてバリケードごと敵兵を粉砕した。


「I confirmed the annihilation of the enemy.Thanks,your support」

<敵の全滅を確認した。支援に感謝する>


 ガンシップからの攻撃が終わった後、警戒しながら接近した分隊は五体満足な死体が1つも無い事を確認して戦果の報告を行う。

 これは航空支援の要請に応じたのがガンシップだったケースだが、より低速・低空での飛行に適した『AH-64E』攻撃ヘリや『UH-60M』汎用ヘリも積極的に航空支援を実施しており、地上部隊と緊密に連携した攻撃によって至る所で帝国兵は殲滅されていった。

 その結果、少数の逃亡者と捕虜を除いて侵攻してきた帝国軍騎兵部隊は殲滅され、抵抗を続ける王国軍本隊(帝国側の認識では)の後方を遮断して挟撃するという目論見はあっけなく瓦解した。


   ◆


 圧倒的な戦力で王国軍の防衛線を粉砕し、見せしめとばかりに多数の王国兵を虐殺した帝国軍歩兵部隊の主力が乱れた隊列を整えて進撃を再開した数分後、まさに青天の霹靂とも言うべき出来事が起きた。


グゥルアアアアッ――!


 突然、1頭の地竜(飛行できないが、飛竜よりも大型で強靭な顎を武器にする硬い鱗で覆われた竜。馬よりも少しだけ速く走れる)が物凄い咆哮を上げ、悶え苦しみながら地面に倒れたのだ。


「がはっ……!」

「ぎゃああっ!」


 そして、倒れる際に地竜が暴れた所為で太い尻尾に薙ぎ払われたり、体の下敷きになったりして巻き添えとなった数人の帝国兵が死傷する。この時、負傷した仲間を助けようと慌てて駆け寄った帝国兵の1人が地竜に視線を向けると、口から血を流して絶命していたという。

 なにせ地竜の鱗は非常に硬く、よほどの達人でも無い限りは剣や槍を突き立てるのは不可能だったし、自身に触れる魔術をほぼ無効化する特性もあって魔術も役には立たない。だから、彼らには地竜が死んだ理由に皆目見当がつかない。

 だが、これは異変の始まりに過ぎなかった。なぜなら、同じように地竜が突然悶え苦しみながら倒れて絶命するという現象が同時多発的に発生し、一瞬にして10頭以上が死んだからだ。


 さらに全高3mはある魔術で動くゴーレムが複数体、聞き慣れない衝突音の後に動きを止めたかと思うと地面に倒れたり崩れたりしたという。帝国軍のゴーレムは全金属製か、金属板を鎧みたいに張り付けた岩石製なので防御力には優れている筈なのに、こちらも10体以上が瞬く間に機能を完全に停止した。

 当然、こんな異常事態は帝国軍が組織されてから1度も無かったので、加速度的に広がった動揺と混乱によって統制が取れなくなるのに時間は掛からなかった。

 もう分かっているとは思うが、地竜やゴーレムを仕留めたのは前進を続けて帝国軍部隊を射程に収めた第3機甲師団第2機甲旅団戦闘団に配備された現代兵器である。


「Target,12o’clock,dragon! Load HEAT!」

<攻撃目標、12時方向のドラゴン! HEAT弾、装填!>

「I sir!」

<了解!>


 機甲部隊の象徴とも言える『M1A2SEP V2エイブラムス』MBTの砲塔内では、車長が砲手と装填手それぞれに攻撃目標と使用弾種を指示していた。

 それを受け、装填手は膝でスイッチを押して砲塔後部の弾薬庫と乗員区画を仕切る装甲ドアを開け、まるでワインセラー内のワインのように並んだ砲弾の中から積み込み時にマジックペンで底部にHと記しておいた砲弾を奥へと押し込む。

 すると、スプリングの力で砲弾が少しだけ手前に飛び出すので、それを抱えて回転する装填手用シートに腰を落としながら身体の向きを180度変えて砲尾の閉鎖機の中へ装填した。なお、弾薬庫を仕切る装甲ドアはスイッチから膝を放すと自動的に閉まる。


「HEAT up!」

<装填、完了!>


 一方、砲手は眼前の専用照準装置を覗き込みながら手元のレバーを操作して指示された目標を捉え、レーザー測距機で目標までの距離を正確に把握。さらに数秒間、目標を捕捉し続けると射撃に必要なデータが揃うので、それらが自動的にFCSに入力されたのを確認してから声を上げる。


「Lock on!」

<ロックオン、完了!>


 これで後は車体の動きに関わらず、装置が複雑な計算や微調整を代行して主砲の照準を目標に合わせ続けてくれるので、砲手は発射ボタンを押すだけで良かった。


「Fire!」

<撃て!>

「I sir!」

<了解!>


 車長の発砲指示を受け、砲手が発射ボタンを押す。ただし、これは主砲の安全装置を解除して発砲の許可を与えたに過ぎず、実際はFCSが最適なタイミングを計算して信管に電気信号を送っている。

