星銀河の闇にして混沌の魔覇王
中庭を通り抜けると、カノ賢人であり剣人が実体剣振るっていた。
それを横目に見つつ、私は上官に頭を下げつ、目的地に向う。
上官彼ら、ジークとオスカーは、艦長レティシアの姿を眺めつつ、雑談を開始していた。
そこから大分離れて、艦内寮の入り口に差し掛かる人口広場に、穏やかな風の女性がひとり、座っている。
「新入りですか?」
「ええ、高田准一と申します」
ふいに視線を感じ、上げると、二階寮の窓越しに准を見る少女がいた。
視線を下界に、副長レイルに向き合う。
「日本名ですね、この艦では珍しい」
「副長がそう言うとは、貴方も斉藤の名を持っているのでは?」
「ええ、私も日本の名を引き継いでいます。
しかしカに聞く高田の党首と聞いています、ソレに比べれば私など何者でもありません。どうぞ」
とにこやかに何かを手渡す。
「寮のカードキーです。
もちろん、貴方が連れて来た彼女、リリーさんと同室です」
「配慮感謝します」
私は寮の扉を指差す。
「しかしコレは、自室のカードキーと認識します」
「そうなのだ、それに関しては、艦橋であらかじめ貰っていたカード型端末があると思う、それを通すのだ」
なるほど、遠隔操作で寮の正面ドアが開く。
しかし艦橋の厳重なセキュリティに比べて、寮のソレは低めだと思った。
だがまあ、戦闘航海時は艦橋に篭りきるのだから、あまり気にしなくていいのか。
この人口公園など、艦内設備にしては規模も大きく、色々としっかりしているせいか。
そういう些細な事が気になってしまった。
「それでは、また」
「ああ、暫くは休戦期間だろうから、英気を養っていただきたい」
私は自室に向かい、リリーを連れてくることにした。
それと、もう一つ驚いたことが、山の存在である。
艦内において、宇宙の中という事を忘却させてくれるほどの。
丘などというちゃちなモノでない、モノ本の山である。
そのせいなのか、山のある艦内区画は、酷く機密が厳重で、出入りが多少メンドウなのだが。
更に目を惹くのが、この艦内には学園が存在する。
しかも、紛れもなく本拠を此処に指定する、宇宙艦船に置かれる機動学園という、世にも稀な在り方なのだ。
見学を含めて足を運んだのだが、校風は人も含めて、見た目の雰囲気もいたって穏やかだった。
戦艦内部とは思えない、本来もっと重々しく物々しい、軍学校気質になりそうなものだからだ。
恐らく、士官教育でなく、プロフェッショナル教育に重点を置くような、ハイインテリジェンス御用達なのだろう。
私はリリーと、自分の部屋を見回し、探す。
リリーにもカードキーが渡されたはずなのだが、無くしたと申告された。
彼女は此処に来てから一年だ、半年辺りで部屋の中で無くして、ずっと部屋の鍵は開けたままにしていたようだ。
そして、この部屋の参上具合では、鍵の発見も容易ではないだろう。
沢山の本で埋め尽くされた、比喩でない本の海の中で、小さな鍵を探すのは難事業になるであろう。
まあ、この一年間、今まで一度も紛失歴がないのだから、再発行は簡単だろうが。
探せば見つかるものを、再発行してもらうのは気がひけるので、多少は探してみることになった。
本人に無くした場所を聞いてみるが、当然のように返答は皆無、半年前のことなのだからしかたない。
そして探せど探せど見つからない、手がかりがないのだから、この広過ぎる室で特段見つかる確立は論じると虚しくなりそうだ。
私は一階に足を運び、申請だけをしておく。
それで気分転換だ。
眺めのいい三階のテラス。
そこでは無料の自動販売機が幾つもあり、コーヒーとジュースを持ち寄って、リリーと一つの机を占領する。
「五年か、それまでに、戦争を終結させないとな」
一人呟くように話す。
リリーは自分の部屋で見つけた、読み忘れた本から視線を転ずる。
