4話「……いえ、あの……僕、凄いのよんじゃっていたみたいです……」
「なんで弱いのに僕前衛なんですか!! 死にたくないですよ!!」
そう叫んでいるアリスは何故か簀巻きにされてギルマスの女性に担がれていた。
「大丈夫だ。 お前、サモナーだろ? なら基本的に戦うのは召喚獣ということだ」
「だから戦いは嫌ですあああっ!!」
「……ほんとに平和主義なんだな」
女性はアリスの声にならない悲鳴を耳にしながら前線へ走っていった。
*****
前線に着くと、そこはまさに冒険者の無双……というわけでもなく。
「……ちょっと苦戦してませんか?」
「ま、まさか。 お前ら!! もっと腰を入れろぉ!!」
どうやら装備の準備が疎かになっていたらしく、準備していた西の勢力と比べてかなり統計が取れていないようだ。
むしろ今まで耐えられていたことが奇跡といっても過言ではない。
「おいお前。召喚獣はちゃんといるんだろ? 手を貸してくれ。町の平和のためだ」
「……わ、分かりました。あくまで平和のためですからね……」
そういうとアリスは一言「シルビア」と名前を呼ぶ。
「約束通り呼んでくれた……ちょ、ちょっと大丈夫マスター!? 今解いてあげるからね……」
シルビアは召喚早々簀巻きにされたアリスを見ると、急いで主を救おうとした。
「だ、大丈夫。それよりも、戦いの方なんだけど……いいかな」
「……」
「……シルビア……さん?」
「え? あ、うん。戦うのね。任せて!! あ、先に言っておくけどギルカ手に入れていたら先に私のこと調べておいたほうがいいわよ」
そう言うとシルビアは前線に走っていった。
ギルカとはギルドカードのことだろうと分かり、アリスはギルドカードを開き仰天した。
「……あの女がお前の召喚獣だと? 獣じゃないのか?」
「……いえ、あの……僕、凄いのよんじゃっていたみたいです……」
アリスはギルドカードを女性に見せると顔が引きつった。
そこには、現在召喚している状態を指す『summon now』という文字の隣に書かれた
《シルビア(フェンリル)ランクSS》
と言う文字の列だった。
*****
ーーフェンリル
それは北欧神話に出てくる狼の姿をした神の名前。
開いた顎は天まで届くと言われるほどにそれが如何に凄い神獣であるかはその名を知る者、全てが理解しているだろう。
「……まさか、シルビアが……」
『ギャーーッ!!』
突然の悲鳴に2人は顔を上げる。
そこには霜ついた毛をもった十数mの巨大な狼が兵を蹴散らしていた。
西の勢力は見たことのない強大な獣に恐れたのか撤退を開始し始めた。
『マスター! やりましたよ!』
「え? シルビア? 話せるの?」
『ううん、話せるというよりも念話みたいな感じかな』
「……よくわからないけど、ご苦労様。戻ってきてくれるかな」
アリスがそう伝えると、2秒ほどで2人の前にズズンと巨大な狼が土煙を上げて凛々しい姿で立っていた。
『マスターがまた小さくなったみたいね』
「……お約束どうも」
シルビアはそういうと飼い犬のように尻尾を振ってアリスの前に撫でてと言わんばかりに頭を地に下げた。
アリスはシルビアの冷たい毛並みを撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。
*****
ギルドホールに戻ると、バニラが泣きそうな目で訴えてきた。
「アリス! あんた私を置いて何処に行ってたのよ!!」
「い、いや。ごめん」
「……ふん、心配なんてしてないんだから」
「……でも、バニラを連れて行くことは流石に……」
アリスはバニラにそういうと、逆に言い訳するなと強く怒られてしまった。
時間をかけ、アリスはなんとかバニラを慰めるとギルドマスターに連れられ人の姿に姿を変えたシルビアと共に対談室に入った。
…………
……
「まずは礼を言う、シアトゥーマを守ってくれてありがとう、アリスよ」
「い、いえ僕は何もしてないですから」
「ううん。マスターのおかげだよ?」
シルビアの言葉を受けるとアリスは黙って「……ハハハ」と頭を掻いた。
「見た目は幼いがやはり本物のようだ。 随分挨拶が遅れたな私はシアトゥーマのギルドマスター、クトゥルカだ」
「クトゥルカさん……」
「まあギルマスと呼んでくれた方が気持ち的に楽だからそっちで頼む。しかし、まさかSSランクを従えているとはな……」
「……SSランク?」
クトゥルカは異世界人であるアリスに教えるために分厚い本を机に置くとバサッと開いた。
彼女曰く、この世界のモンスターという存在はいくつかのランクに分けられるらしい。
まずEランク。スライムやマンドレイクなど子供でも勝てるようなモンスター。
続いてDランクはゴブリンやコボルドなどのTHE 小者といった感じのやつらがそこに当てはまるらしい。
「Cランクはアルラウネやハーピーなど意思を伝えることが出来る魔物、Bランクはシルフやウンディーネなどの精霊系が多いな。ここらへんからは少し強くなる」
「多いですね……」
Aランクはサキュバスやダンピールなどの高等の悪魔。
Sランクはワイバーンやペガサスなど騎乗によく使われる魔物。
「そして、SSランク。ドリアードやフェンリルだな。ちなみにSSランク以上の魔物は過去に人間が従えた例はない」
「……え?」
「つまりお前が初めてだ」
「やったねマスター!」
アリスはシルビアの声にエコーを感じながらも衝撃で体が固まった。
「……おい、まだ上のランクがあるんだぞ」
「……いいわ。私が後で説明する」
バニラは代わりに説明役を引き受けると、もう遅いという理由でギルドホールの個室を宿代わりに借りることになった。
…………
……
「……でSSランクよりも上に来るのがLランク。いわゆる最高ランクね。これはヒドラやバハムートなどの高等ドラゴンが当てはまるわ」
「……ドラゴンいるのか」
「まあ神話レベルだから生きてる間に遭遇する方が難しいわよ」
「……こっちの世界の神話にもいるんだよなぁ」
アリスはそうボヤきながらベッドで眠るシルビアを見る。
ソシャゲの初ガチャで激レアが出るのは珍しいことではないだろう。
しかし、これはいざ夢みたいな現実でそんなことが実際に行われると困惑どころではない。
「……はぁ。これ、どんだけゲームバランスが可笑しいゲームだよ……」
アリスはそう呟くともう一つのベッドに横になった。
*****
一方その頃、元の世界の花笠は有栖の家にいた。
「……結局、今日は連絡つきそうにないね……」
「……」
「……まあ大丈夫よ! 心配することないって」
「……」
花笠は有栖の母親の励ましを聞きながら何も言わずに俯いた。
「……それより今日は疲れてるんじゃない花笠さん? 親御さんには言っておくから今日は泊まっていくといいわ」
花笠は誘いを受けると、掠れた声で「……わかりました」と答えた。