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5話「『我が盟約に従う意思を抱く者よ。混沌なる世界よりその姿を示せ』」

アリスは目が覚めたら夢でしたという多少の期待を背負いつつ、ゆっくりと目を開ける。


くすんだ色の天井に、正に板を貼っただけのような腐った壁。


日本では絶対ありえないような宿である。


が、ここらへんでは良い方の宿らしい。


「……そして夢じゃないという虚無感」


「朝から何言ってんだか……」


バニラは既に起きていたのか窓枠にて何やら端末をいじっていた。


「……なにそれ?」


「これ? 辞書みたいなものよ。あとで分かったこと纏めるわ」


そういうとバニラは端末を魔法で粒子状にすると、窓枠からぴょこんと飛び降りた。


「だから朝ごはん食べたいんだけど」


「あ、うん、ごめん。支度するよ」


アリスはそういうと学生服を羽織った。


「……新しい服買わないとなぁ」


もしかすると装備に付与とかあったりするかもなどそんなことを思いながらボタンを留める。


そして、ベッドの隣で地べたに寝ているシルビアが目に入った。


「うわあああああっ!? シルビアァァアァッ!?」


「……ふわっ!? な、なにぃ?」


「び、びっくりした……死んでるかと思った……」


アリスは失礼なことを言ったと思われるが、シルビアは気にしない様子で座り込んだ。


「大丈夫よ。私、マスターが生きてる限りは死なないから」


「……それはちょっと重いな」


「言葉のあやよ」


シルビアは笑いながら優しく自身の主の頭を撫でた。


アリスは恥ずかしくなり、逃げるようにして頭を避けた。


「や、やめてよ。これでも17なんだから」


「……恥ずかしいの? かわいい」


「うぐぐ……」


「早くしなさいよー。お腹すいたんだけど」


結局バニラの一声により、アリスの話はうやむやにされてしまった。


…………

……


三人はギルドホールのエントランスに出た。


というのも、お金がないことを忘れていたのである。


(せめて日本円が使えたらよかったのに……)


「……ねえマスター。もし餓死しそうになったら非常食にしても……」


「しないよっ!? そんな趣味ないよ!?」


人の少ない朝のギルドホール、そんな会話だとかなり目立つ。

その結果、ギルマスであるクトゥルカが私服で目をこすりながら部屋から出てきた。


「なんだ朝から騒々しいと思えばお前らか。どうした?」


「あ、クトゥルカさん。あのですね……お金が……なくてですね……」


「……? ああ。なるほどな。そういや昨日の報酬がまだだったし、今日はメシ奢ってやる……が、三人分は辛い」


ギルドマスターも当主とはいえ冒険者である。いうほどのお金があるわけでもない。


「……あー、えっとシルビア?」


「……仕方ないわね。ちゃんと呼んでね?」


そういうとシルビアは電気が消えるような速さでその場から消え去った。


「悪いな。嫌われたかな?」


「いえ、彼女そんなことで怒りませんから……っていっても昨日今日の付き合いなのでなんとも言えませんがね」


アリスはハハハと乾いた笑いを出すと、途中でため息をついた。


「とりあえずメシにしよう。こっちにギルドに属してる食堂がある」


「はあ、すいません」


…………

……


朝の割に食堂には多くの人がいた。どうやらアリスたち以外にも宿泊している人はいるらしい。


クトゥルカはそこでサンドイッチを咥えながら質問を始めた。


「で、これからどうするんだ?」


「そうですね……。最終目標は戦争を終結……」


「……それはまた大きく出たな」


「……といいたいですけど、今はそんなこと出来ませんからね……。まずは、クエストやらなんかしてお金稼いで本拠地作って仲間(しょうかんじゅう)増やす……と、そんなとこですね」