 次の瞬間、轟音と共に主砲弾が発射されて後退した砲尾からは小さな金属底部が排出(燃え尽きる焼尽薬莢を使用しているので、銃弾のような空薬莢は出てこない)され、砲塔内には起爆薬(発射用の装薬に点火する為の火薬)の燃焼に伴う特徴的な臭いが僅かに漂う。

 そして、砲口から飛び出した砲弾は音速の3倍以上の速度で目標へと突き進み、着弾と同時にHEAT弾の特性を生かしてダメージを与えるのだった。


 ちなみに、地竜に対して『M1A2SEP V2』MBTが主砲の『M256』44口径120mm滑腔砲(砲身内部に螺旋状の溝、ライフリングが刻まれていない砲。44口径とは砲身長が砲の内径120mmの約44倍、530cmある事を意味している)より発射したのはHEAT-MP(多目的対戦車榴弾)と呼ばれる砲弾である。

 その特性は、モンロー/ノイマン効果によって円錐状の窪みを持つ炸薬が金属製の内張りを瞬時に融解させて集束(メタルジェットを生成)し、高速で撃ち出されたメタルジェット(液状化した金属)が対象の装甲を貫徹するという代物だ。


 しかも、威力は装甲板に対して垂直に命中(最も威力が大きくなる)したと仮定すると、均質圧延鋼板に換算して600mmまで貫徹できると言われている。

 なので、硬いとは言っても軽装甲車両(7.62mm×51NATO弾の直撃に耐えられるレベル)相当の鱗しか持たない地竜が高威力の物理攻撃に耐えられる筈は無かった。ゆえに、メタルジェットに易々と鱗を貫かれ、一般的な生物と変わらない体内組織を抉られて一撃で致命傷を負わされるのだ。


「Target,11o’clock,golem! Load Sabot!」

<攻撃目標、11時方向のゴーレム! サボー、装填!>

「I sir!」

<了解!>


 さらに別の『M1A2SEP V2』MBTでは底部にSと書かれた砲弾、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を装填して金属製のゴーレムに狙いを定める。


「Sabot up!」

<装填、完了!>

「Lock on!」

<ロックオン、完了!>

「Fire!」

<撃て!>

「I sir!」

<了解!>


 車長以下3人のクルーは、まるで西部劇に登場する早撃ちガンマンのように車長が命令を発してから僅か10秒で照準を合わせつつ砲弾を装填して発射。

 砲弾は砲口を飛び出した直後にサボー(砲の内径より直径の小さい弾芯に装薬の爆発エネルギーを効率良く伝える為の筒)を分離し、細長いダーツのような形状をした劣化ウラン製の弾芯だけが音速の5倍以上という高速で空気を切り裂いて飛翔していく。


 これは【弾丸重量/弾丸の断面積】の値が小さいほど初速が速く、飛翔時の空気抵抗による減速は値が大きいほど少なくなる事に由来する。また、弾芯を細長くする事は装甲貫徹力の増大に繋がり、尾翼は飛翔時の直進安定性に寄与するためダーツのような形状になった。

 そして、物体の持つ運動エネルギーは質量と速度の乗数に比例するという物理法則から、比重の重い劣化ウラン製の弾芯を高速で飛ばすAPFSDSは距離にもよるが、垂直に命中した均質圧延鋼板に換算して最大で1000mm近い貫徹力を発揮した。


 当然、現代よりも冶金技術の劣る異世界の全金属製ゴーレムがAPFSDSを弾き返せる筈も無く、あっさりと胴体を貫通されて魔術の流れが乱れ、結果として行動不能に陥る。これが岩石製だと岩石そのものが衝撃に耐えられず、被弾した個所から亀裂が一気に広がって強度を失い自壊するのだ。

 もっとも、ここまで貫徹力が対象の防御力を上回っていると1体を貫通した程度では運動エネルギーがほとんど失われず、位置関係によってはゴーレム2体をまとめて撃破するケースもあった。

 しかも、これ程の攻撃を『M1A2SEP V2』MBTは3000m遠方から15km/毎時の速度で前進しながら実施しており、遠距離偵察手段を欠いた上に現代兵器に関する知識も無い帝国兵には自分達が何に攻撃されているのかさえ分からなかった。


「Fire!」

<撃て!>

「I sir!」

<了解!>


 1個戦車小隊を構成する4両の『M1A2SEP V2』MBTがオンライン(横一線)に並び、一斉に主砲を撃ち、ほぼ同時に4つの目標を沈黙させる。

 彼らは同じ目標を攻撃するのを避ける為にIVIS(車両間情報システム)等の戦術データリンクを駆使し、複数の『RQ-7B』UAVより送られてくる偵察情報を基に大隊単位から個々の車両に至るまでリアルタイムで敵味方双方の状況を把握して行動していた。

 その具体例の1つが上記のもので、小隊長が専用のタッチパネル式ディスプレイ上で敵味方のアイコンをタッチするだけで攻撃目標の割り振りが完了するのだ。後は各車の発砲準備の完了を確認した(これもディスプレイ上に表示される)小隊長が号令を出し、小隊単位の攻撃となる。


