第二の最終決戦までの話‐物語の譚上
色々あって、わたしの生まれ故郷は、この宇宙から永遠にその姿を消した。
誰が消したのか、誰にも分からない。
全てを一応は許されている私ですら、帝国の武力の頭脳を攫っても、何もかも一切の解明には至らなかったのだ。
今は混迷を極める中央領域に、居る。
帝国と連合の中間を占める、宇宙の面積だけで言えば、帝国と連合を合わせて三倍する。
わたしは考えていた、これからの作戦を。
暗殺部隊長、そして実力主義の軍部を掌握する、リディスの隣で。
彼女とは初めて、任務と言えるほどの仕事を共にする、
光速で飛翔する艦内から、遥か彼方で見えてきたのは、古き人類の故地と似た、蒼く瑞々しい星。
これは、偶然か?
いや、必然か?
はたまた神の悪戯だろうか?
とにかく、奇跡では、あるのかもしれない。
彼女は思った、ワンオフ機の”ファルセット”を駆りながら。
麻酔のように甘い理想を囁く彼の、その言葉を信じて、ただ従うことを選んだのだ。
砂糖菓子の様に、ただただ只管に甘い日々は続く。
愛の言葉を囁きあう日々は、確かに己に染み付いてとれない絶望を、罪を、幾らか癒し、または排除したのかもしれない。
それは激し過ぎる痛みを沈静鎮痛させる、唯一の法、私にとっての光明だった。
ただただ麻酔を、激烈に大量に、○○にも似た微睡みで、私を癒しつくしてお願い。
緩やかに緩やかに、私の心が浄化されていく。
人形の精神をむしばむ、絶対に死ぬしか選択肢の無い、このパンドラの箱のような世界。
そこに、貴方という最後の希望があったなんて、知っていなければ耐えられなかった、ないから。
差し伸べてくれた手も、何もかも、絶対に守りきる。
掴みきれぬ希望に意味はないから、まま、人形のまま人間になれず死のうと、貴方に突き動かされて生きたい。
世界を静かに、自分は呪う、それはきっと貴方の為に、○○を呪う。
「最近は、ずっと手をこまねいて何もせず、ただ傍で見ていること、が多い、かな?」
「特に、絶対重大な、後に取り返しがつかない事態には、直面していませんからな、それも良いでしょう」
「いや、戦場じゃなくて、彼女の事ね、ボケか? 冗談。
まあ、も、当然なすべきことがあるのに、何もしないことで、僕は批判を集めることが多いから、ね」
いろいろ含みを込めて、用いることが多い会話の運びを好むモノ同士、絶妙で互いにしか伝わらない事が多い。
別にその中に暗号的なやり取りは含まれていない、防諜はそも完璧完全なのだ、暗号があるなら暗に相手にだけ示すものだ。
ある年の寒い季節の夜。
今日は王国でパーティーが開かれる。
ただただ豪勢なモノだ。
エヴァとラ・ソラス家主催のモノで、規模的にはそれほどでもない。
銀河をまたに掛けて住む大きな貴族、王族の集まり。
そして我々、国王直属部隊、機動兵器大隊長、リチャードも参加する。
「さて軍事機密だけど、ね。
最近、通称組織“鳥達の黄昏”の所属員が集う場所が、此処、パーティー会場の直ぐ近くで見つかった」
「ほお、鳥達の黄昏ですか」
「ああ、そして耳寄りの情報だと。
その司令官レオン=バーギンスが、このパーティーの主催なんだって」
「ほお、これほど大規模な社交の場を開ける、ということは?」
「それなりの人物だ、まあそれなり程度だよ。
僕にしてみれば、このパーティーもそれほど感嘆に値しないしね。
三年前の、帝都出発の際に開かれたモノの方が、遥かに名のある傑物の巣窟だった。
それでだ。
そういう界隈を知る人物にコンタクトをとった、なら、どうだろう?
話は性急に迅速に進めた、もう外では襲撃者を始末してる頃合だろう。
もし、此処まで抜けたとしても、まあどうにもでなる話だけど、無用な犠牲はいらないよね?」
「そうであったのですか。
そのために使った人物は、貴族家の寄合いの一つ“クルマネステル”でしょう?