私はこれまた同じように、視線を人口の空から、リリーの瞳に転ずる。
「カードで部屋のドアを開ける、その手間が省略されることで、私は最低でも一人の命を救う自信があります。
どれだけ私達が、この戦争に関与するでしょうか? それをよく考える必要があるかと」
先ほどの問答を引きずり、ジッとこちらを見つめてくる少女。
私は苦笑し、何も言わずコーヒーを飲んでごまかす。
それにしても、ちぐはぐな感じだ。
彼女は見た目だけで言えば、酷くクラシックな、学生服を着ている。
しかし、それは服装だけのはずで。
彼女のような理知的に過ぎる、先鋭的な現代美術品のような見た目に、マッチしているとは言えない。
これは、学園長の趣味か? と訝り疑う。
だいたい、スカートも微妙に短いと感じる。
リリーは常に制服で過ごす娘なので、部屋に入りぎわ、ごろんっとベッドに寝転ぶと、その度にチラリズムが生じる。
そしてそこでだ、このカードをくれた人物を思い出す。
「あなたを信頼する証として、このカード、艦橋に限らず、艦内での自由行動も許可します。
リリーとの同居も許可します、、、渡します。
これで、あなたもこの艦の一員です、誰がなにを文句を言おうと、常に堂々としていてください」
無論、最初からそのつもりだったが、これほど円滑に受け入れられるとは、流石に思っていなかった。
少し前まで敵方の、それこそ宿敵に値するやく所を担っていた。
そんな自分と、それに加えてリリーも、だろう。
この艦、そして学園、全てに行き渡るほどの、不思議な包容力、何でも柔軟に受け入れて、その一部にしてしまう。
このような環境は、私の生きてきた世界には無かった。
やはり、こちらに寝返ったのは、あちらを見限ったのは、間違いではなかったと、改めて再認識した。
まあ、根本的に、此方だろうがあちらだろうと、どこだろうが、私は私である、ただそれだけは変わらないのだが。
(その代わり───だ)
その人物はこう続けたのだ。
(貴方の生き方を、否定するつもりはありません。
でもどうか、娘を、その命の限り、お願いします)
これは、契約であり、そして依頼だ。
私が此処に存在するのは、きっと全てはそこに端を発し集結する一事象なのだ。
この艦で学園で過ごし、最終的には払うだろう代償。
恩を受けたからには、全て最終的には払いきり、最後まで完遂する、少なくともつもりだ。
が、それとは別に、私が授ける業は、なにひとつ普遍に変わらないのも、また一つの真実。
これをさぼることは出来ない相談だ。
そもそも、契約とは話が別で、依頼のために蔑ろにはできない。
それでも、彼女が望む限りでは、叶えるだけ叶えて、その後に全てを巻き込むことになるだろうが。
品行方正に振る舞い、優等に生きているつもりでも、落ち着く着地点は常に同一に至る。
そこに至る、なるつもりはさらさらない、彼女とて例外にはならない、ならせないだろう。
それは避けられない運命、リリーも先方承知の上だろう、が。
だからこそ、他の誰でもない、私に、目をつけられたのだ。
「あの娘の名をあげた娘か、流石に根本は変わらないか」
「そう……ね」
私は鼻で嗤うように言ったのだが、リリーは静謐に静けき心を乱さない。
悟りきっているのかと、それとも他に、何か思うところがあるのか、彼女は目を瞑る。
同じ様に、眠りに落ちるように目を瞑り、ながら、私の思考はひとつにまとまった。
(ふん……所詮は女だ。
最終的な感情の落としどころは、決まりきっている。
このままに生きるのならば、私と共に閨まで歩むことに、果たしてなるのだろう)
三階のテラスから。
ここにもまた、私の運命に縛られる、その人生という物語話が、世界を変革するため響き延々とどこまでも伝わっていく。