 そして、戦車中隊は3個戦車小隊に中隊長と副中隊長の乗る戦車が加わって14両で構成され、諸兵科連合大隊には2個戦車中隊と本部中隊の1両で29両の『M1A2SEP V2』MBTが所属する編成を採用していた。

 また、4両の『M2A3ブラッドレー』IFV(歩兵戦闘車:歩兵の輸送や支援を担う装甲戦闘車両)で1個機械化歩兵小隊を組み、3個機械化歩兵小隊に中隊長と副中隊長の乗る車両が加わった14両の『M2A3』IFVで機械化歩兵中隊を編制。

 2個機械化歩兵中隊が諸兵科連合大隊に配属され、1両の『M2A3』IFVにつき6名の完全武装の兵士が搭乗し、敵の陣地や対戦車兵器を持った敵歩兵の待ち伏せ攻撃に対処する戦力を戦車の移動速度に追随可能な形で提供した。


 これら2個ずつの戦車中隊と機械化歩兵中隊に本部中隊、旅団から派遣された前方支援中隊と大隊本部が合わさって諸兵科連合大隊は構成されていた。

 その諸兵科連合大隊が3個と機甲偵察騎兵大隊、野戦砲兵大隊・旅団工兵大隊・旅団支援大隊に攻撃ヘリ大隊、司令部中隊によって編成された戦闘集団こそが第2機甲旅団戦闘団の正体である。


 今回の戦線では本部中隊の1両を除く2個戦車中隊(28両)の『M1A2SEP V2』MBTが50m間隔でオンラインに並び、その後方に2個機械化歩兵中隊の『M2A3』IFVが150mほど距離を空けて同じように50m間隔でオンラインに並んで前進していた。

 これは全ての諸兵科連合大隊で共通する布陣であり、3個の大隊を横に並べて出来た84両もの『M1A2SEP V2』MBTによる砲列は15km/毎時ながらも一斉に進撃し、小隊単位で主砲の砲撃を繰り返して敵へと迫っていく。

 まあ、実際には3個大隊が完全に横一線の隊形を保って進撃するのは非現実的なので中隊単位で隊形を維持しており、それゆえ15km/毎時という低速(『M1A2SEP V2』MBTなら不整地でも40km/毎時以上で走行可能)での進撃だった。


 これは敵を逃さない事に加え、火力・防御力ともに優れた『M1A2SEP V2』MBTを前面に押し出して戦車よりは撃たれ弱い『M2A3』IFVを護りつつ敵主力を粉砕。同時に、破壊を免れた陣地や視界の悪さもあって見落とした敵兵などは後続が処理して殲滅するのを目的とした布陣でもある。

 事実、かつての湾岸戦争では戦車の性能差も大きかったが、この戦術を採用した米軍機甲師団によって精鋭と謳われたイラク軍の共和国防衛隊は完膚なきまでに叩き潰されている。

 そして、2つの装甲車両の車列後方では『M1114』HMMWV(ハンヴィーの通称で知られる高機動多目的装輪車両)に特別に搭載された大型ラウドスピカーから『ワルキューレの騎行』が大音量で流れ、まさに現代の重装騎兵の突撃とも言える演出がなされていた。


 もっとも、甲高い1500hp(馬力)のガスタービンエンジンの音を響かせ、車体と砲塔の前面に劣化ウラン複合装甲(材質の異なる装甲を地層のように重ね合わせた装甲)を纏った重量62t以上の鋼鉄の塊が120mm滑腔砲で狙撃しながら、という桁違いの展開ではあったが……。

 なお、第2機甲旅団戦闘団では諸兵科連合大隊が帝国軍を正面に捉えて進撃している事から『M3A3ブラッドレー』CFV(騎兵戦闘車:『M3A3』は『M2A3』の派生型で、歩兵の代わりに予備弾薬を多く積んだ強行偵察型)を装備する機甲偵察騎兵大隊が左翼の防衛に当たっている。


 反対に右翼は第3機甲師団第1ストライカー旅団戦闘団の担当となり、装輪装甲車の『M1126ストライカーICV』や『M1128ストライカーMGS』を装備する1個歩兵大隊が防衛に当たっていた。

 他には、第101空挺師団が『UH-60M』汎用ヘリ・『CH-47Fチヌーク』大型輸送ヘリ・『AH-64E』攻撃ヘリを合計60機以上も動員した大規模なヘリボーン作戦を実施しており、帝国軍の歩兵部隊と攻城戦部隊の退路を遮断するべく動いていた。


「Fire!」

<撃て!>

「I sir!」

<了解!>


 ほぼ条件反射で砲手が発射ボタンを押すと、『M1A2SEP V2』MBTの主砲より轟音と共に発射されたHEAT-MP弾が数人の敵兵を纏めて吹き飛ばす。

 案の定、現代兵器の圧倒的な戦闘力によって前衛の地竜やゴーレムが殲滅されるのに時間は掛からず、気が付けば攻撃は敵兵の集団を潰す事に移行していた。


 一応、帝国軍歩兵部隊の前衛にはオークやゴブリンといった人間よりも身体能力の優れた亜人系の魔物が多数配置され、人間の兵士も傭兵や植民地からの徴用兵の比率が高いという特徴があったのだが、現代兵器の猛攻の前では等しく無力だった。

