幽霊なんていないでしょ
あなたは幽霊を信じるだろうか?
僕は信じない。
幽霊のルーツは雄略天皇の「日本書紀」だと言われている。
そんな古い時代から人々は架空のものに振り回されてきたのか。
そんなことを考えると人間の浅ましさにあきれる。
そもそも幽霊なんているわけない。
壁からすり抜けてくる幽霊、そもそも物質は壁をすり抜けない。
科学的に考えれば幽霊なんて存在するわけがないのだ。
少しはわかっていただけたであろうか?
幽霊は存在しない。
怪談は作り話だ。
僕の名前は山田敏だ。
安藤小学校に通う小学6年生。
夏の暑い日差しで宿題のやる気が起こらない普通の小学生だ。
8月4日の夜、僕はやっと夏休みの宿題をやる気になった。
ランドセルに手を伸ばす。
夏休みの宿題のプリントを机に出して、筆箱を置く・・・
あれ? 筆箱がない。
ランドセルの中身を全部出した。
それでも筆箱は見つからなかった。
机の周りをよく探す。
しかし見つからなかった。
あ! 学校に忘れてきたんだった。
そういうことで夜ではあったが学校へ行くことにした。
三日月が通学路を照らす。
通学路を進み学校に着いた。
正門を飛び越えようとした。
本来なら正門は鍵がかかっているからだ。
しかし飛び越えようと門に手をかけた時
ギギギ
門が開いた。
どうやら鍵がかかっていなかったようだ。
不用心だな。
正門を開け校舎の中へ入っていった。
暑い空気が校舎の中にこもっていた。
階段を登る。
教室のドアを開ける。
本来ならここも閉まっているのだが開いていた。
教室に入った。
僕の机の引き出しの中を探した。
あった! 筆箱を見つけた。
探し物が見つかったので帰ろうとした。
♪あ~た~ら~し~い~あ~さ~が~き~た~き~ぼ~う~の~あ~さ~だ~
ラジオ体操の曲が教室のスピーカーから流れてきた。
夏休みは毎日ラジオ体操に行っているので幻聴だと思った。
しかし・・・
♪こんばんは。 山田敏君。 今から君を・・・
という声が聞こえた。
幻聴では・・・ない?
ガタガタガタガタ
教室が揺れた。
キーーーーーーーッ
黒板を爪で引っ掻く音が聞こえた。
身の毛がよだつ。
ざーーーーーーーッ
教室のテレビが急について砂嵐の画面が映った。
デジタル放送の時代に砂嵐とは・・・
パリンパリン
教室の窓が割れていく。
パタパタパタ
教室の後ろの掲示板に貼られた書道の作品がはためく。
そのうち一枚が飛んできて顔に貼り付いた。
それをひっぺがして目を開けた。
そこは・・・地獄だった。
黒板にたくさんのチョークで書かれた「キエロ」という文字
テレビの画面に映る血だらけの白い装束を来着た長髪の女性
教室の机で勉強している首がない子供達
教室の植木鉢に咲く彼岸花
掲示板に貼られた「呪」と書かれた書道の作品
血液だらけの床
幽霊は信じない。
これは夢だ。
家にかえって寝てたんだ。
ほっぺをつねれば・・・痛い。
そんなはずはない。
顔をとにかく引っ掻いた。
♪そんなに自分を傷つけたいのかい・・・ ならば・・・
黒板や床や壁から無数の手が出てきた。
手に導かれて黒板に貼り付いた。
その後ナイフのようなものでその手が脚をめった刺しにしてきた。
衝撃が体全身を走る。
なんという悪夢だ・・・
その後机で勉強していた首がない子供達が近づいてきた。
彼らは目に手をかけてきた。
長い爪で右目を抉ってきた。
そして指を右目の隙間の入れ右目を潰してきた。
ギャーーーーーー
思わず叫んだ。
ぬるい血が顔を滑り落ちる。
視界が半分になった。
右半分が見えなかった。
ワハハハハハ
という笑い声が聞こえた。
鼻にチョークを入れてきた。
チョークが何故か伸びた。
鼻の奥にチョークが刺さる。
刺激でくしゃみをしかけたが鼻が塞がれていたので思うようにできなかった。
これは悪夢じゃない・・・
現実だ!