大雑把に言いながら、アリスの言葉にクトゥルカはうんうんと頷いた。


「なるほど、召喚といっても何でも出せるわけではないのか」


「まあそれには少し準備が要りまして……。神石と召喚陣でーー」


アリスはクトゥルカに説明すると、クトゥルカは首を捻らせた。


「その神石とやらはどんなものなんだ?」


「えっと、たしか白濁している半透明の六面体でした」


「それってこんなのか?」


そう言いながらクトゥルカは懐からゴトンと一つの石を取り出した。

それに真っ先に反応したのはバニラだった。


「ちょ、あんた……その神石、どこで手に入れたのよ!?」


「やはりこれか。クエストが終わると必ず手に入る石だが特に価値があるわけでもないから装飾にしか使えないのだが……。まさかこれにそんな力があったとは……」


クトゥルカはそういうと自分で出した石を唸りながら見つめた。


「あ、あの、それ……」


「ん? ああ、強くなるなら喜んでやろう。私が持っていても意味はないからな」


と言いつつも本当の渡した理由は、アリスのオモチャをねだるような目に心を惑わされたからなのだが、言えるわけもなく顔に出さないように渡した。


「しかし、今は生憎4つしか持ち前がなくてな……」


「ならあと一つあれば召喚できるわね」


「そのくらいなら僕でも稼ぎますから大丈夫です」


…………

……


アリスはシルビアを呼びだすと受託したクエストをこなすことにした。


「アリスさん、Fランクですね。えっと今あるのは……魚屋のイリアスさんに荷物を届けるといったもの。武器屋のヒルティさんに物資を届けるといったもの、花屋のサリーさんに……」


「あ、あの、もしかして御使い系ばかりですか?」


アリスが尋ねると受付の女性は当たり前ですと付け加えてから話し出した。


「最下位ランクなんですから、戦いを行わせるわけにはいかないでしょ? ちなみにEランクでも街の外への御使いだから、洞窟の安全確認や調査とか魔王討伐とかは高レベルの仕事ね」


…………

……


三人はギルドホールから物資を受け取ると地図に示された方に向かって歩き始めた。


「はあ……」


「どうしたの、マスター? 戦う方が良かった?」


「いや。 むしろ安堵してるんだよ。戦わないクエストもあったんだなって」


「……そっか」


そういうとシルビアは二つ重ねた物資をよっと持ち直すと「それにしても」といって話し始めた。


「マスター、私に敬語使わなくなったわね」


「え? あ……」


「確か私が姿を戻した辺りからかな?」


「そ、それは僕が混乱して驚いたからであってえっとその……」


慌てふためくアリスの姿をみてシルビアはふふと笑みを漏らした。


「気にしなくてもいいわよ。むしろ嬉しいかな?」


「……ぅぅ」


アリスの荷物に座りながら二人の様子を見ていたバニラは黙ってみていたのち、大きくため息をついた。


「ほんとどちらが主人なのかしらね」


…………

……


目的の魚屋についた3人は荷物を降ろすと依頼主にお礼を言われた。


「悪いね。まだこんな若いのに」


「は、はぁ……あ、そうだ。あの、この魚ってどこから仕入れてるんですか?」


「ん? そこを真っ直ぐ行ったところに海があるの」


それを聞くとアリスはお礼を言って、ギルドホールへ向かった。


……………

……


「あんた、なんで海なんか聞いたのよ」


「うん、召喚って場所によって変わるんだよね。なら海を渡る方法とかあればいいかなって思ってさ。 この世界には冷蔵庫やら水槽車とかはないだろうし、魚屋の近くに海があると思ったんだ」


「ふーん……考えてんのね」


シルビアは二人の会話を聞きながら、相手にしてもらえなくなるのではないかという新たな召喚獣に対して少しだけ不安感を感じていた。


…………

……


ギルドホールに着いた三人は受付に行くと報酬を受け取った。


適当な机を見つけるとそこで受け取った袋を開けることにする。


「どんなものかな」


「早くマスター」


「どうせそんな無いわよ」


アリスはわくわくしながら皮の袋を開ける……が


「……銅貨10枚」


「……っていうか、そこに書いてあるわね……。クエスト報酬表」


「……読めないよ。しかも、石もないし……」


肩を落とすが仕方ないことなのでありがたく鞄の財布にしまう。


すると鞄の中に見慣れないものを見つけた。


「え? これ、神石だ」


「本当? でもさっきの石は私が預かってるし……もしかして、報酬とは別で得られるんじゃない?」


「……もしかするとそうかも。クトゥルカさんも報酬でもらえるとは言ってなかったもん。それに……」


アリスは机に出した神石ともう一つ同じ石を出した。


「……街を守るクエストの報酬ももらってるもん」


…………

……


数時間後、アリスは浜辺にて召喚陣を描くと石を並べて召喚を開始した。


「じゃあ召か……」


「凝ったこと」


「え?」


「凝ったこと言わないと出来ないようにしたから」


もちろん出まかせなのだが、アリスは口をパクパクして仕方なくそれっぽいことを呟いた。


「『我が盟約に従う意思を抱く者よ。混沌なる世界よりその姿を示せ』」


アリスは顔を赤くしながら正に『』(かっこ)つけて台詞を言うと光っていた召喚陣に新たなる召喚獣が召喚された。




「えっと、あなたが私の主様ですか〜?」

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