 また数体のオークが奇跡的に砲撃を生き延び、魔物特有の雄叫びを上げながら大剣を振りかざして突撃した時には戦車の砲塔上面にある遠隔操作式銃座『M153 CROWSⅡ』に設置された『M2HB』HMG(重機関銃)を戦車内から車長が操作し、12.7mm×99NATO弾を撃ち込んでいる。

 さすがのオークも大口径弾を500発/毎分以上の速度で撃ち込まれては耐えられず、頭や手足が千切れ飛んだり、身体に大穴を空けられたりで瞬く間に殲滅されてしまった。


 他にも魔術を使って隠れていた2人の魔術師が炎系の魔術で攻撃した事もあったが、戦車の装甲に小さな焦げ跡を作っただけに終わり、逆に戦車隊の後方にいた『M2A3』IFVから同軸機銃(常に主砲と同じ方位を向くよう設置された機関銃)の『M240C』で撃たれて射殺されている。

 この時は3人目の魔術師が防御魔法を全力で展開していたのだが、それでも650発/毎分以上の速度で連射される7.62mm×51NATO弾が持つ運動エネルギーを減衰しきれずに貫通され、致命傷となる弾を無数に浴びてしまったのだ。


 こうして地上部隊が一方的な殺戮を繰り広げながら進撃していると、その頭上を高速回転する4枚ブレードのメインローターが空気を叩く重低音を辺りに響かせながら第227航空連隊第2大隊(18機)の『AH-64E』攻撃ヘリが編隊を組んで速力120ktで通過していく。

 彼らが狙う攻撃目標は帝国軍歩兵部隊の後衛で、そこには敵を逃がさずに確実に殲滅する事に加え、既に敵の前衛と交戦に入っている味方部隊を誤射しないようにする意味合いもあった。

 そして、交戦中の味方を飛び越して進出した攻撃ヘリ大隊は中隊(6機)ごとに分かれると、中隊を構成する6機が150m間隔で横一線に並び、高度100ftを速力40ktで飛行しながら攻撃態勢へと移行した。


 しかも、この時点で外見上の大きな特徴でもあるローターマスト頂部に装着された『AN/APG-78ロングボウ』FCR(火器管制レーダー)は優先度の高い16個の攻撃目標を捉えており、中隊長がMPD上で指揮下の各機へと攻撃目標を割り振るだけで指示は完了する。

 これも戦術データリンクによって各機がリアルタイムで攻撃目標に関する情報を共有できる技術と装備の賜物であり、機体の生残性向上と乗員の負担軽減に貢献していた。なお、優先目標が16個までなのは主力のATGWの最大搭載数が16発だからだ。


「Fire!」

<撃て!>


 攻撃目標の割り振りを終えた中隊長が最後に発射命令を出すと、各機から『AGM-114L』ATGWが2発ずつ発射された。

 この際、照準と射撃はタンデム(前後に並ぶ)複座型コクピットの前席に座るCP/G(副操縦士兼射撃手)がIHADSS(統合型ヘルメットおよび表示照準システム)を介して行っている。

 そして、発射された各ミサイルは重複する事なく指定された攻撃目標に向かい、ほぼ同時に12個の標的が爆発音と共に吹き飛ばされて黒煙に包まれた。


 ちなみに、『AGM-114L』ATGWには完全な撃ちっ放し能力があるので各機のクルーは発射したミサイルの事など気にせず、周辺警戒と新たな攻撃目標の捜索に取り掛かっていた。

 反対に帝国軍は、いきなり低空で侵入してきた見慣れない飛行機械に強力だと信じて疑わなかった陸戦型機竜(移動速度こそ劣るが、物理的な防御力だけなら地竜に匹敵する地上兵器。動力は魔法鉱石で、武器としてバリスタを搭載)を一瞬にして12体も破壊されて大混乱に陥った。

 だが、帝国軍にとっての悪夢は始まったばかりである。なぜなら、帝国兵が散発的に撃ってくる弓矢や魔術弾を難なく回避する『AH-64E』攻撃ヘリは『AGM-114L』ATGWを使い、その後も陸戦型機竜や輸送途中のゴーレムを組織的に破壊し続けたからだ。


 なにせ、今回はマルチロール(多用途)任務という事で各機がスタブ・ウイング(兵装搭載用の小翼)に対地攻撃用として8発の『AGM-114L』ATGWと2基の『M261』ロケット弾ポッド(『ハイドラ70』ロケット弾を1基につき19発装填する)、自衛用として4発の『AIM-92スティンガーRMP ブロックⅡ』AAMを搭載していた。

 つまり、正確無比な射撃を行える『AGM-114L』ATGWだけでも中隊は48発、大隊だと144発も搭載しているから、その総合的な破壊力は絶大である。ゆえに、『AH-64E』攻撃ヘリの通過した後には炎上して黒煙を噴き上げる無数の残骸が墓標のように点々と残されていた。


 また、自身の担当範囲(これも任意でMPD上に表示できる)にミサイルを使う程でもない魔導車や馬車を発見した際には『ハイドラ70』ロケット弾をCP/Gの判断で必要な数だけ発射している。

