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超大規模SFの外伝譚-ヘイズ編


 


 王立宇宙軍には、凄い奴が一杯、とは言えないかもしれないが、それなりに居る。

 その一人が、ヘイズっていう奴だ。


 奴は凄いね、何が凄いかって、全部だよ全部、パッと見で、尋常ならざる存在って分かるくらいには、色々極まっている、てか、人間として全てを突き詰めている感があるのだ。

 言語化するのは難しいが、多少なりとも、彼女を観測する、赤の他人の俺が、彼女を紹介するみたいな事をしてみようか。


 まずはあれだね、アレ、ヘイズって奴を直接見たのは、ある冬の夜だった。

 王立宇宙軍の運動場って奴は、全部で数十個ある、ほんとに大きい奴は数個しかないが、中規模の奴は沢山あるって感じ。

 俺は偶には長時間、ランニングやマラソンチックに、自分を痛めつけるような修練でもするかって気で、そこに行ったのだ。


 まぎれもない深夜だった、人なんていない、てか、貸切だった。

 運動場を貸し切るなんて、何かしてるのかと見れば、ただ高速で一人の少女が走っているだけだった。

 普通なら、場所を無駄に使っているなぁーとか思ったろうが。

 初見で異常に気づいていたが、走るの速いなと。

 だが少したって、その異常は図抜けたレベルであると認識が高次元に変わる。

 少女は100メートルを走る速度で、何キロも走っていたのだ。 

 なんとなく貸しきりたい気持ちも分かった、なんか必死だし、ぶつかったら危なそうな感じだ。

 この時代の人間は、ある特殊な遺伝子の最適化による、常軌を逸した存在なので、人外レベルで鍛えた人間にぶつかられると、普通に死ねるしな、例えば俺が。


 俺は貸切だから、マナーを守ってちゃんと観戦席から少女を見ていた。

 何十キロ走ったろうか、流石に始めの頃よりかは遅くなったが、それでも随分に速いと思う。

 何十周目かで、少女は足を止めて、吐血した。

 観戦席側だったので、その様態がありありと見える、だが心配要らないだろう、となんとなく思った。

 常軌を逸した人間の、事後を顧みない本気ランの、その反動だろうからなぁ~あれはぁ。

 本気の本気、生体のストレス限界の境界線上ギリギリで走れば、誰でも吐血くらいする、俺だってするしな。


 それでも、俺とは次元違いの苦痛に喘いでいるのは、察せれた。

 少女の方が、俺より上手っぽいからな、いろいろと。

 余裕ぶって語っているが、実際彼女のレベルに行くのは、ほぼ不可能な難行なんだ、それこそ無限に奇跡が連続して、無限に全てが上手く行くくらいじゃないと、到底無理な天上の存在ってな、マジな話。


 運動場なら数体設置されている、なんか毎度お馴染みみたいな容貌の、四角いお掃除ロボットが近づき、血の辺りを綺麗にしていた。

 その光景を見ることもしないで、少女は軽いジョグを始めたらしい、らしいってのは、その速度は俺の全力くらいだったからかな。


 俺はなんとなくで、観客席を飛び降りて、二階部分からコースに着地、少女を追いかけて抜かした。

 後ろをチラッと見て、俺的今世紀最大級の、くそドヤ顔をかました、どうやぁわれ、怒り狂ってこいって感じで。

 でも、少女は冷淡にソレを眺めることもせず、水平な、例えるなら仙人師匠のような表情で流した、つまりスルーされたってこと。

 俺は本気の本気、極限の限界を出した、そう、究極的な勝利を掴み取る為なら、人間なんだってできるのだ、大抵の事って限定するのが酷く心が苦しく悲しい事実だがぁーよ。


 意地かなんか知らん、高速で走り、少女を一周抜かし、したかっただけだ、そうすれば、なんか反応くれるかもって、思って。

 魅せられたかどうか知らんが、俺はさっきと同様の、違うバリエイションズで気に障る感じの、顔芸を含めたマルチな煽りをしたんだが、はぁさっきと同じだぜ畜生。

 って事を五度くらい繰り返すと、記憶が曖昧なんだ、走っている途中、なんで生きてんだ? こんな辛い目にあうなら、死ぬべきだろがって何度本気で思ったか知れない、本気で走ると俺は毎度自殺志願者にガチでなれるから怖い。

 六度目か? 振り返った瞬間、内臓が内出血でも起こしたんだろう、過去の経験から分かる、血が口内を逆流する感覚。

 だが、戦場で内臓やられた時に比べれば、マシとか想起して、やり過ごそうと画策するが、こりゃキツイね、涙が出てくらぁ。

 口を塞ぎ、変な顔で、血嘔吐抑えた苦し紛れの顔を晒してしまった。

 だが、効果はあったようだ、少女は微笑んでくれたのだ。

 でもそれで気が抜けたのか、俺は咳き込み、溜めた為か、大袈裟に大量の血を吐いた。

 無理を押し通した反動が帰ってきて、おかえりなさいませって感じで、ありえん苦痛が体を襲う。

 少女みたいに、冷や汗押さえた顔で我慢できなかった、まあ俺は凡人だし、普通にのた打ち回ってころけて、暴れまわるしかない、それがちょっとの気休めになるから、しょうがない反応なのだ。

