ファンタジー世界物語(仮)
次の日。
「女王様、ちょっと頼みたいことがある」
「なんだ?
黒野の方から、私に関わってくるなど、初めての事じゃないのか?」
「確かにな、まあ、そんな事はどうでもいい。
話がある、ついて来い」
「ふっ、一国の女王に対して、その不遜で不敵で、どうしようもなく若く子供っぽい態度、気に入った、いいだろう、ついて行ってやる」
女王はニヒルな笑みを湛えて、俺の後に付いてくる。
王立学園の城壁を抜けて、何時もの行き付けのカフェに入り込む。
「何か頼むか?」
「ああ、黒野のお勧めはあるか?」
「ないな、この世界の飲み物は元居た場所に比べて低廉に過ぎる。
俺は、口が寂しい時にしか、嗜んでいない」
「なるほど、やはり興味深いな、お前は。
一度王宮に来るが良い、この世界での最高級品を振舞ってやる、そして元居た世界とどちらが美味か、感想を聞いてみたいものだ」
俺は、機会があったらなっと適当に流し、本題に移る。
「俺が頼みたい事は他でもない、最近学園に来たあの貴族様についてだ」
「ほお、あやつが何かしたか?」
「俺の主アルジにちょっかい出そうとしてるでね、なんやかんやで、決闘することになったんだ。
向こうの従者と、俺とアイリ二対ニだ。
まあ普通に考えて負けはありえないが、先方のこちらの実力を知っている癖に自信満々なのが気に触る。
だから、女王様を使って、上手く情報収集しようと思っているんだ、協力してもらえないか?」
「ふむ、私に何か見返りはあるのか?」
「言える立場か? 命を救ってやっただろう?」
「冗談だ、しかたない、手短に済ませろよ、私も暇人ではないのだ」
「いつも俺を尾行ストーカーしてるのに?」
「ばか者がぁ! この戯けぇ!」
露骨に錯乱した女王を宥めすかして手懐けて、今は件の貴族様の実家に赴いている、頬を膨らませた女王様と。
「それで、奴の家に乗り込んで、どうするつもりだ?」
「女王様は何も知らなくていいさ、適当に合わせてくれ」
「ふむ、まあよかろう」
それにしても半端で無くデカイ家だな、目の前の豪邸としか言えない建築を見て思う。
広大な敷地に見合った壮大なソレ、驚くべきは庭や細かな装飾もしっかりしている所だろうか?
ドンだけの金があれば、こんな家を作ろうと思えるのかね、まあ帝国の四大貴族だけはあるのか。
「ようこそ、女王殿下」
俺はスルーか、例の貴族、その父親の顔と一致。
やはり息子と同じで、きな臭い野心を感じさせる胸糞悪い顔をしている。
隣の女王は突然の来訪に何も言わず、ただ頷いているだけだ。
向こうはこちらの意図をさし測ろうとしたのか、いや既に予測できていたのか。
「女王様、学園に入学した私の息子とは、もう合えましたかな?
そしてその息子は、今は家にいませんが?」
これは知っている、奴は今、アイリが学園に引き止めているはずだ。
物理的に、そして時間的に、当分此処には絶対に戻ってこない。
「ああいいのだ、今日はソナタと話をする用なのだ」
「そうでしたか、でしたら、とりあえず中へ」
恐らく一番広いだろう客間に通されたのだろう、無駄に広大な机越しに向き合う。
「それで、どのようなご用件で」
「すみません」
そこで初めて口を開く。
「貴方は?」
訝しげな瞳、そうか、俺の事は知らなかったか、それとも知らない振りか? まあどっちでもいいか。
「俺は女王の懐刀、いえ護衛のようなモノです。
今回の来訪の説明は、僭越ながら私がさせていただきます」
突然話し出した正体の怪しい男に、目の前の男は若干警戒を込めた眼差しで見つめてきた。
だが隣の女王がただ頷く機械と化していたので、ひとまず納得して、とりあえずは俺の話を聞くようだ。
「話は、貴方の息子さんの事です」
「ほお、私の息子が、学園で何かやらかしたのですか?」
そんな事は端から思ってなさそうな、多分に冗談を交えた口調。
仮にあったとしても、四大貴族の突き抜けた一、軽く揉み消せると高でも括っていそうだ。
「いえ、むしろその逆です、ご子息様は類稀なほどの勇気を見せてくださった、そのはずです」
「確かに、勇気がなければ、化け物討伐には向かいませんな」
「それで、ちょっと困ったことがあり、貴方様を頼ることになったのです」
「それは如何な事かな?