 実は、『M261』ロケット弾ポッドは幾つかのゾーンごとに分けられていて6通りある中から選択できる1回当たりの発射弾数との組み合わせで、どのゾーンから何発発射するかを決定できた。

 今回は弾頭を榴弾に統一しているが、出撃前にゾーンごとに弾頭の種類を変えて装填しておけば、より効果的な運用も可能という訳だ。


「は、早く……! 早く隠れなければ……!」


 攻撃ヘリの圧倒的な戦闘力を目の当たりにした魔術師が表情を引きつらせ、必死で感情をコントロールしながら長めの呪文を唱えて姿を隠す。いわゆる、相手から自分の姿が見えなくなる呪文だった。そして、それを見た他の魔術師達も同じように姿を隠す呪文を唱え始めた。


「アイツら……! 自分達だけ助かるつもりかよ!」


 一部の魔術師が姿を隠すのを見た槍兵の誰かが毒づく。当然、魔術は魔術師にしか扱えないし、例え魔術師であっても習得している魔術の系統が異なったり実力が足りなかったりすれば唱える事は出来ない。そんな不公平感から出た言葉だったのだが、その行為が無意味だと直ぐに思い知らされる。

 なぜなら、『AH-64E』攻撃ヘリの機首部分には『AN/ASQ-170(V)』TADS(目標捕捉および指示照準器)と『AN/AAQ-11(V)』PNVS(パイロット暗視センサー)を組み合わせた装備(通称:アローヘッド)が搭載されているからだ。

 これによって目視に頼らなくても光学と赤外線という2種類の索敵手段が得られ、ヘリが飛行可能な環境であれば昼夜間や天候を問わない交戦を可能にしていた。


 さらに魔術師にとって不運だったのは、戦場の環境そのものがTADS/PNVSの運用に有利に働いた事だった。もし、戦場が昼間の砂漠地帯だったら気温と体温の差が小さく、赤外線画像で人間のシルエットを判別するのは困難を極めただろう。

 しかし、ここでは人間の体温の方が気温より15度以上も高く、おまけに魔術の使用には体温の上昇が伴うという特徴があった。だから、昼間カメラに映っていた魔術師が消えるのを見たCP/Gが赤外線画像に切り替えると、専用ディスプレイには変わらずに魔術師が表示されていた。

 なら、後はCP/Gが顔を向けるだけで終わりだ。彼らが装着するIHADSSにはHUDと同様の機能を果たす装置(右眼の前にかざした複合式レンズ)があり、TADS/PSVNを連動させて動かす事以外にも照準まで可能となっている。


 そして、照準まで可能という事は対応する兵装が機体に搭載されており、実際にCP/Gの動きに反応して機首下部に搭載された固定武装の『M230E1』30mmチェーンガン(機関部の駆動にチェーンで繋がった外部動力を利用する方式)の砲口が隠れたつもりになっている魔術師に向いた。

 最後は目標を捕捉したCP/Gが右手人差し指でトリガーを弾くように引き、650発/毎分という発射速度で30mm機関砲弾を叩き込むだけだ。そこから先は、音速を超えて発射されたHEDP(対人・対装甲両用榴弾)が高い貫通力と内臓した炸薬で人体を文字通り四散させてしまう。

 その結果、思わず目を覆いたくなるようなバラバラ死体が地面に転がる。しかも、FCSによって補正された射撃が行われるので精度は見た目以上に高く、必死に逃れようとする敵を人間や魔物の区別なく次々と血祭りに上げていった。


 こうして1個大隊規模の『AH-64E』攻撃ヘリが燃料と弾薬の許す限り暴れ回った後には、おびただしい数の残骸と死体の転がる地獄が広がっていた。また、辛うじて逃走に成功した者達も退路を空挺部隊に遮断され、降伏を選んだ者以外は等しく現代兵器の攻撃を受けて死んだ。

 それでも幸運と偶然が幾つも重なって逃げ切った者達はいたが、ここでの体験が原因で彼らの半数以上は心を病んで社会復帰すら困難を極めたと言う。当初は誰もが帝国の勝利を信じて疑わなかった戦争は、現代の軍隊の介入によって帝国軍の壊滅という形で終局に向かいつつあった。


   ◆


 大方の予想に反して帝国軍が壊滅したのを受け、秘かに行動を起こす者達がいた。入念な偽装を施して戦場各地に1人ずつ潜伏していた彼らも帝国の魔術師なのだが、この戦場どころか帝国のどこにも公式には存在していない事になっている一団である。

 このように存在そのものが秘匿されているのは、帝国の頂点に君臨する皇帝直属の秘密機関に所属するだけあって目的達成の為には犠牲を厭わず非情な命令も実行するからだ。

 そして、そんな彼らに皇帝が下した今回の命令は「侵攻した帝国軍が壊滅して王都制圧が不可能になった場合、速やかに“深淵に棲む魔物”を召喚せよ」というものだった。なので、彼らは魔術によって帝国軍の壊滅を知ると命令通りに召喚の準備に取り掛かった。