 そして気絶して倒れていたらしい、次目覚めた時、俺は病院にいたからな。

 医者に注意された、が、あれはあれで良かったって思っている、俺も意図的にやった事だしな。

 魅せられた少女に、カッコいいところを見せたい、そんな俺の馬鹿な男心をくすぐれば、常軌を逸した負荷トレーニングにも耐えられる勝算があったから、打算的にやった全てだ、俺は賢い、まあただそれだけだがな。

 収穫はあったってな、あの一回のアレで、俺の生体ストレスの限界値、その総量は大きく引き伸ばされ拡大された、その確信がある。

 RPG風に言うなら、メタル系の上位存在を倒した感じか、それとも狩場で一日過ごしたって言った方が、最近の奴には通りがいいか、まあいい、そんな風なのが初邂逅だ。

 俺も得るものあったし、少女、ヘイズも微笑んだ事から、なにかしら得られたってんだ、良い縁作った感じだな、俺はそう信じ込むことにしてる、絶対になぁ!


 二度目は、酷く時間軸が移動する、二ヵ月後にだ。

 ヘイズって女は凄いVIPの子女だ、国の基幹、まぎれもない権力の中枢に存在する集団連中に、忌憚なく言えば、女王の身辺の身内に近い奴ってことだな、コネがパナイのだ。

 だから、普段は顔すら拝めないのが普通だ。

 少女を観測するには、この広い宇宙軍だ、類稀な偶然か奇跡に頼るしかない、会いたいと言って会えたら、誰だって会いたいと思ってしまうレベルって事、何かと裏で手が回って、少女のプライベートは暗に明に守られているって事だな。

 だから、俺も会ってない、別に意図して会いたいとは思わないがね。

 そんな感じでの二ヶ月なのだ、最近は定期考査が近くて忙しい。

 つまりは勉強が忙しいって話に行き着く。

 この時代は、酷く学ぶことが多様化し、また純粋に歴史も積み重なっているから、その面でも勉強量が必然増す、辛いことこの上ない。

 朝は走ったり筋トレしたりで肉体鍛錬、昼は学校で色々するし、夜はずっと勉強タイム、充実してるが息つく暇がなくて、大変としか感想がない。


 そんな日々のいつかに、少女ヘイズはまた現れた、俺が勉強しようと画策した沢山ある図書室でだ。

 前の定期考査で、学内トップ十に入った彼女だ、学習方法はまず間違いなく、直接情報入出力式の、軍用の学習装置ってか、単に高度なブレインナノマシンシステムだろうから、これは休憩か悦楽のようなモノなんだろうね、ヘイズにとって。

 ここで変にしてはいけない、なぜか、ブラックリストに載るからだ。

 軟派に話しかけたり、変質者の兆候ありと見られれば、何されるか知れない、それくらいに少女は圧倒的に優遇されうるポジションに居るって、俺は知ってる。

 だから、俺は何もしなかった、横目で注視したりも、過度に気にする風もみせない、むしろ知らないくらいの客観だったろうね、俺の演技力を褒めてもいいな。


 でも、対面の席に座られたら、ちょっとは注意が向かないこともない。

 なんと少女ヘイズは、この何百も椅子も机もある広大な図書室で、奇跡的に俺の対面という席を引き当てたらしい、そこに何か作為的な、てか少女の意図が入っていると勘ぐるのは、間違っているのかどうか知らない。

 対面に座る時、マナーだからか「ここは空いていますか?」とだけ、少女の声を聞いた。

 俺はもちろん「空いてますよ、どうぞ」、そんな普通すぎる対応をしただけだ。

 で、いまだ。

 俺も少女も普通だ、普通すぎて逆につまらないくらいに普通だ。

 でも俺の内心は違うけど、それが表に出ないから、さっき演技上手いって言ったんだぞ。

 普通にしてても、視覚情報として、少女の本の背表紙が目に入る。

 見た目の生体機構含めた全ては普通だが、入ってきた情報には飛びつく勢いで、情報処理が始まるのは、なんというかご愛嬌って奴かね。

 なになに、戦争の脈動-謀るは戦乙女の嗜み、ね。

 普通だ、ある超長期的シリーズの物語小説を読んでいるらしい、俺ですら普通に読むくらいには、結構に大衆向けな馴染みあるジャンルで驚いた。 

 てっきりもっとずっと、高尚で難解、背表紙の情報を解析しても、俺なんかじゃ理解できないような、とびきりの際物が飛び込んでいると期待してたのに、なんかガッカリだった。


