一積目
「ん、ここは……」
真っ白な部屋にある男が目を覚ます。
「あぁ、気が付いたかね? 優太くんはなぜここにいるかわかるかね?」
「確か、部屋でジェンガをしていたと思うんですけど」
優太と呼ばれた男、桜坂優太は部屋の主と思われるおじいさんの質問に答える。
「その通りじゃ。そのジェンガが高すぎたんじゃな。3メートルもあるジェンガを梯子を使ってやっていただろう? 君は梯子から落ちたんじゃよ」
「それじゃあここって病院……じゃないみたいですね。僕ってもしかして死んじゃいました?」
「そういうことじゃな。もう察しはつくだろうが私は神というやつじゃ」
「……僕はどうなるんですか?」
優太は自分が死んだということ、目の前のおじいさんが神様だという事に驚きつつも何とか聞きたいことを口に出す。
「普通なら天国か地獄に行ってもらうのじゃが、お主は少々特殊でな。転生してもらうつもりじゃ」
「特殊?」
「お主、積み物が好きじゃろう? つみき、ジェンガ、レゴブロックとかな。お主はレゴブロックで新しい分子配列を見つけた。16歳ぐらいだったかのう? そのご褒美というやつじゃ。」
優太は自分が小学生の時に発見された新しい物質の分子配列を高校一年の時に偶然発見したのだ。
優太が言うには「夢でレゴブロックたちと踊っていたら、突然ある形になったんです。そこで僕はその日の授業で化学の先生が小話で話した未知の物質を思い出したんです。」とのことだ。
「でも、そんなことで転生させるんですか?」
「分子配列というのは我々が生命に与えた試練でな。新しいものを発見した者には記憶を残したまま転生させるようにしているのじゃ。記憶を残す都合上、異世界になるがの。」
「異世界……」
神様から転生の理由を聞かされた優太は別世界という単語に興味を示す。
「いろいろあるぞ? 原始時代や中世、魔法のある世界だってある」
「魔法!」
「ほっほっほ、やはり興味があるか?」
初めて興奮した様子をあらわにする優太に神は満足した様子で尋ねる。
「はい! 早くいかせてください!」
「ほっほっほ、まぁ待ちなさい。転生するのはいいのだが、記憶を残すと言ったじゃろう? じゃから、赤ん坊からやり直させるわけにもいかぬ。お主を産むものも複雑じゃろうしな」
「そうですね」
早くいかせてほしいと願う優太だったが神に落ち着かされる。
「じゃからお主の願う年齢でひとまず安全な場所へ送らせてもらうことになる。年齢は十歳から二十歳の間でたのむ。」
「わかりました。今のまま、十八歳でいいので早くいかせてください!」
「まぁまぁ、まだ待ちなさい」
どうやらそこまで落ち着いていなかったようだ。
「お主は新しい環境へ移ることになるじゃろう。じゃから一つ能力を授けようと思う。怪力、催眠、魅了、不死、なんでもいいぞ?」
「じゃあ、何でも積める能力、『つみき』っていいですか? 異世界ではつみきができそうにないですし……」
「お主、そんなに積み物が好きか。じゃがそれじゃあ身を守ることはできぬぞ?」
神は優太の想像以上のつみき好きに多少あきれつつも指摘をする。
「やっぱりそうですよね……。あっ、それじゃあ言葉も通じないんですかね?」
「必要最低限のものは気にしなくてよい。話すのも読み書きもできるぞ。……お主からつみきを取り上げるのはかわいそうじゃし、多少の身体能力も与えようかの。転生するところは安全な場所じゃし問題ないじゃろ。転生場所の平均ぐらいの強さにしておけばよいか?」
「ありがとうございます! それじゃあさっそく……」
「もう少し別れを惜しんでもいいと思うんじゃがう……」
サービスをしてあげたというのに、早く異世界に行かせろという優太に拗ねる。
「つみきしたいときは魔力を込めめてつみきを出したいと思えば大丈夫じゃ。魔力の込め方は感覚でわかるから安心してよいぞ。それじゃあ異世界に送るぞ? お主と会うことはもうないと思うが達者での」
「はい、ありがとうございました!」
――優太と神は『つみき』の恐ろしさをまだ知らなかった。