6話「ワンワンうるさいですねー。そんな短気で本当に神様なんですかぁ?」
まだ泳ぐには少し早いくらいの気候。
波の音だけがさざめく砂浜にて、眠たそうな垂れ目の女性がアリスによって召喚された。
「え、えっと、その」
「あの、聞いてます?」
「い、いや、そのはい。僕が、その呼びました……」
アリスは口をモゴモゴさせながら言うと、珊瑚のような鎧を付けた蒼髪の女性はにっこりと微笑んでアリスの正面に立った。
「主様、顔をあげてください」
しかし、アリスは顔を上げなかった。元々ただの高校生であったアリスでも分かるほどに女性から圧倒的なオーラを感じていたからである。
「うーん、困りました……」
悩んだ末、女性は手につけた装甲を外すとアリスの顎に手を添えた。
「……ほらこっち見てくださーい」
そして、そのまま強引に顔を上げさせると女性はしゃぶりつくように唇を合わせた。
「むぐぐっ………!?」
「んっ……んっ……」
その様子を我慢してみていたシルビアは我慢出来なくなり女性を押し退けた。
「長いっ!! 我慢してたけど、加減ってものもあるでしょ!!」
「うう……ケチですね〜。っていうかどなたですか?」
「そういうのは自分からするもんでしょ!!」
「あー、そうですね。いやいや、すいません」
そういうと女性は手に装甲を嵌めながらアリス以外にも聞こえるように自己紹介を行った。
「レヴィアっていいます。種族は主様だけの秘密だけど、レヴィアタンって呼んでくれてもいいですよ?」
それを聞いた3人は衝撃に固まり、シルビアに至っては「ぐぬぬ」と唸っていた。
…………
……
ーーレヴィアタン
北欧神話ではその名が知られるが、一般的には『リヴァイアサン』の名の方が有名だろう。
幻の大陸アトランティスを滅ぼした神の作った最強生物であるそれは巨大な姿をしているというほかには情報はない……。
アリスはそんな生物を召喚獣にしたことに困惑しながら、ステータスを開き確認する。
しかし、そこには予想通り
summon now:《シルビア(フェンリル)SSランク》《レヴィア(リヴァイアサン)Lランク》
と書いてあった。
「私、主様気に入りましたー。冒険が終わったら私のところに来てもらいます」
「ちょ! 勝手に決めないで!!」
反論したのはアリスではなくシルビアだった。
「マスター! 危ないからこいつ出さない方がいいと思うの!」
「そんなことないですよー。むしろ、そのワンコロもいつ牙を剥くか分かったもんじゃないですよぉ?」
「あんただってそうじゃないの!」
「私は全世界を敵に回してでも勝てる自信がありますから安全ですよぉ〜」
「そんなことしたらマスターも巻き込まれるじゃない!」
「ワンワンうるさいですねー。そんな短気で本当に神様なんですかぁ?」
召喚獣2人の喧嘩に圧倒されたアリスは、泣きそうな目でバニラに訴えた。
しかしそのバニラも見ないふりで突き通され、アリスは2人の熱が冷めるまで火花を浴び続けることを余儀なくされた。
*****
一方、現世では花笠が学校で先生と話をしていた。
「……そうか。有栖、まだ帰ってないのか」
「……すいません」
「いや、お前は謝らなくてもいい。有栖のことだ、なにかまた動物でも捕まえてケロっと帰ってくるだろう」
「でもわたし……」
「心配しなくてもいい。学校も全力で捜索をしている。もし帰ってきたら、全力で叱ってやる。有栖の泣き顔、花笠にも見せてやるから期待して待っておけよ」
*****
とりあえず、アリスは2人のほとぼりが冷めた頃にギルドホールに戻ると新たにクエストを受託した。
どうやら一度でも受託していればランクが上がるらしく、Eランクになったアリスは郊外にある畑まで土袋を届けるといったクエストを選んだ。
……しかし
「ねえマスター、重たいでしょ。私が持ってあげる」
「え? でも」
「じゃあ私は主様を持ってあげます」
「えっ!? えっ!!?」
「ダメよ! あいつ新入りなんだから土袋持たせる程度で充分よ!」
「あなたが先に主様の袋を取ったんじゃないですか。ワンコはワンコらしく土にまみれてる方がお似合いですよ」
(……これは……召喚獣増やさない方がいいのではないか……?)