 もっとも、召喚に必要な魔法陣を構築するのに手順や使う物こそ厳密に定められているが、比較的短時間で目立たずに構築できるので戦場でも苦労はしない。ゆえに、色んな意味で常識外の魔術師が10人掛かりで作業を続けた結果、15分程で魔法陣は描き終わって召喚の儀式が始まる。

 そこで彼らが足下に描いた魔法陣に魔力を注ぎ込むと、魔法陣が黒と紫の入り混じった不気味な輝きを放ちながら起動し、やがて10個の魔法陣が共鳴して1つの巨大な魔法陣としての機能を発揮した事で次の段階へと移行していく。


 次の段階、それは多数の人間を始めとする大型の生き物の死体を捧げる事で現世における召喚対象の憑代とするものだが、死んでから3時間以内という制限があるものの死体で構わないというのは野戦向きであった。つまり、この戦場で死んだ数多の帝国兵と王国兵を再利用できるという訳だ。

 なので儀式は滞りなく最終段階へと到達し、派手な紫電を伴って“深淵に棲む魔物”が不快な死臭を周囲に撒き散らしながら実体を現す。

 なお、大きさは生贄として捧げた死体の数と量に比例するだけあり、その姿は優に80mはあろうかという全体的に暗い色をした巨大な軟体動物で、様々な生物を無理矢理繋ぎ合わせたかのような特徴も併せ持っていた。


「What’s that!?」

<あれは何だ!?>

「I don’t know it! But it must be an enemy!」

<俺が知るか! だが、敵に違いない!>


 その巨大な魔物は戦車隊の前方、約1500mの地点に出現すると非常にゆっくりとした動きだが、何本もの大木のような触手を振り回しながら接近してきていた。だから、それを見た戦車隊の誰かが敵だと判断して叫ぶ。

 それと同時に、巨大な魔物の姿は『RQ-7B』UAVを通じて砦の前線司令部にも送られ、映像を確認した少将が携帯端末にダウンロードした画像を男性貴族に見せながら尋ねる。


「閣下、この怪物に心当たりはありますか?」

「これは、まさか……!」

「心当たりがあるんですね? なら、我々にも分かるように教えてください」


 画像を見せられた男性貴族は目を見開いて表情を青ざめさせると、少将が念押しするように強い口調で改めて尋ねるまで言葉を失っていた。


「ああ、すまない……。これは我々が“深淵に棲む魔物”と呼ぶ存在で、3日で国を滅ぼすとまで言われる異界の怪物だ」

「異界の怪物ですか……」


 そう説明されたものの、少将には異界の怪物だと言われてもピンとこない。そこで彼は考えを変え、より現実的な質問をする事にした。


「では、あの怪物に有効な武器はありますか?」


 ところが、その質問は予想外だったのか、男性貴族は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして少将を見つめて固まってしまう。まあ、そうなるのも当然で、異界の怪物は強大だが長くても5日前後で自然消滅するから戦うという選択肢は最初から無いのだ。


「い、一応、どんな武器でもダメージは与えられますが……。まさか、あれと戦うのですか!?」

「ええ、そのつもりです」

「いくらなんでも、それは無謀です! さっきも言ったように、あれは国を滅ぼす災厄――」

「どんな武器でもダメージを与えられる。なら、それを実践するまでです」


 少将は途中で彼の言葉を遮って決断を下すと踵を返し、唖然とする男性貴族を残して自分の仕事に戻っていった。そして、作戦に参加する全ての将兵に向かって無線で告げる。


「This is HQ.Everyone listen! The target is a huge monster.Code Stargazer! I repeat, code Stargazer!」

<こちら、作戦司令部。全員、聴け! 攻撃目標は巨大な怪物。スターゲイザーだ! 繰り返す、スターゲイザーだ!>


 次の瞬間、少将の傍らで彼の言葉を耳にした司令部要員の表情が緊張で強張る。この時、少将の発した識別コードは投入可能な全戦力を動員しての攻撃を意味していたからだ。実は、合衆国異世界派遣軍も総力を挙げた戦闘をするとは夢にも思っていなかったので、少将の決断がもたらした衝撃は大きい。

 しかし、現実に巨大な怪物が出現するのを目の当たりにし、正式な命令として全力攻撃が承認された以上は任務を遂行する事に躊躇いは無かった。


「The tank corps,go ahead! The target is a huge monster! Attack!」

<戦車隊、前進! 攻撃目標は巨大な怪物! 攻撃しろ!>

「I sir!」

<了解!>


 第2機甲旅団戦闘団に所属する『M1A2SEP V2』MBTが中隊ごとに前進を再開し、その主砲から次々にAPFSDSやHEAT-MPを発射する。今回は目標が巨大なだけに砲弾は1発も外れる事なく着弾して怪物の体内深くまで潜り込み、異世界の攻撃とは違って相応のダメージを与えていく。

 しかも、腕っぷしに自信のある装填手は体力に余裕のある間だけとは言え、6発/毎分もの速度で砲弾を装填するので各戦車の射撃は途切れない。結果、80両を超える『M1A2SEP V2』MBTから撃たれ続けた怪物は、たまらず前進を止めて無数の触手で護ろうとする。

