9話「……アリスくん、暗いの怖かったらお姉さんと手繋いでもいいよ?」
クエスト開始当日。洞窟前には多くの冒険者が集まっていた。
今回は仕方なくバニラを連れてきているが……
「にゃあっ! 虫だにゃあ!」
「妖精さん可愛いーっ!」
「ちょっと! やめてよ!」
本当に連れてきて良かったのだろうか。
「……アリスくん、大丈夫?」
「……そうですね」
ふとデルタがアリスを気にかける。
それも仕方がない。高レベルな冒険者になるほど、アリスに注目する冒険者が多くみえる。
やはり神託者なのが大きく関係するのだろう……。
「……アリスくん、暗いの怖かったらお姉さんと手繋いでもいいよ?」
「……そうですか」
どうやら彼女は単純に子供扱いしていただけだったようだ。
「あの……一応サモナーも前衛ですし、あまり心配しないでください……ませんか?」
「ダメだにゃー。君はまだ幼いにゃ。モンスターと顔を合わすだけでも毒なのに、前衛なんて以ての外にゃ」
「……バニラァ」
アリスが呼びかけると、ふれあいタイムを終えたバニラがため息をついて言った。
「……ふぅ。 諦めて他の人に任せなさい。もしもの時だけ召喚したらいいから」
「……そう都合よく来るかな」
*****
クエストが開始され、第6パーティーであるアリスたちの番も来た。
「と、とりあえず暗いので……私が明るくしますね」
すると、アルカが身の丈ほどもある水晶のついた杖を振るい灯をともした。
「おぉ……これが魔法かぁ」
「……アリスくん魔法見るの初めて?」
「うん、えっとあまり僕の周りにはマジシャンはいなかったから」
アルカに尋ねられ、答える。 アルカはアリスに対してはかなり砕けた口調になる。
自分よりも年下(の見た目)なので接しやすいのだろう。
「にゃーっ! にゃーっ! 声が響くにゃー!」
「ちょっと! 静かにしなさい!」
そりゃそうだ。音に反応してモンスターを呼ぶかもしれない。
「耳が痛い!」
「……やっぱデルタさん若干ズレてるなぁ」
そして、しばらくするとついにモンスターと遭遇した。
見た感じゴブリンのようだ。 ゴブリンは暗くても目が効くらしい。
「にゃー! 出やがったにゃ! 猫パンチ食らうがいいにゃ!」
「アリスくんはあそこの岩の裏に隠れてて! アルカちゃんは援護!」
「……」
なんか姫みたいな扱いだなぁ。
*****
1時間ほどこんな感じで護衛されながら洞窟を探索し、終了することになった。
「アリスくん怪我ない?」
「……おかげさまで戦闘に関わりませんでした」
「ならよかったにゃー」
なんというか……まあこれ以上レベルアップはしないし、平和主義だし戦わせろとは言わないけど、流石にこう気を遣わせると無駄に申し訳なさが出てきてしまうな。
「……あれ? こっちじゃなかったっけ?」
「なに言ってるにゃ。 こっちから来てたはずにゃ」
……そして、嫌な予感がする。
*****
結果は予想どおりだった。
「……お姉ちゃんたち、もしかして」
「そんなことないにゃ! 大丈夫! もう着くにゃ!」
「(なんとかしたいとはいえ、ぼくも付いて来ただけで覚えてないからなぁ)」
「……ほ、ほら! あそこ人工的になってるにゃ! きっと誰かいるはずにゃ!」
いや、完全に迷ってる人の言い方だそれ。
っていうか、洞窟内の人工物って……遺跡では?
「……あ、あの……やめませんか?」
流石にボスみたいのが出てきてしまっては困る。
「ん? 大丈夫にゃー、怖くないにゃ! ほら! お姉ちゃんと手を繋ぐにゃー!」
「そ、そうじゃなくて……」
「じゃあ私も反対の手繋いであげるわね!」
全くどうしたものか。
そして、アリスたち第6パーティーは重たい鉄製の扉を開け、奥に進んでいった。
*****
「誰かいませんかにゃーっ!?」
「ちょ、ちょっと何か出てきたらどうするんですか!」
「もちろん帰り道を教えてもらうのにゃー。も、もちろん分かるけど一応にゃ!」
……ソーダネ。サスガニボスナラカエリミチワカルヨネー。
「暗いですね……少し明かり強くします」
そんなことされたら、モンスターが寄ってくるような気がするのだけど……
「……ところでバニラ、この辺りって」
「……ダンジョンとしては一般レベル。逆に言えば、初心者パーティが入るには早すぎるわね」
「……」
そんな会話をしていると、デルタが何やら発見したらしい。
「おっきい扉〜。開くかしら」
「……これ、完全にボス戦じゃないですか」
「ボスとかよくわかんないけど、とりあえず開けてみるにゃ」
クライスが思いっきり力を入れて扉を押すと、思った以上にすんなり開き少しよろけた。
「にゃにゃにゃ……。びっくりしたにゃ」
「広いわね……」
「あ、あのーっ!」
すると、アルカの声に反応するように何かのうめき声が聞こえてきた。
「寝起きだったみたいにゃ」
ここまで来てもそれ突き通すか!?
「さ、流石にもう出ましょう! 危ないです! ねぇ!?」
「んー……確かに寝起きのところお邪魔するのも悪いわね。出ましょう」
しかし、やはりボス部屋の特徴はどこも同じらしい。
「あら? 開かないわね」
「貧弱だにゃあ……フギィィィイイイッ!!」
つまりあれだ。
《ボスからはにげられない!!》