女王直率の頼みならば、幾らかの妥協は辞さないつもりだが」
男は先程から女王を気にしている。
そりゃそうか、何時かは手に掛けるかもしれない、敵になりえる存在だ。
どのような人物で才覚はどれほどか、降って沸いた敵情視察の好機に、気になってしょうがないのだろう。
「貴方の息子さんの、神器の全性能をお教え願いたい」
「、、、それは、なぜかな?」
流石に警戒するよな、まあ予想通りだから、返す返答もスムーズだ。
「簡潔に言えば、迷宮遺跡の異能持ちの化け物討伐に、突如加わった彼と連携を取るためです」
「ならば、本人から直接聞くのが道理ではないのかな?」
「お父上様なら、お察し頂けると思いますが?」
「ふむ、特に隠し立てするようなモノでもあるまい、知ってる範囲でよければ、いや恐らく全てだが、教えてもよい。
だが、見返りがあるなら、越したことは無い、そうだろう?」
見返りね、女王の手前タダで寄越せばいいものを抜け目が無い奴だ、大貴族の党首張ってんだから当然だがな。
「確か、これは風の噂で聞いたのですが、貴方は大陸における絶対の脅威に、立ち向かう決意があると」
「当然だね。
わたしは帝国の貴族、その尖兵だ、帝国の危機にもなりえる、この事態に立ち上がるのは当然であろう」
どの口が言うのか。
大陸における絶対の脅威、つまり神話クラスの竜ドラゴンの討伐、それが成った暁には、見返りに帝国軍の全権を求めた癖にな。
「その討伐軍には、私も加わって、ご子息様を全力でサポートするのを確約します」
「、、、」
男は考えるような仕草を見せる。
「先程は知らない振りをしたが、明かそう、君はアイリ=ラザフォードの召喚した人型召喚獣であるな?」
「そうですが」
「ふっは、はっは、そうか、そうかそうか、彼の神話通りではないか。
”帝国に危機が訪れたとき、異世界からの勇者現れ、それを討伐す”、まさか御伽噺が現実で起きるとはな、これほど愉快な出来事は久しぶりだ」
男はひとしきり笑った後、真剣な表情に戻り当然の疑問を尋ねてくる。
「しかし、君が”そう”であるとは限らない、約束を果たす確たる証明はできるのかな?」
「召喚師様が死ねば、私もどうなるか分からない、そういう事です。
ちなみに、貴方のご子息様が万が一、のばあい、私の召喚師に加えて、女王様の身も危なくなります。
実のところ、貴方様が今回の討伐に名乗りを上げていただかなければ、両者が能力的にみて討伐隊を率いていたはずですし、その点でも感謝を形にするという感じです」
ここで、今まで突然の事態に処理が追いつかず、済ました顔で必死に考えめぐらせていただろう、女王が口を挟む。
「そういうわけだ、ニコラス殿。
貴方は討伐隊に対する、国の援助、つまり私の助力が少ないとごねていたな。
それでだ、コイツを提供する、存分に使い潰してくれてよいぞ」
「遺憾ながら女王様、わたしが口約束を信じるとお思いですか?」
「知っている、そういうのは貴族と皇族の取引の手順に従ってもよいぞ」
「そうですか、ならば確約されたも同じなのでしょうな、期待しておりますぞクロノ君」
まあ、これは悪くない流れだ。
神話級の竜も、俺じゃなくても対処しなくちゃならない問題の一つだ、それを討伐する為なら、こいつ等のサポートもやむなしだ。
と、その前に、コイツの息子との決闘とかの流れを清算して、流血沙汰の果てに最悪に不味い事態にならなければって注釈が付くがな。
「では、ご子息様の神器の説明を」
「ちょっと待てクロノ、先程言っただろう、口約束は信用できない。
まずは私達なりの流儀に基づく手続きを済ませてからにしたほうがいい、ちょっと外で空気でも吸って待っておれ」
「”具体的に”、なにをするつもりだ?」
「知りたいか? まあ恩もあるし、手取り足取り教えてやるか」
偉そうに言うところによると。
貴族と皇族のシステム、国家の根底に今だに息づく法を持ちうるようだ。
それによって、俺はコイツの討伐隊の支援、客観的査察人もつけるようだ、に同意し、相手方は神器の一切の嘘偽りの無い能力詳細をこの場で公開すること。
あと、現代の個人情報保護法っぽい注釈も長々とあった、もちろんこちらがソレに了承しないと始まらない流れだった、いやいや了承した。
てか、こんなん中世ファンタジー世界に合わないなっとか、てかこんな未発達の時代からあったんならなぜうんたら、無駄な思考をしつつも荘厳な手続きは終了した。
「それでは、女王様クロノ君、また、討伐隊の本格的組織に折りまして、合間見えましょう」
恭しくも玄関まで見送りに来た貴族の党首、俺も一応礼儀に頭を下げておく。
「ああ、今から再開が待ち遠しい、さらばだ」
女王が適当に思ってもないだろう事を言って、その場で別れ帰路に着く。
「それでだ、黒野、奴の神器の性能を知れて、決闘には勝てそうか?」
「正直分からん、不確定要素が多すぎる。
だが確かなのは、知らなければ確実に近く負けていた、それだけだ」
「ほかには、なにかないのか?」
コイツ、物欲しそうな顔しやがって、危うく可愛いとか愛らしいとか思いかけた。
まあ俺の役に立ってくれたんだ、多少は礼をしたり甘やかしてもバチは当たらんか、調子には乗りそうなのが嫌だが。
「ありがとうな、助かったよ」
「ふふ、そうか、私は役に立ったか」
本当に嬉しそうに微笑むな。
お前を駒として見れなくなったら、どうしてくれる。