 だが、対装甲目標用に開発された砲弾を触手ごときで防げる筈も無く、戦車隊の砲撃は確実に怪物を追い込んでいった。ただ、怪物の体力が桁違いだったのと、先の帝国軍との交戦で弾薬を消耗している関係で止めを刺せるかは未知数である。


 すると、そこへ新たな攻撃が加わった。戦車隊の後方を進んでいた『M2A3』IFVが4000m近い長射程を生かし、『BGM-71F TOW2B』ATGWを撃ち込んだのだ。

 このミサイルは発射から着弾まで照準内に目標を捉え続ける必要のある(発射機とミサイルがワイヤーで繋がった有線誘導)代物だが、MBTを撃破可能な威力がある。また、有線誘導というデメリットも相手が巨大で遠距離武器を持たない怪物なら無視できた。

 もっとも、こちらは戦車砲のように連射が出来ない上に装弾数も少ない(予備を含めても5~8発)ので継続した攻撃には向かないが、80両を超える『M2A3』IFVから発射された事で全体としては充分な威力を発揮した。


 さらに、怪物が動きを止めた事で一時的ではあっても座標が固定され、今がチャンス(実際には移動目標でも問題は無い)とばかりに砲兵隊の『M109A6』自走榴弾砲が一斉射撃を開始する。

 それは帝国軍の攻城戦部隊に大打撃を与えたのと同質のもので、大量の155mm榴弾が怪物の上に降り注いで触手や体表面の組織をズタズタに切り裂いた。


 ここまでの攻撃で怪物が受けたダメージは相当に大きく、ほぼ全ての触手が千切れ飛ぶか動かなくなって機能を失い、全身の至る所で体組織が抉れて血と思しきドス黒い液体が流れ落ち、焼け焦げた痕も無数に点在する悲惨な姿になっていた。

 しかし、それでも絶命するには至っておらず、苦しげな咆哮を上げながらも移動しようとしているのだから呆れた耐久力である。あるいは、痛覚の類が存在していないのかもしれない。いずれにしても、まだ生きているのなら攻撃は続行だ。


「Pixie squadron,engage」

「Talos squadron,engage」

「Hydra92,engage」


 地上部隊の攻撃が一段落したのを受け、今度は戦闘地域上空で待機していた空軍機が続々と姿を現して交戦開始を宣言するのと同時に統制された動きで攻撃を仕掛けていく。

 そんな空軍機の中で先陣を切ったのはピクシー隊の『F-16C CCIP』戦闘機で、帝国軍補給部隊を爆撃したのとは別の飛行小隊が『EGBU-12』レーザー誘導爆弾を主翼下に4発搭載して爆撃コースに乗り、レーザー照射は味方機の『AC-130U』ガンシップに任せて2発を投下する。

 こうして投下された2発のレーザー誘導爆弾は怪物の巨体中央へ吸い込まれるようにして着弾し、その軟体動物めいた体内に多少は潜り込んでから起爆した。


 それによって爆発のエネルギーは、炭酸飲料の入った容器が内部の圧力に耐え切れずに中身を吹き出すようにして放出され、大量の組織片と体液を周辺へと撒き散らしながら怪物の身体に穴を穿つ。

 この後もピクシー隊の各機は一定間隔で順番に侵入すると、2発ずつレーザー誘導爆弾を投下しては離脱していくという事を続けた。そして、4機全てが1回目の爆撃を終えると旋回して上空へと舞い戻り、再び順番に2発ずつレーザー誘導爆弾を投下するのだった。

 そして、16発のレーザー誘導爆弾はガンシップがレーザーを照射した個所へ正確に着弾し、既存の生物とは大きく異なるものの、怪物の内臓らしき体液塗れの物体を露出させる事に成功する。


 続いて侵入してきたのはタロス隊所属の4機の『A-10C』攻撃機で、こちらも帝国軍地上部隊を攻撃したのとは別の飛行小隊だ。

 タロス隊の4機は高度を下げる間に2機ずつの編隊に組み直すと、高度1000ftの低空から1機につき2発の『AGM-65H』AGMを発射して一旦離脱する。それによって4発が同時に着弾するという現象が立て続けに2回起き、苦しげな唸り声の後に怪物の移動が完全に止まった。


 しかし、ここまでされても死には至らず、緩慢ではあるものの僅かに残った触手を動かして抵抗する素振りを見せていた。そこでタロス隊の4機は再度、低空から侵入すると『GAU-8/A』30mmガトリングガンの掃射で残った触手を引き裂いて抵抗の芽を摘む。

 さすがに1度の航過で残っていた触手の全てを潰す事は出来なかったが、それでも確実に抵抗は弱まったのでタロス隊の4機はピクシー隊と同じ戦術で爆撃を行う。つまり、ガンシップがレーザー照射を引き受ける形で各機が順番に『EGBU-12』レーザー誘導爆弾を投下していったのだ。

 こちらも各機が4発ずつレーザー誘導爆弾を抱えていたので、計16発が怪物の体内に潜り込んでから起爆して体組織を抉り、さらに傷口を広げていく。次に攻撃を開始したのは、今までは味方機の支援に徹していた『AC-130U』ガンシップだった。