 で、何事もなくその場は過ぎてお流れだった。

 大方、奇特なタイプの人種に興味が沸いて、観察がてらその正面に座ったはいいが、何事もなかったパターンっ、てのが真相だろうね。


 だが去り際、迷い気味に、何か言うか言わないか、眼をキョロキョロさせて迷った挙句。

 なぜか突如、冷笑的な流し目を送りつ、「詰まらない男ね、はぁっ、ふん」と、一笑に伏しつ鼻で笑われたのは、どういう事だってんだ?。

 もちろん俺は、そんな挑発に乗るような男じゃないので、徹底的にスルーしたぜ。

 というより、ドキドキして、何も言えず固まっていたのに近いな。

 そんな石像の俺に飽きたらしく、少女は見下した眼を最後に向けて、どっか行ってしまった。


 そして三度目の邂逅は、それから一月後の、部隊訓練の直中であった。

 それも酷い事に最前線の、孤立した惑星陸地上。

 一週間ほぼ飲まず食わずで、孤立した惑星地上に味方の援護、救援が来るまで待ちの体勢を続けていたおりである。

 王国軍第四師団の、その第23と24部隊が合流して、その片方に少女が居たのだ。


 軍内で優遇されようと、訓練の場にまで、そんな贔屓を持ち込むほどでは、恐らくないようだ、少女的にも上層部の将軍達的にもって意味でな。

 その時は、部隊合流後の、偶々のすれ違いで声を掛けられた。


「貴方は、、、先日は無礼をしました、一応謝罪をしておきます」


「別にいいよ、俺なんか無礼を超えて、なんかした記憶がなくもないし」


 このとき、俺はテンション駄々下がりだった、少女を見て話しかけてもらって、多少気力と意気が上がってこれである。


「そうでしたね、では、これでお相子という言う事で、どうか」


「おーけー、了解。

 それと、あの時の別れ際の、あの悪口は、どういった意図だったんだ?」


「ああ、あれぇ、まあ、期待を裏切られて、なんとなく腹立たしい思いを、ぶつけただけだよ、すまなかったね」


 いきなりぞんざいな態度口調になってるんですけど、、って思ったね。

 多分この短いやりとりで、俺が御しやすく物分りのいい、根っこがクソ真面目な好青年ってのが、この少女に露見したが故だろう。


「許しません、なんか俺の喜びそうな事して」


「面倒くさい人ですね、、、」


 義理堅そうな少女だったので、ちょっと吹っかけてみる、もしかしたら美味しいご褒美がもらえるかもって、十割方期待してって奴。

 尻でも無償無懲罰で触らせてくれたら、とっても嬉しいね。


「はぁ、ほれぇ、手でも繋がせてあげます、にぎにぎしていいですよ」


 恩着せがましい声音で、傲慢で小生意気なマセガキ少女チックな、そんな明らかにふざけている風で言ってきた。

 ので、当然どうしようか俺は迷う。


「はっは、冗談だよ、ごめん」


「冗談ではありません、手くらい、無意味に繋いでいいでしょう?」


 最高級の微笑と共に、前述の通り、手を片方にぎにぎした、ただそれだけ。


「勘違いしていいですよ」


「はぁ?」


 意味が分からない、突然の少女の台詞。


「言葉の通りです。

 わたしは恋人とかあまりに興味ないのですが、貴方ががっつく分には、相手をしてもいい、そう思うのです。

 私から見て、貴方は非常に都合のいい、彼氏に、なれそうですから」


「死亡フラグ?」


「縁起でもないこと。

 あと更に言うなら、私から貴方に接触するなんて、そんな積極性は期待しないで。

 絶対にありえないって感じ。

 貴方が私の為に最大限尽くして、やっと多少わたしにメリットがある程度なんだから。

 アポイントメントを含めた、煩雑な遭遇の手間すべて、貴方が負担してやっと私的に収支が少しプラスになるってね、わかったかしら?」


「はい、わかりました女王様」


「そう、それくらいの心持で、ね。

 それじゃね。

 会いたくなったら、何時でもは当然駄目、私に約束しないで突然会うとするなら、断られても文句言わないでって感じで」


「うん」


「疲れてるのね、まあ、私も見た目は大丈夫そうだけど、内心結構キツイものもあるし、みんな大概に同じよ、頑張りなさい。

 励みにして踏ん張って、さよなら」


 手を振って、どっかまた忙しく活動を始める少女。

 その後の訓練の戦場では、大活躍であったっけ。

 年上の先輩達を纏めて伸したり、一人突破口を押し開く近接格闘能力の高さパナイ。

 その力は、実際の戦場ならば憧憬もの、いや今でも十二分に尊敬に値するねって思ったものだ。


 俺が屍に成って、一日中寝ていた、その、過酷な王国軍のシゴキ的なメニューが終わったのが、今日であるな。

 そして、向こうの方から、通知に少女の名がある、俺の携帯端末に、教えてもいない電話が掛かってくるのは、果たしてどういうことだろうか?

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