7話「使えないワンコロですね」
「主様? それはつまり私に経験値の糧となれという宣戦布告ということですかー? もしそのときは本気で相手させてもらいますが」
「ち、違うよ! ちょっとモンスター討伐やらを手伝ってもらうだけだって……」
慌ててレヴィアに説明すると、なぁんだと悲しそうやらホッとしたやら複雑な表情を浮かべた。
しかし、バニラは乗り気ではないらしくジト目で呟く。
「いってもこの辺りは最低でも10レベルは必要よ? あんたレベルなんてないも等しいのにどうやって鍛えんのよ」
「……まあそれは、僕がなるべく頑張って……」
「頑張っても無理だから言ってんのよ」
バニラの言葉にグサッと来たのか、アリスはその場で固まった。
そこに真っ先に浸け込んだのは、シルビアだった。
「ならマスターが攻撃した後に私が攻撃を後押しすればいいんじゃない? そしたら、経験値も手に入るわ」
シルビアの考えた方法は謂わば一番一般的である効率の良いゲームのレベル上げ法だった。
「でも、それ、なんとなくズルくない?」
「いえ、私も不本意……とても不本意ながらもその方法に賛成します。 多分今の主様だと一人では何も倒せないと思いますし」
「……うう」
結果、レヴィアもアリスは言い換えるとクソ弱いからという理由で戦闘に一応参加する方法を選んだ。
アリスは仕方なく、それを承諾すると、せっかくなのでEランクでもモンスター討伐に関係のありそうなクエストを受託した。
その内容は、町の郊外にある祠を掃除するといったものだが、シルビア曰く「そういった意味のありそうな場所にはモンスターが出やすい」らしい。
あと、戦うならとアリスはなけなしのお金を使い武器を買うことにした。
「……めっちゃ錆びてるけどこれしか買えない」
「大丈夫ですよー。倒せばドロップアイテム出ますし、それを売れば充分な稼ぎになりますからー」
アリスはレヴィアの後押しを受けると銅貨を数枚出すと剣を手に入れた。
…………
……
街を出てしばらくすると、何のトラブルもなく無事祠に到着した。
「……そんな汚れてないね」
「他の冒険者がたまにやってるんじゃない? 1週間おきとか」
確かにこれは低レベルのクエストであるため、多くの冒険者が受託するだろう。
シルビアの言葉に一同は納得すると、バケツに水を汲むとブラシやら箒やらで綺麗に磨き始めた。
…………
……
数分後、アリスたちは予想が外れたらしくモンスターが出てこないまま一通り掃除を終えた。
「使えないワンコロですね」
「……うう、こんなはずじゃないのに」
「レヴィアやめたげてよ。シルビアだって厚意で選んでくれたんだし運がなかったんだよ」
「主様はワンコを庇うのですが?」
「庇うとかじゃなくて……」
アリスはレヴィアに反論しようとした瞬間、突然木をかき分けて目の前に大きなイノシシが現れた。
しかし、そのイノシシはこちらを見るや否や怯えたような動きを始めた。
「……なるほど。主様、モンスターが出てこない理由がわかりました」
「……僕もなんとなく分かった気がする」
考えてみれば、SSランクとLランクが一緒にいるのである。普通なら近づこうなど思わないだろう。
本能で生きるモンスターなら尚更だ。
「と、とりあえずマスター! チャンス! 攻撃!」
「ええっ!? でもこれってただのイノシシじゃ……」
「動物でも経験値は稼げるの! ほら一発コツンってやって!」
シルビアに急かされ、アリスは怯えているイノシシの頭頂部に錆びた剣をゴンと叩きつけた。
イノシシはプギッと鳴くと、宣戦布告されたと理解してアリスに向かって突進を始めた。
「……うわっ! ちょ、ダメだって!!」
「大丈夫ですよー。ほら、倒しましたから」
レヴィアはそう言うと、牙を掴まれて暴れているイノシシを見せた。
「いや! 生きてるよ!? 生け捕りにしてるよ!?」
アリスの言葉に「あー」と間抜けな声を出すと、ドスッとイノシシの腹部に向かって拳を入れた。
「はい、倒しました」
「……」
アリスとシルビアとバニラの三人は血を吹くイノシシを捕まえてもなお朗らかな顔をするレヴィアに、圧倒的な恐怖感を抱いた。
「で経験値はどんな感じ? レベルアップした?」
バニラの問いにアリスは我に返ったが、首を傾げた。
「……あのさ。レベルアップしたらしたって分かるものなの?」
「そのはずですけど?」
レヴィア曰く、レベルアップしたらその時に頭の中でなんとも言えない音楽が鳴るらしい。
だが……
「いや、なにも起こらないや」
「……うーん、まだ足りてないのですかね」
続いてシルビアが四肢を凍りつかせたイノシシを連れてくると、アリスに一撃を食らわせた……が結果生まれたのはアリスの中の不快感だけだった。
「……うぅ、生き物殺すのキツイ……」
「しかし、なぜレベルアップしないのでしょう? イノシシとはいえレベルアップには向いてるはずなんですが……」
「そもそもマスターって今レベルいくつなの?」
アリスはシルビアの言葉にハッとすると、ギルドカードで調べた。
するとアリスの口からは
「……な」
という日本の五十音の一つが発せられた。
「どうしたんですか?」
「……えっと、あのさ……」
アリスは全員に見えるようにギルドカードを見せた。
Level:99(count stop)
ご丁寧にカンストとまで書かれたそれを見た三人は苦笑のほか何もできなかった。