 ここまでの攻撃で痛めつけた怪物に対してガンシップはオービット旋回での攻撃コースに乗ると、まずは残った触手を殲滅するべく『Bofors 40mm/L60』40mm機関砲によるバースト射撃を断続的に実施する。

 それによって残っていた触手も1本残らず千切れ飛ぶか動かなくなり、攻撃と防御を封じられたも同然の状態になった。続いてガンシップは使用火器を『M102』105mm榴弾砲に切り替え、5発/毎分の発射速度で怪物の本体を狙って撃ち続けた。

 当然、発射された105mm榴弾は面白いように全弾が命中し、体組織を切り裂いて体液の流出を加速させると共に内臓にも多大なダメージを与えていく。だが、105mm榴弾を連続で30発近く撃ち込まれても怪物は死ななかった。


 まったくもって呆れる程のしぶとさだが、確実にダメージは与えられているので後は死ぬまで攻撃を続けるだけだ。それを示すかのように第227航空連隊第3大隊の『AH-64E』攻撃ヘリが飛来し、中隊ごとに分かれて波状攻撃を仕掛けていく。

 ここでも各機は『AGM-114L』ATGWを8発、『M261』ロケット弾ポッドを2基、『AIM-92』AAMを4発というマルチロール任務用の搭載兵装だった事から、接近しながら射程の長い『AGM-114L』ATGWを先に連続で発射。


 それを全弾撃ち尽くし、目標との距離も縮まったところで今度は『ハイドラ70』ロケット弾に切り替えて同じように全弾を叩き込むと針路を大きく変えて離脱していった。この意図的に狭い範囲に火力を集中させる攻撃が功を奏し、攻撃ヘリが全機離脱すると怪物の巨体は半壊して細かく痙攣していた。

 もっとも、それだけでは異様なしぶとさを誇った怪物が確実に死んだのかどうかは判別できない。ならば確実性を期す為にも追撃が必要で、その役目を担う飛行小隊が侵入してくる。


「Banshee squadron,engage」


 総力を挙げた攻撃の発動を受けて緊急発進した『F-15E』戦闘攻撃機の胴体下パイロンには、1発の大型レーザー誘導爆弾『GBU-28/B』が搭載されていた。この爆弾は堅固化目標や地下施設の破壊に用いられるバンカーバスターで、同機の物は4700Lb級のバンカーバスターだった。

 そして、爆撃コースに乗った4機の『F-15E』戦闘攻撃機は各機が『AN/AAQ-33』目標指示ポッドで赤外線レーザーを照射すると、『GBU-28/B』バンカーバスターを投下する。

 その後、投下された爆弾はレーザー照射が行われている箇所へと引き寄せられるように向かい、強化コンクリートなら約6m、地面なら約30mは貫通できるとされる弾体が怪物に突き刺さり、体内の深くへと潜り込んでから一斉に起爆した。


 さすがに、1発当たり306kgもの高性能爆薬の詰まったバンカーバスターが4発も体内の奥深くで爆発しては耐えられず、これまでに受けた膨大なダメージもあって怪物の身体が幾つかの塊に分断される。やがて、それらの塊は崩壊を始め、最後には地面にドス黒い染みだけを残して完全に消滅した。

 ここまで来れば怪物が死んだと断言しても良く、前線で戦っていた将兵達やモニター越しに戦況を見守っていた司令部要員にも安堵の表情が浮かび、指揮官たる少将の一言で歓声が沸き起こった。


「The operation succeeded!」

<作戦は成功だ!>


 こうして3日で国を滅ぼすとまで言われた“深淵に棲む魔物”は、多数の現代兵器を保有する現代の軍隊によって30分と掛からずに潰された。しかも、それは戦闘と呼んで良いのかどうかも分からない、あまりに一方的なものである。

 だから、これに先立って行われた帝国軍への攻撃と併せ、その戦いの様子を垣間見る事となった王国軍指揮官の男性貴族は、最後には怪物に向けるのと同じ眼差しを人間である筈の彼らに向けていた。

最後までお読み下さり、ありがとうございます。


テンプレ作品の1つである異世界×ミリタリーを名乗っていますが、ご覧の通り中身は現代兵器&現代戦のリアリティを可能な限り追求しただけの代物です。

しかも、5万文字近くを使って現代兵器による戦闘シーンを延々と書いただけですからね。

後悔はしていないとは言え、タイトルから期待を抱かせてしまった読者には少々、申し訳なかったかも。

でも、現代兵器&現代戦については妥協できなかったんです!(ここ重要)

と言うか、もう兵器好きは一生治らないでしょうね。そんな気がします。他の作品もそうだし。


それでは、またどこかで。

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― 新着の感想 ―
[一言] うんうん。 読んで良かった満足。
[良い点] 好みに忠実に、また敢えて登場人物に個人名をつけないなど、その豊富な知識を戦闘シーンの描写に特化する割り切りが心地よかったです。読んでいる側に軍事的な知識がなくてもその都度補足されているので…
[良い点] 最高でありました。
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