子供の一人がはさみを持ってきた。
そして僕の舌を引っ張って・・・切った。
あふれでる熱い血が口の中にたまっていく。
血の匂いがこもる。
子供の一人が金属バットを持ってきた。
そして僕の喉を打った。
呼吸ができない。
ぅぁぁぁぁぁぁぁぁ
声にならない声で叫んだ。
子供の1人が僕の手の爪を剥がした。
痛い、なんてもんじゃない。
ベリッベリッ・・・
次々と剥がされていく。
涙で左目の視界がぐちゃぐちゃになる。
そしてその子供が手に持っていた小刀で左手の小指を切ってきた。
左手に違和感を感じる。
その後とてつもない痛みが左手を襲った。
身体中が痛い。
教室に首がない大人が入ってきた。
「皆に新しい生徒を紹介するよ。 山田敏君だ。 仲良くしてやれよ。」
先程の放送で流れた声だった。
その大人は大きな鉈を持っていた。
そして鉈で・・・僕の首を切った。
一瞬鋭い痛みと冷たい鉈の感触を感じた。
切り落とされた首の耳が最期にとらえたのは首がない大人と子供が笑う声だった。
ワハハハハハ
ワハハハハハハハハハハハハハハハハハ
僕は目を覚ました。
ひどい悪夢だった。
トラウマになりそうだ。
あれ? 天井がいつもと違うような・・・ ここは教室?
「山田君。 目が覚めたかい? さぁ授業を始めるよ。」
大人が声をかけてきた。
その大人は見覚えがあった。
首がなければあの夢でみた大人にそっくりだった。
他の子供もそうだった。
夢でみた首がない子供の体とそっくりだ。
国民服のような服を着ていた。
あれ? いつもと違うぞ・・・
「ほらほら山田君、ボーッとしないで。」
「あっ、すいません。」
その大人は黒板に何かを書いていった。
どうやら彼は先生のようだ。
「いいか。 男も女も皆お国のために戦うんだ。 敵国を倒して我が日本国の強さを見せてやるのだ。」
国民服、お国のため、敵国・・・
僕はなんとなく察した。
戦争の時代にタイムスリップした?
僕は帰る方法を考えた。
でもどうすればいいのか全くもってわからない。
帰るなんていうことを考えられる次元じゃない。
授業中その事ばかり考えていた。
まぁ授業を受ける必要はないのだが・・・
この学校は寮がついていて学校で暮らしていた。
他の生徒達と過ごした。
質素な食事、つらい重労働、先生からの厳しい罰・・・
これらに耐えてなんとか生きた。
帰るために・・・
学校で過ごしているうちに色んな情報を手にいれることができた。
この時代が1945年の春であるということがわかった。
そしてこの学校は僕が通っている小学校であることもわかった。
あの小学校は創立100年とかだったし。
タイムスリップしたというのはやはり本当だったようだ。
月日がたち1945年8月15日
降伏宣言がなされた。
皆落胆していた。
大人の中には泣き、狂い出すものもいた。
負けた、この事実は国全体に大きなショックを与えた。
翌日
先生がこう言った。
「皆は戦うための兵。 戦うためだけに生きてきた。 先生は兵を育てるためだけに生きてきた。」
教室に重い沈黙が流れる。
「負けたということは我々は用なし、ということだ。 生きている意味もない。 よって・・・」
先生が大きい鉈を取り出した。
夢でみたあの鉈だ。
いや、タイムスリップする前に見た鉈と言うべきか。
あの鋭い痛みと冷たい感触を思い出した。
「これで皆の首を切る。 先生もその後首を切る。 じゃあな。」
先生は生徒の首を次々と切っていった。
生徒の悲鳴
飛び散る血
逃げ出そうとする生徒を切っていく先生
教室はまさに地獄絵図であった。
僕の番が来た。
このような七不思議を知っているであろうか?
深夜の学校に戦争の時死んだ幽霊が現れる。
僕は信じていなかった。
でも今なら分かる。
死んだ時の遺恨がそこに残り具現化されているのが幽霊なのだ。
あの時の首がない子供達は先生に首を切られて死んだ生徒達だったのかもしれない。
これが単なる夢だったのか、現実だったのか?
これはあなたの想像にお任せします。
一度そのような体験をしないと信じられない出来事ですから。
でもいるんですよ。 幽霊は。
いないと思っている人ほど幽霊に遭遇するのでかもしれませんね。
でも幽霊を見た体験談は誇張してはならない。
彼らはただ悪いわけではない。
理由があるのだ。
幽霊の立場にたって物事を考えてみるのも一興である。
さてと、この辺でお開きにしましょうか。
では夜の学校でお待ちしております。
そういえば、言い忘れていましたね。
僕、幽霊になったんですよ。
ではお待ちしております。