2人の仲は和解することなく、修羅場と化したパーティでアリスはそんなことを思うほどにもなっていた。
…………
……
夕刻、土袋を運び終えて帰ろうとするが……
「どうしたのマスター?」
「いや、なんかめちゃくちゃいる……」
「ゴブリンですね。暗くなってきましたし増えてます」
アリスは勝てるかなと呟くと、バニラは武器ないでしょとツッコミを入れた。
「いえ、武器がなくても倒せますよ?」
するとレヴィアは近くのゴブリンにコツンと拳を食らわせた。
するとそれだけでゴブリンは突っ伏して消え去ってしまった。
「んードロップ無しですね……」
「でもこれなら僕でも倒せるかも……」
アリスは適当な木の棒を拾うとゴブリンに特攻していった。
▼ゴブリンが現れた!
▼アリスの攻撃! ゴブリンに3ダメージ
▼ゴブリンの攻撃! アリスに999ダメージ
▼アリスは倒れた!
「マスターーーーっっ!!?」
「主様ぁぁぁぁぁっっ!!?」
アリスは思った。
「あ、これ。経験値も上げられないかも……」
と
…………
……
アリスは気がつくとギルドホールの部屋で寝かされていた。
「んんっ……バニラ?」
「あ、起きた? ったくアンタどんだけ弱いのよ。とりあえず復活魔法使って生き返らせたけど、これじゃいくつ命があっても ……ってそれを言うならティルスね……」
「二人は?」
「アンタを寝かしつけたあと、帰って行ったわ」
アリスはそっかと呟くと鞄を開けて確認した。
中には今回のクエストのものを合わせて2つの神石が入っていた。
「……ねえバニラ。これ以上召喚してもいいのかな?」
「……サモナーが何言ってんのよ。自身が弱いんだから召喚獣に代わりに守ってもらうのがサモナーってもんでしょ」
「……そうかもしれないけど」
「付き合いなら気にしなくてもいいんじゃない? ああ見えても二人とも似た者同士だと思うわ」
バニラはそうとだけ言うと、おやすみと言って眠りについた。
「……そっか、もう夜なんだ」
アリスは寝る前に空きっ腹を満たすため、部屋を出た。
…………
……
アリスが食堂に向かうとそこではクトゥルカが1人で酒を嗜んでいた。
「……あれ? クトゥルカさん」
「おや、アリスじゃないか。聞いたぞ。ゴブリンにワンパンされたそうじゃないか」
「うう……」
「なあに恥ずかしいことじゃないさ。それよりも仲間が強くて良かった」
そういうとクトゥルカは本当に心配そうにワイングラスをくるくると回した。
「あの僕思うんです。 召喚獣はサモナーの力とは別じゃないかって……」
「そんなこと本人に言われても困る。そもそもこの世界にゃサモナーなんぞお前しかいないんだ。ただ私は別でもいいんじゃないかと思うぞ」
クトゥルカはアリスに座るように指示すると話を続けた。
「その召喚獣はお前を舐めてるのか?」
「いやむしろ……逆ですね」
「ならそれだけ度量にあった性格してんだ。下手すりゃそれは召喚獣よりも凄いんだから、しゃんと胸張れよ」
クトゥルカはアリスの頭をポンポンと撫でると干し肉をポイと机に置いた。
「お前どうせ金持ってないだろ。これ、肴のつもりだったけど余ったからやるよ」
「あ、ありがとうございます」
クトゥルカはアリスの礼を聞くと、おやすみと手をプラプラさせながら自室に帰っていった。
*****
翌日になり、アリスは召喚獣二人を呼び出した。
「今日は何するの?」
「クエストですか?」
「ううん、今日はちょっと違うことをしたいんだ」
アリスの言葉に召喚獣の二人のほか、バニラも首をひねった。
「経験値を上げさせてくれない?」