キス=テルノミネンスは有用で理想主義者と名高い」
「ああ、場末で知り合った、ということにしてくれ。
ほら見て、鳥巣のリーダーが、何か狼狽してるように見える、外の事態を把握したかな?」
夜の外気が冷える。
宇宙戦艦上で事務員をしてるはずのベリスが、定期連絡を寄越した。
”本日も異常なし”
これを事前の締約どおりに読み解くと、こうなる。
【リディアとルイスに予定通り命令が下った、即日行動を開始せよ】
ルイス、それもソレに呼ばれ、一緒に敵のアジト、その一番の要に向う。
「リディア、隊長様は、いまごろヌクヌクとお楽しみかな?」
「ぶっ殺すわよ? 黙ってなさいよ」
到着、一見ドーム上の、用途不明の巨大な建築物。
私は正面扉を蹴飛ばして、堂々と侵入を果たす。
罠など初めから警戒していない、全て力技で突破してやるから、この場合は迅速さが緊要。
敵は二階に向かって逃げていく。
ほら、敵に逃走される方がイラつく、宇宙に逃げられたら面倒を背負い込む事になるのだ。
壁際に標的が佇んでいる、華も恥らう乙女だ。
「へえ、リディア、貴方って、こんなことをしていたんだ?」
「貴方に言われたくないわ、暗殺者の貴方にね」
流石司令官が大物。
こんな奴を、それこそ今回第一の標的、敵としてカテゴライズされる存在を、ボディーガード程度にしていたとは、ね。
まさかの偶然に一旦息を呑みかけて自制。
「貴方は、今日主催の社交に混じってた方が、よかったのよ」
「うるさい、そんな世界に興味はないし」
「そう?
ということは、うんうん、リチャードは向こうにいるのね?」
「はあ?
そんなこじ付け甚だしい、鎌掛けにもなってない、下らない」
「私にはね、切り札が幾つもあって、今回絶対に貴方達が呼ばれると確信していた。
ルイスだったか、誰だったかしら?
が、本当はパーティーに出席したくなかったようだけど、変わってもらっちゃった」
何が言いたいのか、よく分からない問答。
彼女以外は既に逃げ出しただろう、まあいいしょうがない、こんな奴が現われてしまったのだから。
「しかし可笑しいわよね?
当の司令官が、私に直々に「良いモノ見せてあげるから行け」って此処に誘った。
なら、此処には貴方じゃなくて、リチャードがいて、しかるべきだと思わない? 貴方? リディ?」
「知らないわよ」
「すげないのね」
緊張が満ちた場で、膠着だけが続いた。
「来てねと言われた」
「誰にだ?」
「彼女にだよ」
指す方向、小型の端末で、そうと言われてしまったら、出向かざるを得ない。
席を外して、せざるを得ない事をしに行く。
「レイル女史、私は忙しかったのだが?」
「かった? ということは、もうそれは終わったのだ」
「はぁ。
後からちくちく文句を言われるのも面倒くさいしな、仕方なしに出向いたのだ」
「ふっふ。
貴方は私を手ごまに加えた、ならば、手の空いた時に面倒を見る義務があるのだ」
席することを共にした相手。
二個下の少女を見つめる。
「それにしても暇だ。
なぜ? これほど暇なら、私などいらないはず。
どうせならリディお姉ちゃんの方に、私は向いたかった」
「万が一、君がいないと話にならない。
それに向こうには、兄上が行ってくれてる。
君も連れて行ったら、過剰戦力」
「いや、向こうに行った方が、、、こちらに来た方が賢明だったか、どうか?
とにかく、父は挨拶に回っているし…私は暇が過ぎると死んでしまう性質なんだ。
君が傍にいればこそ、私の命はなんとかどうにか、延命することが出来るのだ」
ぴとっと隣席同士で密着してくる少女。
「奥方じゃないんだ、そういうのはやめた方がいい」
「いや、だったら、それ達には、奥方という設定で紹介する、気はなさそうだな?」
「当たり前だよ、欺瞞も限度がある」
「それにしてもね。
この煌びやかで目に痛い場所は、どうにかならないだろうかと、思わないかな?
無駄に金が使われすぎている、ダンスホールに場所をとり過ぎてもいるし、実に不効率だ。
絵画を見回してみても、センスがない。
一つ一つもさる事ながら、統一性も悪いよ」
そんな少女の愚痴を聞いていると。
自分の嫌いな一人。
変な仮面の男が近づいてきた。
少女の目に留まった。
「消えうせろ、変態そこの仮面男」
その仮面、なのに透けて厭らしい笑みが見える。
と、自分は、俺は思わずため息を吐いた。
ああ、やっと来たか。
椅子壁に預けていた背中を離し、俺は立ち上がる。
「それじゃ後は頼んだぞオスカー」
「おおよ、隣座るぜ?」
「はあ? ふざけないでくれる? シッシ!」
「ははぁ、愛いやつめ、うりゃうり」
「やっやめなさいよ、やぁ、、やだ、やめぇてぇ!」
「はっはっは、ツンデレツンデレ乙乙」
「あああん!!!もう!!」
俺は仮面男と一瞬視線を交わし、お礼に一礼する。
すると、仮面の男…皇帝直属艦隊司令官の【オスカー・ライツイット・ヴィーダムヒム】がにっこり微笑んだ、ように見えた。




