闇のゾディアックコア-インフェリアル同盟破断前
銀河帝国西南方面艦隊・第五艦隊旗艦・アクアポリス。
巨大な流線型のフォルムだ、全長は10キロメートは下らない。
今は武装は内包され、突起として様々な船外機器が幾つかある程度。
全体的に蒼で彩色され、装飾も意匠が凝らされている。
銀河帝国の数多ある旗艦戦艦の中でも、特に見た目が良く整備された華々しい船体は今。
暗い宇宙の中でも、煌々とその身を恒星のように自然発光するかのように、自らを照らし出していた。
「二連配置の縦列で、航路に等間隔で大規模機動要塞をおくのは、果たして経費にあった成果を出せているのか」
旗艦艦長、クレイシ=シャス少将は一人呟く。
艦外の微細な観測データを眺めつつ思索にふける。
ある調査と特別な任務。
さらに特別に、帝国に僅か三しか存在しない、皇帝直属独立機動兵器大隊を率いている。
その大隊は尉官以上のみで構成された、破格の精鋭、超スーパーエースパイロットの軍団である。
彼ら集団は、ある作戦の事前要件を満たすため。
そしてその作戦行動における、要とも言える機動兵器部隊。
その最後のコンバットマニューバー、戦闘証明を兼ねた実戦を想定したテスト演習の為に、彼とその部隊は今在る。
「第二艦隊は、予定通り、調査の為と銘打って、東南域の航路上に満遍なく、探査・中継衛星を設置したか。
これで敵の不確定な動きに、我らも翻弄されることもなくなったな」
遥か彼方で完了した、予定通りの結果に安堵に似た息を吐く。
通常の艦艇ならともかく、敵のステルス性と機動性に溢れた艦艇を補足するには、この処置は必須だった。
万が一にも、こちらの作戦意図の尻尾でも掴ませるわけにはいかないのだ。
だがこの戦略的に見て割りに合わない、厳重過ぎる不可思議な防諜行為。
完璧なまでに内情を隠匿隠蔽する、鉄のカーテンを敷くようなやり方は、敵に多少の不審を与えるだろう。
「はいはーい、もしもーし、クレイ少将、やってるぅ~♪」
陽気に弾んだ少女の声。
艦橋下部から上部、ここにやってくる銀髪の美女、シンディーのそれである。
「何ですか? シンディー殿」
「べつに、何にもないよ、何にも無いって本当にいいことよねえ?
計画が万事つつがなく進んでるってことなんだからねぇ~」
「それでは、わたしに何用ですかな?」
「特に用事は無いよ、この艦で一番話すに有意義な人ってのもあるけど、今回はそうじゃない。
率直に言って、計画の佳境で、怖気づくか足踏み踏むか、一応確認しとくのも悪くないと思っただけよ」
「そうですか、では何なりとご確認ください」
その後、何がしか幾つか質問されて、彼は思ったままを答えた。
シンディーは何も感じていないかのように、透明な瞳で頻りに頷くだけだった。
「オーケイ、貴方はまったく己のこれからする事に疑問がないみたい。
絶対の確信の領域で決意し覚悟し悟りきった、一切の不純物のない明確なヴィジョンを備えている。
まあ、こんな作戦の主要を担う人物が、いまさらって感じよね。
それじゃ、この艦が担う戦場での立ち振る舞いとかも、一応再確認程度に聞いときましょうか?」
「はい、旗艦としての情報処理能力を生かし、貴下の艦隊運用はもちろんのこと。
最前線で積極的に戦線を啓開する事も含まれているかと。
特に、この艦に積んでいる、総計一万弱の衛星型独立機動砲台。
これらで最大戦果を出す為に、単艦跳躍で精密ジャンプを繰り返し、敵の中核に迫ります。
並外れた機動と最新鋭旗艦能力によって、一瞬だけなら敵中核に存在できます。
そしてその場で全機一斉射出。
集中機動砲撃によって、敵の規格外れに強力な最新鋭艦、旗艦を中心に撃滅します。
このように最大脅威目標を早々に片付けきる事によって、数の不利を緩和する心積もりです」
「オーケイオーケイ。
でも衛星型独立機動砲台の数が、果たして事足りるか分からないけど。
まあまあ敵の旗艦級戦艦の絶対数量が分からない以上、しょうがないわね。
無駄に多く持ってくるのも作るのも、微妙な代物だし。
まあ無くなったら、補給は幾らでもする、少なくともつもりだから、言って頂戴。
銀河帝国標準輸送艦一艇当たりに、だいたい五〇〇個くらい、積め込めるみたいだし。
でも改めて凄いわね。
こんな巨大な衛星兵器を、ここまで詰め込める輸送艦が、これほどリーズナブルに作れるなんて。
どれだけ投資したのか、開発の労が偲ばれるわ」
「いえ、それほどの労はなかったようですよ。
基本設計等は、東方・西方両帝国からの流用を多分に含まれています」
「ああ、なるほどね。
件の秘匿作戦で輸送艦を大量生産したから、これほど開発が進められてたってとこ?
私の予測よりも、輸送艦の開発進歩状況が二世代ほど異様に進んでるから。
あまりに早いからビックリしていたのよ」
彼女はそこで一旦話を切り、電子パネルを一つ引っ張り出して、操作する。
彼方で展開される機動兵器大隊の演習、その一つに傾注しているのだろう。
シンディーは娘プリシアを溺愛、というより偏愛している。
それは彼も知っている、奇遇な様々な巡り合わせで、本当に偶々知る機会があった。
(そういえば彼女の娘が、この艦に乗船してから、まだ一度も直接会ったことはなかったな)
彼は一回くらいは会ってもいいかもしれないな、と思いながら、自分もリアルタイムで展開される演習データを見てみる。
機動兵器大隊、その独立特殊作戦部隊の一つ、その部隊長を担っているのがプリシアその娘であった。
その勇姿を、彼女と彼は演習終了まで、共に見つめていた。




